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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第2部 DULLAHAN WAR
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95章Side:深也 壱の巻 芽依の見た夢

「道人たち、行っちまったな…。」

「あぁ、俺らは俺らで任された留守を頑張ろうぞ。」


 深也と大樹は一時間目のリモート授業を終え、休み時間を満喫していた。


「…まぁ、俺ら、見送りしてねぇ訳だが…。」

「俺らがパークに来た時にはもう道人たちはフランスに向かったと聞いてびっくりしたぞい…。急な話じゃのぅ…。」

「あっしもジークヴァルたちを見送りたかったさぁ。」


 深也と大樹がパークに着いた時、司令から説明があった。三大勢力はこの御頭街(おがしらまち)を主に襲撃してくる。いくら試練を受けるためとはいえ、フランスは遠過ぎる。時間は掛けられないため、道人と愛歌、潤奈は七時半にパークに着いた途端、即用意された飛行船に直行し、飛び立った。詳しい説明は船内で受けているという。


「しかし、博士が潤奈の宇宙船を参考にして造った高速飛行船ってどんなのなんだろうな?」

「いずれはバドスン・アータスへの襲撃に使うために造った強襲船、そのプロトタイプらしいの…。本来、日本からフランスは飛行機で大体十四〜十五時間くらいなんじゃが、何と驚きの二時間くらいでつけるとか…。」

「明日には帰るつもりだってんだから、すげぇよな…。博士の技術力がすげぇのか、潤奈の故郷の技術力がすげぇのかわかんねぇが…。」

「どっちもすげぇでいいじゃろ。」

「ま、違いねぇ。」


 深也と大樹が笑いながら話していると虎城が部屋に入ってきた。


「深也君、大樹君。次の授業は体育でバスケットボールとなってますけど、パーク内じゃするのは難しいので、遅れてる分の補習をやりましょう。プリント作って来たんで渡しますね。」


 虎城は深也と大樹にプリントの束を渡す。


「おぉっ、虎城さんがわざわざ作ってくれたんか?」

「はい、大樹君たちが受けられなかった授業を教師の方に聞いて私が作りました。みんなに分かりやすいように注釈や解説もつけておきました。」

「つまり、虎城さんの手作り…!よぉ〜し、頑張るぞい!」

「その意気さぁっ、大樹ぅっ!」


 虎城は張り切る大樹を見てクスクスと笑う。


「要は自習か、助かるぜ。体育の授業もっと増えねぇかな。」

「駄目ですよ、深也君。そんな事言ったら。」


 虎城は注意するために前屈みになって右手の人差し指を立てて深也を見る。


「そうじゃぞ、深也!せっかく虎城さんが作ってくれたんじゃ!一緒に一生懸命やろうぞ!」

「だったら、俺の分もやるか?それなら二倍手作りが味わえるぞ。」

「マジか。」


 大樹は一瞬迷うが、虎城がじーっと見ているのに気づき、首を左右に強く振る。


「いや、駄目じゃ、駄目じゃ!自分でやるんじゃ、深也!」

「ははっ、冗談だよ。しゃあねぇっ、やるとするか。」

「二人共、頑張って下さいね。」


 そう言うと虎城は手を振って司令室へ戻っていった。深也と大樹は真剣にプリントと向き合う。が、深也は十分後には鉛筆を何度も机に転がして遊んでいた。その後、リモートで三時間目、四時間目と授業を受けてお昼休みとなった。


「よっし、昼飯じゃ!」


 大樹は待ってました、と言わんばかりに勢いよくその場から立ち上がった。


「深也はどうするんじゃ?一緒に食堂行くか?」

「いや、俺はちょっくら芽依と面会して、一緒に食べるつもりだ。」


 深也もゆっくりとその場から立ち上がる。


「妹さんとかぁ〜っ、良いのう!」

「良かったらお前も来るか?」

「兄妹水入らずのところに俺が入ったら悪いじゃろう。遠慮しとくぞ。二人で楽しく昼を過ごして来い!」

「いや、どこから目線だよ? ったく…。」


 深也は大樹にまた後でな、と右手で挨拶すると走って退室した。お昼休みが終わる前に急いで芽依の元へ向かいたい一心で深也は購買部でパンと牛乳を買った後、すぐにエレベーターに乗り、ビル六階の医療センターへと向かう。窓口で面会許可の紙に記入した後、芽依の病室に入る。


「芽依、入るぞ?」

「あ、お兄ちゃん!」

「一緒に昼飯食おうぜ。」


 芽依は病室でスマホをいじっていた。どうやらデュエル・デュラハンをプレイしていたようだ。机に天使のぬいぐるみとカードデッキが綺麗に置かれている。


「おっ、デュエル・デュラハン、早速ハマってんのか。」

「うん!見て見て、エリカのコーディネート!」


 芽依が見せてきたスマホを見ると芽依のデュエル・デュラハンのエリカは綺麗なエメラルドで統一されたドレスを身に纏っていた。


「良いセンスだ。これならグルーナさんにも匹敵するんじゃねぇか?」

「ふふっ!お兄ちゃん、いくらなんでもそれは褒めすぎ!」

「ははっ、悪い悪い!」


 兄妹で会話をしているとちょうど病院食が運ばれてきた。深也が受け取り、芽依の前の机に置いた。深也も椅子に座り、袋からパンと牛乳を取り出す。


「お兄ちゃん、またパンと牛乳?私に会いに来てくれるのは嬉しいけど、ちゃんと食べないと駄目だよ?」

「いいだろ、別に。ったく、母さんみた…。」

「あ、お母さん…。」


 しまった、失言だったと深也は後悔する。いつもは気をつけていたのだが、今日はつい言ってしまった。母は芽依を産んだ後、すぐに亡くなった。芽依は母の顔を写真でしか見た事がない。芽依の病弱さは母親譲りなのだ。


「わ、悪ぃっ、芽依…。つい…。」

「…ううん、いいの。気にしないで…。ふふっ、今日はこの子と夢のおかげで気分が良いんだ…。」


 芽依は机に置いたスマホを手に取り、エリカを優しく撫でる。深也は話題を変えるためにもデュエル・デュラハンの話をする事にした。


「そのエメラルドのドレス、何かコンセプトでもあるのか?」

「うん、最近よく見る夢に出てきた女の人がモチーフなの…。」

「夢?」

「うん、その女の人ね。私を捜してるみたいなんだけど、ずっときょろきょろしてて…。ここだよ、って話し掛けても聞こえてないみたいで…。」


 芽依は両手でスマホを握り締めた。


「だからね、エリカに似たようなドレスを着せてあげたの。この子が似たようなドレスを着ていれば目印になって、気づいてくれるんじゃないか、って…。」

『…見つけた…!』

「えっ…?」


 芽依は誰かの声が聞こえた気がし、窓の外の青空を見た。


「どうした、芽依?」

「…ううん、何でもない。とにかく、会えたらいいな、って思ってるの。その夢の人と。」

「…そうか、芽依の気分を良くしてくれる人なら、きっとそいつは良い奴だな。」

「あ〜っ、お兄ちゃん。夢の話だからって、真剣に聞いてないでしょ〜っ!」

「んな事ねぇって!」


 この後も深也は楽しく芽依と会話した。苦手な野菜を食べるように言ったり、道人たちの話をしたり、楽しい昼休みはあっという間に過ぎていった。


「んじゃ、俺戻るわ。」

「あ、うん…。」


 芽依はいつもそうだ、深也が去ろうとすると悲しそうな顔をする。


「何て顔してんだよ?別にもう会えないって訳じゃねぇんだからさ。」

「うん…。」

「何だったら、また午後の授業を見に来いよ。兄の大活躍を見せてやるぜ!」

「ふふっ、お兄ちゃん勉強苦手な癖に!」


 芽依が笑顔に戻って深也は安心する。


「そうだ、せっかく近くに遊園地があるんだ。今度連れてってやるよ。」

「えっ!?本当!?」

「あぁ!男に二言はねぇっ!何なら、道人たちも誘ってよ、ぱぁ〜っとやろうぜ!この前のパーティみたいによ!」

「約束だよ、お兄ちゃん!」

「あぁ、約束だ!」


 深也は芽依が嬉しそうに手を振って送り出してくれたのを確認した後、医療センターを後にした。エレベーターで一階まで降りる。


「五時間は…何だったか?道人たち、もうフランスに着いた頃だよな…。」


 深也が独り言を話しているとスマホが鳴った。「本永(もとなが)」と表示されている。深也の取り巻きの一人だ。


「もしもし、俺だ。どうした?」

『し、深也さん、駄目だ…!電話を、切って…!』

『久しぶりだな、不良王。元気してたか?』

「…!? その声は…!?仁王…!?」

『ご名答、俺だよ。俺、新しい玩具を手に入れてよ。今すぐ会えねぇか?』

「はっ、今更俺に何の用だよ?」

『何、ちょっと昔話がしたくてな。御頭街(おがしらまち)にある廃工場で待ってるぜ?来ねぇと…わかってるよな?』


 仁王はそう言うと電話を切った。


「おい、てめぇっ! …ちっ、切りやがった…! …えぇい、しゃあねぇなぁっ!」


 深也は大樹に電話を掛けながら、廃工場まで走った。

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