113章 茶化されジェットコースター
「ー次はジェットコースター、あれに乗ってみたいな。そろそろ絶叫マシーンの面白さを知ってみたい。」
「皆の衆、ついに狸君は絶叫マシンをご所望よ。準備はいい?」
「…絶叫…。さっきのウォータースライダーより凄いの…?制服着た方がいいかな…?」
「いや、制服バリアじゃどうしようもないと思うよ…。」
潤奈はジェットコースターは初めて乗るからか、今から不安げだった。道人は潤奈の両手を持ち上げて握った。
「大丈夫!俺が横についてるから!だから、怖くなんてないよ!」
「…道人…。」
道人と潤奈な周りがキラキラし、色んな色の花に囲まれた。
「おぉっ…!?俺には道人と潤奈ちゃんが輝いて見える…。これが愛の証なんか…。」
「非常に美しい光景さぁっ…。」
「ー空気を読んで二人の愛を形にして演出してみたよ。どうかな?」
「いや、茶化すなよっ!?誰だっ!?狸君に変な事を教えた奴はっ!?愛歌じゃあるまいし!」
一同は笑いながらもジェットコースター乗り場へと向かった。
「ーなるほど、最初はゆっくり進んで落下した後はその勢いで最後まで駆け抜けていく、って感じなんだね。よし!じゃあ、乗ろうか!」
「あっ、待った!狸君、身長制限が…。」
狸は身長90cmの小さな子供の姿なので大神は気にした。
「ー何?ジェットコースターって身長制限があるの?」
「うん、遊園地エリアは確か、大体102cmくらいだったと思うけど…。まぁ、ここ現実世界じゃないから気にしなくてもいいのだけど…。」
「ーううん、ここは人間世界に合わせて楽しみたいな。ていっ!」
狸の身体から煙が出ると急に身長が110cmに伸びた。
「ー急・成・長!どう?」
潤奈と大神は驚くと同時に狸に拍手を送った。
「狸君、立派になって…。」
大神は下を向いて両目から出た涙を拭う。
「いや、術で大きくなっただけですよ?」
「いいの、いいの!さぁ、張り切って行きましょぉ〜っ!」
大神は狸と手を繋いで階段を上がった。
「大神さん、本当に狸の事を気に入ったようじゃの…。」
「…うん、このメンバーの中で一番楽しんでるね。」
「俺たち、虎城さんとはデパートで一緒に買い物したり、コンテストに出たりしたけどさ…。考えてみたら大神さんとはあまり遊んだ事はなかったな…。」
道人は戦島の戦いの後、水縹星海岸に行った際に愛歌と一緒に今回は海水浴をしている暇はない、という事を残念がっていた大神の姿を思い出した。
「…そうだね。パーティに参加した日もウェントとアレウリアスが攻めてきて、大神さんが対応してたもんね…。」
「そう考えると日頃からオペレーターとして苦労掛けてるし、今回は大神さんが付き添いで良かったのかもな…。」
道人の言葉に潤奈と大樹、カサエルは頷いた。
「道人君たちぃ〜?何してるの?早くいらっしゃい。」
「あ、はい!今、行きます!」
道人たちは急いで階段を上がり、ジェットコースター乗り場に辿り着いた。一番前の席に大神と狸、次に大樹とカサエル、道人と潤奈という順で座った。ジェットコースターはゆっくりと動き出し、坂を上がっていく。
「…わわっ、み、道人…。わ、私…。」
道人は右に座っている潤奈の手を握って頷いた。潤奈も涙目になりながらも頷き返し、目を瞑って残った手で安全バーを強く握る。
「…って!強がってたけど、俺もまだジェットコースターは二度目だったあぁぁぁぁぁーっ!?」
「…きゃあぁぁぁぁぁーっ!?」
ジェットコースターの最初の下りの急落下で道人と潤奈は絶叫した。
「きゃあぁぁぁぁぁーっ!?」
「ーわぁ〜っ…!なるほど、すごいすごい!こんな速いんだねぇ〜っ…!」
「お分かり頂けたようじゃあぁぁぁぁぁーっ!?」
「あっしも初めて乗ったけど、これは物凄いさぁーっ!」
騒いでる内にジェットコースターは一周し、発車場所に戻ってきた。道人と潤奈はよろけて立ち上がる。
「だ、大丈夫、潤奈?ほら…。」
「…う、うん…。あっ…!」
「危っ…!?」
道人は繋いだままだった潤奈の左手を引っ張ったが、バランスを崩してしまった。何とか道人は潤奈を庇う形で乗り場の地面に背中をぶつけ、一緒に倒れる事ができた。
「あ、危なかったぁ〜っ…。係員さんがいないから補助がないからなぁーっ…。油断した…。 …ん?」
道人は気がついたら潤奈を両手で抱きしめながら倒れていた。安心したら潤奈の息遣いや良い香りや胸の膨らみが気になって即座に起き上がり、潤奈から身体を離す。潤奈の両肩に手を乗せたまま、二人で頬を染めて見つめ合った。周りにピンクのオーラとラッパを吹く天使二人が宙を舞う。
「ーさっきと演出変えてみたよ?どうかな?」
「茶化し自体禁止ぃっ!」
道人は二本角を生やして狸に怒鳴った。潤奈は右手を口に当てて恥ずかしがっていた。ジェットコースター乗り場を出た後、次はゴーカートに乗った。
「…ふふっ、道人!早く早く!大樹とカサエルに追い越されちゃうよ!」
「大丈夫だ、潤奈!奴は俺の華麗なるドライビングテクニックには敵わん!」
「やってみなければわかるまいよ!」
「二人共、安心運転さぁ。」
道人&潤奈と大樹&カサエルがデッドヒートを繰り広げる中、大神と狸はゆっくりと走行していた。ゴーカートで遊び終わった後、次のアトラクションへと向かった。
「さぁ、狸君。次は何に乗りましょうか?」
「ー次は『記憶映像アトラクション』だよ。」
道人たちは狸の発言を聞き、疑問に思った。
「記憶映像アトラクション…?」
「そんな施設、デュラハン・パークにあったか…?」
「ー僕オリジナルのアトラクションだよ。大樹、カサエル、君たちの試練の終わりの時は近づいている…。そろそろ成長を見せる時だよ。」
「狸君…?」
狸は明らかに今までと雰囲気が変わった。道人たちは息を呑んだ。狸は一人で先に進んだ。
「大樹、カサエル、大丈夫?まさか遊びに夢中で試練の事を忘れてた、なんて言わないよね?」
「安心せい、道人。俺は楽しみながら思考するのが大好きなんじゃ。何度もデュエル・デュラハンで戦ってきたお前さんならわかるじゃろう?」
「ははっ、そうだったね…!」
「後少し時間が欲しい…。次のあ奴が用意したっていうアトラクションで絶対に答えを見つけてみせるわい…!行くぞい、カサエル!」
「やったるさぁっ!」
張り切って歩く大樹とカサエル。二人の背中に頼もしさを感じ、道人と潤奈は互いに笑んだ後、共に歩いた。道人たちがたどり着いた場所は見た事のないドームだった。
「ーさぁ、いよいよクライマックスだよ?君たちはこの記憶映像アトラクションで何を得られるかな?」
狸がそう言うと扉の手摺りを両手で掴み、ゆっくりと開く。光が溢れ、道人たちはその光に包まれた。




