9章 繋がり
道人と愛歌は開発エリアからモノレールで移動し、遊園地エリアに到着した。
平日の五時なので人は空いていた。時間的に遊園地で遊ぶのは大体一時間だけにしようと二人で約束した。
道人は恐る恐る遊園地の入退場ゲートにフリーパスをタッチすると本当に中に入れて感動した。
「すごい、本当に入れた…。」
そんな道人の様子を見て、愛歌は微笑んだ。
「ふふっ!じゃあ、行こ!」
愛歌はもう待ち切れない、って様子で道人の右手を掴んで走り出した。
「わわっ!?おい、愛歌!」
「あれ、乗ろ!あれ!」
愛歌はジェットコースターを指差した。道人は乗った事がなかったが望む所だ、と意気込んで入口へ入り、貴重品をロッカーに入れた。
ジークヴァルのデバイスも連れて行きたかったが、係員さんがスマホ類もロッカーへと指示されたのでやむなくロッカーへ置く事に。
「すまない、ジークヴァル…。すぐ戻るから…いざ!」
「何だ、あの道人の意気込みは…?ジェットコースターとは一体…?」
道人と愛歌はジェットコースターに乗り込み、係員の安全確認を終えた後、発車した。
「何じゃぁあぁあぁーっ!?」
ジェットコースターの最初の下りの急落下の時点で道人は絶叫した。
「はははっ!道人、喋り方が大樹君みたい!」
愛歌は笑いながら道人の様子を見ていた。あっという間にジェットコースターは一周し、発車場所に戻ってきた。道人はよろけてロッカーのドアを開けた。
「み、道人!?どうした!?何があった!?ジェットコースターとは…一体!?」
「だ、大丈夫だよ、ジークヴァル。へとへとになってるけど、楽しかったよ。」
「そ、そうなのか…。疲れて楽しい、か…。」
今度乗る時、デバイスを装着できる簡易ベルトを用意してジークヴァルにも体験させてあげようかな、と道人は考えた。
「道人、次はね、次はね!」
愛歌は普段以上にハイテンションでついていくのが大変だった。メリーゴーランド、デュラハンだるま落とし、と駆け抜けるように楽しんでいった。最後はお化け屋敷に入った。
「道人、先を歩いてよ…。」
「う、うん…。」
愛歌は道人の右腕を掴みながら恐る恐る前に進んだ。道人は怖さよりも愛歌が密接している事のドキドキの方が勝っていた。
「見ているか、トワマリー。あれは私たちと同じデュラハンだ。」
「えぇ。でも、私たちとハ違っテ見た目はバイオレンスネ…。」
道人と愛歌はデバイスを手に持って歩いているのでジークヴァルたちもお化け屋敷を楽しめているようだ。
お化け屋敷の出口まで愛歌はジェットコースターの時より絶叫し、その度に道人に抱きついてきたので出口に着いた時には道人の顔はオーバーヒートしていた。
時間的にもう次のアトラクションには乗れそうになく、晩ご飯を食べにレストランへ向かった。
「何食べる、道人?」
「そうだな…。」
いくらフリーパスで無料だからといい、それでも遠慮してしまうな、と道人は自重してデュラハン・ハンバーグ定食を頼み、愛歌はデュラハン・ナポリタンセットを頼んだ。
「今日は楽しかったね、道人。また遊ぼうね。」
「う、うん。」
「もしかして二人でデートとか?」。道人は今朝の大樹の台詞を今頃思い出した。
「これ、デート…だよな?大樹さん…。」
「うん?何か言った?」
「何でもない、何でもない!」
道人は慌てて両平手を左右に振った。料理が運ばれてくるまでまだ時間がかかりそうなので良い機会だから愛歌に色々聞いてみようと思った。
「なぁ、愛歌は初めてトワマリーと会った時ってどんな感じだったの?」
「うん?聞きたい?いいよ。日曜日の朝に博士が訪問しに来たんだ。君に会わせたい人がいるから来てくれないか、とか色々事情を話してきてね。博士は有名な人だったし、別に疑わなくても大丈夫かなと思ってデュラハン・パークの実験エリアについて行ったの。そこにいたのがトワマリーだった。」
愛歌はデバイスのトワマリーを見た。
「トワマリーとは初めて会ったはずなのに何故かずっと昔から一緒だった感覚があったの。すごく綺麗な、桜の花のようなピンク色の鎧にあたし見惚れちゃったなぁ〜っ…。」
「もう、愛歌ったラ…。」
トワマリーは照れているようだ。
「それで博士にこの子のパートナーがあたしだけなんだって言うなら喜んで協力したいって言ったの。これも何かの縁。あたしはそれを大事にしたいって。その後、ニ体くらいバドスン・アータスのデュラハンと交戦して、次がライガとの闘い、って訳。」
「愛歌、ライガ戦の前に既に二回闘ってたのか。怖くなかったの?」
道人は心配そうに聞いた。
「そりゃあ、怖かったよ。ゲームのデュエル・デュラハンと違って相手は本気で殺しにかかって来てるから。」
その時の事を思い出したのか、愛歌は自分の両手を見て震えていた。
「でも、トワマリーと一緒だから一人じゃなかったし、何とか戦えた。ルブランもいたから家でも戦闘シミュレーションができたし、道人や大樹君と遊んでたおかげでデュエル・デュラハンのヘッドチェンジの戦術も実戦に応用できた。お母さんだってデュラハン・ガードナーの事情は知らないけど、いつも通りに振る舞ってくれてる。フランスにいるお父さんも毎日あたしと連絡してくれていて。色んな人との繋がりがあたしに力を、勇気を与えてくれてるの。」
愛歌は両手で握り拳を作った。
「でも、繋がりって言ってもずっとあるとは限らない。いつかは切れてしまうかもしれない。だから、今ある人との繋がりを、日常を、あたしは大事にしたいんだ。」
「うん。愛歌らしいよ。」
ニ人で笑い合っているとようやく料理が運ばれてきた。
「さ、食べよ食べよ!いただきまぁーす!」
道人と愛歌は箸を手に取り、食べ始めた。
「ところで愛歌、デュラハン・ガードナー絡みで帰りが遅くなる事あっただろ?家族への博士の対応ってどんな感じだった?」
「博士に気に入られたから研究室で〜って。」
「あぁ、なら、僕の時と同じなんだね。」
ニ人は楽しく話しながら食事を楽しんだ。
「良い話を聞かせてもらった…。良かったなぁ、トワマリー。愛歌と会えて…。」
「え、えェ。ありがとウ、ジークヴァル。」
ジークヴァルの素直さな感想にトワマリーも恥じらいで返答に困っている様子だった。
時刻は六時四十五分。司令が急用から帰ってきたと大神から連絡を受け、道人たちはモノレールで会社エリアの駅に着いた。
「楽しかったけど、すっかり遅くなっちゃったな…。」
「司令も今日は手短に話して後は後日って事だから、急ご、道人!」
道人と愛歌は急ぎ足で司令室に向かおうとしたが、道人は見覚えのある人物を見かけた。
青髪のロン毛、ネックレスや指輪などの金属類をつけた男。今朝学校で会った海原深也だ。道人は声をかける事にした。
「君!海原、君…だよね?」
「ん?あぁ、お前は今朝の…。」
「ここは関係者以外立ち入り禁止だから、怒られる前に帰った方がいいよ。」
「ん?お前は関係者なのか?その女も?」
道人と愛歌は自分たちが関係者かどうかを答えるか言い淀んだ。
「…まぁ、いい。俺には用事があってな。放っておいてくれ。」
「だから、駄目よ!その先に行っちゃ!」
「邪魔をされては困りますね。彼のしたいようにさせなさい。」
深也のとなりにバドスン・アータスのマーシャルが出現した。
「お前は…!?確か、マーシャル!」
何故深也と一緒に?と困惑し、身構える道人と愛歌。
「マーシャルだと!?道人!」
「気をつけテ、愛歌!」
ジークヴァルとトワマリーもその名前を聞いて殺気立つ。
「何だ、お前ら。こいつと知り合いなのか?」
「深也、このニ人はあなたのしようとしている事の邪魔者です。排除した方がいいでしょう。」
「何だかよくわからねぇが、こいつの姿を見たら怖がって逃げんだろ。来い、デトネイトランドレイク!」
深也が右手で指を鳴らすと禍々しい紫のオーラを放つデュラハンが空から降りてきた。海賊の船長のような格好をし、ハンマーを持ったデュラハン。
「えっ!?デュラハン?何で?」
深也がデュラハンを呼んで驚く道人と愛歌。
「お初にお目にかけます。これこそが我らが芸術品。名はあなた達風に言うと『デストロイ・デュラハン』!」
マーシャルは自分の胸に右手を当てて道人たちを見下すように話した。
「おい、ラックシルべってやつを探してお前に渡せば、本当に妹の病気を治してくれるんだな?」
「えぇ、ニンゲンたちには治療が難しくても我らバドスン・アータスの技術なら可能です。」
「わかった。必ず渡してやるぜ…!」
「さぁ、あなた達の大好きなデュエル・デュラハン!私と一緒に遊びましょう!」
デトネイトランドレイクのハンマーがデュラハン・パークのビルの壁を粉砕し、サイレンが鳴り響いた。




