返ってきた時間
「桜井さん、今日もお疲れー。」
「お疲れ様です。店長。」
今日もよく働いた。
手に付いた小銭の臭いを洗い落とし、その日の日報を書く。
俺、桜井司は本屋で働いている。
正社員というわけでもない、フリーターである。
その為収入も少なく、家賃を払って生活費を使って、毎月一万も貯金できるかどうかの生活を送っている。
大学に通っていた為、このままどこかの企業に就職するものだと思っていた。
しかし、他人が苦手な俺が面接をやりくりできるわけもなく…。
就活に失敗し、現在フリーターとして働いているのである。
この生活はそれなりに満足している。
職場も自分と似たような境遇の人が集まっているからかそこまで居心地が悪いわけではない。
だがそれでも俺は後悔している。
学生時代、もっと人と関わればよかったのか?
もっと勉強すればよかったのか?
何かやりようがあったのではないかと。
こんなことを考えながら家に帰り、風呂で体の汚れを落とす。
一通り洗い終えたら湯船につかりまた過去のことを思い出す。
「お前は何がしたいんだ」
さんざん家族や周りの人間から言われてきた言葉が頭をよぎる。
「…どうすればよかったんだ。そんなに言うなら人生のマニュアルでも寄越してくれよ。」
悔やんでももう仕方のないことなのは分かってる。
それでも…、それでも…。
…なんだか眠くなってきた。
ここで寝るのはまずい、起きない…と…。
♢♢♢
「…え。」
懐かしい天井。
目が覚めると何故かベッドだった。
風呂場で眠ったはずなのに。
誰かが助けてくれた?
そもそも一人暮らしなのにそんなはずはない。
…ん?懐かしい?
周りを確認する。
間違いない、ここは実家だ。
いつの間に帰省したのだろうか。
頭がまとまらない、ここが実家ということは誰かいるはず。
部屋から出て階段を下りてリビングに向かうとそこには…。
「ああ、司。おはよう!」
母だ、母がいた。
しかし変だ、妙に若々しい。
「母さん?若くなってない?」
「え?何も変わってないけど?」
さっきから何か変だ。
夢にしては生々しい。
まさか…!
カレンダーを確認すると7年前であった。
訳が分からない。
…つまりこういうことか。
どうやら俺は過去にタイムスリップしたのである…。