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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第2部 DULLAHAN WAR
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108章 変な狸

 道人の今日の朝は早い。昨日はほぼ放心状態で風呂と晩御飯を食べた後、気を失うように寝てしまったからだ。


「おかげで…何だか。久々に…ぐっすり眠れたけどさ…。」


 道人は洗面台で洗顔している最中だった。両頬に触れると愛歌と潤奈を思い出して頬を染めた。首を横に振りまくり、両手に持った水を顔に当てて水を飛び散らせた。洗顔を済ませ、秋子におはようを言って朝食作りを手伝った。メニューはたらこスパゲッティとベーコン、目玉焼きだ。


「あ、そうだ。母さんにもお土産買ってきてたんだ。後で渡すよ。」

「ん〜、母さん、未だににわかには信じられないのよねぇーっ…。フランスから日本を日帰りなんて…。」

「それがしたんですよ、母上殿。」

「博士脅威のテクノロジーだよ。」


 道人はデバイスに映るジークヴァルと秋子との日常会話を交わしながら朝食を済ませた。母と一緒に食器を洗っているとインターホンが鳴った。


「あ、俺出るよ。」


 道人は手を拭いた後、玄関まで小走りする。扉の覗き窓を見ると潤奈とフォンフェルが立っていた。潤奈の右肩にはヴィーヴィルデバイスが止まっている。すぐに鍵と扉を開けて潤奈とフォンフェルを見た。


「お、おはよう、潤奈。」

「…おはよう、道人。あのね…!」

「な、何かあったの?ま、まぁ、家にあがりなよ。」


 道人は潤奈とフォンフェルを家に入れて、椅子に座って話を聞いた。友也さんが行方不明になり、愛歌が先にパークに向かった事や、今日は大樹と潤奈と一緒にこれから十糸(といと)の森に向かう話、大神が迎えに来てくれる話を聞いた。


「そう、友也さんが…。大変…。後で私も城之園さんの家に行かないと…。」

「…はい、信子さんは今は落ち着きましたけど、私がいない間は秋子さんがいて下さると助かります。」


 秋子は潤奈から話を聞き終わるとすぐに出かける準備をし始めた。


「じゃあ、大神さんが迎えに来るまで俺らは家で待ってるんだね。潤奈、朝から大変だっただろう?大神さんが来るまでゆっくりしときなよ。」

「…うん、ありがとう、道人…。」


 秋子は出かける準備を済ませ、となりの城之園家に向かった。潤奈は昨日、愛歌の家に泊まってからのこの騒動だ。試練で怖い目に遭ったばかりだし、道人は気を遣って潤奈に話しかける事にした。


「潤奈、愛歌の部屋どうだった?よく眠れた?」

「…う、うん。お互い今日は怖い目に遭ったから、楽しい会話をしてから寝ようって話になって…。それで…。」

「それで?」

「…え、と…。」


 潤奈が頬を染めて下を向いた。何となく察して道人も目線を逸らして頬を紅潮させた。


「だ、大丈夫!言わなくてもいいからさ!愛歌の奴、からかいそうだもんな!そういう奴よ、あ奴は!」

「…う、うん!でもね、愛歌なりに私を励まそう、って気持ちの方が強かった訳で…!その気持ちが、その嬉しかった訳で…!別にキ…。」


 そう言い掛けて潤奈は静まった。道人も潤奈の唇をつい見てしまい、再び目線を逸らす。


「いやぁっ、青春してますねぇっ…。」

「…フォ、フォンフェル!?」


 静かだったフォンフェルが急に会話に入って来たので道人と潤奈は驚いてフォンフェルを見た。


「失礼、我が妹にはこういう青春を経験させてあげられなかったもので…。つい、染み染みと…。」


 前世の記憶を思い出したからか、フォンフェルの態度が以前より柔らかくなった気がする。


「い、今からでも遅くないんじゃない?トワマリーもさ、これからはフォンフェルと一緒に過ごせる訳だし…。」

「…そ、そうだよ。またこれから姉妹で過ごす時間を増やしていこう。」

「あぁ、二人には前世で辛い目に遭った分、幸せになって欲しいからな…。」

「お三方…。ありがとう…。だが、トワマリーだけではない。私は自分のこの能力を皆を喜ばせるために使う…。そう昨日、約束しましたからね。」


 フォンフェルは優しい声色で潤奈に話しかけた。


「…うん。だから、芽依ちゃんも友也さんもみんなで絶対に助け出そう!がんばろうね、フォンフェル!」

「はい、潤奈…。」


 潤奈とフォンフェルを見て道人が笑みを浮かべるとインターホンが鳴った。どうやら大神と大樹が来たようだ。道人はリュックを持ち、潤奈とフォンフェルと共に立ち上がって玄関まで歩く。鍵を開けて扉を開けた。


「おはよう、道人君たち。」「おっす、道人!潤奈ちゃん!フォンフェル!」


 開口一番、大神と大樹が元気に挨拶してきた。


「おはようございます。」「…おはようございます。」


 道人と潤奈も礼儀正しく挨拶を返す。


「ごめんね、遅くなっちゃって。それじゃあ、向かおうか。」


 道人は戸締りを済ませ、大神の車に乗った。ジークヴァルとカサエルのボディを乗せた特別車だ。潤奈は助手席に座り、道人と大樹は後部座席に乗って発車した。


「大神さん、友也さんに関して何かあれからわかった事はありますか?」


 道人は気になった事をすぐに大神に聞いた。助手席の潤奈も大神を真剣に見る。


「それが全然なのよ…。」

「そうですか…。」

「一体何を企んでおるんじゃろうな、バドスン・アータスの奴らは!」

「…早く助け出さないとね。」

「うん…!」


 道人たちは真剣な面持ちで、通り過ぎていく道路をただ静かに眺めた。しばらく無言でいると十糸(といと)の森にあっという間に着いた。大神が駐車場に車を置いた後、ジークヴァルとカサエルをボディにインストールし、坂の階段を皆で上がる。


「懐かしいなぁ〜っ、十糸(といと)の森。何時振りだろう?」

「大神さん、ここに来た事あるんですか?」

「えぇ。昔ね、肝試し大会があってね。妹と一緒に来たんだ。」


 道人たちは大神の口から妹の話が出てきて驚いた。


「大神さん、妹おったんか?それは知らんかったのぉ。」

「きっとお姉さんに似て良い子さんさぁ。」

「えぇっ?ふふっ、それはどうかわからないけど…。妹は御頭(おがしら)中学に通っててね、道人君たちと同い年なんだ。クラスは違うんだけどね。もし、会う事があったらよろしくね。」

「はい、わかりました。…って、言っても俺たち、デュラハン・パークの特別生だから当分会えないかな…。」

「あ、そっか。それは残念。」

「まぁ、機会があれば会えるじゃろう。」


 大神と妹の話で会話が弾み、あっという間に階段を登り切った。


「…こっちの道から行くとすぐにあの遺跡まで行けるよ。」

「さすが潤奈。もう潤奈にとっては庭みたいなもんだね。」

「…ふふっ、愛歌と同じ事言ってるよ、道人。」


 潤奈が教えてくれた近道を歩きながら、皆で会話をしながら歩く。潤奈の宇宙船まであっという間に辿り着いた。


「はえぇ〜っ、これが潤奈ちゃんの宇宙船なんかぁ〜っ…!」

「大きいさぁ。」

「私も実物を見たのは初めてだわ…。」


 大樹は右手を額に当てて宇宙船を見た。大神もスマホで写真を撮った。


「そっか、大樹と大神さんは初めて来たんだったね。」

「おう!今日は無理じゃけど、是非中も見てみたいのぉ〜っ…!きっと近未来的なんじゃろうなぁ〜っ…!」

「…ふふっ、別にそんな特別でもないよ?」

「おっと、いけない、いけない…。みんな、先を急ぎましょう。」


 潤奈の宇宙船を後にし、しばらく歩くと洞窟の前に来た。


「…ふふっ、道人たちを連れていきたい場所その2。」

「あ、懐かしい!潤奈と再会した時のやり取り!」

「…うん、本当に懐かしいね…。あれから大分経った気がするなぁっ…。」


 潤奈は洞窟を懐かしそうに眺めている。


「あの時は私はボディがなくて大変だったな…。ワープ装置もなかったしな…。だが、今回はこうして道人たちと共に行動できている。今回は何かあっても守る事ができるな。」

「ふふっ、ではあの時と同じように私が先を歩きましょう。」

 

 フォンフェルが潤奈の横に出現し、先を歩き出す。大神がライトを照らし、皆で螺旋階段を降り、洞窟を抜けると青い水晶でできた巨大空洞に辿り着く。


「ここが俺とカサエルの試練の場所…。」

「綺麗な場所さぁっ…。」


 道人は久々に来たが、巨大空洞にあまり変わりはなかった。十糸(といと)の糸が飾られていた場所もそのままあり、ラクベスが破壊した壁もそのままだ。カラクリデュラハンも前に博士が潤奈の宇宙船を調べに来た時に回収済みだ。


「…特に変化はないけど…。」

「うん、ないね…。」

「ビーストヘッドさん、おるんじゃろう?大樹とカサエルが試練を受けに来たぞい!」


 大樹が叫んだが、空洞に変化はなかった。


「…本当にここなんか?」


 潤奈の右肩に乗っているヴィーヴィルデバイスが大樹を見て羽を何度も動かした。


「…合ってるみたいだよ。」

「しかしのぉっ…。ん…?」


 道人たちの前に突然小さい(たぬき)が通る。


「えっ?狸…?初めて見た…。」

「俺もじゃ…。」「…私も。」「同じく…。」「私も初めて見たぞ、道人。」「私もです。」「あっしもさぁ。」


 狸は道人たちの前に座ってぼーっ、と見つめる。


「一なぁに?」

「「「「「狸が喋った!?」」」」」

「…喋れるんだね。」「世界は広いさぁ。」


 狸はきょろきょろしながら道人たちを見る。


「…いや、待つんだ、みんな。私たちは今まで喋る竜や鳥を見てきた。そう驚く事もあるまい。」

「いや、ジークヴァルも一緒に驚いてたよねっ!?」


 道人の突っ込みがジークヴァルに決まる。


「一あ、そっかぁ。ミオンから連絡があったなぁ〜っ。君たちが試練を受けに来た子たちなの?」

「じゃ、じゃあ、お前さんが…。」

「一うん、僕がビーストヘッドだよ。よろしくね。あ、待ってて。机を用意するよ。」


 道人たちはしばらく硬直し、走り去る狸を眺めた。

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