107章 素材構成展界「モチーフ・ワールド」
道人たちは空いた席に座り、この世界の真実を話そうとするリベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルに視線を集めていた。
「…まず、単刀直入に言って後から付け足す形で説明しましょう。あなた方が普段暮らしている世界は『素材構成展界 モチーフ・ワールド』の内の一つなのです。」
リベルテ=イーグルの開口一番、道人たちはそれを聞いて固まった。
「素材、構成…?」
「モチーフ…?何?」
道人と愛歌は互いに顔を見合って自分たちの口で今聞いた言葉を反芻して何とか理解しようとした。が、難しかった。
「み、皆さん、大丈夫ですか?やはり、まだ聞かない方が…。」
O/R=ヴィーヴィルが皆の戸惑いの反応を見て心配した。
「い、いや、大事な事だ!な…なぁ、みんな?続けていいだろう?」
司令も動揺している。だが、いずれは知らないといけない事だ。道人たちは覚悟を決めて頷いた。
「…続けます。始まりの世界は一つの『卵』でした。その卵に何らかの問題が発生し、モチーフ・ワールドは誕生したのです。」
「その問題とは…?」
司令が息を呑んで二匹のビーストヘッドに尋ねた。
「…いえ、我らもあまり詳しくはありません。我ら、ビーストヘッドはディサイド・デュラハンがこの世界に存在を確立してしばらくしたら誕生する存在で、誕生する際にガイアフレーム様に知恵を授けられるのです。」
「なので、最近存在が確立されたランドレイク様やルレンデス様にもそろそろビーストヘッドが出来上がるかもしれません。その際は我ら既存のビーストヘッドにも情報が与えられるはずなのでしばらくお待ち下さい、深也殿、グルーナ殿。」
「俺たちの…。」
「ビーストヘッド…。」
深也とグルーナは画面越しに視線を合わせた。
「申し訳ない、話が逸れましたね。卵に起きた問題に関してはガイアフレーム様も知識を与えてはくれませんでした。『それはもう済んだ出来事。君たちには関わりのない事だから』、と…。」
「そう、大事なのはここからです。その卵の中には色んな可能性が詰まれていました…。」
「可能性、とは…?」
司令が再び二匹のビーストヘッドに聞く。
「卵の中にはもう必要ないとされたもの、壊れてしまったもの…。まだ見切るには早く、可能性が秘められていた物が集っていました…。が、それに問題が発生し、それぞれが世界を得てしまった。」
「その中にあった一つが『デュラハンの人形』…。その人形を『モチーフ』、『素材』とし、銀河を『構成』。そして、出来上がった空間を『展界』してできたのが地球のデュラハンが存在するこの『世界』なのです。」
道人たちはリベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルの突拍子のない話に呆然とする。映像越しで作業をしていた博士の手も止まっていた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!?何?あたしたちは要するに作り物の世界の住民で…人間じゃない、なんて…言うつもりなのっ!?」
愛歌が真っ先にリベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルに問いを投げた。こんな時に愛歌の物怖じしない姿勢は本当に頼りになる。
「いえ、そんな事はありません。あなた方は間違いなくこの世界に命を持って誕生したれっきとした人間です。作り物などではありません。そこは安心して下さい。」
リベルテ=イーグルのその発言を聞いて道人たちは完全に動揺を無くせた訳ではないが、少し安心した。
「君たちはこの世界が可能性の一つから誕生したと言ったね?じゃあ、他にも世界が存在するって言うの?」
愛歌の姿勢に勇気を与えられた道人も二匹のビーストヘッドに質問を積極的にする事にした。
「はい、他には『カード』『簪』『刀』などが素材になった世界もありますが…。特殊な状況でもない限り、あなた方が関わる事はないでしょう。」
「じゃあ、卵の外…。外にはどんな世界が存在するの?」
道人は思い付いた事をこれでもか、と二匹のビーストヘッドに問い詰める。
「外にはオリジナルの地球、世界が存在します。ですが、容易には外に出る事はできません。」
「オリジナルの地球…?ひょっとして、そこはジークヴァルたち、多元分岐・転生英雄の元となった存在がいる世界なの?」
「…驚いた。道人殿、あなたの質問はさっきから的確過ぎる…。その通りだ。」
司令や愛歌たちも道人の読みの鋭さに驚いている。
「お、おい、道人!確かにすげぇが、ちょっと飛ばし過ぎだ!おかげで話についていけねぇっ…!」
深也が皆を代表して思わず道人に突っ込みを入れた。
「大丈夫!今の会話はちゃんと録音中だし、後でちゃんと私がわかりやすく話をまとめて、データを配るわ!安心して!」
「さすがね、大神!頼りになる!私はこんなスケールのでかい話を聞けて鳥肌もんさぁっ…!」
グルーナは両手で自分を抱きしめて両足を浮かせて椅子に座っている。
「おかげで創作意欲が止まらないぃ〜っ…!いいぞ、道とん!もっと聞けぃっ!」
グルーナは道人に向かって右目でウインクし、サムズアップした。グルーナの平常運転な明るい振る舞いを見てみんな笑みを浮かべた。
「話を続けましょう。道人殿の言う通り、卵の外の世界にはジークヴァル様たちの元となった存在がいます。ですが、あくまで元であり、ジークヴァル様たちはもはや一つの別存在として確立しています。他にもこの世界とは差異はありますが、気にする事はありません。」
「イーグルの言う通りです。ここがオリジナルの世界を参考にした世界とはいえ、間違いなく確立した、掛け替えのない一つの立派な世界。比較など無意味です。」
リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは道人たちは決して偽物でも作り物でもない事を念押ししてくれた。
「…そっか。じゃあ、この世界に昔からデュラハンやドラゴンが存在するのも、この世界を作る際に初めからそう構成されてたから…って事…?」
「はい、その通りです、潤奈殿。」
潤奈の今の発言のおかげで平安時代や江戸時代の頃にデュラハンやドラゴンが存在する理由がわかった。
「以上がこの世界の真実です。何故ガイアヘッド様が絶望し、ガイアフレーム様と敵対したのかはわかりません。ただ…。」
「ただ…?」
道人は言葉を詰まらせたリベルテ=イーグルの様子が気になった。
「ガイアフレーム様から頂いた知識によると、ガイアヘッド様と分かれる前にヴァエンペラと交戦した事があるそうなのです。もしかしたら、それが原因で…。」
「ヴァ、ヴァエンペラ!?」
ここでバドスン・アータスの頭領ヴァエンペラの名前が出てくるとは思わなかったので道人たちは驚いた。
「ちょっと待ってよ!地球のデュラハンとヴァエンペラが戦った事があるって…!?」
「ヴァエンペラも地球並みにでっかいって事かぁっ!?」
愛歌と大樹が顔を合わせて、互いに指を差して驚いた。
「そうなりますね…。」
「…よし、とにかく、わかった。この世界の秘密、確かに聞かせてもらった。名無しのドラゴン君が事前に聞いたら、自分たちの存在に自信を持てなくなる話だ、と警戒心を我らに与えてくれたし、君たちが我々が作り物ではない立派な命と言ってくれたおかげで何とか…多少はだが、取り乱さずに済んだよ…。ありがとう。」
司令は二匹のビーストヘッドにお辞儀をした。
「いえ、あなた方は今まで色んな激戦を乗り越えてきた。その分、異常な事態にも何度も遭遇したはずだ。それで耐性がついたのかもしれませんな。」
「心強い方々だ。あなたたちが我らの試練を乗り越えられて本当に良かった。そうだ、ミオン。すまないが、傀魔怪堕の事について他のビーストヘッドたちに伝えて欲しい事がある。」
「はい、何でしょうか?」
O/R=ヴィーヴィルは傀魔怪堕が試練中に邪魔してくるかもしれないから気をつけろ、と伝書魚で伝えてるようにお願いした。
「皆さん、これからも協力は惜しみません。何か気になる事があればいつでも呼んで下さい。」
「それでは、また!」
そういうとリベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは光の玉になり、それぞれのビーストデバイスに戻った。愛歌と潤奈もディサイドデバイスとビーストデバイスを分離させる。ビーストデバイスは宙に浮いて小型獣メカに戻った。
「さぁ、みんな。今日も色々あって疲れたろう?今聞いた世界の真実も頭に定着させないといけないし、今日はもう解散としよう。みんな、ご苦労だった!」
司令が道人たちに敬礼すると深也以外は敬礼し返した。海音もグルーナも手を振り、スクリーンが消えた。
「司令、俺はまだ残るぜ。芽依の事も、仁王の事もあるしな…。」
「そうか、わかった。構わないぞ、深也君。」
「じゃあ、深也。また明日…。」
「あんまり自分を責めるんじゃないぞ、深也。」
「わーってるよ。 …ありがとな。」
深也は背中を向けながら道人と大樹に礼を言った。道人と大樹はお互いに見合って笑みを浮かべた。
「後の報告書などは私がやっておきますから。道人君たちは明日のためにも充分休息を取って下さいね?」
「はい、ありがとうございます。流咲さんも傀魔怪堕には気をつけて下さい。奴ら、神出鬼没ですから。」
「はい。ありがとう、道人君。」
流咲は笑顔で手を振り、道人たちを見送った。今回はオペレーター組は皆忙しいので博士がタクシーを手配してくれた。道人たちは会社エリアの外まで歩いてきた。
「潤奈、お待たせしました。」
「…あっ、フォンフェル!」
潤奈の隣に急にフォンフェルが出現した。
「もうメンテは完了したのでお迎えにあがりました。」
「…うん。フォンフェル、あのね。あなたに伝えたい事があるの…。エトテワールの広場で素敵な事があったから…。トワマリーと一緒にあなたに伝えたい…。」
「お姉ちゃんガ、絶対に喜ぶ事なんだかラ!期待してテ!」
愛歌のポケットの中のデバイスからトワマリーの声が響いた。愛歌はポケットからデバイスを取り出してトワマリーを見る。
「そうですか…。それは楽しみだ…。期待していますよ、潤奈、トワマリー?」
「…うん!」「うン!」
潤奈は笑顔で頷いた。道人と大樹も愛歌のデバイスに映るトワマリーを見て微笑んでいた。タクシーを待つ間、道人と愛歌は親に今から帰ると連絡を入れた。案の定、本当にフランスに行ってきたのか、と驚かれた。しばらくするとタクシーが二台到着した。
「よし!明日は俺らがビーストヘッドの試練を受ける番じゃ!気合入れるぞ、カサエル!」
「合点さぁっ、大樹!」
「それじゃあ、また明日な!道人!愛歌ちゃん!潤奈ちゃん!フォンフェル!」
「うん、また明日!」
大樹の家は別方向なので先にタクシーに乗り、走り去っていった。道人たちもタクシーに乗り、道人の家を目指して走行する。支払いは既に博士がしていてくれていた。タクシーが走行中、愛歌と潤奈がこしょこしょ話をしていたのが気になった。時刻は十八時十五分。タクシーはあっという間に道人の自宅に到着した。
「まさかフランスから日帰りできるなんてな…。」
「ふふっ、そうね。さて、パパの事を何から話そうかな…!」
愛歌は友也の事を早く母に話したいからなのか、上機嫌だった。潤奈は何故か恥ずかしそうにしている。
「潤奈、フォンフェルに話するんでしょ?トワマリーも一緒に話するんなら、家に来なよ。何なら泊まってもいいし。」
「…そ、そうだね。ちょうど着替えもあるし…。そうしようかな…。」
「それじゃあ、二人共、また明日!」
道人が家に帰ろうとした瞬間、愛歌は道人の左手を、潤奈は道人の右手を掴んで引き止めた。
「えっ…?」
「…今日の道人、試練の最中に眠っている私たちを守ってくれたり…。」
「ん?」
「泣くの我慢してたあたしたちに気を遣ってくれて…。」
道人は左右から愛歌と潤奈から話かけられてどっちを向こうか困惑する。
「…深也を自ら進んで励ましに行った所も…。」
「あ、うん…。」
「真実を聞かされても動じずに果敢に質問しに行った所も…。」
「いや、あれは愛歌が物怖じ…。」
「かっこよかったよ!今日はありがと、道人!」「…頼もしかったよ!今日はありがとう、道人!」
「ふぇっ!?」
道人の左頬には愛歌が、右頬には潤奈がキスをしてきた。道人は地面に膝をつき、両手で頬に触れようとするが、両手が震えて放心状態になる。愛歌と潤奈は頬を染めて照れていた。
「へへっ♪道人選手にあたしたちのお礼がクリティカルヒットォッ!今日のあたしたちは色々あって、何だか情緒不安定!なので何をやらかすのかわからないのだっ!さ、行こ、潤奈!」
「…う、うん。道人、また明日…。」
愛歌は潤奈の手を握り、自分の家へと入って行った。
「み、道人!?どうしたっ!?道人、返事をしてくれ!」
ジークヴァルがデバイスの中から叫ぶが道人は魂が抜けた抜け殻のようだった。
「ここは俺に任せろ、ジークヴァル!よっと!」
「おぉっ!頼もしき男よ、ヤジリウス!」
実体化したヤジリウスは道人を右肩に担ぎ、道人の家のインターホンを鳴らした。
「は〜い、どなた…って、えぇっ!?本当にどなたよ、あなた!?」
こうして道人のフランスを横断した長き一日が終わった。




