120章 二つ目のデバイスの謎
「…うーん、眠りが浅かったな…。」
道人は目覚まし時計が鳴る前に止め、ベッドから上半身を起こし、新たに入手したデバイスを手に取って見た。
「道人、おはよう…と言っても、あまり眠れなかったか。」
「うん、ソルワデスと新たなデバイスが気になっちゃって…。」
あの後、ヤジリウスに抱えられて窓から自室に戻ってきた。風呂場で汚れた足を軽く洗った後、すぐに眠ろうとしたが全然眠れずに現在に至る。
「まさか二体目のディサイド・デュラハンを得るとはな…。」
「うん…。とにかく今日、パークに行ったらみんなに話してみようと思う。」
「あぁ、その方がいいだろうな。」
道人はベッドから立ち上がり、私服に着替えた。二つのデバイスとスマホを持って階段を降りる。秋子はもう起きていてニュースを見ている。
「おはよう、母さん。」
「おはよう、道人。さ、朝ご飯の支度ね。」
道人は普段通りに洗顔した後、朝ご飯作りの手伝いをする。こう妙な出来事が立て続けに起きるとこういった何気ない日常が落ち着くものだ、と道人は和んだ。和みに浸っていると、気がついたらおにぎり、卵焼き、焼き鮭が完成していた。
「「「いただきます。」」」
「って、ジークヴァルも?」
「私も言ってみたかったのだ。」
「ふふっ!さぁっ、食べましょう。」
ジークヴァルは気を遣って和ませてくれたのかな、と思いながら道人はおにぎりを食べた。そのおかげか、朝食がいつもよりも更に美味しく感じた。あっという間に食べ終え、食器を片付けているとインターホンが鳴った。
「あ、多分虎城さんだから、俺が出るよ。」
道人は玄関まで行き、覗き穴を見るとやはり虎城と愛歌だった。イーグルデバイスも愛歌の左肩で羽をパタパタした。鍵を開け、ドアを開く。
「おっす、道人!」
「おはようございます、道人君」
「おはようございます。あ、ちょっと待ってて下さい。リュック取って来るんで。」
そう言うと道人は急いで自室に行き、忘れ物がないかを確認した後、リュックを背負って玄関まで戻ってきた。
「お待たせ!それじゃあ、母さん!行ってきまーす!」
「はい。気をつけるのよ、道人。」
道人は頷いた後、扉を閉めて虎城の車へと向かっていると潤奈を抱えたフォンフェルがちょうど車の側に着地した。
「…おはよう、道人、愛歌、虎城さん。」
「おはようございます、皆さん。」
道人たちは潤奈とフォンフェルに挨拶を返した後、共に車に乗り込んだ。潤奈は助手席に、道人と愛歌は後部座席に座った。フォンフェルはいつものように一人姿を消し、車は走り出した。
「うーむ、そうだな…。」
「ん?何?道人?」
ここでソルワデスの件を話そうかと道人は考えたが、みんなが集まった場の方がいいか、とやめておく事にした。
「何でもないよ、うん…。」
パークまで身体を揺らしながらただ到着を待つ。待つ。待つ…。
「あ、あの…道人?着いたんだけど…。」
愛歌の声を聞いて意識がはっきりした。寝不足だからか、つい寝てしまったようだ。道人は姿勢を正して起き上がる。
「…ん?俺今、何を枕代わりにして…?」
「あたしの肩よ、肩。もう…。」
愛歌は頬を染めて目線を外に向けていた。
「ご、ごめん、愛歌!ちょっと俺、寝不足で…!」
「…いや、まぁ…いいけどさ…。悪い気は…しないし、うん…。」
道人は慌ててドアを開けて車から外に出た。周りを確認すると見慣れた会社エリアの駐車場だった。
「もウ…。愛歌、せっかくのチャンスヲ…。どうせなラ、道人に膝枕ヲ…。」
「!」
「っテ、あいたァッ!?」
愛歌はトワマリーが言い終わる前に画面にデコピンを喰らわした。ちょっと恥ずかしかったが、愛歌にとって気晴らしになれたのならいいか、とポジティブシンキングに捉えた。道人たちは制服姿に変わり、ボディチェックを受けた後、司令室へと向かった。
「司令、道人君たちをお連れしました。」
「あぁ、ご苦労だった、虎城君。」
司令室に着くと真っ先に虎城が司令に報告する。その後、虎城は自分の席に戻り、オペレーターの仕事に戻った。
「グッドモーニングじゃ、皆の衆!」
博士も今回はモニター越しではなく、司令室にいた。しかも白衣姿ではなく、珍しくスーツ姿だ。
「博士、今日はおめかししてますねぇ〜っ!」
「今日は大事な会議じゃからな!わしだって決める時は決めるわい!」
愛歌の言葉を聞き、博士は得意げにスーツのラベルを両手で掴んで正した。
「あれ?深也は?」
周りを確認すると狸に構っている大樹は既に座っているが、深也の姿はない。
「船長ならここだぜ、道人隊長。」
スクリーンから喜ばしい声が聞こえてきたので道人たちはすぐに声がした方を向いた。ランドレイクがスクリーンに映っていた。深也も腕を組んで座っている。道人はジークヴァルが映ったデバイスをスクリーンに向けてあげた。
「ランドレイク、目を覚ましたのか!」
「あぁ、この通りだ!ぴんぴんしてるぜ!」
ランドレイクはその場で何回かマッスルポーズを決めた。
「深也、ランドレイクとは…。」
「大丈夫、船長とは普段通りだぜ?まぁ、仕方ねぇじゃねぇか、相手が相手だったしな…。今度はああならないようにお互い気をつけよう、ってな!なぁ、船長!」
「あぁ、心の広い奴だぜ…。ったく…。」
口は悪いがあれは機嫌が良い時の深也だ。付き合いが長いからか、道人にはもうわかるようになった。
「博士、ダーバラは…?」
「いや、まだ目を覚さん…。バドスン・アータスのデュラハンは生き物なのか、機械なのか複雑なんじゃ…。バラす訳にもいかんし…。」
「そうですか…。」
愛歌は下を向き、落ち込んだ。潤奈が近寄り、愛歌の左肩に手を置いた。右肩に乗っているイーグルデバイスも愛歌の頬を優しく擦る。
「あ、そうだ!みんな、聞いて欲しい事があって…!」
今の博士の生き物なのか機械なのかの発言のおかげで話すタイミングができた。道人は昨日の夜の出来事と新たに得たディサイド・デバイスを見せた。
「…道人と、キャルベンのデュラハンがディサイド…。」
「ねぇ、道人…。あんた、毎回何であたしたちがいない所で話を進展させるのよ?」
「いや、俺が聞きたいわ!」
愛歌の愚痴に対して道人は即座に突っ込んだ。博士と司令は道人からエメラルドのデバイスを借りて見ている。
「ふむ、二体目のディサイド・デュラハンとは…。それで、そのソルワデスというデュラハンは姿を消した、と…。」
司令の言葉に対し、道人は頷いた。
「ー道人、昨日僕が言った事覚えてる?君の記憶には白紙の写真がいくつかあったって。」
大樹が狸を両手に持って道人に見せた。確かに道人の記憶再現アトラクションで狸がそう言っていた事を思い出した。
「うん、確かに電子音声が聞こえたな…。『FUTURE SLIDE』って…。」
「ー多分、君とソルワデスというデュラハンは未来だと仲間になる事自体は決まっていたんだ。そこにガイアフレーム様が道人に施した『未来の前借り』が発動して、早めにディサイド化したのかもしれないね。」
「そ、そうなのか…。白紙の写真ってのは俺の中にまだあったの?」
「ーうん、発動条件はわからないけどね。」
道人は自分の身体にそんな能力が?と自分の両手を見詰めた。
「そもそも未来の前借りって何なんじゃ?」
「ーごめん、僕にもよくわからないんだ…。」
「そっか、ガイアフレームにその知識は与えられてない、って事か…。」
道人は両手で握り拳を作り、眉を強めた。
「まるで人間びっくり箱ね、道人は。」
「おいおい、やめろよ、そんな言い方ぁーっ…。」
「たははっ、ごめんごめん!でもさ、あたしが戦った時もこのデュラハン、話が通じそうだなぁー、って思ってたし。良かったね、トワマリー。あの時倒さなくてさ。」
「うン、ビーストの力でボコボコにしちゃったしナ、私…。仲間になったら、謝らないとネ。」
「仲間、か…。」
確かにソルワデスは悪いデュラハンとは思えなかった。でも、要するに本来の過程をすっ飛ばしてディサイド化してしまった訳だし、本当に仲間になってくれるんだろうか?と道人は心配になった。
「…ふむ、とにかく様子見じゃな。さて、そろそろ会場に行こうかの。」
「まだ早いんじゃないか?始まりは十時からだろう?」
司令がそう言うので道人は時間を確認した。時刻は八時過ぎだった。
「何、久々に会って話したい友人がいての。いても立ってもいられんのじゃよ。」
「やれやれ…。それじゃあ、昨日説明した通り、博士の護衛は頼んだよ?道人君、潤奈君…。」
「そして、私もねぇっ!」
自動ドアを勢いよく開き、グルーナが姿を現した。
「グ、グルーナさん?」
「…あれ?でも、昨日の説明だと…?」
潤奈の疑問の通り、昨日の司令の説明にグルーナの名前はなかった。
「色んな博士が集う会議なら是非同行したい、と言い出してのぉ…。」
「まぁ、オペレーターたちからもずっと閉じ込めっぱなしはどうかと、と意見があってな…。いずれビーストヘッドの試練もあるかもしれないし、本人ももう懲りている事はわかったしな…。」
「…え?それじゃあ…!」
潤奈は司令の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた。グルーナと遠くのオペレーター組も共にサムズアップした。
「あぁ、D・D FORCEの一員として出歩いていいか、テストをする事にした。なので、今回はグルーナ君も博士の護衛として同行する。」
「…やったぁっ!良かったですね、グルーナさん!」
潤奈は喜びの余り、グルーナの両手を握った。
「ありがとう、我がファン&フレンド、潤奈。でも、この待遇に甘えるつもりもないわ!私の罪もエターナル!これからも償い続けていっちゃうんだから!」
グルーナは右手の人差し指を天に上げて高笑いした。潤奈は喜びながら拍手する。
「ー何だか面白そうな人だね。」
「狸があの人の記憶再現アトラクション作ったら…想像できんの…。」
大樹の意見に対し、道人と愛歌は腕を組んで頷いた。
「よし、それじゃあ行くかの!わしの車までゴー!じゃ!」
張り切る博士が先頭を歩き、道人たちはその後ろをついて行き、司令室を後にした。




