95章 夜空の下の幼馴染
道人と愛歌、潤奈を乗せた大神の車は昨日と同じように道人の家の前に到着した。道人たちは車から降りた後、周りをきょろきょろする。
「今日は来ないわよね?ウェントとアレウリアス…。」
「うん…。」
昨日の今日なので道人たちは警戒心を怠らなかった。敵はいなさそうで道人たちはほっと胸を撫で下ろす。道人たちは家まで送ってくれた大神にお礼を言った。
「三人共、明日は司令の話を聞いた後、いよいよフランスへの試練ね!今日はゆっくり英気を養って、明日に備えるのよ?」
「「はい!」」「…はい!」
大神はじゃあね、っと手を振った後、車を走らせて去っていった。
「…じゃあ、私も帰るね。また明日ね。今日はデュエル・デュラハン制作、手伝ってくれてありがとう。」
「うん、また明日!」
潤奈もそう言ってフォンフェルに抱えられ、屋根を飛び跳ねて行った。
「じゃ、道人!また明日ね!」
愛歌も自分の家まで走って行った。道人は玄関まで歩き、鍵を開けた。
「ただいま、母さん。」
「お帰り、道人。もう晩御飯できてるわよ。それとも先に風呂にする?」
「うーん、先に風呂に入るよ。」
そう言うと道人は風呂に直行し、てきぱきと髪と身体を洗って風呂を済ました。髪を乾かした後、椅子に座って晩御飯を食べ始める。今夜はカレーライス、豆腐、唐揚げだった。
「今日は潤奈ちゃん、帰っちゃったの。また泊まっても良かったのに。」
「いや、毎回泊まられるのは勘弁っす…。」
俺の精神衛生上良くない…。道人は家に泊まっていた時の潤奈を思い出してしまい、恥じらいを誤魔化すために唐揚げを頬張った。食べ終わった後、食器を洗って片付けた。道人は自室に入り、ベッドに背を向けて倒れた。
「…今日は敵、全く来なかったな…。何か久々な気がする、こんなに平和だったの…。」
「何だかんだ言って、我々は勝利してきているからな。三大勢力もそうばんばんと攻めて来れないだろう。」
「うん、だといいけど…。」
今日一日平和だったというのに何故か落ち着かない。何もなかった事が逆に変に感じてしまって道人は困った。
「…あ、そうだ、ジークヴァル。昨日は思わぬ邪魔が入ったけど、話があるんだろう?」
「あぁ、そうだったな…。大事な事なのに失念していた…。いいのか、道人?」
「一日置いたからかな…?今なら落ち着いて話せる気がする…。いいよ、付き合うよ。」
「ありがとう、道人。」
道人はデバイスを持ってベッドから立ち上がり、窓を開けて屋根の上に座りに行く。
「道人?外に出るのか?別に部屋の中でも…。」
「あぁ、気にしないで。昔、父さんと眠れない時とかに夜空を見ながら話してて、その時の癖みたいなもんだから。」
道人は屋根の上に座り、ジークヴァルが映るデバイスを見る。
「おや、道人君。またイベントかい?」
寝巻き姿の愛歌が自分の部屋の窓を開けて話掛けてきた。
「いや、イベントって…。今からジークヴァルと大事な話するの。」
「それって昨日道人が体験してきた事の話?」
「うん、そうだけど…。」
道人の返事を聞いた後、少し考え込んだ。
「ねぇ、あたしも聞きたい。良いかな?」
「聞きたいって…。どうやってここまで来るんだよ?今日はフォンフェルいないぞ?」
「…よし、ヤジリウス!」
愛歌は右手の指を鳴らした。
「何だ?」
ヤジリウスはまた勝手に実体化し、道人の部屋の中から出てきた。
「ヤジリウス、また勝手に…。」
「あたしを道人の隣りまで運んで!」
「…まぁ、いいか。」
「いいんだ。」
愛歌はやりぃっ、とガッツポーズした後、左手にデバイスを持つ。ヤジリウスはジャンプし、愛歌をお姫様抱っこした後、再びジャンプして戻ってきて愛歌を下ろす。
「サンキュー!」
「どうぞ。ごゆっくり。」
だるそうにそう言うとヤジリウスは部屋に戻り、歯車つきの布に戻って机の上に乗った。
「愛歌も聞く事になったけど…。良い、ジークヴァル?」
「構わない。愛歌も私と同じで道人が経験してきた事が気になるだろうしな。」
「まぁ、昔から俺が困った時はいつも愛歌が相談に乗ってくれてたしな…。」
「うんうん、もっとあたしを頼りなさい!」
愛歌は誇らしげに自分の胸元に右平手を配置して笑んだ。
「…じゃあ、話してくれる、ジークヴァル?君の悩みを。」
「あぁ。道人、私はライガとの闘いの後、何故か傀魔怪堕へは飛ばされなかった…。司令室で君の口から何があったのか経緯は聞いた。」
ジークヴァルは悩みを早速打ち明けてきた。道人と愛歌は真剣に聞く。
「だが、私は君が経験した事を言葉でしか理解できなかったのだ。私はパートナーとして、君がその時に思った怒りや悲しみを知りたい。地球の意思というのにも私は面識がない。君とどんどん距離ができている気がしてな…。少しでも認識の差を埋めたいのだ。」
「…なるほど、ジークヴァルの悩みはわかった。けど、うーん…。難しい問題だな…。」
道人は腕を組んで考える。
「俺もジークヴァルが置いてけぼりになるのはよくないな、って昨日思ってさ。ハーライムも交えて会話しようって思ってたんだ。だけど、それでも全部を正確に伝えられるかどうかは難しいな…。」
ハーライムを交えてと言っても三分間で話さないといけない。ドラグーン化すれば六分だけど、それでも難しいだろう。
「作文みたいに書いて読ませたとしても、それでも全部伝わるかはわからないしなぁーっ…。」
「そうか、うむ…。」
「ねぇ、あたし思ったんだけどさ。別にその人の全部を正確に理解する必要はないんじゃないかな?」
「「えっ?」」
愛歌の発言を聞いて道人とジークヴァルは同時に愛歌に意識を向ける。
「あくまであたしの考えだからさ、ジークヴァルにうまく伝わるかはわからないけど…聞いてくれる?」
「うん。」「あぁ。」
道人とジークヴァルは愛歌の言葉を待つ。
「あたしだってもう道人とは大分付き合い長いけどさ、道人の事を全部知ってる訳じゃないのよ。逆も然り。道人もあたしの事全部わかんないよね?」
道人は愛歌の尋ねに頷いた。
「それでいいんだよ。全部を知る必要はない。その人の事を全部知ったからって、更に仲良くなれるって限らないんだからさ。」
「そうなのか…?」
「あたしなんて、道人とジークヴァルにはかなり実力に差が出来ちゃった気がするもん。変身とか、合体とかさ。」
「そうそウ、愛歌の言う通リ!」
愛歌はトワマリーのデバイスを見て笑む。
「力や経験した事に差はできても、例えこの先追いつけなくても、あたしと道人の関係は変わらない、変わらせない…!」
「変わらないと、変わらせない…。」
ジークヴァルは愛歌の言葉を自分の言葉として発して理解しようとする。
「聞いて、ジークヴァル。あたしはこう思うんだ。十糸姫はきっと無事で道人の助けを待ってる。だから、十糸姫を助けられなかった悲しみは知らなくていい。一緒に助け出そう、くらいの気概でいいんじゃないかな?」
愛歌はジークヴァルに伝わりやすいように道人の肩に寄っ掛かってデバイスを見る。
「地球の意思ってのも、今は道人の前にしか姿を見せないけど、そんな重要な存在ならきっとあたしたちの前にも姿を見せる…。認識の差なんてさ、気にしなくていいんだよ。 …って、根拠も何もないんだけどさ!でも、あんまり先の事、答えのない事で悩んでもさ、自分を傷つけるだけなんじゃないかな?」
愛歌は道人の肩から離れて照れながら左手で後頭部を摩る。
「あたし、思った。ジークヴァルはさ、きっと怖いんだよ。人や物を大事に思って、失う事を恐れながら行動する道人が焦りの余り、無理して死んじゃうんじゃないか、ってさ。」
「…! そうだ、私はそれが…!」
ジークヴァルは自分の右平手を見つめる。やっと自分が悩んでいたものを見つけた気がして、それが離れないように握り拳を作った。
「現に道人、ダジーラク戦で大分無理して戦って死にかけてたしね。あたしや潤奈も冷や冷やしたんだから…。あの光景を見て怖くならないなんて、嘘だよ…。」
愛歌はダジーラク戦で死にかけた道人を思い出したのか、少し目が潤んだ。
「道人もさ、ジークヴァルも今まで哀しい経験をしてきて、もう失いたくないって必死になっちゃっただけだよ。二人に距離なんかない。それどころか、二人共お互いを想い合えてるじゃん!」
「そっか、俺は父さんの事を思い出して…。姫を助けられなかった事で、無意識にその出来事と重ねちゃったんだ…。だから、必死に…。」
「そうか、私もきっと…。」
ジークヴァルと道人の意識が共鳴し、二人の脳裏にダジーラク戦でハイドラグーン・ジークヴァルクが必殺を放った際に現れた少女が思い浮かばれた。
「ありがとう、愛歌…。私はとんだ勘違いをしていたようだ…。君の言う通りだ。私は怖かったのだ。大事な人がまた失われるのが…。」
「僕もごめん、ジークヴァル…!僕もそうだ、怖かったんだ…!父さんがいなくなった日の事、深也が行方不明になった事、姫を助けられなかった事…!もうあんな目はごめんだからって、僕は自分の身の安全は考えてなかった…!それがジークヴァルを逆に心配させちゃったんだ…!」
道人はジークヴァルが映ったデバイスを涙ぐんで見た。愛歌は道人の頭に優しく触れ、寄せた。
「…! 愛歌…!」
「…道人、昨日は忙し過ぎて感情を吐露できなかったでしょ?あたしが胸貸してやるからさ、ほら…。」
道人は愛歌の優しさに涙腺が決壊し、涙が止まらなくなった。女の子の前で泣き声は聞かれたくない。道人は必死に声を押し殺して愛歌の胸の中で泣いた。愛歌は優しく頭を撫でる。
しばらくして、道人は何とか泣き止み、愛歌から離れた。
「…ごめん、愛歌。かっこ悪い所見せちゃったな…。」
「何言ってんの、かっこ悪くなんてないよ…。道人はさ、いつだって…その、頼り甲斐あるんだからさ…。」
「…愛歌…。」
道人と愛歌は頬を染め、見つめ合う。
「…ちょい待ち、道人。」
愛歌はいきなり道人の口の前に右手を配置する。
「な、何だよ?」
「…まだ、お預け。 …これでおあいこかな?」
「は?何言って…?」
「何でもなーい!」
愛歌は立ち上がり、道人に背を向ける。
「ちょっト!愛歌、いいノ?良い感じだったのニ〜!」
愛歌はトワマリーのデバイス画面に軽くデコピンした。
「あたし、帰るね!また明日!」
「愛歌、君が話し相手になってくれて、いてくれて助かった…!ありがとう…!」
愛歌はジークヴァルの感謝の言葉を聞いて微笑んだ。ヤジリウスが実体化し、愛歌をお姫様抱っこする。
「…さっきのお前の励まし方、見事だった…。」
「えっ?」
「…愛歌、か。愛の歌とはよく言ったものだ。その名、覚えておこう…。」
「はい?あんた、何キザな事言って…? って、ちょっ!?」
愛歌が言い終わる前にヤジリウスは愛歌の家の屋根まで飛んだ。
「行っちゃった…。ははっ!でも、おかげですっきりしたや!ねぇ、ジークヴァル?」
「あぁ!」
「よし、三分だけでもいい!ハーライムとちょっと会話した後、寝るぞーっ!昨日は眠りが浅かったんだ!今日は熟睡してみせる!」
「その意気だ、道人!」
道人とジークヴァルは楽しそうに部屋に戻った。ヤジリウスは腕を組んで二人の姿を見た後、満足げに歯車付きの布の姿に戻り、机の上に乗った。




