115章 彼女が育成ゲームを好きな訳
「ここが私の記憶映像…?」
大神の声が聞こえたので道人は両腕の閃光防御を解き、周りを確認する。そこはメルヘンチックで、地面がカラフルな牧場だった。青空にはポップコーンやカートゥーン風な唐揚げがたくさん浮いている。
「な、何だ、ここ…?」
「ーここは大神の大好きな育成ゲームを再現した世界だよ。ここで君たちにやってもらいたい事は僕の分身の狸を育成して、僕が気に入るような姿にして見せて欲しいんだ。」
そう言うと狸は右手の指を鳴らし、道人たちの目の前にコミカルな漫画風の爆発を起こした。小さい狸の分身たちが道人たちの両手に握られる。
「ーここまで君たちはよく頑張ってくれたし、君たちのおかげで遊園地を介して人間の娯楽という物を知る事ができた…。次の大樹の記憶映像で試練は最後…。最後の試練の前に君たちにはお礼も兼ねて楽しんでもらおうと思ってね。特に大神。」
大神は私?という感じで自分を指差した。
「ー君は僕の事を特に気に入ってくれて、親切にしてくれた…。遊園地のアトラクションや、遊園地でやったら楽しい事をこの短い期間でたくさん教えてくれた…。ありがとう…。」
「狸君…。あなた、何だか…?」
「…まるで死ぬ前の挨拶みたいになっとるぞ、狸。」
大樹の発言を聞き、道人と潤奈は一斉に大樹の方に振り向いた。
「ーやだなぁっ、そんな訳ないだろう?何で僕が死ななきゃならないのさ?僕はビーストヘッドだよ?死ぬ訳…ないじゃないか。…さぁ、早く始めよう!ゲームスタートだ!」
狸が再び右手の指を鳴らすと空中に大きなGAME STARTの文字が浮かんだ。みんな狸の様子が気になったが、狸の言う通りに育成を始める。
「…道人。私、育成ゲーム、って言うのがよくわからないんだけど…。」
「俺もそのジャンルのゲームはあんまり…。そもそもどうやってこの狸を育てたらいいんだ?」
道人と潤奈は両手に持った狸を色んな角度から見る。
「ー手を横にスライドしてみて。そうしたら、メニュー画面が開くから。」
道人たちは言われた通りにすると宙に文字が並んだ。
「わっ、何か出た。」
道人は驚いた後、羅列された文字を確認する。
「ーそこからパラメーターの確認、食べ物やトレーニング、怪我の手当てに遊び、色々とできるよ。そこから色んなコーディネートアイテムを使って自分だけの狸を作り出すんだ。」
「何か時間掛かりそうじゃのう…。一体何日掛かるんじゃ?」
「ー大丈夫。一番下に時間を進めるボタンを用意したから。これなら時間を短縮できるよ?」
「なるほどね。よぉ〜し、みんなに私の育成ゲームテクニック、見せてあげる!」
「ー頑張って!よぉーし、早速雰囲気作りだ!えいっ!」
狸が右手の指を鳴らすとみんな、作業帽を被ったオーバーオールの姿になった。
「おっ、今度は良い感じじゃん。飼育員っぽくなった。」
「うんうん、上達したさぁ。」
「…道人、どう?変じゃない?」
「うん、似合う似合う!それで帽子も逆さにしたらさ…。」
道人は潤奈の帽子を逆さにして被らせた。潤奈は三つ編みのオーバーオール姿で教育番組のお姉さんみたいな姿になった。
ゲームの仕様がわかった道人たちは早速育成に取り掛かった。
「あの、大神さんは何で育成ゲームが好きなんですか?」
道人たちは育成ゲームは不慣れのため、大神に教わりながら狸を育成していた。育成中に気になったので聞いてみた。
「うん、十糸の森に来る最中に話したでしょ?私、妹がいるんだけどさ、道人君たちと同じくらいだからぁーっ…、結構歳が離れてたのよ。十一くらいは離れてるかなぁ?」
大神は手慣れた動きでメニュー画面を操作しながら話している。育成ゲームが得意なのもあるが、オペレーターの仕事を普段からやっている賜物もあるのだろうな、と道人は尊敬の眼差しで見る。
「私、受験勉強とかで忙しかったからさ、妹の育児は両親任せになっちゃって…。今は華凛と一緒に暮らしてるけど…少しの間、高校と大学に通いやすい場所で一人暮らししてたんだよね。だから、華凛とは少し距離感があってね…。肝試し大会の時くらいだったのよ、華凛と一緒に遊べたのは…。」
道人と潤奈、大樹とカサエルは手を止めて聞き入っていた。
「仲が悪い、って訳じゃないんだけどね…。それで何だか罪悪感を感じちゃってさ…。その時始めたのがたまたま見つけた育成ゲーム。いざやってみたらどハマりしちゃって…。あぁっ、何かごめんね…。純粋な好きじゃなくてさ…。」
「いや、そんな事はないぞい。」
大樹がいち早く大神の過去話に返事をする形になった。
「そうさぁ。始めたきっかけはどうあれ、今は大神さんにとっては掛け替えのない好きな事になっているのなら、気にする事はないさぁ。」
「カサエルの言う通りじゃ。大神さんにはもっと自分の好きに自信を持って欲しいぞい。」
大神は大樹とカサエルの言葉を聞いて目を潤ませた。隣にいる狸も真剣な面持ちで聞いている。
「大樹君、カサエル…。ありがとう…。でもさ、育成ゲームをやっても結局私は臆病なままで…。今更、華凛と仲良く接する勇気もなくてさ…。結局、私変わる事はできなかったなぁっ、って自己嫌悪…。」
「…ううん、そんな事ないよ。」
今度は潤奈が大神の言葉に反論する。
「…だって、今日の大神さん、私たちと一緒にたくさん遊んでくれたじゃない。」
「潤奈の言う通りだよ。妹さんと同い年の俺たちが大神さんと今日一日、一緒に遊べて楽しかったんだ。きっと俺たちに対しての優しさを妹さんにも同じように振る舞えば、今からでも遅くないし、難しく思う必要なんてない。きっと良いお姉さんができるよ。」
「…同じお姉さんである私が保証するよ?」
「道人君、潤奈ちゃん…。よぉし、みんなから勇気を貰えて何か自信出て来たぁ〜っ!みんなで最高の狸君を育成しちゃいましょーっ!」
「「おぉ〜っ!」」「…おぉーっ!」「さぁ〜っ!」
みんなは一致団結し、育成に集中し始めた。ただ一人、狸だけを除いて。
「よし、完成!」
「…私も育成完了!」
「俺もじゃい!」
「あっしもさぁっ!」
「うん!私自慢の可愛い子、ここに顕現ってねぇっ!」
みんな揃って育成が完了し、狸の前に色んな分身の狸が勢揃いした。
「ーわぁ〜っ、すごい…!色んな格好の狸がいっぱいだ…!道人と潤奈、大樹は自分のパートナーのデュラハンに似せたんだね。特徴をよく掴めてる…!」
狸は騎士風、忍者風、帽子屋の狸を近寄って見た。
「ーカサエルは…。」
「大樹があっしに似せた狸を育成してるのがわかったから、あっしも合わせて大樹に似せて作ってみたさぁ。」
狸は大樹に似た狸を細部まで見た。
「ーすごいや、二人共仲良しの証だね。最後に大神のは…。」
大神の狸は誰に似せた訳でもない姿で狸にはよくわからなかった。
「ーこれは?」
「この狸は今日私が感じた楽しかった事、学べた事…。せめて昨日よりも強い自分になれるように…。そう思いながら育成した狸だよ。」
「ーへぇっ、すごい!これが芸術ってやつなの?大神の気持ちが込められてるんだね。」
「それと狸君がこれからも悩みに負けずに自信を持って歩んで行けるように…ってメッセージも込めたんだ…。余計なお世話かもしれないけど、伝わるといいな…。」
「ーえっ?」
大神の発言を聞いて狸はきょとんとした。大神は笑みを浮かべ、優しく頭を撫でた。
「大神さん、あんたも気づいておったんじゃな…。」
「狸、君に問いたいさぁ。今でもお前さんはあっしらを頼りないと思っているさぁっ?」
「ー!? 君たち…!?」
狸は両手で握り拳を作り、下を向いた。
「ーわかった。どうやら、試練を乗り越えるためのきっかけは掴んだみたいだね…。よし、ここからは最後の試練!残念だけど、ここからは先に行けるのは大樹とカサエルだけだ。道人と潤奈、それと…大神とはここでお別れだ。」
「お別れなんかじゃないよ。」
道人は自分の言葉に力強さを込めて、自信を持って狸の言葉を否定した。
「大樹とカサエルが掴んだ答えに間違いはない、俺はそう信じてる。二人が出した答えなら、お別れなんて事には絶対にならない。」
「…うん、そうだよ。大樹とカサエルだもんね。私も信じる。」
「道人、潤奈ちゃん…。へっ、これは期待は絶対に裏切れんなぁっ、カサエル!」
「さぁっ!」
大樹とカサエルは自信に満ちた眼差しで狸を見つめた。
「ーもう準備はいいみたいだね。それじゃあ、行こうか!最後の大樹の記憶へ!」
そう言うと狸と大樹、カサエルは宙を浮き、飛んでいく。
「狸君、私…信じてる!これが別れじゃないって!」
「ー! 大神…。」
「また会おうね、狸君!またみんなで一緒に遊びましょう!」
「今度は俺たちだけじゃない!愛歌や深也、司令に博士!」
「…虎城さんや流咲さん!グルーナさんに海音さん!スランに稲穂ちゃん、それに芽依ちゃんも!」
「私たち、狸君にもっと…!」
狸に全て言い終わる前に世界は暗転。道人たちは目を覚ました。
「…! 道人、目が覚めたのか?」
「潤奈、大丈夫でしたか?」
ジークヴァルとフォンフェルが道人たちが目を覚ました途端にすぐに身を案じて近寄って来た。
「うん、俺らは大丈夫…。大神さんも…。」
道人は悲しそうにしている大神を見ながら潤奈と手を繋いだまま共に立ち上がって未だに眠る大樹とカサエルを見た。
「大樹、カサエル、後は頼んだよ…!」
道人と潤奈は互いに頷き合った後、ずっと大樹とカサエルを見守った。




