116章Side:ウェント 反逆の序曲
『シユーザーを焚き付けろ。』
暗闇の中で声だけが聞こえる。幼い声だが、同時に重みも感じる不思議な声だ。
『とっておきの話をくれてやる。』
「とっておき?へぇっ、気になるな。教えてくれよ。」
真っ暗で何も見えないが、ウェントは後頭部に両手を当てて耳を傾ける。暗闇の奥からたくさんのスクリーンがどんどんと通過していき、ウェントの頭の中に一気に情報が流れ込んできた。
『我が破壊者よ。奴の守護者を…。』
「…殺せ…。」
ウェントは目を覚まし、見覚えのある天井が目に入った。人気が少ない、ウェントがよく眠りに来る場所だ。入り組んだ鉄骨の上に眠っている。
「目覚めの一言にしては随分と物騒だな。」
アレウリアスが近くの鉄骨に座って自分のダブルビームピストルの手入れをしていた。ウェントはゆっくりと上半身を起こし、アレウリアスを見る。
「何、ちょっと面白い夢を見てね…。興味あるかい?」
「いや、いい。お前の面白いは十中八九、面倒事だからな。」
「そうつれない事言うなよ。俺が今すぐに行動を起こす事だから聞いた方がいいぜ?」
「何…?」
アレウリアスはウェントから今見た夢の話を聞いた。
「な?面白いだろ?」
「…やはり面倒事だった。だが、悪くない。」
「よし!そうと決まれば行こうぜ、シユーザー先輩の所にさ!」
ウェントは鉄骨から飛び降り、通路に着地した。アレウリアスも続いて着地し、シユーザーの研究室へと向かう。
「しかし、お前にできるのか?シユーザーをその気にさせるなど。確かに誘い安そうな情報ではあるが…。」
「まぁ、うまく行かなかったらそん時はそん時だ。そうなったらまた夢の中で指示があるだろ。」
「相変わらずの自由さだ…。」
「アレウリアスの褒め上手も相変わらずさ。」
ウェントはアレウリアスと他愛もない話をしているとシユーザーの研究室に辿り着いた。
「シユーザー先輩?入りますよぉーっ?」
「…それは入る前に言う事でしょう。」
シユーザーの指摘通り、ウェントはもう既に研究室に入ってから伺いを立てた。アレウリアスはウェントの隣りで呆れている。
「ごめんごめん…。マーシャルの人形ちゃんと…あっ、シャクヤスもいるんだ。中の人は?」
「その態度は無礼ですよ、ウェント!口を慎みなさい!」
「ありゃりゃっ…!って事はヴァエンペラ様で有せられる?これはご無礼を…。」
ウェントはシャクヤスに対して軽く頭を下げた。
「あなたって人は…。」
「…ははっ、いいではないか、シユーザー…。…意気のいい新人だ…。…して、何用だ…?…ウェント、アレウリアス…?」
ウェントは頭を上げ、シユーザーの方を向いた。
「実はシユーザー様にとっておきの情報がたくさんありまして…。」
「とっておき?しかもたくさん?何ですか?」
シユーザーは新たなデストロイ・デュラハンを寡黙なマーシャルと共に作っていたが、手を止めてウェントの話に興味を持った。
「あなたは私の研究の邪魔をしているんです。下らない話だったら承知しませんよ?」
「大丈夫ですよ、自信あるんでね。では、早速…。まず一つ目。地球は実は巨大なデュラハンなんですよ。」
「…はい?」
シユーザーは素っ頓狂な声を上げた。
「…いきなりもう付き合い切れなくなりそうですが…。それで?」
「その地球のデュラハンはこの世界にディサイド・デュラハンが誕生しやすくするために特定の人物にきっかけがあれば開花する才能を与えているんですよ。デュラハン・ガードナーの式地博士や…そこのマーシャルもそうかも。後、その父親ね。」
「何ですって…?」
シユーザーは隣りで呆然と立っているマーシャルを見る。
「ディサイド・デュラハンはジュンナやマーシャルの父親イチ・マノンシアが設計したもののはず…。イチはリフドー人で地球とは無関係でしょう?」
「それがそんな事ないんですよ、シユーザー先輩。彼女らの母親は地球人なんです。潤奈とマーシャルは地球人とリフドー人のハーフなんですよ。」
「ほう…。」
「…シユーザーよ、ウェントの話は嘘ではない…。…何故なら、わしはかつて、地球のデュラハンと戦った事があるからだ…。」
「な、何ですって…!?」
シユーザーはヴァエンペラの発言を聞き、姿勢を改めた。
「…すまぬな…。…時期を見て話そうと思ったのだが…。…ふふっ、ウェントに先を越されてしまった…。」
ウェントはヴァエンペラの反応が気になった。隠していた事がバレた割には何故か余裕があるからだ。むしろ、ウェントが話すのを待っていたように感じた。
「…ヴァエンペラ様が仰るなら、事実なのか…。なるほど…言われてみれば、マーシャルは幼少の頃からその卓越した技術力で我がバドスン・アータスに貢献していた…。父の才能を受け継いだものかと思ったが…ふふっ、なるほど!」
シユーザーは徐々にテンションが上がってきた。
「だとしたら、何と皮肉な話だ!イチは地球人の妻と結ばれたせいで死ぬ事になったと!しかも地球の都合で!しかも自分がディサイド・デュラハンを設計したと勘違い!はっはっ!良い、良いですよぉ〜っ…!ジュンナとマーシャルに悲劇性が追加されました…!たまらないなぁ〜っ…!」
シユーザーはマーシャルの顎に手を当てて見つめた。
「いいでしょう、ウェント!話を続けなさい!それを私に伝えてあなたは何が望みなんですか?」
ウェントはシユーザーが話に乗って来てくれて笑みを浮かべる。
「明日、地球で科学者たちが集まる会議があるんですよ。デュラハン・ガードナーの式地博士も参加するんです。そこで『祭り』を開けないかなぁ〜って。」
「何ですって?祭り…?」
「実は…。」
ウェントはシユーザーにある作戦を提案した。
「…ははっ、なるほど!面白い!マーシャルを使ってそんな大胆な事を…!確かに、マーシャルが以前に作ったサイバーテロができるデストロイ・デュラハン『ディレクトリグラシス』のデータを応用すれば可能ですよ!」
「…ふふっ、わしも賛成だ…。…許可しよう、シユーザー…。明日、バドスン・アータスはお前の物となる…。」
「あ、ありがたきお言葉…!感謝します、父上…いや、ヴァエンペラ様…!」
シユーザーはシャクヤスと面と向かい、頭を垂れた。
「…わしは用がある…。…そろそろ去るとしよう…。」
「用、ですか…?」
「…祭りの後の事も考えねばならんからな…。…くくっ…。」
そう言うとシャクヤスは高くジャンプし、この部屋から退室した。
「よし、いいでしょう!明日、ダジーラクをジェネラルの座から引き摺り下ろします!さぁ、反逆の準備に取り掛かりましょう!」
ウェントは喜びの余り、両手を激しく合わせた。
「よっしゃっ、そう来なくっちゃ!シユーザー先輩、グレリースとルアンソンのパートナーは?どうなんです?」
「大丈夫、明日にはもう運用できますよ。」
「やった!明日がついにカウンター・ディサイド・デュラハンチームの初陣だ!」
「あぁ、面白くなってきたな…!」
アレウリアスもテンションが高まっているのか、ウェントの言葉に賛同した。
「よし、ウェント。あなたにやってもらいたい事があります。ディアスの奴が休みに入ったら、ラクベスを病室から連れ出しなさい。ちょっとやりたい事があってね…。」
「わかったよ。レイドルクとディアスはどうするんです?」
「レイドルクは…大丈夫。気にしなくていいでしょう。ディアスは…もういらないので明日処分しましょう。」
ウェントとアレウリアスはシユーザーの指示に従い、研究室から退室した。
「ウェント、お前にしてはうまくいったな。というか…。」
「わかってるよ、アレウリアス…。ヴァエンペラ様、俺らのサポートをしていたような気がした…。まるで俺が今日シユーザー先輩に話をしに行くのを知ってたみたいに…。」
ウェントもアレウリアスもそこが気掛かりに感じていた。
「…まぁ、いいや。とにかくシユーザー先輩をその気にさせる事ができた…。明日が楽しみだなぁ〜っ…!俺、明日は道人の奴に正体を明かしてやるんだ!あいつ、きっと驚くぞぉ〜っ…!」
「楽しみにするのは構わないが、ラクベスを運ぶという指令。喜びの余り、ヘマをするんじゃないぞ?」
「わかってるよ、アレウリアス…。ふふっ…!待ってろよ、道人…!感動の対面がお前を待っているぞ…!」
ウェントは両目を赤く発光させて、邪悪な笑みを浮かべた。




