105章 「またね、パパ!」
「…不覚…。まさか、あんなに泣きじゃくるとは…。」
「…うん…。」
道人の後ろを歩いている愛歌と潤奈は泣き止んで間もなく、まだ頬を赤らめている。今は二人が泣き止んだのでエトテワールの街中を歩いている。
「まぁ、いいじゃないか。すっきりしただろ、二人共。」
「まぁ、人気がなかったからいいけどさ…。別にあそこで泣かしに来なくたって…。」
「だって、あのままだと愛歌、船内で静かになったら泣き崩れそうじゃないか?」
「泣くね。」
「それで整備班の人たちにまで泣き姿を見られたら嫌じゃない?」
「嫌ね。」
「なら、いいじゃんか。あそこで泣いたって。」
「ぐぬぬっ…!おのれ、道人…。」
愛歌は下を向いてスカートの両端を掴んで悔しがっている。
「…何か、今日一日中泣いてる気がする…。」
「それは仕方ないよ、潤奈。悲惨な映像たくさん見せられたんだからさ。」
愛歌と潤奈の右肩にそれぞれ止まっているビーストデバイスは優しく二人の頬をすりすりしてきた。
「ふふっ、ありがと。ま、つらい思いをした分、得たものはたくさんあったし、良かったって事で!」
「…だね。」
愛歌と潤奈は微笑みながらビーストデバイスを撫でた。
「あっ、愛歌!道人君、潤奈ちゃん、どこ行ってたんだい?探したんだぞ?」
友也が道人たちの前まで走ってきた。
「ご、ごめん、パパ!近くの広場まで行ってて…。」
「迷子にでもなったんじゃないかと心配したぞ。」
道人たちは勝手に行動してごめんなさい、と頭を下げた。
「今、他の整備班の皆さんはそこのお土産専門店でお土産を選んでいる最中だ。愛歌たちも買うんだろう?」
「うん、買う買う!よぉ〜し、気を取り直してお土産選び、がんばりましょ〜っ!」
「おぉ〜っ!」「…おぉーっ!」
愛歌が左手を上に上げたのと同時に道人と潤奈も合わせて上に上げた。
「あ、でもお金は…?」
「大丈夫、デュラハン・ガードナーから事前にお金は預かっていてね。君たちの知り合い分のお土産代は充分にあるよ。」
「マジ?司令たち、太っ腹ぁっ!ねぇねぇ、潤奈!あっち行ってみよ、あっち!」
「…わわっ!?そんなに慌てなくてもいいんだよ、愛歌!」
愛歌は潤奈の右手を引っ張ってお土産専門店へと入って行った。二十四時間営業の無人のお土産専門店だった。道人と友也も共に笑みを浮かべた後、入っていく。店内は街中とはまた違ったオシャレさがあって、色んな商品がこれでもか、目移りしてしまう程、たくさん棚に置かれていた。道人はとりあえず深也と大樹の分のお土産を選ぶ事にした。
「二人が喜びそうなの…。うーん…。」
いざ、こういう場面になるとプレゼント選びという物は難しいもの。何かないものかと道人は横に移動しながら商品を隈なく見ていく。
「ジークヴァルもさ、ランドレイクやカサエル、ルレンデスに何か買ってあげる?」
道人はリュックのショルダーホルダーにデバイスを装着した。
「そうだな。せっかくだ、私もプレゼント選びとやらに挑戦してみよう。」
「でも、さすがにフランスはまだデュエル・デュラハンの認知度はそこまで高くないからか、グッズはあまりなさそうだな…。」
「皆がパワーアップできる新たなヘッドカードをプレゼントするというのは難しそうだな…。なら、無難にフランス産のオイルがいいか。」
「オ、オイルをお土産に買うの?まぁ、後で愛歌のお父さんに聞いてみるよ…。」
「道人、見て見て!ジャスティース、クロォーッ!」
愛歌がジャスティスクローのお面をつけてヒーローポーズを見せつけてきた。ジャスティスクローとは水縹星海岸の町内大会に参加していた事もあるマイナーなヒーローだ。
「子供かっ!」
「おう!あたしゃ、まだ子供だ!」
「まだ買ってない物で遊んぶんじゃありません! つか、マイナーかと思ったら意外とワールドワイドだな、ジャスティスクロー!」
「…道人、見て見て!グルーナさんのぬいぐるみがあったよ。これ、グルーナさんにあげようかな?」
潤奈が両手でグルーナのミニぬいぐるみを見せてきた。
「グルーナさん本人にグルーナさんのぬいぐるみをあげるの? …あ、でも、あの人なら喜びそうか…。」
道人の脳裏に自分のぬいぐるみを愛でるグルーナの姿が容易に想像できた。
「…私の分もいれて二つ!」
「潤奈の好きになさい。」
「…うん! …やっぱり、道人にあげる分も追加して三つ!」
「…お、俺にも? …ま、まぁ、いいか…。」
潤奈の満面の笑顔を見ると何だか照れ臭かったので商品棚に視線を戻した。
「何?ひょっとして、深也や大樹君へのお土産で悩んでらっしゃる?」
「うん、らっしゃる。意外と難しくてさ…。」
愛歌と潤奈も道人と一緒に商品棚を見た。
「こういうのは気持ちが大事だし、何あげても喜ぶと思うけどな、二人共。」
「まぁ、そうなんだけど…。それでも難しいよなぁっ…。」
「よし、あたしらも手伝ってあげよう!司令や博士、オペレーター組にも選ばないとだし!」
「…芽依ちゃんや稲穂ちゃん、海音さんやスランにも買ってあげたいね。」
「こうして考えると短い間に色んな人と知り合えたんだな、俺たち…。」
「あぁ、どの出会いもかけがえのない貴重なものだ…。お互い、良い仲間を持ったな、道人。」
「うん。そうだね、ジークヴァル…。」
道人とジークヴァルは感慨に耽ながら商品を見ていると目に止まる物があった。道人は手に取って見る。
「へぇ〜っ、九体入りかぁ〜っ…!最近のはこんなにいるんだ…。エスポ、ワー…ル?」
道人はその商品を見た瞬間、ビビッと来た。
「よし、これだ!これにする!」
「おぉ!見つかったようだな、道人!」
「…あ、でも、違うものも別に買っておこう!」
「おぉ!何だか自信なさげだな、道人!」
そうこうしている内に時間も迫ってきた。愛歌と潤奈と共に何とかお土産選びを完了する事ができた。友也に聞いてみたら、オイルも何とか見つける事ができて購入できた。整備班の一人がトラックにお土産を積んでくれて先に出発した。道人たちは友也について行って飛行船へと向かう。
「…たくさん買ったね…。みんな、喜んでくれるといいけど…。」
潤奈はグルーナ人形を両手で持ちながら歩いている。
「大丈夫!あたしたちのセンスはばっちりよ!自信を持ちましょ、潤奈!」
「…うん、そっか。そうだね!」
愛歌と潤奈の会話を聞きながら歩いているとあっという間に飛行船に辿り着いた。…だが、何やら騒々しい様子だった。流咲がシップ君を持って慌てて指示している。
「何かあったのかな…?二人共、ちょっと急ごう!」
「えぇ!」「…うん!」
道人たちは慌てて流咲の元へと走る。
「流咲さん、何かあったんですか?」
「あ、道人君たち!ちょうど良かった…!今さっき連絡があったんです!深也君と大樹君がデストロイ・デュラハンと交戦したとの連絡があって…。」
「やっぱり、俺らがいない間に攻めて来たんですね…。それで二人は?」
「はい、何とか撃退したようなんですが…。その間に大変な事が起きて…。深也君の妹の芽依ちゃんが行方不明になったそうなんです…!」
「えっ…!?め、芽依ちゃんが…!?」
潤奈は驚いてグルーナのぬいぐるみを地面に落としてしまう。が、完全に地面に落ちる前にヴィーヴィルのビーストデバイスが回収した。
「担当だった看護師の方も記憶がないみたいで…。現在、芽依ちゃんの行方を捜索中との事です。私たちも早く戻りましょう!」
「わ、わかりました!」
道人たちは頷いて飛行船へと走る。潤奈はヴィーヴィルからグルーナのぬいぐるみを受け取って走る。
「あたしも…あっ、パパ…。」
愛歌は走ろうとしたが、後ろにいる友也の方を振り向いた。道人と潤奈も立ち止まった。
「…パパ、ごめん…。あたし…。」
「いや、いいんだよ…。愛歌の友達が大変なんだろう?行ってあげなさい。」
「パパ、せっかく久々に会えたのに…。あたし、あまり家族らしい事ができなくて…。」
「父さんの方こそ、愛歌が戦ってる最中に何もできずにただ、見ているだけだった…。親ながら不甲斐ない…。」
「そんな事ないよ!パパが近くにいてくれて、あたし、すごく頼もしかった…!ありがとうね、パパ…!」
「愛歌…。」
愛歌は友也の胸に飛び込み、抱きしめた。友也も愛歌を抱きしめ返す。
「…パパ、はい、これ。プレゼント。さっきお土産で買ったんだ。」
「…! 私に…?」
「ふふっ、後で感想聞かせてね? …そろそろ行かないと…。じゃあね、パパ!また来るから!今度は今回は紹介出来なかった友達も紹介するから!」
愛歌は後ろを向きながら手を振り、道人たちと共に飛行船へと走った。
「愛歌ぁっ!気をつけて帰るんだぞぉっ!母さんによろしくなぁっ!」
「またね、パパ!」
道人たちは飛行船の中に入り、しばらくすると飛行船は離陸。外を見ると友也がまだ外にいて、飛行船を眺めて見送ってくれていた。




