8章 格納庫にて
時刻は三時三十分。道人と愛歌を乗せた大神の車はデュラハン・パークの開発エリア駐車場に到着した。
司令に急用が入ってしまい、少し遅れるという話を大神から聞かされ、司令が戻ってくるまでの間、博士がディサイド・デュラハンについて詳しく教えてくれる事になった。
駐車場には博士が待っていて、こちらに手を振っていた。道人たちは車から降りて博士の側に寄った。
「博士、道人君と愛歌ちゃんをお連れしました。」
「うむ。ご苦労だった、大神君。すまんね、道人君。司令に急用が入ってしまって。」
「いえ、仕方ないですよ。ライガとの闘いは昨日の今日ですし、忙しいんでしょうから。気にしないで下さい。」
道人は両平手を左右に振った。
「それじゃあ、早速開発エリアの案内…の前に、道人君にこれを渡しておこう。」
博士はカードキーを道人に手渡した。
「これは?」
道人は何度もカードの表裏を見た。
「このデュラハン・パーク内を自由に歩けるようになるフリーパスじゃ。大事にするんじゃぞ?」
「えっ!?いいんですか?こんなすごい物もらっちゃって…。」
道人は両手でカードを持ち、両腕を前に伸ばした。
「はははっ、道人君はもうデュラハン・ガードナーの一員じゃからのう。失くすんじゃないぞ?」
道人は目を輝かせてカードを見た。
「良かったな、道人。」
ジークヴァルも道人の喜びように言葉を掛けた。
「うん!すごいなぁっ…!愛歌も持ってるんだよね?」
「もち!」
愛歌は財布からカードを取り出して見せた。
「よし、行こうか!今日は良い所に案内してやろう!」
「良い所?」
「ついてからのお楽しみじゃ!」
博士は嬉しそうに通路へ進み出した。
大神は司令室で仕事があるからと言って去って行った。
開発エリアの通路を歩いていると研究員や作業ロボットがたくさんいて、色んな機械がたくさん置いてあった。
通路を彩る鑑賞用植物や絵画も配置してあり、歩いていて全然退屈しない通路になっていた。
道人は感激しながら首を何度も動かし、その様子を隣で見ていた愛歌も嬉しそうだった。そうしている内に博士の足が止まり、目的地にたどり着いた。カードキーとパスワードを入れ、中に入る。
「ようこそ!道人君、ディサイド・デュラハンの格納庫へ!」
道人の目の前に映ったのはディサイド・デュラハンの配置してある格納庫だった。三体のデュラハンが横並びに立っていた。
「ついさっき整備・点検が終わったところじゃ。」
「わぁっ…!ジークヴァルにトワマリー、それと…?」
トワマリーのとなりに見慣れない緑色のデュラハンが立っていた。
「あれは開発中のデュラハン「カサエル」じゃ。まだデュラハン・ハートが搭載されておらんので動かん。」
「デュラハン・ハート?」
「気になるか?よし、見せてやろう。」
博士がリモコンを操作するとジークヴァルの胸の顔部分が開き、人間でいう心臓部に大きくて綺麗な白い石がセットされていた。道人はその石に見覚えがある気がした。
「これがデュラハン・ハートじゃ。ディサイド・デュラハンの動力部を担っていて、これがないと動かん。」
「綺麗でしょ?ちなみにトワマリーのデュラハン・ハートも赤くて綺麗なのよ?」
「何か照れるナ、愛歌…。」
トワマリーがデバイス内で恥ずかしがっていた。
「あの、この石はどうやって作られているんですか?」
「この石は古代遺跡で見つかった物とか、捕獲した謎の首無し騎士のもの、何故こんな所にあるんだ?というので様々でな。生成方法は不明なんじゃ。」
今の博士の言葉には気になる箇所が多く、道人はまず何から質問しようか迷った。
「ははっ、安心せい。気になる点が多いんじゃろう?ちゃんと説明してやるわい。」
博士から見ても道人が慌てているのがわかったようで察してくれた。
「まずこの御頭街にはいくつか古代遺跡があっての。何度か調査を行なっていたのじゃが、その時にはこの石は見つからなかったんじゃ。だが、ある日突然出現したのじゃ。そして、その石の検査・回収作業を行おうとしたら謎の首無し騎士が襲ってきたんじゃ。」
「えっ!?大丈夫だったんですか?」
「あぁ、ボディーガードも何人か連れておったし、スコップとかドリルなどの武器になりそうな物もあったおかげで時間は掛かったが、何とか倒す事ができたんじゃ。」
道人はそれは良かった、とほっと胸を撫で下ろした。
「その後、機能停止した首無し騎士と石を回収し、わしの研究所に運んで調べたんじゃ。首無し騎士の体内を調べると見つけた石と同じ物がついておった。それはこのデュラハンのエネルギー機関という事がわかり、わしらはこの石をデュラハン・ハートと呼称する事にした。」
道人はなるほど、と右手を顎につけた。
「石自体は握ったら少し力が漲ると感じるくらいで、他には特にないただの石じゃ。どういう原理でデュラハンが動いているのかは今でもわかってはおらん。」
「私たちはそんなよくわかってない物で動いているのか…。」
ジークヴァルは少し不安に思ったようで道人と愛歌、博士は慌ててなだめた。
「すまん、すまん。話を続けよう。その後の事じゃ。この街で何度か謎の首無し騎士が現れるようになり、街に被害を出すようになった。」
「それって…。」
「うん、バドスン・アータスだったんだね。今思えば。」
道人の言おうとした事に愛歌が答えた。
「ちなみに道人が大樹君と遊んでいた時に雷が落ちたでしょ?あれはライガがやった事だったの。」
「えっ?そうだったの?」
道人は意外な場面であの雷の真相を聞かされた。
「あたしもその事を知ったのは道人との帰り道の時だったの。」
だからあの時、慌てて急用で帰ると言ってたのか、と道人は納得した。
「なるほど…。でも、デュラハン絡みのニュースなんて僕見た事ないですよ?」
博士の方を向いて博士の話の続きを聞いた。
「都市伝説扱いじゃったり、怪奇事件として扱ったり、隠蔽で爆発事故という事で片付けてたりであまり明るみにはならなかったらしいんじゃよ。」
道人はそういう事か、と納得した。
「わしもその時はデュラハン・ハートの研究に夢中であまり外の事は疎かったんじゃ。しかし、ある日の事じゃ。わしの机に謎の手紙とディサイド・デュラハンの設計図が置いてあったんじゃ。」
道人は少し驚愕したが、博士の次の言葉を待った。
「手紙にはカタカナでこう書いておった。『…コノチキュウ ネラワレテイル。ホロビノチカラニハ コレデタチムカッテ』と…。わしはこの設計図を怪しんで他の研究員と話し合ったんじゃが…。」
「じゃが?」
道人はつい博士の言葉遣いに合わせて聞いてしまった。
「その設計図には文字はわからんかったが、解析していく内に物凄く魅力的な事がたくさん書いてある事がわかっての。わしも含め、多くの研究員の研究魂を燻るものだったんじゃ。これを実現できればこの街のロボット技術が格段に上がるかもしれない、と。」
博士はその時の情熱を思い出したのか、両手で握り拳を作った。
「そして、わしらはディサイド・デュラハンの制作を開始した。それが0号機と一号機トワマリーじゃ。」
「そウ、私。」
トワマリーが返事をし、道人は愛歌が右手に持っているデバイスを見た。
「0号機?」
道人は気になってつい言葉に出した。
「0号機は初めに造ったせいか、欠陥が多くての。実験エリアの地下に置いておったんじゃが…。」
「じゃが?」
道人はまた博士の言葉遣いに合わせて聞いた。
「ある日、突然なくなってしまったんじゃ。」
「えっ!?誰かに盗まれたって事ですか!?」
「うむ…。監視カメラには誰にも映っとらんかったし、突然消えたんじゃ。今でも調査を続けておるんじゃが、未だ見つかっておらん…。」
道人はどういう事だ?と考えても答えは出ないのに思考し、気にした。
「いなくなった0号機の後、もう一機も遅れて完成した。それがニ号機、ジークヴァルじゃ。トワマリーは起動後、人格が備わっていて問題なく起動したのじゃが、ジークヴァルは何故か起動せんかった。だから、実験エリアの地下に置いておいたんじゃ。0号機のような事がないように今度は厳重にの。」
道人は今のを聞いて疑問に思う点があった。
「でも、ジークヴァルは度々僕の夢の中で僕の事を呼んでいましたよ?」
「何じゃと?それは本当か?」
道人は右手に持ったデバイスを博士と見た。
「あぁ、そうだ。私は起動する前から意思があって自分の名前とパートナーが誰かを知っていた…。だから、道人を何度も呼びかけていた…。」
「何と…。そうと知らず、わしは起動しないからと言ってお前さんを地下に放置してしもうたのか…。すまん事をした…。」
博士は落ち込み、下を向いた。
「いや、いいんです。顔を上げて下さい、博士。私はこうして今、道人と出会えたのですから。気にしないで下さい。」
「おぉ、そう言ってくれるか…。じゃが、そうなると0号機にも意思があったのかもしれんの。悪い事をした…。」
「ト、トワマリーも目覚めた時、あたしがパートナーってわかってたんだよね?」
ネガティブな博士を励ますため、愛歌が別の話題に切り替えた。
「えぇ。私が目覚めた時モ、自分の名前とパートナーの名前を自覚していたワ。」
「あぁ、ディサイド・デュラハンの名前をつけたのはわしじゃが、パートナーをどう選んでいるのかは未だわからんのじゃ。トワマリーが愛歌ちゃんの名前を呼んだので探して事情を話し、来てもらったのじゃ。」
博士がそう言った後、自動ドアが開いて研究員が入ってきた。
「博士、すぐに目を通してもらいたいものが。」
「おっと、わかった。すぐ行く。すまんな、道人君。少しずつ情報を教えようと思ったんじゃが、大分長くなってしまったな。覚えるのも大変じゃろう。今日はこの辺にしておこう。」
博士はそう言って研究員についていき、退室した。道人と愛歌も格納庫から出た。時刻を確認したら四時半だった。
「さて、どうする、愛歌?司令、帰ってきたのかな?」
愛歌は大神に連絡をして聞いてみた。
「まだみたい。」
「そっか。じゃあ、どこかで暇つぶししようか。どこに行く?」
「遊園地エリア行こうよ、道人!」
「え?でも、チケット代とか持ち合わせてないよ…。」
道人は自分の財布を見た。
「ふふん♪忘れたのかね、道人君?さっき博士にもらったものを。」
「博士に?」
道人は思い出し、財布の中に入れたフリーパスを取り出した。
「何と、それがあれば遊園地エリアの乗り物も乗り放題、レストランも食べ放題なのだ!」
「誠か?」
「誠です!」
「良かったな、道人。」
「フフッ!ご機嫌ネ、愛歌。」
道人はまるで夢のようだ、とテンションが上がり、愛歌と共に遊園地エリアに向かった。




