100章 父の消息
試練に挑んでいる最中で眠っている愛歌と潤奈や二人の近くにいる流咲と友也を守りながら超烈将軍と戦う事となった道人たち。ジークヴァルとヤジリウスは道人の近くまで跳ぶ。イーグルとヴィーヴィルは道人たちの邪魔にならないように空を飛ぶ。
「では、まずは先手の槍ぃっ!」
超烈将軍は右手に持った三叉の槍を力強く地面に向かって突く。道人たちは各々バラバラに跳躍して避ける。地面が砕け、水晶の破片が辺りに散らばった。
「四対一で挑もう!来て、ハーライム!」
道人は跳んでいる最中にガントレットについているスマホデバイスから光の玉を出し、ハーライムを実体化させた。
「やはり私も出なくてはな!」
「潤奈、早速使わせてもらうよ…!」
着地してすぐにスマホを操作し、ハーライムにジグザグブーメランヘッドをつけた。稲妻の形のV字アンテナの頭がつき、ジグザグの両肩パーツや膝当ても追加。その名の通りのジグザグブーメランを右手に持つ。
「続けて、ジークヴァルも!」
道人はカードを実体化し、デバイスに読み込ませた。
「ヘッドチェンジ!ストレートブーメラン!」
『あなたは例えどんな困難が待ち受けようとも、心を痛めようとも、真っ直ぐ突っ走れますか?』
「まさに今の状況にぴったりな問いかけだ事…!今は地球のデュラハンの事は気にしてもしょうがない!ただ、ひたすらに愛歌や潤奈たちを守る!」
『素敵。』
ジークヴァルにトサカのような角がついた頭が装着され、赤い胸当てと両肩パーツが追加。両手に念導操作ハンドを装着し、均等な長さではなく、片方だけ長いブーメランを右手に持つ。
「共に投げるぞ、ハーライム!」
「あぁ!せぇっ、の!」
SBジークヴァルとZBハーライムは一斉にブーメランを投げた。ストレートブーメランは物凄いスピードで真っ直ぐ進んで超烈将軍の胴体に当たり、ジグザグブーメランは電流を纏って不規則に曲がりまくって超烈将軍のあらゆる箇所に当たりまくる。
「むぅっ、妙な飛び道具を…!」
超烈将軍は目障りな二つのブーメランを叩き落とすために槍を何度も振る。
「ジークヴァル、さっき見ただろうけど、あいつの左手に掴まれたら一巻の終わりだ!間合いに気をつけるんだ!」
「わかった!」
「ヤジリウス、君は…。」
「わかってる!迂闊に近づいて刀を抜くな、ってんだろ?だけどなぁっ、今日の俺は一味違うぜ!」
ヤジリウスは指を鳴らす。
「…? 何でしょう…?」
流咲が回収していた道人のリュックがもぞもぞ動き出した。
「み、道人君?君のリュックが何やら動いてるんですけど…?」
「おい、姉ちゃん!チャック開けてくれ!」
「は、はい…。道人君、勝手にリュック開けてごめんなさい…!
流咲は目を瞑りながらリュックを開けると中から球体が飛び出してきた。
「わ、わぁっ!?」
流咲が驚いて倒れそうになるが、友也が流咲の両肩を受け止めた。
「ヒッヒャァッ!これこれぇっ!」
ヤジリウスは球体を右手でキャッチした後、球体が四方に割れて変形。左腕に装着する。その後、鞘から刀を抜くと刀身が電流バリアに包まれた。
「昨日博士にとりあえず作ってもらったワームホール制御装置のプロトタイプよ!」
「お前、いつの間に俺のリュッ…あっ!?」
道人はヤジリウスが今朝、リュックに着替えなどを入れて用意していた事を思い出す。
「何か以外と几帳面だな、と思ったら…。」
道人は右手で顔面を覆った。
「へへっ、そういうこった!行くぜぇっ、ヒッヒャァッ!」
ヤジリウスはようやく自由に自分の力を振るえるからか、ご機嫌で超烈将軍の元へと走る。
「ジークヴァル、援護頼むぜ!緑野郎、足引っ張るなよ?」
「わかった!アタッカーはお前に任せたぞ、ヤジリウス!」
「…何故あいつは私にだけ態度が悪いのだ…?」
SBジークヴァルは両手に念導波を纏わせ、まるでパントマイムのように両手を動かす。すると超烈将軍が避けたはずのストレートブーメランが旋回し、再び超烈将軍に向かって飛んでいく。
「ほう、妖術の類か。面倒だな。」
超烈将軍は向かってきたストレートブーメランが身体に当たってもビクともしなかった。
「そんなちゃちなブーメランでこのわしが倒せると思っておるのか?」
「思うっ!!」
ZBハーライムはジグザグブーメランが超烈将軍の前に来た瞬間を狙って飛び跳ね、ブーメランをキャッチし、ジグザグブーメランを剣のようにして超烈将軍の胴体を切り裂いた。
「ぬぅっ!?おのれぇっ…!」
超烈将軍が地面に着地したZBハーライムに対して左手を伸ばす。
「その左手には捕まらない!」
ZBハーライムはすかさずジグザグブーメランを投げて急いで後ろに下がる。
「ハーライムには触れさせない!」
道人はガントレットでメタルブーメランを持ってぶん投げる。ジグザグブーメランと共に超烈将軍の胴体に当てた。
「オラァッ!」
ZBハーライムを掴み損ねた左腕に対してヤジリウスは妖刀で斬り裂いた。斬り裂いた後が紫になり、煙が出る。
「ぬおっ!?」
「ヒッヒャァッ!ざまぁないぜ!」
ヤジリウスは斬撃を喰らわした後、ヒット&アウェイ。超烈将軍からすぐに離れ、ZBハーライムの近くに着地した。
「おい、道人!こいつ、この前の三位一体程の強さはねぇぞ!」
「あぁ、さすがに三大将軍で合体した時程の出力はないと見た!」
「これだから若造は…。判断がせっかちだのぉ。」
「何だと?」
超烈将軍は右手首を回転させ、三叉の槍を猛回転させて三つのブーメランを瞬時に叩き落とした。
「確かにわしがメインとなって三大将軍と三位一体した姿、烈災極将軍と比べればこの超烈将軍の性能はやや劣る。それは認めよう。だが、お前たちを蹴散らすのにはこの姿で充分じゃぁっ!」
そう言うと超烈将軍は三叉の槍の回転を更に強め、稲妻を纏った竜巻を作り出す。
「若造共、この戦いは数ではお前たちの方が有利だが、お前たちはこの場に守らなければならないものがあり過ぎじゃ!わしが見た所、向こうにいる鳥と竜!奴らに死なれたら困るのではないか?わざわざ仏蘭西まで出向いた理由はあの二匹と見た!」
「くっ…!」
やはり烈鴉は煽てには弱い奴だが、馬鹿ではない。超烈将軍は空を飛んでいるイーグルとヴィーヴィルに狙いを定めた。
「死ねぇい!」
超烈将軍は回転させた三叉の槍を前に出し、竜巻を前方に飛ばした。
「ちぃっ!竜巻を防ぐぞ、ハーライム!ヤジリウス!」
「待たれよ、ジークヴァル様!守るべきは我らではない!」
「試練が終わっていない段階では我らは確かに戦闘能力のない無力な存在!だが…!」
イーグルとヴィーヴィルは空中を飛び回り、竜巻を避けた。竜巻は天井に激突し、消滅する。
「我らにはこの翼がある!我らは自分の身は自分で守ってみせます!」
「奴の発言はフェイク!奴の真の狙いは…!」
道人たちはイーグルとヴィーヴィルから視線を逸らし、超烈将軍を見る。超烈将軍は新たな竜巻を作り出していた。
「ちっ、勘付かれたか…!だが、もう遅いわぁっ!」
超烈将軍は新たに作った竜巻を岩陰に隠れている愛歌と潤奈たちに向かって放った。
「遅いはずがあるものかぁっ!行くぞぉっ、みんな!」
「「「おう!!」」」
道人、SBジークヴァル、ヤジリウスはイーグルとヴィーヴィルのおかげで既に愛歌と潤奈たちの元へ向かっていた。
「俺の脚力ならぁっ!!」
道人はレッグパーツの力で高速移動し、竜巻の前まで移動した。両腕を交差して、制服バリアを展開する。
「道人の制服バリアでも守れるくらいに竜巻を弱体化させるぞ、ヤジリウス!」
「おうともよ!」
ヤジリウスは道人の前に立ち、刀を鞘に収めて抜刀の構えを取る。刀から黒いオーラが溢れ出る。
「ふん、今からワームホールを作り出すつもりか?無駄な足掻きを!その隙にわしは新たな竜巻を…!」
「作り出せると思ったか!」
「何っ!?」
ZBハーライムはジグザグブーメランを投げて三叉の槍を持つ右腕を切り裂いた。
「貴様、残っていたのかっ!?」
「誰かが相手しないとお前が無尽蔵に竜巻を作り出すからなっ!」
ZBハーライムは両刃の斧を出現させ、超烈将軍の左足を斬り裂いた。
「旋回せよ、ストレートブーメラン!」
SBジークヴァルはストレートブーメランを自分の目の前でプロペラ回転させて竜巻を少しでも弱体化させる算段に出た。ジークヴァルはヤジリウスの後ろに着地し、いざとなったら自分の身で防ぐつもりだ。
「シャアァッ!」
ヤジリウスは抜刀し、横一閃。黒い剣撃を飛ばし、竜巻は出来上がったワームホールによって真っ二つになった。
「ちっ、やっぱり溜めが足りねぇっ…!」
ヤジリウスは前方に跳び、がむしゃらに刀を振りまくった。制御装置のおかげで何度斬ってもワームホールは宙に停滞しない。竜巻がどんどん削れていく。
「これならもう大丈夫だ!頼むぜぇっ、道人ぉっ!ジークヴァルゥッ!」
「「うおぉぉぉぉぉーっ!!」」
竜巻崩れの風はジークヴァルのブーメランと道人の制服バリアで防がれた。まだ強い風ではあり、愛歌や潤奈たちの制服バリアでも充分防げるくらいの風になったが、それでもバリアは乱れた。
「あっ…!?きゃあっ!?」
流咲の右頬に小石が飛んできて少し頬が切れた。
「流咲さんっ!?大丈夫ですかっ!?」
「何?流咲…?」
流咲の悲鳴を聞いた道人の叫びに超烈将軍が反応した。超烈将軍は左手を横に振り、両刃の斧で斬り掛かっていたZBハーライムをわざと避けさせて遠ざけた。風が止み、道人は流咲の元へと走る。
「流咲さん、血が…!?」
「だ、大丈夫です、道人君…!大した事ないですから…!」
「よし、私が治療しよう…!」
友也はリュックから緊急用の救急箱を取り出した。
「…おい、そこの小娘!」
「えっ…?私…?」
超烈将軍が流咲に話し掛けてきた。道人たちは何故流咲に…?と硬直する。
「お前、もしかして流咲辰治の娘か?驚いたな、こんな所で娘に会うとは…。」
「えっ!?な、何で…!?何でお父さんの事を知ってるの!?」
道人は傀魔怪堕から帰ってきた際、流咲から聞いた事を思い出した。流咲の父は交番警察官で勇敢な、相手がどんな立場の人でも分け隔てなく助ける人だと。現在行方不明だとも聞いた。
「ってか、タツジさん!?タツジさんって…。流咲さんが、タツジさんの娘…?」
道人は続けて思い出す。災鐚から逃げた後、疲れた十糸姫と道人、ハーライムを助けてくれた村人の名前がタツジだった。
「えっ!?道人君、お父さんを知ってるのっ!?」
「は、はい…。俺が傀魔怪堕に行った際に助けてくれた人の名前がタツジさんで…。まさか、流咲さんのお父さんだったなんて…。」
「そんな、事が…。」
流咲は放心し、下を向く。
「やはりあの男の娘か。あやつは生意気にも我らに歯向かい、死をただ待つ人たちに希望を与える不思議な男じゃった…。」
「…! それでお父さんはっ!?お父さんは無事なのっ!?」
「安心せい。奴は絶望した人々を勇気づけた、なかなかの優良人種だ。生きたまま保管されるじゃろうて。」
「そんな…!?」
流咲は頬から流れる血と共に両目から涙を流した。
「はて…。娘の方もさぞ優秀なのだろうな…。よし、良い土産ができた!その小娘を傀魔怪堕に連れて行く!」
「なっ…!?」
「優秀と判定されれば、お前は仲良く父と保管させてやろう。無能だったら死者として保管して父とは永遠に離れ離れじゃがな。」
「…ふざけんなっ!!」
道人はあまりの怒りに岩場にガントレットを叩きつけた。子と父の間を引き裂く、道人が最も憤る行為だ。
「お前らなんかに流咲さんは絶対に渡さないぞ!渡してなるものかっ!」
「…道人君…。」
流咲は道人の言葉に勇気をもらい、両目から溢れる涙を拭った。
「ジークヴァル、ハーライム、ヤジリウス!愛歌や潤奈たちだけじゃない!流咲さんも俺たちで絶対に死守するんだっ!!」
「おう!」「あぁ!」「あたぼうよ!」
辰治の事を聞いて道人たちは更に団結力を強め、超烈将軍を必ず退けてみせると決心した。




