95章Side:深也 弐の巻 異名の重さ
深也は大神や大樹に急用ができた事を連絡し終え、廃工場まで走る。大神も大樹も何があったか聞いてきたが、答えている暇はなかった。パークから廃工場は大体、徒歩二十分。走って何とか十分で廃工場近くの閉店したゲーセン跡地まで辿り着く事ができた。この辺りは色んな学校の不良が集う溜まり場で一般人はあまり近寄らない。
「ったく…!仁王の野郎、一体何のつもりだ…!?」
『仁王一』。刃鯛高校一年生の不良。深也が小学五年生の時、父親絡みで荒れていた時に出会った不良グループのリーダー。深也はある日、仁王たちにぶつかり、喧嘩を売られるが下っ端たちを返り討ちにした。とても小学生とは思えない喧嘩強さが評価され、深也はグループに入った。他の不良グループを次々と蹴散らし、『不良王』の異名を仁王から冠されたのだ。
「俺がグループを抜けてから話をとんと聞かなかったが、何で今になって…。」
「し、深也さん…!」
「…!? 木戸!」
曲がり角から怪我をした深也の取り巻き、木戸が姿を見せる。
「し、深也さん、すんません…!俺…。」
木戸は深也に会えて安心したのか、右肩を壁に当てた後、そのままずるずると座り込んだ。
「おい、しっかりしろ!大丈夫かっ!?」
深也は木戸を抱き抱えた。
「し…深也さん…!あいつら、急に襲い掛かってきて…!も、本永の奴はあいつらに捕まって…!」
「あぁ、わかってる…!奴ら、わざわざ俺に電話してきやがったからな…!」
「な、情けねぇっ…!俺ら、深也さんの足を引っ張っちまって…!」
「仕方ねぇよ。お前たち二人は仁王とは面識がねぇからな…。」
木戸と本長は小学六年からの付き合いの不良で仁王たちのグループには誘わなかった。だから、仁王は木戸と本永の事は知らないはずだ。不意打ちを喰らっても対応するのは難しかったはずだ。
「お前、よく仁王から逃げ出せたな…。」
「も、本永が身体を張って逃してくれたんすよ…!この事を深也の兄貴と道人の兄貴に早く知らせて来いって…!」
「なっ…!?道人も…?」
「え、えぇ、奴ら得意げに言ってました…!深也さんが最近姿を見せないから、つけて調べたって…!」
「あいつら…!」
深也は仁王と迂闊な自分への怒りと闘志をこの場は我慢し、木戸に肩を貸す。
「し、深也さん…?」
「この場所自体が不良の溜まり場でな…!お前をここに放置するのはやべぇんだ…!」
「深也さん、俺は大丈夫っすから!へへっ、このザマで何言ってんだ、って話ですけどね…!深也さんは早く本永を助けに行ってやって下さい…!」
「だが…!」
「ほら、この通り!」
木戸は立ち上がり、両腕をぶんぶん振り回す。
「俺は一人で大丈夫っすから!だから、早く!本永の奴を…!」
「…木戸…。わかった、お前の心意気、確かに受け取ったぜ…!すまねぇ、気をつけろよ!」
木戸は右手でグッドサインをし、ゆっくりと歩いて行った。深也は木戸を信じ、振り返らずに走る。裏路地をジグザグに走り抜けると廃工場が姿を見せる。深也は重い鉄扉を力強く開き、中に入る。工場内には色んな機械が置いてある。
「仁王!リクエスト通り来てやったぜ!姿を見せろ!」
「待ってたぜぇっ、深也!」
仁王が取り巻きと一緒に高い場所から姿を現す。髪を後ろで一つにまとめたオールバックの男。腕にはたくさん金属類をつけていて、木刀を右肩に乗せている。
「はっ、ボス猿様は高い所が好きと見える!」
「猿で結構!」
「てめぇっ、本永はどこだっ!?早く出しやがれ!」
「いんだろうが、目の前によぉっ!」
天井クレーンに本永は縄で縛られて吊るされていた。
「へへっ…!深也さん、面目ねぇっ…!」
「仁王、てめぇっ!早く本永を解放しろ!」
深也は仁王にどけ、という意思を伝えるために右手を横に振る。
「深也、それだ!俺は今、お前と再会したこの瞬間を幸福に感じたと同時に怒りも込み上げてきた!昔のお前はそんな仲間が第一みたいなノリじゃなかったじゃんよぉっ!」
「俺の成長速度が早いのは俺をスカウトした時からご存じのはずだろうによ!」
「確かに!」
仁王は高くジャンプし、両手をポケットに入れて深也の前に立つ。
「…深也、戻ってきてくれねぇか?不良王のお前が来なくなってから、うちのグループは舐められちまってな…。せっかく広げた縄張りも減っちまった…。」
「はっ、俺が抜けた時点で弱体化する不良グループなら、最初から価値なんてねぇよ!」
「価値か…。道人だったか?他にも愛歌、潤奈、大樹…。そんなに新しくできた友達との仲良しこよしが大事かね?」
「少なくともてめぇらと一緒にいるよりも有意義だぜ、ストーカー野郎!」
仁王は溜め息を吐いた後、ポケットから
棒飴を取り出して咥える。
「相変わらず煙草は吸わねぇみたいだな。」
「当たり前だ。部下たちに副流煙を吸わせたくはねぇからな…。」
仁王は飴を咥えながら深也と話を続ける。
「…深也、お前、今更普通の生活が送れると思ってんのか?お前は父への憂さ晴らしに暴れ過ぎた…。」
「誘ったてめぇがそれを言うかよ?」
仁王は再び溜め息をつき、深也と会話を続ける。
「まぁ、聞け。他の不良グループは当然お前の事を憎んでいる。俺らも今、こうやって抜けようとしているお前を呼び戻そうとしているしな…。お前は「不良王」の異名の重さがわかってねぇ。逃げられる訳がねぇだろ?」
「悪ぃが、俺にはもう一つ異名があってな。そっちの方が気に入ってんだよ。」
「デュエル・デュラハン準優勝者か…。確かに立派だが、たった一回の準優勝だ。三年間の不良王の名の方がお前を付き纏うぜ?」
「こんな小規模の、学生の溜まり場みてぇな場所での異名がそんなに広がるもんかね?」
仁王は追加で棒飴を口に入れる。
「確かに、この場所自体が今、なくなろうとしている…。バドスン・アータス様のおかげで街の警備が強化されちまってな…。取り締まりがきつくなって、俺ら不良はとばっちりを受けちまってるのよ…。俺たちにとってのパーク、言わば不良パークは存続の危機よ…。」
「そんな事になってんなら、何で俺を引き戻そうとする?俺一人戻った所で事態は好転しねぇだろ?」
「いや、できる。お前が新たに手に入れた力、ディサイド・デュラハンならな…!」
仁王からディサイド・デュラハンという言葉を聞いた途端、深也は身構えた。
「てめぇっ…!どこでそれを!?」
「…なぁ、深也。俺と一緒にデュラハン・パークを乗っ取らねぇか?あの場所を不良たちの夢の楽園に変えてやるのよ…!」
「てめぇっ、道を踏み外すつもりかっ!?それはもう不良じゃねぇっ!ただのテロリストだ!」
「俺たちには革命が必要なんだよ…!終わりのない、永遠の青春がな…!こいつとなら、それができる…!」
仁王が二つの棒飴を噛み砕くと仁王の背後にリーゼントのデストロイ・デュラハン、ダイナミックリーゼルドが着地した。
「なっ…!?てめぇっ…!?」
「驚いたか?今朝の話だ。ヘマして喧嘩に負けそうになった俺を助けてくれた三つ編みの小僧がくれたんだよ。こんなに素晴らしい妖精さんをな…!」
仁王は右手を深也の前に伸ばす。
「俺とお前のデュラハンなら、きっとやれる…!人間はもうバドスン・アータスには勝てねぇっ…!なら、バドスン・アータスについた方が利口だ…!俺らだけの楽園を一緒に作ろうぜ…!
仁王は両目を紫に光らせ、デバイスを構えた。
「てめぇっ、すっかりデストロイ・デュラハンの影響を受けてやがるな…!」
「俺たちの元へ帰って来い、深也!じゃないと、本永の命は補償しねぇっ!」
仁王は取り巻きに天井クレーンを操作させて本永を壁に激突させようとする。
「うわぁっ!?」
「本永っ!!」
天井クレーンは途中で止まり、本永は振り子のように身体を揺らす。
「次はぶつける。さぁ、どうする、深也?」
「くっ…!」
「し、深也さん!俺はどうなったっていい!だから、俺の事は気にしないで下さい!」
「本永…!」
「…俺、芽依ちゃんや道人の兄貴たちと触れ合ってる深也の兄貴が好きなんです!木戸もそうだ!あれこそが、深也の兄貴のあるべき姿なんです!だから、不良王なんて異名の重さなんて、気にしないで下さい!」
「本永、お前…!」
深也は仁王に気付かれないようにスマホを右手で操作する。
「感動の弁論大会は終わったかい!?無意味な時間だぜ!」
「いや、無意味なんかじゃねぇさ!本永の言葉は俺に助け出すチャンスをくれたぜ!行け、オルカダイバァーッ!」
深也は勢いよく右手を前に出すとスマホから光の玉が出てオルカダイバーが実体化。本永の元へと飛び、縄を引きちぎって抱えて助け出す。
「何だ、あの首無し魚人はっ!?」
デストロイ・デュラハンがリーゼントからビーム砲を放つが、オルカダイバーは落下して避け、深也の元に移動して元永を下ろした。
「デュエル・デュラハンの実体化は知らなかったのかよ?詰めが甘いな、仁王! …本永、今の内に逃げろ!」
「し、深也さん、あんた…。」
本永は実体化したオルカダイバーを見て驚いている。
「早くっ!」
「…わ、わかりました!深也さん、どうか気をつけて…!」
元永は全力でこの場から逃げた。
「ちっ…!まぁ、いい!こうなったら力尽くでもお前を仲間に引き戻してやるぜ…!なぁ、ダイナミックリーゼルド!」
「オウ!」
ダイナミックリーゼルドは両目を赤く発光させた。




