95章Side:ウェント 目覚めし仲間
「…よし、終わり!左腕の調子は大丈夫か、アレウリアス?」
「動作に問題はない。大丈夫だ。」
ここはバドスン・アータスのシユーザーの研究室。ヤジリウスに斬られた左腕をウェントが修理して取り付けたのだ。アレウリアスは左手を何度もグーパーを繰り返して動作に異常がないか確かめる。
「見事な技術力だ。感謝するぞ。」
「これくらい朝飯前…ってね。」
ウェントは工具を箱の中に片付ける。
「勝手に戦いに行ったと思ったら、左腕を斬られて戻ってくるとは…。みっともない。」
シユーザーが新たなデストロイ・デュラハンを造りながらウェントとアレウリアスの軽はずみな行動に釘を刺した。
「ごめんごめん、軽い腕試しのつもりだったんだけどさ。あいつら、なかなかやるよ。さすがは道人の元に集った仲間な事はある。」
「関心している場合ですか!道人やジュンナには高品質の絶望を味合わせたいんですから、ネタバラシは控えてもらいたいものです!ねぇ、マーシャル?」
「シユーザー様の言う通りです。」
マーシャルはデストロイ・デュラハンの回線調整を淡々とやっていた。
「だから、ごめんって!この通り!な〜?」
ウェントは両手を合わせてシユーザーに謝罪の姿勢を取る。
「全く反省の色が見られませんが…。」
「ウェントに反省を求める事自体が無意味だ。」
「ちぇっ、アレウリアスまでそう言うのかよ?凹むなぁ〜っ!」
ウェントは後頭部に両手を当てて柱に背を当てて床に座る。
「シユーザー先輩こそ、さっさと動いたらいいんじゃない?もうシチゴウセンの元メンバーは少ないんだし。」
「…確かに厄介そうなのはドラゴンジジイとコウモリ野郎くらいで後は手負いのノロマ…。バドスン・アータスを私色に染め上げるには良い機会ですが…。どう思います、マーシャル?」
「私はシユーザー様の言う通りにするだけです。」
マーシャルは虚な目で回線をいじっている。
「シユーザー先輩も物好きで悪趣味だなぁ…。もう彼女、言う事ただ聞くだけの人形みたいになっちゃって…。お姉さん、こんな姿見たら悲しむんじゃない?」
ウェントはその場で逆立ちしてマーシャルを見る。
「迷いを捨てさせてあげたんです。むしろ感謝して欲しいですね。」
「デストロイ・デュラハンの技術力も完全にシユーザー先輩が物にしちゃったし、カウンター・ディサイド・デュラハンも制作できた。もう彼女、いらない子じゃないか。なら、いっその事さ…死なせた方が幸せじゃない…?」
ウェントは逆立ちをやめて、しゃがんだ後、赤い目を妖しく光らせてマーシャルを見る。
「こらこら、まだ使い道は…あるんじゃないかなぁと思うよ?…ま、考えとくさ。ねぇ、マーシャル?」
「シユーザー様の言う通りです。」
「…ご機嫌のようだな、シユーザー…。」
シユーザーの背後にシャクヤスが突然現れた。
「これはこれは、ヴァエンペラ様…。何かご用で?」
シユーザーはヴァエンペラの通信機と化したシャクヤスに頭を垂れた。マーシャルもきょろきょろした後、シユーザーの真似をして頭を垂れる。
「…他二体のカウンター・ディサイド・デュラハンの様子を見に来たのだ…。…わしが与えたラックシルベはうまく調整できたか…?」
「はい、調整はできております。ただ…。」
「…相変わらず適合者が見つからず、か…。」
「えぇ、困ったものです…。」
「こんにちは、シャクヤスのヴァエンペラ様。」
ウェントは立ち上がり、両手をポケットに入れてヴァエンペラを見た。
「あの、他二人と俺、会話してみたいんですけど。構いませんか?起動はできるんですよね?」
「確かに起動はできて、意思疎通はできます。だが、話して何になるというのです?」
「俺とアレウリアスは彼らのリーダーですし。一度話してみたいんですよね、仲間に。それに彼らは夢を見る…。夢から適合者のヒントがわかるかもしれませんよ?」
「…いいだろう…。…シユーザー、準備せよ…。」
シユーザーは立ち上がり、マーシャルと共に布を被せてあるカウンター・ディサイド・デュラハンを運んできた。布を取り、新型カウンター・ディサイド・デュラハンが姿を現す。
「…いつ見ても素晴らしい仕上がりだ、シユーザー…!」
「お褒めに預かり光栄で御座います、ヴァエンペラ様。」
シユーザーはヴァエンペラにお辞儀をした。
「へぇっ…。見なよ、アレウリアス。俺たちの仲間だ。」
「なるほどな。二人とも良きデュラハンだ。名は何と言うのだ?」
「右にいるのが『グレリース』。左にいるのが『ルアンソン』です。」
グレリースはエメラルドカラーの女性海賊型、ルアンソンは黒と茶色の男性騎士型デュラハンだった。
「早く話したいな…。起動をお願いするよ、先輩。」
シユーザーはマーシャルに指示し、スイッチを押させた。グレリースとルアンソンの胸の顔に瞳が宿り、上半身を起こした。
「…また、目覚めさせられた…。」
「今度は何だ…?」
グレリースとルアンソンは周りをきょろきょろする。
「初めまして、グレリース、ルアンソン。俺はソラノ・ウェント。こっちはアレウリアス。君たちのリーダーだ。」
「…リーダー…?」
「…あなた方が…?」
グレリースとルアンソンは不思議そうにウェントとアレウリアスを見る。
「ま、いきなりリーダーだ、って言われても困るよな…。その反応は正しいさ。」
「今はリーダー扱いしなくても構わない。」
グレリースとルアンソンはお互いを見た後、ウェントとアレウリアスを見て頷いた。
「今日は君たちに聞きたい事があるんだ。君たちの見た夢に人間の姿らしい者が見えたりしなかったかい?」
「人間…。」「人間…?」
グレリースとルアンソンは何とか夢を思い出そうとする。
「…私、見た気がします…。」
グレリースが先に思い出した。
「ほう?お聞かせ願えますか?」
シユーザーは録音を開始する。
「…その少女は自由に憧れていました…。他の子たちは自由に歩き回れるのに、自分だけいつも眺めているだけ…。そういえば、男の人が二人いました…。二人は不仲で、自分の事で争うのはやめて欲しいと苦しんでいました…。つらそうだった、可哀想だった…。」
「へぇっ、聞いて良かったよ。結構絞れそうじゃないか?」
ウェントはアレウリアスに意見を求める。
「身体が不自由な子供のようだな。普段は歩けないのかもしれん。家族が不仲で悲しんでいると。」
「場所はどんな所だった、グレリース?」
「…島…。島が見えました…。遊び場や、乗り物、働く人が大勢…。」
それを聞いてウェントは右手の指を鳴らした。
「ビンゴだ。喜べ、グレリース。君のパートナーはデュラハン・パークにいる。」
「本当ですか…?私の、パートナー…。」
グレリースは下を向いて夢で見た少女に思いを馳せた。
「おぉっ!でかしたぞ、ウェント!眠らせておいて正解だったな!」
「ルアンソン、君は?」
シユーザーたちはルアンソンに期待の眼差しを向ける。
「…ミーは…申し訳ない、あまりわからない…。ただ、家族と離れ離れで暮らしていて寂しい思いをしている男…。それだけしか…。」
「場所はわからないのか?」
アレウリアスがルアンソンに問う。
「場所…。すまない、ぼやけていてわからなかった…。」
「そうか、わかった。引き続き夢を見てくれ。」
マーシャルはルアンソンをまた電源を切って眠らせた。
「とりあえず、グレリースのパートナーがデュラハン・パークの病院にいるのはわかったよ。」
「だが、どうする?パートナーが職員関係者なのか、一般人なのかで話が変わってくるぞ。身体が弱いのであれば、あまり外には出ないのかもしれない。あそこはセキュリティが固い。ついに私の華麗な変装能力が…。」
「いや、外でどんぱちを起こせばあるいは…。よし、用意ができ次第、俺とアレウリアス…グレリース、君も来るかい?」
ウェントはグレリースの前に救いの手を差し伸べるように右手を出す。
「私も…?」
「君がついて来れば更に夢の事を詳しくわかるかもしれない。君に早速リーダーらしい所を見せられるかもしれないしね。」
ウェントは右目を瞑ってウインクした。
「…あの子に、会える…。はい…。」
グレリースはウェントの右手を掴み、立ち上がった。
「私は今、自由を手に入れた…。この気持ち、夢で見たあの子にも知ってもらいたい…。」
「できるさ、君なら。シユーザー先輩、デストロイ・デュラハン、一体もらっていくよ?囮に使えるかもしれない。」
「デストロイ・デュラハンを囮扱いですか。まぁ、いいでしょう。許可する。」
「…吉報を待っているぞ、ウェント、アレウリアス…。」
ヴァエンペラは通信を終え、シャクヤスは元に戻る。
「君も来るかい、シャクヤス?大勢の方が楽しいからね。」
「はい、喜んでぇ〜っ!」
ウェントとアレウリアスはグレリースとシャクヤスと共にデストロイ・デュラハン保管庫へ向かった。




