16章 シャドーフォンフェルVSラクベス
シャドーフォンフェルとラクベス、首無し兵士ニ人の三対一の戦いが始まった。シャドーフォンフェルは速攻を仕掛け、高く飛翔してラクベスに向かって巨大手裏剣を投げた。が、ラクベスの固い装甲がいとも容易くそれを弾く。
「くっ、見た目通り頑丈ですね…!主、手裏剣の操作をお願いします!」
「…わかった、任せて!」
潤奈がデバイスを操作し、出口付近にいる首無し兵士ニ人に巨大手裏剣を当てた。
よろけた首無し兵士にすかさず、シャドーフォンフェルは素早いステップで接近し、日本刀でニ人まとめて斬り刻む。
「ダイジョウブカ、ワガブカヨ!?」
ラクベスが近づくもシャドーフォンフェルは許さず、即座にビーム刃の撒菱をラクベスの前に投げ、それを踏むラクベス。
「イテェッ!?イテェヨォッ…!」
ラクベスはその場で足をジタバタし、後ろに下がった。
「これが私と主のコンビネーション!」
シャドーフォンフェルは五体に分身し、目にも止まらぬ速さで動いた。
潤奈が巨大手裏剣を首無し兵士ニ人の周りを円回転するように浮遊させ、それを足場にしてピンボールのように跳ねて首無し兵士ニ体をバラバラにした。
首無し兵士ニ人の残骸の雨が降る中、腕を組んでシャドーフォンフェルは地面に立つ。
「雑魚では私と主の相手にもなりませんでしたね。」
「…滅茶苦茶強くない、フォンフェル?あれで本調子じゃないの?」
「あ、あぁ、まだ一分も経ってないぞ…。」
道人とジークヴァルはシャドーフォンフェルと潤奈のコンビネーションを目の当たりにして度肝を抜かれた。その後、岩が崩れる音が鳴り響く。
音がする方を見ると出口の天井に槍が刺さっていて、岩が崩れて出口を塞いでしまった。どうやら首無し兵士の一人がやられる前に槍を投げていたようだ。
「くっ、出口が…!雑魚兵士もやってくれますね…!」
「オォッ、オォッ…!ヨクゾヤッタ、ワガブカヨ…!イガイトヤル!ソシテ、オマエモ、イガイトヤル!」
「ど、どうも…。」
ラクベスがシャドーフォンフェルを指差してきたのでシャドーフォンフェルはつい返事をしてしまった。
「ダガ、オレハモット、イガイトヤル!ミセテヤル、ミナギルパワー!」
「時間がありません、早々に消えて頂く…!」
シャドーフォンフェルは目にも止まらぬスピードでラクベスの周りを動き回り、日本刀で斬り刻む。が、ラクベスの固い装甲にはやはり通じていない。
「何て固さだ…!?一体どう攻略すれば…!?」
ジークヴァルがラクベスの装甲攻略を思案する中、道人はもう攻略を思いついており、潤奈の側に寄った。
「潤奈、あの手の敵は必ず共通した弱点があって、装甲は固くても動き回る都合上、間接とかの装甲をつけられない箇所は弱いんだ!」
「なるほど!さすがだ、道人!デュエル・デュラハンの賜物だな!」
潤奈は道人のアドバイスに頷き、デバイスを見た。
「…聞こえた、フォンフェル?」
「えぇ、私もただ無闇に斬り刻んでいる訳ではありません!取った!」
シャドーフォンフェルはラクベスの右脇腹を斬った。
「グエッ!?」
ラクベスが右脇腹を両手で押さえてしゃがむ。
「その首、貰い受けます!覚悟!」
シャドーフォンフェルが巨大手裏剣をキャッチし、ラクベスの首と胴体の顔を縦一閃しようとしたその時、シャドーフォンフェルの体内から大きな軋む音が聞こえた。
「ぐあっ!?こんな、時に…!?」
シャドーフォンフェルは胸を押さえ、その場にしゃがんだ。
「…フォンフェル!?こんな時に発作だなんて…!?フォンフェル!」
「ソノスキヲ、ミノガス、オレジャナイ!」
ラクベスは前に突進し、自分の頭の大きな角を使ってシャドーフォンフェルを空高く飛ばした。
「…フォンフェル!」
「ドガラッシャァッ!!」
ラクベスは落下してくるフォンフェルに強力な拳をお見舞いし、ふっ飛ばした。フォンフェルは壁に激突し、シャドーヘッドが消えた。
「そんな…!?フォンフェルは押していて、勝っていたのに…!?」
道人はフォンフェルの本調子ではないというのは急な発作の事だったのか、と今になって理解した。
となりの潤奈の様子を確認すると悲しげな顔をしていて道人は胸が痛んだ。
「ヨシ、カタヅイタ!ツギハアイツラダ。」
ラクベスが道人たちの方を見た。道人はラクベスの殺気を感じ、落ち込んでいる場合じゃない、と自分の頭を激しく横に振った。
こちらに歩いてくるラクベスから何とか逃げる方法はないかと道人は必死に思案する。
「…潤奈、姿が見えなくなるマントは今持ってる?」
「…うん、ある。」
「それは僕にも使えるの?」
「…駄目。これは私にしか使えないの…。」
道人はそれなら自分がマントをつけた潤奈をおんぶすれば、と考えたが、そうするには布の面積が足りない。足が丸見えになってしまう。
(なら、しゃがんで進めば…。…いや、駄目だ…!出口が岩で塞がってるし…。フォンフェルが目を覚ますまで身を隠そうとしてもあいつが無差別攻撃してきたらアウトだ…!どうする、どうする…?考えろ、道人…!)
こうしている間にもラクベスは近づいてくる。
「ソコカラオトシテヤル…!」
ラクベスが道人たちのいる場所に突進をしようと構えた。
(駄目だ、もうこうなったら…!)
道人は立ち上がり、覚悟を決めた。
「…潤奈、透明になるマントを着てフォンフェルの所まで行ける?僕が囮になる。一か八か、フォンフェルが目を覚ましてくれればまた戦えるかもしれない。その可能性に賭ける!」
「…そんな!?それじゃ道人が危険!」
「そうだ、危険すぎるぞ!道人!」
道人は潤奈をお姫様抱っこして、今までいた足場から飛び降りた。
「隠れて、潤奈!やい、カブトムシ野郎!こっちだ!」
道人は石をラクベスに投げて挑発し、走った。潤奈は道人を心配しながらもマントで透明化し、フォンフェルの所へ向かった。
「メンドクサイ!フン!」
ラクベスは右足で強く地面を踏み、地面にヒビを入れて地形を変化させた。
「うわぁっ!?」「きゃあっ!?」
道人と潤奈はほぼ同時に地面に転んだ。潤奈の透明マントが宙に舞って落ちた。
「道人!大丈夫かっ!?」
「う、うん、何とか…。」
道人は何とか立ち上がった。
「ツカマエタ!」
「きゃあっ!?」
道人は後ろから潤奈の悲鳴が聞こえたのですぐに振り向いた。潤奈が両腕をラクベスに掴まれ、苦しんでいる。
「コノママ、ヨコニヒキサイテヤル!」
その光景を見て、道人は昨日のラクベスに吹っ飛ばされた深也の姿がフラッシュバックした。
「や、やめろおぉぉぉぉぉーっ!!」
道人は自分の足が折れても構わないという程の無茶な走り方でラクベスに接近し、ラクベスの装甲が薄い腹を何度もぶん殴った。
「放せぇっ、潤奈を放せよぉっ!!」
「…道、人…。」
「コショグッタイ!ドケ!」
「ぐわぁっ!?」
道人はラクベスから蹴りを喰らい、頭から出血し、地面に倒れた。ジークヴァルのデバイスとスマホも地面に落ちる。
「道人!!」「道人ぉっ!!」
ジークヴァルと潤奈が同時に叫んで道人の身を案じた。
「ま、まだまだぁっ!!」
道人は頭の出血も気にせず、再びラクベスに立ち向かって走り、今度はラクベスの右脇を何度も殴った。道人の両手から血が出始める。
「お前なんかに、潤奈は…殺させないぞ…!もう二度とお前なんかに大切なものを奪わせてたまるか…!」
「コイツ、シツコイ!」
「約束したんだ、潤奈と…!守るって…!もう二度と潤奈を悲しませたりするもんか!」
「道、人…。」
「くそぉっ!頼む!奇跡よ!私に身体を!道人たちを守れる身体を私にくれぇぇぇぇぇーっ!!」
ジークヴァルの悲痛な願いも虚しく、ラクベスは再び道人を蹴り上げた。
「がっ…!?」
「嫌ぁぁぁぁぁーっ!?」
その時だった。潤奈の叫びがこだました時、道人は宙で静止し、光に包まれた。飾られていた十糸姫の緑の糸が道人の前に飛んできた。
「ナンダ、コノイト!?」
道人のとなりに着物の女性が出現し、道人を抱えた。道人は目を覚まし、着物の女性を見た。
「…まさか、十糸姫…。」
潤奈は思い当たる人物を口にした。着物の女性は道人に微笑みかけた後、消えた。
道人のポケットからさっき拾ったデュラハン・ハートが飛び出した。
「ラックシルベ!?ナニガオキテイル!?」
ラクベスは不可思議な現象の前に動揺し、潤奈から手を離した。潤奈は地面に倒れるが、すぐに起き上がってラクベスから離れ、道人を見る。
「…道人、一体何が…?」
ラックシルベと十糸姫の緑糸は呼応し、合体した。石のついたストラップに変化し、道人のスマホに装着される。
「これは…?」
道人のスマホから光が発せられ、光が人型に変わっていく。その人型は道人を抱き抱え、着地した。段々と光が収まっていく。
「君は、まさか…。」
そこに現れたは緑の首無し騎士。例え意思はなくとも、これまで短いながらも、道人と共に遊んできたもう一人の相棒。道人は混乱の中、その名を呼んだ。
「ハーライム…?」
「…そう、私はデュエル・デュラハン!ハーライム!友の窮地に今、実体!」




