84章 三位一体
道人とハーライム、十糸姫の前に立ちはだかる三大将軍。道人はまた撤退しようと考えるが、とてもそれを許してもらえそうな状況ではない。特に極亞という鎧武者デュラハンから発せられる殺気は凄まじい。道人は冷や汗を掻きながらもハーライムと共に戦闘態勢を取った。
「久しぶりだな、十糸姫。我らが封印された時以来か。随分捜したが、もうこの傀魔怪堕にはいないのかと思ったぞ。」
「そんな事はどうでもよい!何故じゃ!?何故お前たちは目覚めた!?封印は未だ継続中のはずじゃ!」
「ふふっ、バドスン・アータスとやらのおかげでな…。そやつらをきっかけに封印解除を手助けしてくれた方がおられるのだ。」
そう、ハーライムがさっき気にした事。以前、烈鴉が戦島で言いかけた封印解除を認めた存在。今、このタイミングなら聞けるはずだ。
「答えろ!一体誰なんだ、お前たちの封印解除を認めた奴ってのは!?」
「ふふっ、いいだろう。その方は…地球。地球の意思だ。」
「えっ…?」
道人の脳内に青と緑の髪の子供の姿が思い浮かぶ。自分に未来の前借りを与えたり、宙にワードを浮かべて予言めいた事を伝えてくれたあの子が傀魔怪堕の封印を解いた…?道人は困惑する。
「ど、どういう事だっ!?あの地球の意思が、何でお前たちを…!?」
「…ほう、貴様、地球の意思と会った事があるのか。どっちの地球かは知らんが…。」
また極亞は妙な事を口走る。まるで地球が二つあるみたいな言い方だ。
「ど、どっちってどういう事だよ?地球が二つあるとでも言うのか?」
「ふん、貴様と地球の意思がどんな関係かは知らぬが、これ以上貴様に話す意味もない。かかれ…!」
「ま、待て…!?」
極亞は右手を素早く横に振ると烈鴉が槍を両手で持って襲い掛かる。
「危ない、道人!」
ハーライムは両刃の斧を出現させ、向かってくる烈鴉の槍を弾いた。
「ほう、やるのぉっ!良い斧だ!どれ、今から槍に変えてやるかのぉっ!」
烈鴉は左手を伸ばしてハーライムの両刃の斧に触れようとする。
「…!? もしや、お前も…!?」
ハーライムは手首を回転させ、両刃の斧を回転させて烈鴉の左手を弾き、後ろに跳んで距離を取った。
「あいつの左手も災鐚と同じで作り替える系か…!近寄らずに距離を取って攻撃しよう、ハーライム!」
「あぁ!」
道人はスマホを操作し、ハーライムにブーメランヘッドを装着した。
「道人、我も…!」
十糸姫は陰陽術を使おうとするが、道人は手で静止した。
「姫、待って!姫が陰陽術を使うのはまだだ…!僕たちがもう打つ手がなくなった時やここぞという時に使って欲しい…!」
「わ、わかった…。」
さっき姫が疲労してからそんなに経っていない。あまり姫には無理はさせられないと道人は考えた。姫との会話の後、制服バリアが起動した。飛んできた矢を防いだようだ。
「弾かれた。何かに弾かれた。結界の類いと認識。」
災鐚は道人を狙って矢を放ったようだ。ブーメランハーライムは両刃の斧を回転させながら移動し、ブーメランを投げて烈鴉と交戦している。烈鴉の左手にブーメランが触れないように気を遣いながら戦っているため、道人と姫の守りにはいけそうもなかった。
「姫、僕の後ろに隠れて…!」
「う、うん…!」
「自分、結界破り慣れている。披露。」
災鐚は左手を地面につけてたくさん弓矢を作り出す。拾っては弓で放つを繰り返す。
「あいつ、何を…!?」
道人は姫を連れて災鐚の射程範囲から逃れようとするが、災鐚はしゃがみながら摺り足の要領で移動し、道人から距離が開かないようにしながら弓を放つ。道人の制服バリアの一点にヒビが入り出す。
「嘘だろ…!?あいつ、同じ場所に正確に矢を打っているのか…!?移動しながらなのに…!?姫っ!!」
道人はもうバリアが破られると判断し、姫を抱いて横に倒れた。バリアは割れ、地面に落ちて霧散する。
「結界、破壊、成功。造作もない。」
制服バリアがもう完全に使えなくなった訳じゃない。道人は何とか制服バリアのリチャージまで姫を連れて災鐚の射程から逃げないといけない。
「くっ、デバイスがあればガントレットとレッグパーツが使えるのに…!でも、使えたとしても、こいつら…強い…!」
道人は姫は絶対に守る姿勢で姫の身体を自分の背中に密着する形で後ろに下がる。
「道人、姫…!くっ…!」
「ふむ、存外にしぶといな。だが、これはどうかな?」
見物していた極亞は左肩から球体を脱着し、宙に浮かせる。右手に砂袋を持ち、烈鴉の槍を避け、宙に浮いた無防備な状態のブーメランハーライムに向かって砂袋を投げた。
「うっ…!?な、何だ…?何ともないが…?」
ブーメランハーライムはただ砂をぶつけられただけで特にダメージはなかった。着地した後、交戦中の烈鴉を再び警戒する。
「おっと、我の所に来るがいい。月光玉、起動。」
極亞がそう言うと先程宙に浮かせた月光玉が紫に発光して起動。するとブーメランハーライムが極亞に向かって引き寄せられる。
「な、何だっ!?身体が勝手に…!?」
「ふっふっ、自分から来てくれるとは楽なものよな?」
極亞は刀を鞘から抜く。禍々しい紫のオーラを漂わせた巨大な刀を構える。
「駄目だ、避けられ…!?」
「しゃあぁっ!」
ブーメランハーライムは咄嗟に両腕を交差し、極亞の斬撃を防いだ。極亞は再び刀を構え直すためにブーメランハーライムを蹴って吹っ飛ばした。
「がぁっ…!?」
「さぁ、また斬ってやろう。来い。」
また月光玉が発光し、ブーメランハーライムは倒れたまま再び引き寄せられる。極亞は一回刀を鞘に仕舞い、抜刀の構えを取る。
「くっ…!?こ、これでは態勢を立て直す暇が…!?」
「くっ、戻って!ハーライム!」
極亞は抜刀するが、ブーメランハーライムは光の玉に戻って道人のスマホに戻る。
「よし、また来て!ハーライム!」
ハーライムは再びスマホから出てきて、道人の側に実体化した。この世界ではハーライムの実体化制限時間はないようだから、それを活かした緊急回避法を道人は咄嗟に思いつけた。
「ハーライム、実体化し直したから、浴びせられた変な粉は取れたはずだよ。」
「助かった、道人。もう二度とあの粉には掛からないようにしよう。」
ハーライムを近くに呼び直せたが、劣勢な状況に変わりはない。
「くっ、一体どうしたら…!?」
「…道人、其方に託したい物がある!もしかしたら、この状況を打破できるきっかけになるやもしれん…!」
「えっ?本当なの、姫?一体…。」
十糸姫は懐に手を入れると矢が飛んできた。ハーライムが両刃の斧を出現させて弾く。
「十糸姫、懐に何か隠し持っている模様。形成逆転される恐れあり。もう以前のようなヘマはしたくない。」
「おぉ!誠か、災鐚!ならば、姫を徹底的に狙うべきだな…!」
烈鴉は槍を構え、穂先を十糸姫に向けた。
「…いや、待て。もう三人まとめて葬ろう。十糸姫の封印のせいで死者の管理が遅れておる。我らも多忙の立場ゆえ、こんな所でもたもたしている暇はない。」
「ほう…。すると、『あれ』か?」
「『あれ』、理解。久々。」
三大将軍は道人たちを見て笑い出す。
「な、何だ…?一体何をする気だ…!?」
「あやつら、まさか…!?その前に、道人に…!」
十糸姫はこの隙に再び懐に手を入れるが、極亞の右肩から二つの球体が発射される。十糸姫に向かってビームが放たれる。
「危ない!」
ハーライムは道人と姫を抱えて飛び跳ね、球体から執拗に放たれるビームを避け続けた。
「行くぞ、災鐚!烈鴉!」
「おう!」「どうぞ。」
「「「三位一体!!」」」
三大将軍はそう叫ぶと空を飛び、変形を始める。極亞は両足を外し、災鐚は右足、烈鴉は左足に変形して極亞と合体して新たな足となる。新たな巨大な角のついた頭パーツに付け替えられる。極亞の巨大な刀に槍と弓が合体し、新たな巨刀となった。
「極・烈・災!三つ将はここに集った!暗黒合身!極烈災将軍!!」
「なっ…!?合体した…!?」
極烈災将軍は着地し、巨刀を道人たちに向けた。
「さぁ、貴様たちを今日、傀魔怪堕に招待しよう…!ただし、死者としてな…!」




