101章Side:潤奈 覚醒!Oser/Rencontrer=ヴィーヴィルフォンフェル
「…? ここは…?」
気づいたら、潤奈は真っ暗な空間に浮かんでいた。自分が置かれている状況を知るため、周りを見渡した。
「…!? フォンフェル…!?」
さっきまではいなかったが、目の前にデュラハンの姿のフォンフェルが漂っていた。
「…待ってて、フォンフェル…!今、行くから…!」
潤奈は右手を思いっきり前に伸ばし、フォンフェルに触れようとする。
『…来てはいけない…。』
「…!? フォンフェル!?良かった、意識があるんだね…!でも、来てはいけないって、どういう事…?」
フォンフェルは念話で話し掛けてきた。潤奈は右手を下ろしてフォンフェルを見つめた。
『全部思い出した…。そうだ、私は結局最期まで妹の何の役にも立てなかった…。』
「…! そんな事ない!フォンフェルはちゃんと騎士として、姉として振る舞えてたよ!」
『………。』
フォンフェルには潤奈の励ましは届いていないようだった。
「…私ね、フォンフェルの過去を巡ってる時に決心したんだ…。この試練を乗り越えて、必ずフォンフェルと再会して、話したいって…。」
『………。』
「…でもね、駄目だなぁっ、私…。いざ、こうやってフォンフェルと再会できたら、何話していいかわからなくて…!参っちゃうよね…。本当に…。」
潤奈は涙目になり、下を向いた。
『…私は妹のためとは言え、この手を血で汚し過ぎた…。後先考えずに私は同胞をこの手で殺めてきた…。この汚れた手ではもう貴方とも、みんなとも、共に歩む事は許されない…。』
「…許されない?そんな事ない!そんな事ないよ!私はフォンフェルの前世の事を知ったけど、だからって私は貴方を軽蔑したりはしない!そんな事、絶対にないんだからっ!!」
潤奈の叫びは漆黒の空間に響きもせず、ただ虚しく、しばらく沈黙が続いた。
「…姉らしくない、か…。それを言ったら私もかな…。」
『…えっ?』
「…だってそうでしょ?私、マーシャルに裏切られたんだもの…。マーシャルが何を思い悩んでいたのかに気づけなかったし、止める事もできなかった…。…お父さんも助けられなかったし…。おかしいよね、お姉ちゃんなのにね…。」
フォンフェルの身体が少し動いた。
『…そんな事はない…。貴方のパークでの
マーシャルとの会話は見事でした…。』
潤奈がパークの食堂で綺麗な服を着たマーシャルと会った時の話だ。
「でも、結局私はマーシャルをバドスン・アータスから辞めさせる事は出来なかったし…。意味なかったかな…。」
『そんな事は、決して…!』
「…ふ、ふふっ…!」
潤奈は思わず笑い出してしまった。
『…? 何がおかしいのです…?』
「…いや、ね…。私たち、似た者同士だなぁ〜、って…。自分の事を厳しい目で見てて…。自己評価が低い、って言うのかな?だから、私たち、ディサイドできたのかな、選ばれたのかな…?」
潤奈は両手を胸に当ててフォンフェルを見つめる。
「…自分の事をさ、客観的に見るのって難しいよね…。私、フォンフェルの良い所も悪い所も、たくさん知ってるよ?」
『えっ…?』
「…フォンフェルが料理作ってくれたり、棚を作ってくれたり、洗濯をしてくれたり…。お、お風呂上がりの着替えの手伝いをしようとしたのは正直困ったけど…!」
潤奈は頬を染めて右下に視線を向けるが、すぐにフォンフェルを見つめ直す。
「私、嬉しかった、頼もしかった…!そして、とっても楽しかった…!」
『主…。』
「フォンフェルはね、前世の記憶がなかった頃でも、トワマリーの姉をできていたし、ジークヴァルたちとも仲良くできていたよ…!道人のお母さんに料理を教えてもらおうとしてたよね?あなたのその向上心や忠誠心、器用さは戦いだけに使うのは勿体ないよ!私、フォンフェルのその手はみんなを喜ばせるためにも使ってもらいたいの!」
『…!』
「…あなたはもう、人の繋がりを否定しちゃ駄目だよ!手放しちゃ駄目だよっ!私はあなたに今度こそ、人と人で生じる暖かな想いを大切にしてもらいたいから…!」
潤奈は涙を散らしながらフォンフェルに必死に語りかける。潤奈のポケットのデバイスが紫色に発光し出す。
『…しかし、それでも、私は…。』
「…あなたが『敢えて』、自分の過ちを今後も背負い続けると言うのなら、捨てられないというのなら、それで構わないから!私も『敢えて』、あなたの償いに付き合ってみせる!一緒に抱えてみせる!」
『…主…。』
「一人で背負い込まないで!私もいるから!私たち、せっかく会えたパートナーなんだよ?一緒に共にこれからも歩いて行こうよ!」
「…主…!」
フォンフェルは念話をやめて、主君の名を発声した。
「お願い、私たちとの出会いを…!良かった事まで否定しないで…!」
「…潤奈…!」
「…大好きだよ、フォンフェル…!」
潤奈とフォンフェルが抱き合うと共に紫のオーラを放つ。オーラは黒い空間をあっという間に塗り替え、現実世界に戻ってきた。抱き合っていた潤奈とフォンフェルはゆっくり地面に着地した。となりには愛歌とトワマリーが立っていた。急に潤奈とフォンフェルがいた場所が変わったからか、流咲と友也は呆然としていた。
「…私たち、戻ってきて…?」
潤奈はフォンフェルから離れて周りを確認する。よく見たら道人の後ろ姿があった。遠くでジークヴァルとヤジリウスが倒れている。何故か傀魔怪堕の烈鴉と交戦状態だった。烈鴉は見た事のない姿になっていて、ジークヴァルとヤジリウスに大砲を向けようとしていた。
「とりあえずピンチなのはわかったぁっ!トワマリー!」
「えェ!」
となりの愛歌が先手を打ち、トワマリーが五つの小型リングを飛ばして烈鴉が大砲を撃つのを妨害する。
「…潤奈!」
「…うん!行って、フォンフェル!」
フォンフェルは高くジャンプし、烈鴉目掛けて落下する。
「ぬぅっ!?何奴!?」
「はぁっ!!」
フォンフェルが飛び蹴りで烈鴉の大砲を蹴り落とした。
「潤奈!」
愛歌が嬉しそうに微笑み掛けてきた。潤奈も笑みを浮かべて頷く。フォンフェルも戻ってきて、トワマリーの横に立つ。
「…ごめん、道人。お待たせ。」
「って言っても、二十分くらいしか経ってないから、そんなに待たせてないけどね。」
「愛歌、潤奈…!」
道人が無事に目覚めた愛歌と潤奈、トワマリーとフォンフェルを見て微笑みかけてきた。道人の喜ぶ表情を見て、潤奈はやっと元の世界に帰ってきた実感を得た気がした。
「…何で傀魔怪堕がいるのかわからないけど…。」
「まぁ、いいじゃん。ちょうどいいし。見せてあげよう、潤奈!あたしたちの試練の結果をさ!」
愛歌と潤奈は画面から強い光が放たれたデバイスを構えた。
「よくぞ戻られた!さぁ、あなた方の答えを聞かせてもらおう!」
ヴィーヴィルが飛んできて、潤奈とフォンフェルの背後に着地した。
「私は潤奈に気付かされ、決心した!私は前世の罪を忘れない!償うために!強さを目指すために!理想の自分を目指すために!『敢えて』その道を選ぶ!選んでみせる!」
「…そんなフォンフェルに私は付き合う!あなたが『敢えて』、茨の道を歩むのなら!私も共に困難を乗り越えてみせる!あなたとの『出会い』はそのためにあるのだからっ!!」
「試練、合格っ!!あなた方の『敢えて』と『出会い』を貫く姿勢が、私を真なる姿へと変化させる!はぁっ!」
ヴィーヴィルは咆哮した後、空高く飛んで光に包まれた。
「むっ!?いかんぞ…!これはいかん流れだ…!阻止せねば…!」
「させるかよぉっ!」「ふんっ!」
「ぬぅっ、おのれらぁっ…!」
妨害しようとした烈鴉に対し、ジークヴァルクブレードはヴァルクブレードで右から、ヤジリウスは鞘に入れたままの刀で左から烈鴉に斬り掛かった。ヴィーヴィルは咆哮し、羽を大きく広げて自分の身に纏っていた光を辺りに散らばした。
「我、今ここに真なる姿を得る!我が名は『Oser/Rencontrer=ヴィーヴィル』!潤奈とフォンフェルが背負った呪われし茨の翼!さぁ、受け取られよぉっ!」
Oser/Rencontrer=ヴィーヴィルは生物の見た目から機械の竜の姿へと変化し、潤奈に向かって小型のドラゴンメカを飛ばした。
「…!」
潤奈は少し驚きながらも右腕を曲げ、小型ドラゴンメカが腕に止まる。すると、潤奈の脳内に新たな力の知識が流れ込んできた。
「…なるほど、気が利くね。ありがとう…。」
潤奈は微笑んで小型ドラゴンメカの頭を優しく撫でる。
「…歩むよ、フォンフェル!」
「いつでも、潤奈!」
「…ビーストヘッド、レディ!」
潤奈がそう言って左腕を勢いよく横に振るとOser/Rencontrer=ヴィーヴィルデバイスが宙に浮かんで竜型からデバイス型に変形。潤奈が上に伸ばした右手でキャッチする。
「…ビーストデバイス…セット!」
スマホと合体させたデバイスから更にOser/Rencontrer=ヴィーヴィルデバイスをまるで竜の顔の口のようにガシャッと開いた後、下からはめ込んで合体。ディサイドビーストデバイスへと姿を変える。
「…ビーストヘッド・エヴォリューション!!」
『ビーストヘッド、承認。ヴィーヴィルver. Oser/Rencontrer.』
潤奈がディサイドビーストデバイスを前に出すと一筋の光が掃射され、腕を組んでいるフォンフェルの背中に当たる。
「来なさい、Oser/Rencontrer=ヴィーヴィル!」
「参らせて頂きます!」
背中に受けた光通信で合体シークエンスを理解したフォンフェルは天高く飛び、Oser/Rencontrer=ヴィーヴィルの上に腕を組んで乗る。
「いざ、Oser/Rencontrer UNION!」
Oser/Rencontrer=ヴィーヴィルがそう叫ぶと空中でバラバラになり、フォンフェルの背中に三叉の刃がついた尻尾が装着された竜の翼がつく。その後、長い折り畳み式ブレードがついた右腕と左腕、竜の足のような右足・左足と順にパーツがついた後、最後に胸に竜の顔、竜の意匠が施された頭部を装着して両目を邪悪に発光させた。宙に出現した鎖付きブーメランを両手で持って全身から紫の邪悪なオーラを放つ。
「過去と未来…そして、現在!全てを背負った永久なる姿!Oser/Rencontrer=ヴィーヴィルフォンフェル、推参っ!!」
「…私たちは敢えて呪いを背負って、前へと進む!もう大切な出会いをなくさないためにっ!!」




