プロローグ 約束のブーメラン
「………。…? ここは…?」
気がつくと人気のない原っぱに一人立っていた。左右を見ると石造の建物がいくつかある。遠くを見ると雲一つない青空と草原がずっと続いていた。
「行くぞ、道人!」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、すぐに後ろを振り返ると幼い自分と父・豪の姿があった。それを見て道人はこれは夢だとすぐ気がついた。豪は勢いよく右手を振ってブーメランを投げた。
「すごい、すごい!」
豪の投げたブーメランは力強く風を裂いて進み、素早く手元に戻ってきた。
「よぉし、次は道人の番だ!投げてみろ!」
幼い道人はやる気満々で豪の真似をして投げたが健闘虚しく、すぐに地面に落ちた。
「あぁ〜っ、駄目だぁ〜っ!父さんみたいにうまくいかないよ〜!」
はたから見ると幼いとはいえ、こんなにはしゃいでいる自分を見て道人は恥ずかしさを感じていた。それと同時に懐かしさと嬉しさも感じていて自然と笑みを浮かべていた。
「ははっ!まだまだだな、道人!」
豪は道人の頭を優しく撫でた。
「どうやったら父さんみたいに投げられるの?投げ方の問題?それとも僕のブーメランの作りが甘いのかなぁ?」
幼い道人は自分の右腕や自分の作ったブーメランを確かめながら見ていた。
「父さんのブーメランについてるその綺麗な石も関係あるのかな?」
幼い道人は豪のブーメランの右のウイングの部分に埋め込まれている透明な石を指差した。この石は過去に豪がたまたまこの場所で拾ったものだ。
「まぁ、この石をつけたら不思議と力が漲るような気もするが…まぁ、ただの飾りだよ。かっこいいだろ?」
幼い道人は豪のブーメランを色んな角度から眺めながら考えて唸っていた。
「まぁ、何事も練習と経験だ!今度仕事から帰ってきたらまた鍛えてやろう!」
「ホント?あっ、でも…。」
幼い道人は今までの元気が嘘みたいに急に静かになった。
「ん?どうした?」
「お母さん、言ってたよ?今度の宇宙飛行は月の近くまで行くって…。」
豪の職業は宇宙飛行士で家にいる期間の方が少なく、この日も珍しく休みができたので道人と遊ぶ事ができた貴重な日だ。
「ああ、月の近くに何かの物体が見つかってな。それの調査をしに行くんだ。」
それを聞いた幼い道人はまた当分父とは遊べないのかと思ってしまい、涙が溢れ出した。一生懸命両手で目を擦る。
「泣くな、道人。すぐ帰ってくるさ。」
豪は右手を道人の右肩に置き、見つめた。
「でも…。」
「いいか?ブーメランって投げたら戻ってくるだろう?冒険家にとっては縁起がいいものなんだ。旅に出ても無事に帰ってくるって…。俺はブーメランが大好きでな…。道人もそうか?」
「うん!」
幼い道人は力強く頷き、両手を目から離した。
「よし、良い子だ…。このブーメランに誓って約束だ!父さんは必ず帰ってくる!だから、帰ってくるまでにブーメランの腕を上げとけよ?成長した姿を父さんに見せてくれ!」
「うん!約束!」
この日、日が暮れるまで父さんと遊んだ。そして、この日が父さんが初めて約束を破った日になった…。
日が暮れると同時に道人の周りが暗転した。父の事を思い出し、沈んだ気持ちになっている時、どこからか声が聞こえた。
「…道…人…。」
道人は周りを何度も見渡したが、暗闇しかなかった。
「道…人…、早…わた…元…。」
「また、この声か…。」
今回が初ではなく、道人はもう何度か夢の中でこの声を聞いている。
「誰だっ!?誰なんだ!?」
「道…人…。」
「道人!道人ってば!」
もう一人別の声が聞こえだした。こっちは聞き覚えのある声だ。暗転していた世界に急に光が広がった。目を開けると床に座っている幼馴染の愛歌、友達の大樹のニ人が目を覚ました道人をじっと見ていた。