90章 邪悪なるディサイド・デュラハン
時刻は八時半。道人たちを乗せた大神の車は道人の家の前に到着した。道人と愛歌、潤奈は車から降りて大神に挨拶をしようとする。大神も道人たちの挨拶を聞くために車のウインドウを開けた。
「大神さん、わざわざ家まで送って頂いてありがとうございました。」
道人が先にお礼を言ってお辞儀した。
「いいのいいの、これくらい!明日も何だったら迎えに来ちゃうし!また明日、パークで会いましょうね!」
「はい、お休みな…。」
「やぁ、道人に潤奈じゃないか。こんばんは。」
急に話し掛けられ、道人たちは声が聞こえた方を見た。前に道人が車椅子で行動していた時にパークで会った三つ編みの緑髪の少年だった。
「あ、君はあの時の…。」
「何?知り合いなの?」
愛歌が道人と潤奈に尋ねた。
「…うん、前にパークで会った人。」
「彼もブーメランが好きでさ、その時少し話したんだ。…って、あれ?俺、君に名前教えたっけ…?」
道人はそこが気になった。でも、あの時の会話で潤奈と名前を呼び合ったから覚えてくれていたのかもしれない。
「うーん、どうだったかな?まぁ、いいや。それより、ちょっと君たちに聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「何?」
「ライガ先輩が帰って来ないんだけど、君たち、何をしたんだい?」
「えっ…?」
少年からライガの名前が出て道人たちは硬直する。少年の赤い両目が更に赤く発光した時、ヤジリウスが勝手に実体化した。
「道人、こいつから離れろ!こいつが今放った殺気…只者じゃないぞ…!」
「えっ?ヤジリウス…?」
「邪魔。」
三つ編みの少年の隣に謎の黒マントが出現し、ヤジリウスを殴って吹っ飛ばした。
「ぐあっ!?」
「ヤジリウス!?」
ヤジリウスは近くの街路樹に背中を強打する。
「あんた、一体…!?」
愛歌と潤奈は右腕のエンブレムをタッチして一瞬で制服姿になり、デバイスを持って少年に警戒態勢を取る。フォンフェルも潤奈の隣に瞬時に出現する。大神は大急ぎでスマホを鞄から取り出し、博士に連絡を取る。
「主、下がって!彼は何かおかしい…!」
「おいおい、それはないだろう?同じディサイド・デュラハン使い同士、仲良くしようじゃないか。なぁ、道人?」
「な、に…?ディサイド…?」
道人が困惑する中、謎の黒マントが自分のマントを掴んで伸縮させ、背中に移動。黒い首無し騎士が姿を現した。黒マントの裏地は血を彷彿とさせるように真っ赤だった。
「紹介するよ。俺のバドスン・アータス製ディサイド・デュラハン、『アレウリアス』。」
三つ編みの少年は右手に黒と紫のデバイスを見せつけた。
「…嘘っ…!?」
潤奈は両手を口に当てて目を潤ませた。
「…あーっ、ごめんね、潤奈。そんなにショックだったか…。無理もないね。」
「どういう事だっ!?バドスン・アータス製って…!?」
道人も右腕のエンブレムをタッチして制服姿に変わる。ヤジリウスが立ち上がり、道人の側に立つ。
「君たちは手の内を見せ過ぎたんだよ。戦島での戦いや今までのデストロイ・デュラハンの研究成果で充分データは取れた…。シユーザー先輩の手に掛かればこの通りさ。」
三つ編みの少年は親指で隣のアレウリアスを指差してた。
「そう…言うならば、こいつはカウンター・ディサイド・デュラハン!」
「カウンター…!?そんな、事って…!?」
愛歌が三つ編みの少年の言う事を聞いてショックを受ける。
「今日は遊びに来ただけなんだ。アレウリアスもまだ本調子じゃないしね。シチゴウセンを次々と倒して調子に乗ってる君たちに釘を刺しに来ただけさ。ふむ…。」
三つ編みの少年は左手を顎に当て、まるで陳列された商品を見るような目で道人たちを眺める。
「ジークヴァルはライガ先輩との戦いでお疲れだろう?本調子じゃないジークヴァルと遊んでもつまらないし…。よし、今日はそこの黒武者君やハーライム、フォンフェルの相手をしてあげよう。いいね、アレウリアス?」
「…戦えるんなら、何でも構わん…。」
「うっし、早速ここで…。」
「道人、どうしたの?何か騒がしいけど…。」
「…!? 母さん!?」
秋子が玄関から外に出て見ていた。この騒がしさなら、出てきても仕方がない。となりの家の愛歌の母も出てきた。
「母さん、駄目だ!家の中に戻って!」
「えっ…?」
「うちの母さんもよ!」
秋子と愛歌の母は事態を把握できずにきょろきょろしていた。
「…秋子か…。まだ……の…面には早いからな…。」
三つ編みの少年がぼそりと何か呟いた。道人には小さくてよく聞こえなかった。
「…よし、道人たち、この近くに公園があるよな?そこでバトろう。もし、来なかったら…わかるよな?」
「くっ…!」
三つ編みの少年は親指で住宅街を指差した。来なかったら暴れて街を壊すという三つ編みの少年の不快な意図が嫌でも伝わった。
「待ってるからな、道人!」
三つ編みの少年とアレウリアスは空高く飛び跳ね、一瞬で姿を消した。
「何なの、あの子の跳躍力…!?どうなって…!?」
愛歌は少年の並外れた跳躍力に驚きを隠せずにいた。
「道人、行くしかあるまい!」
「あぁ!」
ジークヴァルの言葉に即答し、道人は秋子の方を見た。
「母さん、ごめん!俺…行かなきゃいけない!」
「…わかった。気をつけるのよ、道人?無茶しちゃ駄目だからね…!」
秋子は道人の意図を察してくれた。
「秋子さん、大丈夫!」
「…私たちもついてますから!安心して下さい!」
愛歌と潤奈も道人を心配する秋子に向かって元気付けた。
「あなたたちも充分気をつけるのよ?」
「愛歌、あなたもね!」
「わかってる!心配しないで、母さん!」
愛歌も心配する自分の母に返事をした。スマホを耳に当てたまま、大神が駆け寄って来た。
「…道人君、博士に聞いてみたけど、ジークヴァルのボディはまだ修理中で駄目なの。」
「…仕方ないですよ、ライガとの戦いは今日の朝の出来事ですから…。」
それにチーム結成パーティを開くきっかけを作ったのは自分だ。今日パーティなんてやらなきゃよかった、なんて事態には絶対にさせるものか、と道人は歯を食いしばった。
「大神さん、ワープカードでトワマリーを呼ぶよ!良い?」
「それは博士に了承済みよ!流咲ちゃん、教えた通りにやれば大丈夫だから!やっちゃってぇっ!」
大神がスマホで流咲に指示した後、愛歌のデバイスに光が収束し、ワープカードが実体化する。愛歌は左手でカードをキャッチして即座にカードスラッシュした。
『転送開始。』
愛歌の持っていたカードが消え、デバイスから光が溢れ出し、愛歌の前に光が収束してトワマリーが現れる。
「トワマリー、インストール!」
デバイスからビームを放ってトワマリーの胸の顔に当たり、瞳が宿った。愛歌の首にネックレスが装着される。
「行きましょウ、愛歌!奴が痺れを切らしテ、暴れ回る前ニ!」
「あたぼう!」
道人たちは急いで近くの公園まで走る。大神も車に乗ってスマホを片付け、エンジンを掛け直した。五分と経たずに公園に辿り着き、公園の中央に立っている三つ編みの少年とアレウリアスの姿を確認した。
「おっ、やっと来たねぇ!へぇっ、トワマリーも来たんだ。こっちは四人掛かりでも大歓迎さ!さぁ…来なよ。」
三つ編みの少年の赤い眼光が怪しく光る。道人たちはそれを見て悪寒が走った。
「貴様、さっきはよくも…!」
「ま、待って、ヤジリウス!」
ヤジリウスが真っ先に攻撃を仕掛けようとしたので道人は急いで静止した。幸いな事にヤジリウスに警戒心が移ったからか、悪寒は収まった。
「何故止める!?」
「ヤジリウスの攻撃は危険だ!無闇にワームホールを作られたら困るんだよ…!全く攻撃するな、って言ってるんじゃない!相手の隙を見て一撃を叩き込むんだ!」
「…ちっ!」
ヤジリウスは道人の意見が気に入らなかったのか、道人から視線を逸らした。
「頼む、ハーライム!」
道人はスマホから光の玉を出し、ハーライムを実体化させた。本当はジークヴァルも交えてハーライムと一緒に傀魔怪堕に行った情報整理をしようと思っていたのだが、もうそれどころではない。ハーライムとフォンフェル、トワマリー、ヤジリウスは横並びに立つ。
「へぇーっ、壮観だねぇっ!ヒーロー大集結だ!さぁ、俺たちを楽しませてくれよ?」
三つ編みの少年はデバイスからカードを出現させ、左手でカードを掴んだ。
「ディサイドヘッド、デストラグル・パラディン!」
「なっ…!?」
「嘘っ!?」
「…いきなりディサイドヘッドなんて…!?」
「君たちと違って、アレウリアスは最初っからディサイドヘッドが使えるんだよ!」
アレウリアスにV字の黒い角がついた黒い騎士の頭がつき、尖った肩と新たな胸当てがついた黒騎士の姿となる。左手にデストラグルランス、右手にデストラグルブレードを手に持つ。
「デストラグル・パラディンアレウリアス、爆誕…かな?さぁて、必死で殺意をぶん投げ合おうか…!」




