123章 知恵を授けしディールマーシャル
「…ディール、マーシャル…?」
潤奈がその名を口にした後、天井を突き破って現れたディールマーシャルはその場から立ち上がる。白と黒を基調とした巨体のデュラハン。二階建てのビルくらいの大きさで、軽く500cmはある。
「な、何だ、こいつは…?」
尾凝長官が腰を抜かして尻餅をついている。多くの科学者が棒立ちで唖然とする中、ディールマーシャルは電子音を鳴らしながらバイザーに色んな色を点滅させ、周りの博士たちを見る。
「ぼさっとしてねぇでさっさと逃げろ!」
ヤジリウスとフォンフェルが即座に武器を持ってディールマーシャルに立ち向かう。
「させん。」
ディールマーシャルの前にアレウリアスが着地し、ヤジリウスとフォンフェルに対してダブルビームピストルを連射。ヤジリウスとフォンフェルはお互い刀で飛んできたビームを弾いて対処し、後ろに下がる。
「てめぇはアレウリアス!」
「ふん、貴殿らには借りがあったな。」
「わ、わあぁぁぁぁぁ〜っ!?」
博士たちがようやく恐怖心が抱けるようになったのか、会場から急いで逃げ出そうとする。
「皆さん、落ち着いて!潤奈、俺たちで博士たちを護衛するぞ!…潤奈?」
潤奈はマーシャルの名前を聞いてから未だに呆然としている。道人は潤奈の両肩に手を置いて見つめた。
「潤奈、しっかり!気持ちはわかるけど、今は…!」
「…あっ…そ、そうだね…!ごめん、道人…!」
潤奈は自分の両頬を軽く二回叩き、逃げる博士たちに目線を向ける。
「聞こえる、大神!?今、パークで大変な事が…!」
グルーナがスマホで連絡を取っていてくれた。これなら、愛歌たちの増援を期待できる。
「あらあら、皆さん。鬼ごっこでもやります?でも、無駄ですよ。」
「う、うわぁっ!?で、出口が…!?」
ホールの出口付近にはバドスン・アータスの首無し兵士がうじゃうじゃし、出ていくのは不可能だった。
「ひっ…!?」
ディールマーシャルは背中から無数の電子ケーブルを伸ばし、横島博士を捕らえた。
「は、放せぇっ…!?ひぃっ…!?」
「さっき話聞いてたけど…あんた、ディサイド・デュラハンの技術力が欲しいんだろ?ならさ、くれてやるよ。」
「はぁっ…!?」
ディールマーシャルが人差し指を横島博士の額に当てると指が発光し、横島博士の身体に色んな文字情報を流し込んだ。
「な、何じゃっ!?何をやっておる?」
「あぁっ…!?あっ…。」
横島博士は電子ケーブルから解放され、地面に倒れた。
「よし、まずは一人…。次は…あいつだ。」
ウェントは博士の隣にいる江端博士を指差した。ディールマーシャルはターゲットを補足し、背中の電子ケーブルを触手のように動かす。道人と潤奈が急いで二人の博士の前に立つ。
「おい!答えろ、ウェント!今、横島博士に何をしたんだっ!?」
「何って、本人が望んでいたディサイド・デュラハンの知識を与えてあげたんだよ。」
「えっ…!?」
「ははっ!いいねぇっ、道人!その驚き顔!説明し甲斐があるよ。」
ヤジリウスとフォンフェルの相手をしていたアレウリアスはポケットに両手を入れているウェントの近くに着地した。
「地球のデュラハンがこの世界にディサイド・デュラハンが誕生しやすくするために特定の人物にきっかけがあれば開花する才能を与えている、って話は道人もご存じだろう?」
「…!? お前、何でその話を…!?」
道人たちがその話を聞いたのは名無しのドラゴンからだ。バドスン・アータスは知らないはずだ、と道人は思った。
「夢の中で教えられたんだ、地球の意思…だっけ?俺は頭の方だけどね。」
「ど、どういう事だ…!?」
「俺にもわかんないけどさ、俺は『破壊者』なんだと。道人は『守護者』なんだろ?
宿命の相手、って訳だ。」
「そんな、事が…。」
理由はわからないが、ガイアヘッドはウェントと通じている。バドスン・アータス側がどれくらい地球の事を知っているのか、把握する必要が出てきてしまった。
「話を続けるぜ?それでマーシャルも才能を与えられた一人って訳だからさ。このデストロイ・デュラハンを使って色んな博士たちにその知恵をバラ撒いちまえ!っていう作戦な訳さ。面白いだろ?」
「…! だから、さっき横島博士を…!?」
道人は倒れている横島博士の方を見た。
「ま、あくまで開花の芽だからさ。与えても知識を得られるかはその人の相性次第かなぁ〜、って!」
「ディサイド・デュラハンの知識をばら撒くじゃと…!?ふざけるでない!そんな事をしたら…!?」
博士はウェントにさっさとここから去れという意味を込めるように右手を横に振った後、自分の震える両手を見た。
「下手したらディサイド・デュラハン…いや、彼ら独自の戦闘兵器デュラハンがこの世界を跋扈するって訳さ!こっちが攻めなくても地球側が勝手に自滅してくれて楽って話だね!」
両手を後頭部に当てて頬を染めながら笑うウェントを見て道人とグルーナ、二人の博士は絶句した。
「…じ、じゃあ、そのデストロイ・デュラハンの中にいるのは…。」
潤奈は右手を震わしながらディールマーシャルを指差した。
「うん、読んで字の如く。君の妹のマーシャルが中に入っているよ?カプセルロボットの時と同じさ。迂闊には手を出せないだろう?」
「…ひどい…!」
潤奈は両手を口に当てて涙を流す。
「何でだっ!?マーシャルはお前たちの仲間だろう!?何でこんな扱いをする!?」
「もう用済みだからだってさ。まぁ、個人的にはまだ使い道はあると思うし、もしこの戦いで生き残ったらさ、また回収して仲間に迎えればいいさ。」
「ウェント、お前…!!」
道人は怒りで歯を強く噛み、ウェントを睨んだ。
「ははっ!いいねぇっ、道人!良い殺気だ!」
「大丈夫かい、グルーナ!?」
ホールの出口の方からルレンデスの声が聞こえた。ルレンデスが出口にいる兵士を駆逐し、博士たちを逃した。
「ナイス、ルレンデス!でかした!」
グルーナはガッツポーズを取ってルレンデスを褒めた。他の博士たちやボディーガード、尾凝長官は血相を変えてホールから逃げ出した。
「あーっ、そう来る?余程鬼ごっこがお望みのようだな…。兵士は結構連れて来てるからさ、ホールの外にもたくさんデュラハンがいるんだな、これが。道人、外で待ってるからさ。早くジークヴァルを用意してきな。」
ウェントは蝶の羽を生やし、アレウリアスと共に天井に空いた穴から外に出た。ディールマーシャルは近くにいる江端博士をターゲットとし、背中の無数の電子ケーブルを伸ばしてきた。
「…危ない、博士!」
潤奈は二人の博士たちを庇い、前に立つ。制服バリアで電子ケーブルを弾いた。
「わしは元からディサイド・デュラハンの知識は持っておるから、このデストロイ・デュラハンの対象外じゃ!みんな、千太郎を守ってここから出るんじゃ!わしは横島の奴を抱えてから行く!奴も知識を与えられた後じゃから無視されるじゃろうて!」
「わかりました!」
「…博士、それでも気をつけて!」
フォンフェルは江端博士を抱えて外へと急ぐ。ルレンデスと合流し、ヤジリウスは首無し兵士たちを蹴散らしながら前進する。ディールマーシャルは咆哮し、敵味方お構いなしで突進してきた。
「早く外に…!」
道人たちは何とか博物館の外に出たが、ウェントの言う通り、首無し兵士がそこら辺をうろちょろしていた。
「待ってたぜ、道人!」
道人は声が聞こえた方を向くとウェントが近くの歩道橋の階段に座っていた。隣にはアレウリアスが立っている。
「うおっ!?」
背後の壁を粉砕され、ディールマーシャルが姿を現した。
「…道人、マーシャルは私とフォンフェルが何とかするから…!道人はグルーナさんと一緒に…。」
「いいや、ウェントは俺とジークヴァルたちとで相手をする…!潤奈はグルーナさんと一緒にマーシャルを…!」
「…道人、でも…。」
道人も潤奈もウェントとアレウリアスの強さは知っている。それでも道人はマーシャルを助けたいという潤奈の気持ちを優先し、ウェントの相手を買って出た。
「潤奈、ここはリーダーの指示に従いましょう?でも、道とん。決して無茶しちゃ駄目よ?」
道人は右手でサムズアップして強く頷く。潤奈とフォンフェル、グルーナとルレンデスはディールマーシャルの元へと駆けた。
「へぇ〜っ、強く出たじゃないか、道人!初めて戦った時はアレウリアスに一矢報いたとは言え、実力はハーライムやヤジリウスよりアレウリアスの方が上なんだぜ?それは承知の上だろう?」
「へっ!俺とジークヴァル、ハーライム、ヤジリウスがいればお前らなんてすぐに倒せるさ!」
「だったら、それを証明してみせろよ。早くジークヴァルを用意しな?」
ウェントは親指でジークヴァルのボディが入った輸送トラックを指差す。整備スタッフたちがウェントを警戒して見ていた。道人はウェントを睨みながら走り、トラックの中に入った。
「気をつけろよ、坊主!」
「ありがとう、整備士さん!ジークヴァル、インストール!」
道人はデバイスからビームを放ってジークヴァルの胸の顔に当てる。ジークヴァルの胸の顔に瞳が宿った。道人の右腕にもガントレットが出現し、両足にもレッグパーツがつく。ネックレスも出現し、ジークヴァルと共に跳んでウェントの前に立つ。ヤジリウスもジークヴァルの隣に並んだ。
「ジークヴァル、ヤジリウス、コンビネーションでウェントとアレウリアスを打倒するよ!」
「「おう!」」
ジークヴァルはヴァルムンクを、ヤジリウスは鞘をウェントたちに向けた。ウェントは両手をポケットに入れながらゆっくりと立ち上がる。
「よし!じゃあ、遊ぼうか、道人!俺を楽しませてくれよなぁっ!」
道人とウェント、二人は同時にデバイスを構え、ヘッドカードを実体化させた。




