15章 十糸姫の伝説
道人は潤奈の手を繋ぎながら横並びで森の中を歩いていた。フォンフェルは先を歩き、潤奈と道人が怪我しないように雑草や小石などの障害物を日本刀で切りながら進んでいた。
「…道人、もういいの?私から話を聞かなくて。」
「ん?あぁ、いいよ。思い出したらつらい事を無理に聞くのは嫌だから。潤奈の話したいって思ったタイミングで、ゆっくり教えてくれたらいいからさ。」
「…うん。わかった。 …もう着くよ、道人を連れていきたい場所その2。」
潤奈の言葉を聞いて道人は前を見ると目の前に洞窟が見えた。
「この中に入るの?」
「…うん。」
「暗いですから、足元に気をつけて。」
フォンフェルが先を歩き、道人はスマホのライトを点けて歩いた。
少し先に進むと螺旋階段があり、道人は潤奈が階段を踏み外さないように気を遣って降りた。
階段を降り終わると青い光が溢れている出口を見つけ、光へ向かって歩を進める。洞窟を抜けるとそこは壁全てが青い水晶でできた巨大空洞だった。
「何だ、ここ…?ここが、潤奈が連れてきたかったところなの?」
「…うん。見せたいのはあれ。」
潤奈が指差した先には何か緑色の糸のようなものが飾られていた。道人はスマホのライトを消し、近づいてその糸を見る。
「…家の近くを探索してたら、たまたま見つけたんだけど…。この糸、不思議な力を秘めているの。それが気になって。この街に住んでいる道人なら何かわかるのかな、と思って連れてきたの。…あ、触らない方がいいよ。触ったら電流が走るから…。」
道人は触れないように糸を色んな角度から見た。
「これは…もしかして、ここは十糸の森だから…。」
「何だ、道人?その十糸の森というのは?」
ジークヴァルが道人に聞いた後、潤奈とフォンフェルは道人の方を見た。
「うん、僕も授業でしか知らないんだけど…。この御頭街にはいくつか古代遺跡があるんだ。」
「あぁ、博士が昨日言っていたな。」
道人は右手を額に当てて何とか潤奈たちに伝えようと授業で聞いた事を思い出そうとした。
「その古代遺跡にはそれぞれに伝説があって、その一つが『十糸姫の伝説』。確か…。」
[昔ある日、戦に負けた武者十人が城を失って森を彷徨っていたら、洞窟に住む不思議な姫に出会った。
武者たちと姫は仲良くなり、友好の証として十本の様々な色の糸を渡された。
その十本の糸を刀や鎧につけたら不思議な事に凄まじい能力を発揮し、何と十人だけで城を取り返してしまった。
お礼を言おうとその姫にまた会おうとしたが、その姫はもう姿がなかった。]
「…って話だったかな、うん。」
「…じゃあ、この糸はその内の一つ?」
「いや、確かこの伝説は江戸時代くらいの話だから…。この糸は綺麗だし、そんな昔の物が現代に残っているとは思えないし、うーん…?」
道人は腕を組んで糸と睨めっこした。
「…そうだ、道人、もう一つ見せたいものがあるの。ついてきて。」
潤奈は糸が置いてある場所の右奥に進んだところにある扉まで歩き、道人とフォンフェルは潤奈の後を追いかけた。その扉を開くと首無しの武者が壁に背をつけて座っていた。
「うわぁっ!?まさか、し、し…!?」
「…大丈夫。周りを見て。」
道人は一瞬武者の亡き骸かと思ったが、周りを見ると歯車や木の破片が落ちていた。
「…これは多分、道人たちで言うデュラハンなんじゃないかな?」
「えっ?どういう事?カラクリ?カラクリでできたデュラハン?」
道人は驚きで何度も首無し武者を観察する。
「…カラクリって何?道人。」
潤奈は?マークを浮かべて首を横に傾けた。
「カラクリっていうのは昔からある木とか歯車とかで動く人形…かな?デュラハンはアイルランドの妖精の事で、日本にいたなんて話は…いや、いたのかな?」
「…私が設計図を博士に渡す以前からディサイド・デュラハンに近いものがあった事になるね。」
「いや、どうだろう?そもそもこのカラクリ武者は頭が外れてるだけでデュラハンじゃないんじゃ?ないかな?」
道人は周りを見てカラクリ武者の頭らしきものがないか探していたら見覚えのある石が落ちていた。
「…あれ?これって…?」
「…どうしたの?」
潤奈が聞いてきたので道人は石を掴んで見せた。
「間違いない、これはデュラハン・ハートだ…!」
「…私が前見た時にはなかったけど…。」
その時、突然後ろから水晶が割れる音が聞こえた。道人たちは驚き、すぐに後ろを見る。洞窟の出口付近の壁に穴が開き、何かがゆっくりと起き上がった。
「ウガァーッ!キョウモ、オレ、イセキノカンシ!コレデ、ゴケンメ!イジョウ…アリ!サンニン、ナンカイル!」
「あいつは…!?何でここに!?」
道人たちの前に現れたのは深也を行方不明にした謎のカブトムシ巨人だった。
カブトムシ巨人の左右に首無し兵士が他にニ体いた。ニ体とも同じデザインでもしかしたら量産型なのかもしれない。
道人は潤奈の前で右手を横に伸ばし、庇う形をとった。フォンフェルは道人と潤奈の前に立ち、構える。
「お前、何でここにいるんだ!?何しに来たんだ!?」
「オレ、シチゴウセンノヒトリ!ラクベス!キョウモ、マジメニ、イセキノカンシ!オマエラモ、ナンデ、ココニイルーッ!!」
ラクベスは前に飛び、力強く突進してきた。
「潤奈、道人、危ない!」
フォンフェルは道人と潤奈を両手で抱えて高くジャンプした。ラクベスはそのまま突進し、壁に激突する。水晶の破片が周りに飛び散った。フォンフェルは着地し、二人を下ろす。
「…逃げた方がいいね。フォンフェル、ワープ…。」
「ナゼヨケタ!?オレニアタレェーッ!!」
またラクベスが突進してきたのでフォンフェルは再び二人を抱えて飛び跳ねた。着地するが、出口付近で待ち構えている首無し兵士二人が槍でフォンフェルに攻撃を仕掛けてきた。フォンフェルは後ろへ高くジャンプする。
「くっ…!?主、これではワープヘッドを使う暇はありません!それどころか、退路まで塞がれている…!」
フォンフェルは周りを見て少し高い所に狭いがかろうじて座れる場所を見つけ、二人をそこに座らせた。
「主、私が何とか戦ってみます!貴女はここでサポートを!」
道人と潤奈がいる壁にラクベスが近寄らないようにすぐにフォンフェルはその場を離れた。
「…無茶しないで、フォンフェル。」
潤奈はデバイスを右手に持ってフォンフェルのサポートの準備をした。
「戦うって言っても…。三対一でフォンフェルはまだ本調子じゃないのに…!」
「あぁ、しかも、ラクベスが壁にぶつかって道人たちのいる足場が崩れたら敵の格好の的になってしまう!フォンフェルは道人たちのいるここに近寄らないように戦わないといけなくなる…!」
「…ワープヘッドを何とか使って逃げるんなら、できるヘッドチェンジはニ回だけ…。でも、フォンフェルがニ回のヘッドチェンジで調子を崩したらどの道使えない…。」
道人とジークヴァル、潤奈は今自分たちが置かれている状況を何とか口にして判断した。道人はスマホとデバイスを取り出して司令たちに連絡をしようとしたが、ここは圏外だった。
「圏外…!ジークヴァルの身体を持ってきてもらうのも難しいか…!」
「…フォンフェル、行くよ!ヘッドチェンジ、シャドー!」
『あなたは例えどんな状況になろうとも耐え忍ぶ覚悟はありますか?』
「…うん!」
『承忍。』
フォンフェルに新たな胸パーツがつき、忍者の被り物のような頭がついた。紫のマフラーが首に巻かれ、左右非対称の肩パーツが装着される。新たに出現したでかい手裏剣を左手に持った。
「安心して下さい、我が主!私はあなたと道人を必ず守ってみせる!」




