92章 俺の名は…
満月の下でDアレウリアスがクバリダスに乗馬状態でヤジリウスとハーライムを見ている。
「くっ、仲間が傷ついていくのをただ見ている事しかできないとは…!我ながら不甲斐ない…!」
デバイスの中でジークヴァルが悔しがった。
「俺も同じ気持ちだよ、ジークヴァル…!俺もディサイドできれば、ガントレットで戦えるのにって思うから…!」
「道人…。」
「俺が今できるのはハーライムとヤジリウスを全力でサポートする事だけだ…!ジークヴァルも俺に指示のアドバイスをしてくれ!一緒に二人を支えよう!」
「あぁ!」
もうすぐ三分経つ。道人は一旦ハーライムをスマホに戻してドラグーンハーライムにしようと考えた。
「戻って、ハーライム!」
ハーライムは光の玉に戻り、道人のスマホの中に戻る。すぐに道人はスマホを操作し、ドラグーンハーライムとして再び出そうとする。
「再び現れよ、ドラグーンハーライム!」
スマホの中から光の玉が出て、ドラグーンハーライムが姿を現し、ヤジリウスの横に立つ。一度スマホ内に戻れば斬られた右腕も元通りだ。
「行くぞ!私の足を引っ張るなよ、鎧武者!」
「てめぇもな、緑野郎!」
ドラグーンハーライムはDアレウリアスに向かって両羽の小型プロペラから緑の竜巻を放つ。Dアレウリアスがビームの手綱を引っ張るとクバリダスが前足を宙に一回上げた後、駆け出した。
「アレウリアス、こちらもヘッドチェンジだ。承認不要。ダブルリフレクトブーメラン。」
三つ編みの少年は既に手に持っていたカードをデバイスに読み込ませた。アレウリアスは今つけている頭を右手で掴んで捨て、新たな頭が装着される。鋭角の両耳がついた黒騎士の頭、両肩にビーム砲、両腕に二つの鏡のように煌めく巨大ブーメランを手に持つ。
「ブーメランまで使うのか…!それなら!チェンジ!ドラグーンモード!」
ドラグーンハーライムは両手剣を出現させて地面に刺した後、機械龍になる。
「不本意だが、私に乗れ!」
「はっ、乗り心地悪そうな龍だな!」
ヤジリウスは地面に刺さった両手剣を持った後、ドラグーンハーライムに乗って空を飛ぶ。
「空中戦か。いいだろう。」
DRBアレウリアスは二つのブーメランをドラグーンハーライムに向かって投げた後、クバリダスと共に空を駆ける。
「あの馬、空飛べんのか…!ちっ…!」
ドラグーンハーライムは急上昇し、向かってくる二つのブーメランを避けた。投げられたブーメランはDRBアレウリアスの手元には戻らず、まるで時が止まったように宙に静止する。
「何だ、あのブーメランはっ!?」
DRBアレウリアスはダブルビームガンを両手に持ち、両肩のビーム砲を前方に向ける。クバリダスも馬の口から光を集め出す。
「喰らえ、フルバースト。」
DRBアレウリアスはダブルビームガンで連射、両肩の砲門と馬の口から巨大ビームを発射する。
「避けやがれ、緑野郎ぉっ!」
向かってくるビームの嵐をドラグーンハーライムはわざと飛ぶのをやめ、急落下して避けた。
「よし、いいぞ!」
「甘いな。」
三つ編みの少年はデバイスで宙に固定されていたミラーブーメランを操作し、外れたビームを無理矢理反射。再びドラグーンハーライムにビームが向かっていく。
「なっ!?そんなのありかよ…!?」
「ありだから起きている。お前たちに反射するビームが避けられるか?」
「しっかり掴まっていろ!」
ドラグーンハーライムはジグザグに飛び回り、追ってくるビームを何とか避けていく。
「無駄だ。ビームは更に増やす事ができる。再びフルバースト。」
「ちっ、反撃の隙も与えねぇってか…!」
DRBアレウリアスは追撃のビームを放った。
「いけない…!このままじゃ防戦一方じゃない…!?」
「…どうしたら…!?」
愛歌と潤奈はただ見ているだけの自分たちの今の状況を悔しがった。
「…今の状況…ひょっとしたら、あいつらは…。」
道人は右手を顎に当てて思考していた。
「…道人、恐らく私たちは同じ考えに至っている…。」
「ジークヴァル?」
道人はデバイスに映るジークヴァルを見た。
「例え、奴らが未来予知レベルの状況把握能力を持っていたとしても、生き物としては絶対に避けられない事がある…。その一瞬をつければ…。」
「…正解、ジークヴァル。俺と同じ考えだ。そのためには愛歌と潤奈の手伝いが必要だ…。よし…。」
道人は三つ編みの少年に気づかれないようにスマホを操作し、愛歌と潤奈のスマホにメッセージを送った。二人のスマホに着信音が鳴る。
「…! 着信…?」「…何?」
愛歌と潤奈は無言で頷く道人に気づく。互いにスマホのメッセージを確認し、道人のやろうとする事を理解し、二人は道人に頷き返した。
「…これは賭けだ…!よし…!」
道人は未だにビームを避けて飛び回るドラグーンハーライムにスマホで通信する。
「ドラグーンハーライム、頼む!すぐに地上に戻ってくれ!」
「…! わかった!意地でも戻ってみせる!鎧、しっかり掴まってろ!」
「うおっ!?」
ドラグーンハーライムは急下降し、地上に戻ろうとする。ヤジリウスは無駄だとわかっていても右手に持った剣で近くにあったミラーブーメランをとりあえず斬った。
「逃がさん。」
DRBアレウリアスもドラグーンハーライムを追って下降。クバリダスが上腕付近から巨大なブレードを横に伸ばした。
「地上まで無事に戻れると思っているのが間違いだ。このまま切り裂く。」
「うおぉっ!?早く!早く下降しろぉっ!」
ヤジリウスは焦りながらドラグーンハーライムの装甲をバシバシ叩いて急かした。DRBアレウリアスはフルバーストを放ちながら落下する。ミラーブーメランもドラグーンハーライムに迫る。
「…いや、どうせ落下すんならもう乗る必要はねぇか!」
ヤジリウスはドラグーンハーライムから離れ、別々に落下する事を選んだ。
「あいつ、何て無茶を…!?」
ヤジリウスが降りたおかげでドラグーンハーライムは身体が軽くなり、加速する。
「…空中で無防備を晒すだと? …馬鹿なのか?」
「馬鹿で結構!その方がてめぇの状況把握を上回れるかもなぁっ!」
ヤジリウスは落ちながら抜刀の構えを取る。
「確かに理解不能だ。無防備な奴ほど真っ先に戦場では死んでいくのがセオリーだ。このままビームに焼かれて落ちろ。」
DRBアレウリアスは容赦なくフルバーストをヤジリウスに放った。
「シャアァッ!」
ヤジリウスは鞘から刀を抜刀し、黒いオーラを纏った刀で向かってくるビームをぶった斬った。
「まだまだぁっ!」
ヤジリウスは黒いオーラがなくなる前に刀をがむしゃらに振りまくり、小型ワームホールを作り出して向かってくるビームを無力化した。
「やるな。だが…斬る!」
クバリダスが展開したブレードで突進する。
「させっかぁっ!」
ヤジリウスはギリギリで刀をクバリダスのブレードに当ててわざと吹っ飛ばされ、地面に到達し、転がって倒れた。
「…何がしたかったんだ、こいつは?」
「掛かったぁっ!」
DRBアレウリアスは地面に着地した瞬間、道人が叫んだ。周りに十五もの扉が出現。扉が一つ開き、扉の中から薔薇の鞭が伸びてDRBアレウリアスとクバリダスが鞭で巻かれた。
「ん…?貴殿は…。」
「そウ、あなたに首を取られタ、CGトワマリーだヨ!」
トワマリーは扉の中からDRBアレウリアスを挑発した。
「この一瞬、逃すな!ハーライムゥッ!」
「任せろ、ジークヴァル!!」
ドラグーンハーライムはライムブラスターを構えてすぐに発射する。
「くっ!」
DRBアレウリアスは何とか身体を捻ってライムブラスターのビームを避けようとするが、左腕に直撃してしまう。ビームに焼かれて薔薇の鞭は焼かれ、取れた。
「見事だ。だが、一手足りなかったな。」
「果たしてそうですか?」
DRBアレウリアスの頭上にワープヘッドフォンフェルが出現。回転して落下し、クバリダスを刀で斬り裂いた。
「貴殿…!」
「ワープでの出現なら、さすがのあなたも対応出来なかったようですね…!ぐっ…!」
まだ発作が収まってないワープヘッドフォンフェルはそのまま地面に転がって苦しみだす。クバリダスから飛び降りたDRBアレウリアスはダブルビームガンを倒れているワープヘッドフォンフェルに向ける。
「俺を忘れんな、ヒッヒャァッ!」
「…!」
DRBアレウリアスの背後のクローズゲートの中から出てきたヤジリウスが逆手に持った刀を勢いよく斬り上げ、左腕の切断に成功した。
「ちっ、見事だ…!」
「ぐおっ!?」
ヤジリウスは飛んできたミラーブーメランをまともに喰らい、吹っ飛んだ。DRBアレウリアスは飛び跳ね、三つ編みの少年の目の前に着地し、二つのミラーブーメランを周りに浮かせて配置する。愛歌と潤奈は無理して動いて倒れているトワマリーやフォンフェルの元へ向かった。
「へぇっ、驚いた!?君たちがアレウリアスの左腕を切断するなんて、思っても見なかったよ!ふふっ、じゃあ…リミッ…!」
「待て。」
三つ編みの少年が何かを言おうとしたが、DRBアレウリアスは止めた。
「今日は顔見せだったはずだ。ここでそれを使うのはよせ。」
「…残念、わかったよ。」
三つ編みの少年は残念そうに目を瞑って下を向いた。その後、道人に話し掛けた。
「…なるほどね。俺らはもうトワマリーやフォンフェルが戦闘不能だと思い込んでいた…。戦えないと思っていた奴の戦線復帰…。その油断をついた訳か。」
「そうだ、お前たちの油断や慢心、相手を見下す隙をついたんだ。」
三つ編みの少年は道人に拍手を送った。
「ヤジリウスって奴もすぐには立ち上がれないと思っていたしな…。移動用のワープヘッドでまさかの短距離移動攻撃も見事だった…。やるじゃないか、道人。素晴らしいチームプレイだ。でも、もうこの手は…。」
「わかってる。二度目は通用しない。お前たちはそんな間抜けな奴らじゃない。でも、また次は別の手でお前たちを追い詰めてみせる…!それだけだ…!」
道人は強い眼差しで三つ編みの少年を睨んだ。三つ編みの少年はクバリダスをスマホの中に戻す。
「…良い決心だ。いいだろう、今日はもう充分だ。帰ろう、アレウリアス。」
「あぁ。…失礼した。次は貴殿たちを舐めたりはしない。全力で狩らせてもらおう。」
三つ編みの少年とDRBアレウリアスは後ろを向いた。
「…あ、そうそう。道人、まだ全部をネタ晴らしする時じゃないが…褒美だ。俺の名前を教えてやるよ。」
三つ編みの少年は振り向いて笑顔で道人たちを見た。
「俺の名前は『ウェント』。『ソラノ・ウェント』だ。」
「えっ…?」
自分と同じ苗字を名乗るウェントを見て道人は硬直した。
「果たして君の何なのか?兄なのか、はたまた弟なのか、それとも…ふふっ、それは後のお楽しみさ…。」
ウェントは蝶の羽を生やして羽ばたかせ、アレウリアスと共にこの場所からすぐに姿を消した。道人はただ呆然と立ち尽くした。こうして道人の長き一日はやっと終わった。




