113章Side:ジークヴァル 第二次D会合
ジークヴァルは四人で手を繋ぎ、円となって眠っている道人たちを見ながら周りを何度もぐるぐる回っていた。もう眠ってから二十分は経つ。ヤジリウスは水晶の岩に座り、自分の刀を何度も見ている。フォンフェルは腕を組んで潤奈を心配そうに見ていた。
「…なぁ、ジークヴァル。」
ヤジリウスが沈黙を破り、話し掛けてきた。ジークヴァルは立ち止まり、ヤジリウスがいる方を見た。
「何だ、ヤジリウス?」
「暇だ。」
「…遂に言ってしまったか、その言葉を…。」
ジークヴァルは両肩をがくっと下に下ろした。
「だって、そうじゃんよ。おい、フォンフェル。お前だって暇だろう?」
ジークヴァルとヤジリウスはフォンフェルがいる方を向いた。
「確かに暇ですが、私には潤奈を守るという使命があります。そのためなら、私は耐えられる…。それに先程、五人共、謎の悲鳴を上げました。油断は禁物です…。」
「うむ、素晴らしい心掛けだ、フォンフェル。私も見習おう。」
「ったく、真面目な奴らだ…。」
その会話の後、また沈黙が続く。
「…なぁ、ジークヴァル。」
「今度は何だ、ヤジリウス?」
「せめて会話相手になってくれ。暇で敵わん。」
ジークヴァルはやれやれ、といった感じでヤジリウスの話相手を務める事にした。
「暇なのは良い事だろう?今回は結界がうまく作用しているという事だ。昨日の今日でこの対応力…。あの狸、なかなか優秀なようだ。」
「買い被り過ぎじゃねぇか?単に今日は敵が誰も攻めて来てないってだけかもしれないだろう?」
「まぁ、そうだな。それもあるか…。」
「ジークヴァル、見て下さい。潤奈たちの表情を…。」
フォンフェルが話し掛けてきたのでジークヴァルは幸せそうに眠っている道人たちを見た。
「あぁ、さっきから道人たちは嬉しそうに眠っている…。狸に楽しい事を教える、という試練はうまくいっているようだな…。急に悲鳴を上げ出した時はどうなる事かと思ったが…。」
「一体どんな試練を受けているのかはわかりませんが、私とトワマリーの試練よりはつらくはなさそうで良かったです…。」
「…ふふっ…!その調子だよぉっ、道人ぉっ…!」
「わぁっ!?じゅ、潤奈!?」
潤奈が寝惚けながら隣の道人に抱きついたのでフォンフェルは焦り出した。
「な、何てはしたない…!?確かに道人はあなたを任せてもいいと思える頼もしい人ではありますが…!あの夜の時もそう思いましたが、そこまでの関係に至るにはまだ早い…!」
「いや、お前潤奈のかーちゃんかよ。」
ヤジリウスの突っ込みなど耳に入らず、フォンフェルは慌てて潤奈を道人から離し、座り直させた。引っ張られた大神も起こして、円を調整した。四人共手は握ったままでフォンフェルはほっとする。
「うちの道人をそこまで評価してくれるとは…!胸の顔が熱くなるな…!」
「いや、お前まで道人の親ポジションなのかよ。」
ヤジリウスは付き合い切れんといった感じで自分の右手を飛行機に見立てて軽く振り回した。
「…大丈夫だ、潤奈ぁっ!奴は俺の華麗なるドライビングテクニックには敵わぁん…!」
「ジークヴァル、道人が何やら意味不明な寝言を…。」
ジークヴァルは道人に近寄り、しゃがんで眺める。
「…どうやら、何かと戦っているようだな…。近くで見つけた車に乗り、潤奈と共に車で逃走中と見た。」
「な、何ですって…?では、先程潤奈が道人に抱きついたのは…。」
「自分を守ってくれている道人に感銘を受け、ついスキンシップに走ってしまったのだろう…。想像に難しくない…。」
「何と…。道人、あなたに感謝と幸運を…。」
「お前ら、真面目なのかふざけてんのか、わかんねぇな…。」
ヤジリウスは構わないつもりだったが、つい突っ込んでしまった。道人たちは静かになったのでジークヴァルとフォンフェルは警護に戻った。
「ジークヴァルにフォンフェル。お題を与える。お前ら、ここに来たのは二度目なんだろう?暇だ、一度目の時の話を聞かせてくれ。」
寝転がるヤジリウスが暇過ぎて話題をリクエストしてきた。
「初めて十糸の森に来た時の話か…。あの時はラクベスが兵を二人引き連れて、急にやって来たから大変だったな…。」
「えぇ。私一人で戦う事になり、その私も発作を起こしてしまって窮地に陥ってしまったのです。」
「おぉっ、それでそれで?」
ヤジリウスは起き上がり、話に食いついて来た。
「あの時はワープ装置もなかったからな…。私は戦う事ができず、道人と潤奈のピンチに何もする事が出来なかった…。その時だ、飾られていた糸が反応し、我が友ハーライムが実体化して道人と潤奈を救ってくれたのだ。」
「発作が治まった私とハーライムで共闘し、見事ラクベスを撃退したのです。」
「げっ、緑野郎の誕生秘話だったのかよ…。まぁ、いいか。暇つぶしにはなった。」
ヤジリウスは再び寝転がる。
「前々から気になっていたが、ヤジリウスは何故ハーライムをそこまで嫌っているのだ?」
「まだ一度も彼の名前をちゃんと呼んだ事はないですよね?」
ジークヴァルとフォンフェルはヤジリウスを見つめて返答を待つ。
「あーっ…。何と言うか、別にあいつ個人が嫌いな訳じゃない。というか、実体化したデュエル・デュラハンを見たら何故だか身体が反応してイライラするってだけだ。」
「つまり、あなたは他のオルカダイバーやアヤメ、キャロルナらを見てもイライラしてしまうという事ですか?」
「まぁ、そんなとこだ。」
恐らくヤジリウスを構成している十一本目の糸がそうさせているのかもしれない、とジークヴァルは思った。正規の糸ではない劣等感が彼を苛立たせている可能性がある。ジークヴァルはこの話題を続けても本人が不快そうなので話を変える事にした。
「ヤジリウス、博士が作った制御装置のプロトタイプの使い心地はどうだった?昨日使っただろう?」
「あぁ、悪くなかったぜ。プロトタイプであれなら完成型は更に良い心地を味わえるんだろうな。楽しみだぜ。」
ヤジリウスは寝転がりながら左手で鞘に入った自分の愛刀を持って見た。
「つまり、近々ヤジリウスに頭がつく時が来るという事か…。」
「あぁ、そういう事だ。俺に頭がついたら是非やってみたい事がある。」
「何だ、それは?」
「気になりますね。」
ジークヴァルとフォンフェルはヤジリウスに注目する。
「両手を後頭部に当てて、広い場所で寝転がる事だ。」
ジークヴァルとフォンフェルはこけそうになったが、何とか踏み留まった。
「そ、それでいいのか?」
「あぁ、道人が自室でベッドに寝転がっているのを見て密かに憧れていたんだ。俺も是非やってみたい。」
「まぁ、言われてみれば私たちディサイド・デュラハンは頭をつけられても三分しか持続しないからな…。憧れる気持ちはわからんでもない。」
「俺はヘッドチェンジができない代わりに実体化に時間制限がないからな。」
「なるほど。役得、というやつか。」
「そう、役得だ。」
ジークヴァルとヤジリウスは互いに少し笑い合った。
「私も前世で人間の姿だった時はよくやりましたね…。頭に両手をつけて、草の上で寝転がって…。それで子供たちと遊ぶトワマリーを見ていたな…。うとうとしていたら、子供たちが悪戯をしてくるものですから、困ったものです…。」
「そうか、前世で…。」
自分も人間だった頃はそうやって寝転がっていたのだろうか?ジークヴァルはそんな事を思いながら、唯一思い出している自分の関係者リムルトの事を思い浮かべてた。
「ヤジリウス、他にもやりたい事というのはあるのか?」
「あぁ、たくさんあるぜ。どうせ暇なんだ、語り尽くそうぜ。」
「ふふっ、逆に私たちデュラハンでないとできない事も見つけるのも面白いかもしれませんね。」
こうして三人のデュラハンは共に語り合いながら道人たちの警護を続ける。最近仲間になったばかりのヤジリウスと前世の記憶を取り戻したフォンフェル。楽しく話し合ったら、二人との距離が縮まった気がしてジークヴァルは嬉しかった。




