103章 永久の門番
「はぁっ、はぁっ…!か、勝ったの…?」
「…う、うん。そ、そう…みたい…。」
烈鴉を倒して安堵した二人はその場で尻餅をついて座り込んだ。首無し鎧騎士二人もしゃがんでまるで愛歌と潤奈を心配しているように見る。
「二人共、大丈夫っ!?」
道人は警戒心を解かずに後ろを振り返って愛歌と潤奈の心配をする。
「愛歌っ!」「お二人とも、お怪我はありませんか?」
流咲と友也も二人を心配して駆け寄ってきた。
「…だ、大丈夫。ごめんね、みんな。心配掛けて…。」
「潤奈、早くビーストヘッドを解除しよう…。維持するの、結構しんどい…。」
「…うん、そうだね…。」
そう言うと愛歌と潤奈はディサイドデバイスからビーストデバイスを外し、解除した。ビーストデバイスはそれぞれ鳥型、竜型に変形して愛歌と潤奈の右肩に止まった。
「うっ…。」「何カ、身体ガ、重く感じル…。」
リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルはトワマリーとフォンフェルから分離し、宙に浮かんだ。トワマリーとフォンフェルも関節から煙が上がり、火花が散りながら地面に座り込んだ。
「だ、大丈夫か、二人共…?」
スカイジークヴァルクブレードは両手で剣を持って構えたまま、トワマリーとフォンフェルの近くに寄る。ヤジリウスも鞘に入れた刀を構えたまま二人に近づく。
「モ、もう一歩も動けないかモ…。」
「確かに、これは負担が…ぐっ、大きいな…!」
フォンフェルは胸の顔を右手で抑える。もしかしたら発作を起こし掛けてるのかもしれない。
「…くっくっ、このわしを一度殺すとはやるのぉっ、お主ら…。」
「…! やっぱりか…!気をつけて、みんな!あいつはまだ生きてる…!」
「えっ…!?」「…そんなっ!?」
道人がそう言うと愛歌たちは皆、驚いた。二体のビーストヘッドの最大技で粉微塵にしたのにまだ生きている、と言われたら驚くのは無理もない。烈鴉は消滅した場所と同じ地面の中からゆっくりと上がってくる。
「ほぉっ、道人よ。よくわしが死んでないとわかったな。」
「姫がお前たちを倒す事が出来なかったと言ってたんだ。だから、お前たちには何かしらの不死性があると推測した。」
「なるほどのぉっ…。」
「道人!」
スカイジークヴァルクブレードはトワマリーとフォンフェルの護衛はヤジリウスに任せ、飛び跳ねて道人の前へと着地した。
「ふふん、どうじゃ?もう傷一つないぞ?さて、戦いを続けるか?」
「いや…確かに傷一つないけど、万全って訳でもないんだろ?何か代償があるんじゃないのか?」
「…ふん。道人、貴様なかなかキレるな…。確かに代償はある。もうお前たちと戦いを続けるのは難しいだろう。連れてきた兵士も皆、壊されてしまったしな…。それにお主ら、まだ余力を残しておるな?」
「何なら、今から試そうか?」
道人はスマホデバイスの画面に映ったドラグーンハーライムを実体化させるための『Second cange』の文字を見せる。
「…ふん、いいだろう。今日の所は引いてやろう。また会おう、勇猛果敢なデュラハンたちよ。辰治の娘、お主もな…。」
そう言うと烈鴉は地面の中に沈んでいった。その間に三分が経ち、ジークヴァルは元の姿に戻った。
「…ふぅっ…。」
「おい、道人。良かったのか?逃がしちまってよ。」
ヤジリウスがトワマリーとフォンフェルに左右の肩を貸して歩いてくる。
「うん、ハイドラグーン・ジークヴァルクで負けはしないだろうけど…。何か向こうもまだ何か隠し玉があった気がするんだよね…。まぁ、良かったよ、退散してくれて…。」
「だとよ。出番なかったな、緑野郎。ふっふっ…!」
ヤジリウスは道人の持っているスマホデバイスに対してそう言った後、道人を通り過ぎていく。心なしか画面に映るハーライムが不機嫌なように見えた。道人とジークヴァルもヤジリウスについて行き、愛歌たちと合流した。
「トワマリー様、フォンフェル様。それに我らが主となった愛歌様と潤奈様。よくぞ無事に試練を乗り越えられました…。」
リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは座り込んでいる愛歌と潤奈の前に立った。
「全くよ、メンタルガリガリ削られて大変だったんだから…。ねぇ、潤奈?」
「…うん、壮絶だった。でも、私たちよりも…。」
「そうね、つらい過去を思い出した当人たちの方が一番きつかったよね…。」
「いいんだヨ、愛歌。気にしないデ…。逆に私たちの過去を知る理解者ができテ、私嬉しいヨ。」
「えぇ、私たちのパートナーがあなたたちで良かったと心の底から思います…。ありがとう、潤奈、愛歌…。」
トワマリーとフォンフェルの感謝の気持ちを聞き、愛歌と潤奈は共に微笑み合った。
「でも、あたしたちもまだまだだね…。ビーストヘッド一回使ったらもうヘトヘトだもん…。」
「…うん、最初のヘッドチェンジで使えるのは良いけど、パートナーの体力まで奪ってくるから厄介だね…。」
「なるほど、最初から使えるんだ…。時間制限とかはどうなってるの?」
道人はいずれ自分たちも使う事になるビーストヘッドの解説・感想を休憩がてら愛歌と潤奈に聞いてみた。
「あ、そうそう!聞いて聞いて!普段通り三分なんだけど、少し変わっててさ。次のヘッドチェンジを犠牲にすると何と、継続して使えちゃうのよ。」
「え?つまり、やろうと思えば九分間ずっとビーストヘッドで戦えるって事?」
「…うん。でも、パートナー側にもデュラハン側にも身体への負担が大きいし、そう長くは戦えないかな…。逆にピンチに陥っちゃうかも。」
「そっか、体力温存とか、ペース配分とかも大事になってくるんだね…。わかった、ありがとう、二人共。」
道人とジークヴァルは愛歌と潤奈がしてくれたビーストヘッドの使用感を心に留めておく事にした。
「そう、お二組にはこれからもビーストヘッドを極めて頂きたい。何故なら、ビーストヘッドはあなた方の強さの着地点ではないからです。」
「えっ?充分強かったと思うけど…。」
「…まだ上があるって言うの…?」
「あなた方が今後目指すべき強さ…。もうお二方は既に過去の体験で見たはずです。」
愛歌と潤奈は脳裏に多くの竜やカラクリデュラハンを倒した鎧姿のトワマリーとフォンフェルが思い浮かんだ。
「…! インフィニティアトワマリー…!」
「…シュヴァルティアフォンフェル…。」
愛歌と潤奈がその名を出すとトワマリーとフォンフェルも驚きを見せた。
「私たちの前世のあの姿が…?」
「次の強サ…?」
「はい、もう既にイメージは掴めたはずです。後はディサイドするだけ…。前世の姿から更に磨きをかけ、原点を守りながらも超越したディサイド「オーバーディサイド」…。あなた方が今後もディサイドを強めていけば必ず到達できるでしょう…。」
「私たちも今後同行しますから、その時が来るのを楽しみにしていますよ。」
「ふふっ、何かもうさ、あたしたちの師匠みたいになってるね…。」
「…待っててね。必ず到達してみせるから…!」
愛歌と潤奈の未来へと歩む姿勢を喜び、リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは頷いた。
「次の話ですが、あなたたちが次に会うべきビーストヘッドをお教えしましょう。」
「えっ?いいの、教えてもらって…?」
「…前に会った名無しのドラゴンさんはビーストヘッドがいる遺跡は自分たちの手で探して欲しいって…。」
愛歌と潤奈は教えてもらっていいのか、と少し遠慮した。
「何を仰る。あなた方は見事試練を達成させてみせた。私たちを納得させてみせたのです。勝ち得た褒美として次の場所を示すのは当然の報酬だと我々は思います。」
「…と、かっこつけてはいますが、実はそいつ以外のビーストヘッドの居場所は知らないだけなんですよ。あなた方のいう名無しのドラゴンの場所はわかりません。あなた方が試練を乗り越えたのなら、次に行く場所だけは示していいという決まりなのです。」
「なるほどね…。つまり、一回自分たちで遺跡を見つけた後はクリアしたビーストヘッドが次の場所を教えてくれてスムーズに事を運べる、って訳ね。」
「…そっか…。 …わかった、そういう事なら。」
「喜んで聞かせてもらうわ!」
愛歌と潤奈は納得し、真剣に次の場所を聞く。
「次に試練を受けるのは大樹とカサエル様。場所は日本の御頭街にある十糸の森の洞窟です。」
「えっ!?」「…えっ!?」
道人と潤奈は同時に驚いた。ラクベスと戦った場所。十糸の糸が飾られていて、ハーライムが初めて実体化した場所。確かにあの場所はこの洞窟と同じように水晶でできていた。
「めっちゃ近いじゃん!灯台下暗しじゃん!」
「まさかあそこにビーストヘッドがいたなんて…。」
「…私たちが行った時には誰もいなかったけど…。」
「対応する大樹様とカサエル様はその時はいなかったのですか?」
「うん、大樹とカサエルは一度も行った事ないよ。」
「だからでしょう。対応するデュラハンとパートナーが来ないとビーストヘッドは姿を現しません。」
とにかく、かなり近場にある事がわかった。帰ったら早速大樹とカサエルに教えてあげようと道人は思った。
「さぁ、最後に…烈鴉が喋った地球のデュラハンの件ですが…。皆さんの覚悟を問うてから話した方がいいでしょう。」
「本来は全ての試練を達成してから話す内容なのですが…こうなっては仕方ありません…。私たちもあなた方についていきますから、日本に戻ってから話すかどうか決めさせて下さい。」
「…そうですね、わかりました。」
「ちょい待ち、道人。何?何か凄い事聞いたんだけど…?」
「…地球のデュラハン…?」
「あぁ、実は…。」
愛歌と潤奈、トワマリーとフォンフェルは眠っていたから地球のデュラハンの事は知らない。道人は烈鴉との会話内容を話した。
「…はっはっはっはっはっ…!またまた、ご冗談を! …マジ?」
「…ガイアヘッドと、ガイアフレーム…?」
二人とも困惑している。無理もない。
「だって、あたしたちがここに来る途中に見た地球は丸かったじゃん?」
「あれは変形前のコア部分です。ヘッドとフレームがついて初めてデュラハンの姿となります。」
「? …? ??」
リベルテ=イーグルの話を聞いて愛歌は頭上に?マークを浮かべまくった。
「あ、愛歌…。今考えてもしょうがないさ…。後で、後で考えよう…。」
「う、うん…。そうする…。」
道人は愛歌の背後から両肩に手を置いた。愛歌は頭から煙を上げている。
「それでは私たちはお二人のデバイスの中に入らせて頂きます。」
「今後はディサイドビーストデバイスに合体させた際に我々は出現します。用がある時はビーストデバイスを介して会話できますのでそれで呼んで下さい。」
その時、近くに立っていた首無し鎧騎士二人が急に地面に膝をついた。
「…!? ど、どうしたのっ!?二人共…!?」
「…大丈夫…?」
愛歌と潤奈は急いで首無し鎧騎士二人の元に駆け寄った。
「もうこの遺跡の役目は終えました。結界は解かれ、普通の洞窟になります。その二人はこの遺跡の力で成り立っていた門番です。残念ですが、もう門番の任は解かれるので機能を停止します。」
「えっ!?そんな!?どうにかできないのっ!?」
「…私たち、この二人に助けられたから!これで終わりなんてやだよ!」
リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは愛歌と潤奈の願いを聞いて困った様子を見せる。
「…申し訳ない。まさか、あなた方がこの門番二人のデュラハンの事をそこまで思ってくれるとは…。」
「残念ながらどうしようも…。」
「そんな…。」
首無し鎧騎士二人は愛歌と潤奈の右肩に手を置いた。
「な、何…?」
「…何?気にしないで、って…?」
首無し鎧騎士二人は愛歌と潤奈から離れた後、トワマリーとフォンフェルを見て敬礼する。
「えッ…?」
「あなたたちは…?」
首無し鎧騎士二人はお互いに頷き合った後、よろけながら歩き、洞窟の奥にある教会の扉の前に立った。剣先と槍の石突を地面に強くつけて道人たちを見る。
「もしかして、ただの洞窟になった後もあなたたちはここに残るって言うの…?」
「…愛歌、残るんじゃなくて…守りたいんじゃないかな…。機能停止してでもこの場所を…。」
首無し鎧騎士二人はもう既にぴくりとも動かなくなった。
「…私たちは今まで素晴らしい忠誠心を持った門番に守られていたのだな…。」
「失ってから気づくとはな、全く…。申し訳ない…。今までありがとう、二人共…。君たちは最高の騎士だ…。」
リベルテ=イーグルとO/R=ヴィーヴィルは感謝の気持ちを抱きながら愛歌と潤奈のデバイスの中に入った。
「…行こう、二人共。またさ、平和になったら来ようよ。ここにさ。二人に会いに…。」
「愛歌、父さんも何とかこの場所を守ってみせるよ。彼らは今までこの場所を守り続けてくれた勇者でもあって、私の娘の恩人だからね。」
「道人、パパ…。」
愛歌は涙腺が緩んだので両手で両目をごしごし擦った。
「ほ、ほら、潤奈も!帰ろっか!」
「…うん!」
潤奈も両目から涙を流していたが、両手で一生懸命拭いた。
「さぁ、皆さん。帰りましょう、私たちの船へ…。」
こうして道人たちは遺跡を後にした。道人たちは見えなくなるまで教会の前に立っている二人の首無し鎧騎士を見続けた。ジークヴァルはトワマリーを、ヤジリウスはフォンフェルを支えながら歩く。
「お姉ちゃン、私たちガ来る時に見た壁の文字が消えていク…。」
「恐らく、この壁の文字は前世の記憶を私たちに見せるために施された術式だったのでしょう…。だから、文字が頭の中に襲ってくるような感覚があった、と…。」
トワマリーとフォンフェルがそう会話した後、しばらく無言で歩き、洞窟の入り口まで戻って来られた。
「お姉ちゃン、もしかしテ、あの二人の騎士ハ…。」
「あぁ、もしかしたら、我が王国の兵士の魂が入っていたのかもしれないな…。」
道人たちは洞窟の入り口を見ていたその時だった。道人のリュックから二本の黄色とピンクの十糸姫の糸が発光しながら愛歌と潤奈の前に飛んできた。
「…! これって…?」
「…まさか…。」
十糸姫が出現し、愛歌と潤奈に微笑みかけた。
「…! 姫…。」
道人とヤジリウスは寂しげに十糸姫の幻影を見る。
十糸姫は消え、洞窟の中から二つのデュラハン・ハートが飛んできて糸と合体し、石付きのストラップとなって愛歌と潤奈のスマホについた。
「今の、デュラハン・ハート…?」
「…もしかして、あの二人の…?」
愛歌と潤奈のスマホから光の玉が出て、二人のデュエル・デュラハンが実体化した。
「愛歌、ようやく会えたね…。待ち侘びたよ。」
「ルブラン…。」
白を基調にしたフランス騎士のデュラハン。ピンクの差し色が入ったレイピアの使い手ルブランが愛歌の前に立つ。
「拙者はアヤメ。生まれてから日はまだ浅いが、今後ともよろしく頼みます。潤奈…それにフォンフェル。」
「アヤメ…。」
紫色のくの一で首に黄色いマフラーを巻いたデュラハン。小刀を持ったアヤメが潤奈の前に立った。
「これは、一体…?」
「えっと、これはですね…!」
道人は事情を知らない友也に実体化するデュエル・デュラハンについて軽く説明した。ルブランとアヤメは何かを言いたそうに愛歌と潤奈を見る。
「…? …何?」
「どうしたの…?」
「…あの、自分たちにも何だかわからないのですが…。」
「お二人に何故だか、拙者たちは感謝したい気持ちがありまして…。『また会おうね、ありがとう』、っと…。」
「あっ…。」「…あっ…。」
愛歌と潤奈はその言葉を聞いて確信した。道人たちにもわかった。この二人のデュラハン・ハートは間違いなく、あの首無し鎧騎士二人のものだ。あの時わからなかった言葉が後から伝わってきた。
「時間差なんて、ずるいよぉっ…!泣くの我慢してたのにぃっ…!」
「え、えぇっ?あ、愛歌?私たち、何か泣かせるような事言いましたか?」
「…い、言ってないけどぉっ…。うぅっ…。」
「じゅ、潤奈まで…!?フ、フォンフェル…姉様?拙者はどうしたら…!?」
「やれやれ、手間の掛かる妹が増えましたね…。」
「ふふッ!でも、何だカ嬉しそうですヨ、お姉様?」
しばらく愛歌と潤奈は涙が止まらず、道人たちは洞窟の入り口の前で二人が落ち着くのを待った。




