お礼
周りにはなにもない夜の道をアーセタは走った。遠くにお祭りの明かりが見える。
この町に来た青年は、きっとあの光を頼りに歩いているはずだ。
その音が聞こえてきそうなくらいに、月と星が瞬いている夜だった。
暗くて細い道の先に青年の姿を見つけた。青年はゆっくりと町に向かって進んでいる。
「待って……、ちょっと待ってください!」
アーセタが息も切れ切れでどうにか声を掛けると、青年は足を止めて振り返った。
「君……。どうしたの?」
青年は不思議そうにアーセタを見つめると、小首を傾げて問い掛けてくる。
月の光が青年の体に降り注ぎ、まるで金色の光を放っているように見えた。
青年には追いついたが、全力で走ってきたため、息が切れて言葉を発することができない。
青年は嫌な顔一つしないで、アーセタの息が整うのを待ってくれている。
「あの……! ありがと……うござ……いました!」
少し息の整ったアーセタが切れ切れの言葉でお礼を伝えると、青年は優しく微笑んだ。
「それを言うためにわざわざ追いかけて来てくれたんだ? ありがとう。嬉しいよ」
「そんな! 助けて貰ったのはこっちなんですから、お礼くらい言わせてください」
アーセタが袖を掴んで言うと、青年は笑みを深くさせて小さく声を洩らした。
「いや、わざわざお礼を言うのに、そこまで一生懸命になってもらったことなかったから。
だけど、そうだね。それじゃあどういたしまして」
青年は瞳を細めて柔らかな笑みを浮かべると、アーセタの頭を軽く撫でた。
「僕はもう行くね。町長さんたちに待っててもらっているから。
病気は消したからもう大丈夫だと思うけど、一応気をつけて」
微笑んだままで言い残すと、青年は踵を返して再び歩き出した。
アーセタは青年が見えなくなるまで、その背中を見送った。
みなさんこんにちは
更新しました
少しでも面白いと思ったら、ブクマ、評価、感想などいただけたら幸いです。