88章 D・D PARTY!
「…うん!私、いいよ!やりたい!」
道人の急なクッキング宣言にいち早く賛同したのは潤奈だった。待ってました、と言わんばかりに目を輝かせている。
「そっか、ずっとお預けだったもんね…。わかった、あたしは賛成!」
続けて愛歌もOKを出してくれた。
「おっしゃぁっ!確かにこのタイミングならいけそうじゃな!やったるぞい!」
「がんばるさぁっ!」
大樹もカサエルも快く承諾してくれた。
「…芽依も参加していいか?それなら、もちろん、俺もいいぜ。」
深也も賛成でこの場にいるD・DFORCEメンバーの参加が決定した。もちろん、芽依の参加も大歓迎だ。
「そうだ、せっかくだからD・DFORCE結成記念パーティって事にして、司令たちも誘ってみようか。流咲さんの歓迎も兼ねてさ。」
「確かに!いいね、それ!あたし、わくわくしてちゃった!道人、何か今日気が利くじゃん?」
愛歌はこのこの、と右肘を軽く道人の胸に当てた。
「話は聞かせてもらった。」
「し、司令!?」
司令室から出てきた司令が腕を組んで仁王立ちした。
「確かにデュラハン・ガードナーは最近多忙過ぎるからな…。息抜きも指揮向上も必要だ。私が博士やオペレーターたちを誘ってみよう。大規模な会場を今から用意するというのは難しいが、それらしい場所を用意する事はできるだろう。よし、善は急げだな!」
そう言うと司令は急ぎ足で司令室に戻っていった。
「あ、でも、食材はどうするの?前デパートで買った食材は期間が空いちゃったから、虎城さんたちが持ち帰っちゃったけど…。」
「あ、そっか…。うーん…。」
愛歌の疑問を聞いて道人は唸った。
「話は聞かせてもらったわ!」
「えっ!?また!?」
「…グルーナさん!?」
道人と潤奈が驚いて後ろを向くとグルーナが監視役と共に立っていて、仁王立ちしていた。
「ど、どうしてここに?」
「ふふん、道とんにどうしても幽体離脱の経験談を聞きたくてね…!創作意欲を抑える事ができず、こうして許可を得て参ったという訳さ!」
「そ、そうですか…。」
道人は乾いた笑いをしながら両腕をガクッと下ろした。
「…その、潤奈のためにみんなが故郷の味を再現するイベントを邪魔しちゃったのは私だしさ…。責任感じてる訳よ。」
「…そんな、もういいんですよ、グルーナさん。」
潤奈は少し前に出て、気にしなくていいという気持ちを込めて右平手をグルーナに向ける。
「ううん、ここで償わせて!食材は私にまっかせなさい!私が食費代を全額負担して用意してあげるわ!私の経済力ですぐにここへ用意してあげるから!」
そう言うとグルーナはスマホを取り出し、電話をし始めた。
「何か、俺が提案したらえらい事になっちゃったな…。」
「いいじゃん?賑やかでさ!こうなったらさ、思いっ切りぱぁ〜っとやろうじゃん!」
「…うん、そうだね!よ〜し、がんばるぞぉーっ!」
「「「おぉーっ!」」」
こうして道人たちのパーティの準備が開始された。まずは親に帰りが遅くなる連絡を各々する。海音にも連絡を取り、自分もリモートでいいから参加したいと申し出でくれた。深也は芽依の面倒を見た後、連れてくると言って別行動を取り、病室へ向かった。
「みんな、ちょうどいい空き部屋を用意できたぞ!大きな厨房もあるし、大人数でも大丈夫だ。博士たちも皆、ずっとはいられないが、参加してくれるとの事だ。」
司令がそう知らせてきて道人たちは嬉々として空き部屋に向かう。そんなに汚れた部屋ではなかったが、まずは部屋の片付けからする事になった。
「…行くよ、フォンフェル!ヘッドチェンジ!フロアクリーナー!」
『あなたは清廉潔白で居続ける心を持ち続けられますか?』
「…うん!」
『承認。』
フォンフェルに紫バンダナヘッドが装着される。白いジャケットを羽織った、右手に掃除機を持つ姿に変わった。
「ふっ、この程度の片付け、我が宇宙船掃除に比べれば造作もない事…!いざ!」
FCフォンフェルは物凄い勢いでてきぱきと部屋を片付けていく。
「主、床と窓の清掃は完了!机と椅子を用意を頼みます!」
「…うん、わかった!」
潤奈たちは協力してパイプ椅子を置いていく。道人には体調を気遣って無理をせずにゆっくりと置いていくように愛歌に注意された。
「…すごいね、フロアクリーナーヘッド。フォンフェルも張り切ってる。貸してくれてありがとうね、大樹。」
「なぁ〜に、たまたま持ってたドレスアップ用のアクセサリーヘッドじゃしな。何なら、あげるわい。俺が持っててもしょうがないしの。宇宙船の掃除に役立ててくれ。」
「…ほんと?嬉しいな。ありがとう。」
戦争以外で人と協力し合うデュラハンの姿を見て道人は十糸姫との別れの事を思い出してしまう。糸の使い方だけじゃない、ディサイド・デュラハンだって戦争以外で人と触れ合った方が良いはずだ。戦い自体を否定したい訳じゃない。ライガやレイドルクみたいに戦う事で喜びを感じる者もいるだろう。でも、それは殺し合いの状況でなくてもできるはずじゃないか?道人の頭の中で終わりのない自問自答が駆け巡る。
「でも、良かったの?今日はもう敵は襲って来ないと高を括っちゃってフォンフェルにヘッドチェンジさせちゃったけど…。」
「…一回分くらいならすぐに回復できるよ、問題ないさ。」
敵がいつ襲って来るかわからない状況で警戒して出しづらいのはわかっているけれど、ハーライムを戦闘以外の用事で出してあげられないかな、と道人は思った。
(最初のラクベス戦の夜と母さんに少し見せたくらいだもんな、ハーライムを戦闘以外で呼んだのは…。)
「道人?どうしたの、手を止めちゃって。」
「えっ?あぁ、ごめん。ちょっと考え事…。」
「そう…。あまり無茶しないでね。休み休みやりなさいな。」
「ありがとう、愛歌。」
道人はぶり返してきた悲しみを和らげるためにパイプ椅子並べに集中した。
部屋の清掃が終わり、ちょうど食材を乗せたトラック一台が会社エリアの駐車場に到着した。シユーザーの変装能力を警戒し、配送員は会社内には入れられない。道人も力仕事は控えてもらう事になり、食材は大樹やフォンフェル、駆けつけてくれたランドレイクとルレンデスが運んでくれた。
司令たちも合流し、早速調理に入った。食堂の関係者も駆けつけてくれたので心強い。道人は博士、司令、ランドレイク、ルレンデスと共に円になって座り、具材のカットを始める。
「…何かすごいメンバーだ…。」
道人はじゃがいもの皮をピーラーで剥きながらメンバーを見る。
「ふっ、安心しろ、道人君。私も家内の料理を手伝った事がある。…たまにな!」
「なぁに、こんなのはな…シンプル・イズ・ベストじゃよ…!普通にやればいいんじゃ、普通に…。」
「お二人さん、そう力まずに。道人の大将はカット問題なさそうっすね。」
「まぁ、家で手伝ったりしてるし…。」
「なるほど、通りで!よ、色男!」
ランドレイクのノリに何とかついていきながら道人は黙々と皮を剥く。博士と司令が手を怪我しないかハラハラもした。
「グルーナ、料理もできるんだね!すごいや!」
ルレンデスは皮を剥きながらまな板の前に立って華麗な包丁捌きを披露しているグルーナを誉めている。エプロン姿さえも美しく着こなしている。
「ふっ、脳あるホークはクローを隠すのよ、ルレンデス!潤奈、安心なさい!あなたの故郷の味はこのグルーナが再現してみせる!」
「私も負けていられませんね…!いざ!」
フォンフェルが三体くらいに分身しているように見えるくらい高速で調理する。
「…フォンフェル、対抗せずに普段通りに料理していいんだよ?」
潤奈がおどおどしながらフォンフェルを止めに入る。潤奈もエプロン姿がよく似合っていた。
調理は二つの班に分かれて行われている。大勢が食べるパーティ用料理を作る班とミスパト再現班に分かれた。食堂からの応援勢がパーティ用料理を主に担当している。
「虎城先輩、ミスパトというのは白い生地の中に細い麺状の物が入っており、一つで色んな甘みが味わえる温かい食べ物…で合っていますね?」
「えぇ、潤奈さんが以前そう仰ってました。」
「よし、近しい食べ物でいうと…。」
調理補助の大神がタブレットでデータ照合を開始する。
「…ヒット!近しい食べ物はこれだけ出たわ!」
大神は予測結果を虎城と流咲に見せた。
「これだけ食材があれば、再現可能ですね…!麺も一から作りましょう!」
「後はグルーナさんのセンスが必要…!」
「私、グルーナさん、呼んできます!」
「頼んだわよ、流咲ちゃん!必ず再現してみせるわ…!待ってて、潤奈ちゃん…!」
あっちはあっちで盛り上がっている。かなり本格的だ。普段見られないが、いつもあんな感じでオペレートしてるのだろうか、と道人は思った。
「何という迫力…!ついていくのが精一杯だわ…!あたしも負けてらんない!頑張らないと…!」
愛歌もグルーナたちの熱意に当てられて燃え上がっていた。
道人たちも具材のカットが終わり、ミスパト再現班に加わる。加わると言っても主に調理するのは虎城と流咲、大神、グルーナ、愛歌の五人。他のメンバーは温めのお湯や蒸し器の用意。フィンガーテスト、蒸しあげ、具材を生地に包む作業などを手伝う。
虎城と流咲が麺打ち用板の上で生地を力強く麺棒で伸ばす、グルーナと大神がボウルに具材を入れてまとめる、目にも止まらぬ早業で調理していく。
「…駄目、味が甘過ぎる!これでは味の広がりがないわ…!これは別の料理にしましょう!急いでやり直すわ…!」
「わかりました、あたしがやっときます!」
愛歌は別の台に移動して自分のアイデアで料理を作り出す。
「グルーナ、大丈夫?あまり根を詰めすぎめない方が…。」
熱心に調理するグルーナを大神は心配する。
「いいえ、妥協はなるべくしたくない…!時間ギリギリまで粘りたいの…!潤奈には迷惑掛けたから…!あの子…ううん、あの子だけじゃない…!みんなにあの子の故郷の味が伝わるような、そんな食べ物を作りたいの…!」
「…わかった。あなたの調理補佐として、とことん付き合うわ。」
「…ごめんね、付き合わせて。面倒臭い芸術家でしょ?」
「いいえ、素晴らしい姿勢だわ、グルーナ。」
「そう?ふふっ、機会があったらどこか楽しい所へ遊びに行きましょうね、大神?」
グルーナに余裕と笑顔が戻り、再びボウルに手を伸ばす。
「道人、大樹、すまねぇっ!遅れちまった…!加勢するぜ!」
深也が芽依の車椅子を押して入室してきた。深也は屈んで芽依の頭を優しく撫でる。
「芽依、良い子に待ってな。俺の仲間たちが作ったとっておきの料理を味あわせてやるぜ!」
「お兄ちゃん、言い方!…もう、うん!楽しみにしてるね?」
深也は笑んだ後、厨房に走る。エプロンを着て、充分に手を消毒した後、加勢に入った。何をすればいいか、愛歌に指示を仰いだ。
「潤奈、嬉しそうだね?」
道人がとなりで作業していた潤奈があまりに楽しそうなので話しかけた。
「…そう?だって、みんな頑張ってて…。きっとうまくいく…。うん、うまくいくよ、きっと…!食べるの、楽しみだな…。」
道人と潤奈は一緒に具材を生地に包みながら微笑みあった。




