122章 「祭」の開幕
道人たちは二人の博士の後をついて行き、討論会がある特別ホールへと向かって通路を歩いていた。
「…あの、さっき聞きそびれちゃったけど、御頭防衛隊って…?」
潤奈が改めて御頭防衛隊について質問してきた。
「奴らはこの街に度々出現し、被害を出すようになったデュラハンに対して結成された特別防衛隊なんじゃ。」
「…という事はまだできたばかりの組織って事なんですか…。」
潤奈は右手を口に当てて考えながら歩く。
「そうじゃ、去年くらいからじゃな。特別防衛隊とは言っておるが、実際は長官の尾凝が出没するデュラハンを理由に自分がトップで牛耳る事ができる組織が欲しかっただけじゃ。一体裏で何をやっとるのやら…。」
「…地球側の組織も一枚岩じゃない、って事なんですね…。」
潤奈は悲しそうな顔をして下を向いた。
「何でそんなヤバそうな奴が野放しにされてる訳?」
潤奈の隣りを歩くグルーナが博士に質問する。
「何、道人君たちのおかげじゃよ。バドスン・アータスらが暴れてると言っても今まで大規模な事件は戦島だけじゃしな。報道も制限されておって、ダジーラクが演説したせいでバドスン・アータスの事は情報開示されているものの、キャルベンや傀魔怪堕の事は知らんしの。」
「なるほど、上の人たちも上の人たちで大した事はない、って判断してる訳ね。それで防衛隊にも資金は降りない、と。実際は道とんや潤奈たちが頑張ってくれてるのにさ。」
「そっか、俺たちの行動が外敵だけじゃなくて、内側にも作用してる、って事なんだ…。」
道人は横にいる潤奈と視線を合わせ、今までの戦いの意味を再確認し、頷き合った。
「じゃあ、もう一人の横島博士ってのはどうなの?彼もやば気な人?」
「うむ、やば気な人。防衛隊に所属する前から悪い噂が絶えないマッドサイエンティストではあるが…さっきも言った通り、予算も降りんから自由に開発はできんじゃろうから問題ないじゃろう。」
「悟、そろそろ会場に着くから奴らに関する発言は控えた方が…。」
江端博士の忠告を聞き、博士は咳払いしてネクタイを締め直した。
「…ごめんなさい、博士。話してくれてありがとう…。おかげで防衛隊の事を知る事ができました。」
「何、ノープロブレムじゃよ、潤奈君。あ、そうじゃ。千太郎、少し時間をくれ。道人君たちに話しておかなくては。」
「あぁ、構わないよ。」
博士は江端博士から了承を得て、人気のない広間に道人たちを連れて行く。
「わしが討論会に参加している最中、道人君たちは他の博士たちのボディーガードたちと一緒にいる事になる。くれぐれも発言には気をつけるんじゃぞ?」
「わかりました。」
道人が代表して返事し、潤奈とグルーナは頷いた。
「それとわしが発表中は色んな博士が質問を投げかけて来るじゃろう…。その際、会話を途切れさせるためにわざと道人君たちを下げるような発言をしてしまうかもしれん…。その時は許してくれ…。」
博士はわざわざ頭を下げて来たので道人たちは慌てる。
「い、いいんですよ、博士!気にしないで下さい。」
「…そうですよ。私たち、博士がどんな人か理解しているから博士らしくない事を言ったとしても何か考えがあっての事だって、すぐにわかりますから…。」
「ははっ!良い子たちだな、君たちは。なぁ、悟。」
「あぁ、頼りになる子たちじゃ。」
そう言うと二人の博士たちはホール内に入り、大きな円卓テーブルの席についた。道人たちも少し離れた場所にあるパイプ椅子に座った。何だか強面のボディーガードたちの中に子供の道人と潤奈は浮いていて二人でそわそわしていた。グルーナは気にせずに堂々と腕と足を組んで座っている。
「おいおい、ガキがいるぜ?」
「君たち、来る場所間違ってなぁい?」
案の定、他のボディーガードが絡んできた。潤奈が怖がるので道人は手を繋いで勇気付ける。グルーナも絡んできた二人のボディーガードを睨む。すると、二人のボディーガードは首根っこを掴まれ、宙に浮いた。
「うちのリーダーに何か意見あんのか?」
「我が主君にも言いたい事があるのなら、我らが承りますが?」
ヤジリウスとフォンフェルが姿を現し、ボディーガード二人にお灸を据える。
「Waht's!?こいつら、急に現れて…!?」
「忍者ですので。」「侍だからな。」
忍者はわかるけど、侍が急に現れる道理はないと思うぞ、ヤジリウス…と道人は心の中で突っ込む。
「ジャパニーズニンジャ!?サムライロボット…!?アンビリーバボォ〜ッ…!?」
ボディーガードの中には感動している人たちもいる。何か早速目立ってごめんなさい、博士…と道人は心の中で謝罪する。もう後の祭りだが、こんな事ならヤジリウスを出現させてからホールに入るべきだったと道人は思う。
「…ヤ、ヤジリウス…!助かったけど…!」
「…フォンフェルも…!守ってくれたのはいいけど、あんまり目立たないでね…!」
道人は潤奈と共にヤジリウスとフォンフェルに注意した。出てきてしまったものはしょうがないのでヤジリウスとフォンフェルは道人の隣に立っていてもらう事になった。他のボディーガードたちはデュラハンが珍しいのかじろじろ見ている。
「まさか本物のグルーナ・フリーベルに会えるなんて…!」
「サイン、サインお願いします…!」
「OKよ!私のいる場所はどこでもサイン会場なんだから!」
何かサイン会が隣りで始まったが、道人は全力でスルーした。でも、おかげでガラの悪いボディーガードたちは近寄って来なくなるので助かった。そこはグルーナの知名度が盾になってくれて道人は感謝した。
「悟の作ったデュラハンは凄いな…。光学迷彩システムでも搭載しているのか?」
「ま、まぁな…。うむ…。」
遠くで博士も江端博士に対して困っている。ごめんなさい、博士…と道人は両手を合わせて謝罪し、博士はいいんじゃよ、とサムズアップして返した。しばらくすると続々と様々な博士たちが集まり始め、討論会の開始時刻になった。
「皆様、本日はお忙しい中、お越し頂き誠にありがとうございます。時刻となりましたので、これより全国開発・研究討論会を開始致します。」
司会の人が開始を宣言し、様々な博士たちが自分の研究を発表し、討論をし始めた。新たなる無公害エネルギー、自然回復重機、フードロスを無くせるかもしれない装置など、どれもこれも世界に役立ちそうな未来の原石たちで道人と潤奈は自然と笑顔で見ていた。
「…何だかみんな、活き活きしてて…。お父さんの研究を思い出しちゃうな…。」
「…! …そっか。潤奈のお父さんも…。」
潤奈のお父さんも科学者だった。潤奈は色んな化学品を見ていたら父を思い出してしんみりしてしまったのかもしれない。道人は隣りの潤奈の手を握って安心させた。
「次、いよいよ博士の出番よ…!」
「…博士、頑張って…!」
「あの長官たちに負けるな…!」
道人たちの小声の応援は博士には届かないが、博士は大勢の拍手の中、その場で立ち上がって道人たちを見てウインクし、手を振ってくれた。博士はタブレットを持ち、解説を始めようとする。
「博士、量産型ディサイド・デュラハンの件、考え直してもらえましたかな…?」
博士が自分の研究を話す前に横島が先手を打ってきた。
「横島博士、まだわしの研究を紹介し終えてない。質問はそれからにして頂きたい。」
「その必要はありませんよ。何故なら、この場にいる皆はあなたの開発したディサイド・デュラハンに夢中ですからね…。」
「横島博士、我らの意見も聞かずに皆の総意のような発言は如何なものか。」
江端博士が先程の発言通りにすかさず博士のフォローに入った。
「だって、そうでしょう?そもそもこの討論会自体が無意味に等しい。今、この世界はバドスン・アータスという未知の宇宙人に狙われている…。いつ奴らに滅ぼされるかもわからない状況で未来を語るなどと片腹痛いですよ。」
「横島博士、それは言い過ぎだ!」
「その発言は我らの研究の侮辱とも取れるぞ、横島博士!」
横島博士の発言は過激過ぎる。他の博士たちにも喧嘩を売ってしまった。
「何だか穏やかじゃないわね…。」
「あんな態度じゃ、孤立するだけだ…!何を考えているんだ、あの横島博士ってのは…!?」
道人も横島博士の態度には少し腹を立てた。
「いやはや、横島博士の言う通りですな。」
「あの、ちょっと!困ります!」
別席から尾凝司令がマイクを手に取り、討論会に乱入してきた。司会の人も困っている。
「博士はいつまでディサイド・デュラハンに関しての技術を独占なさるおつもりですかな?」
「独占とは人聞きの悪い。何度も言っておるじゃろう?デュラハン・ハートという特殊な動力源がないとディサイド・デュラハンは動かんのじゃ。それにわしは信頼に値する者でないとディサイド・デュラハンを任せるつもりはない。」
「信頼?あのガキ共がねぇっ…。」
尾凝は軽蔑の眼差しで道人たちを見てくる。道人たちは思わずムッとなる。
「式地博士、デュラハン・ハートに拘る必要はないのでは?他の動力源でも動くのではありませんか?」
横島博士が追撃の言葉を投げてきた。
「仮に他の動力源で動いたとしても、すぐに運用というのは難しい。何度かのテストが必要なんじゃ。」
博士は表情一つ変えずに嘘で横島博士が飛ばした言葉を否定してみせた。
「そうですか。何なら私が新たな動力源を提供してもいいのですよ?」
「悪いが、デュエル・デュラハンや遊園地エリアの売り上げが好調での。他と協力する必要はないのぉ。」
「あの、討論会の趣旨がずれています。御三方、落ち着いて…。」
司会の人が止めに入るが、押しが弱い。あれでは止められないだろう。道人はどうすればいいか考えた。
「下らないなぁ〜っ…!朝っぱらからこんな大広間でする話かね?」
道人はこの場で聞こえてはならない人物の声が聞こえて全身に怖気が走った。道人はパイプ椅子から立ち上がり、周りを確認する。
「わざわざ捜さなくていいよ、道人。俺はここにいるからさ。」
ウェントは天井から降りてきて、円卓テーブルの真ん中に着地した。
「な、何だ、このガキ…!?」
ボディーガードたちが一斉に戦闘態勢に入り、ウェントに銃を向けた。
「アレウリアス。」
ウェントがそう言うとボディーガードたちの拳銃が一斉に暴発し、その場で尻餅をついた。ボディーガードたちは何が起こったのかわからず困惑している。アレウリアスは姿を見せない。
「なっ…!?この小僧、今何を…!?」
尾凝長官はウェントを気味悪がり、後ろに下がる。ウェントはここに集っている博士たちを人差し指で数え始める。
「…式地博士を抜くとざっと、十三人って感じか。まぁ、いいか。さぁっ、『祭』を始めようか!来い、『ディールマーシャル』!」
「…えっ…?」
潤奈はウェントの口からマーシャルの名前を突然聞いたので呆然とする。その瞬間、天井を突き破り、巨体のデュラハン『ディールマーシャル』は着地して目を黄色く発光させた。




