表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイント  作者: 未来路
4/25

隣町へ

 停留所には普段、複数の馬車が停泊していて、安価で他の大きな町へ運んでくれるが、見通しの悪い夜道の危険性の考慮と、山賊を怖れて昼間の間しか稼動していない。

「そんな……」

 アーセタが停留所に着いたときにはもう最後の馬車も出てしまった後で、停留所に待機している馬車はすでに一台もなかった。町へ行く手段は絶たれてしまった。

 アーセタは愕然としてその場に立ち尽くした。これでは母親を助けることができない。

 しかし、こんなところで呆けているわけには行かない。馬車が使えないなら歩いて行くまでだ。アーセタは唇をぎゅっと噛み締めると、街道を進む決意をした。

 馬車の停留所は町の外れにある。ここから少し西に行けば町を囲む木の塀があり、その先には隣町へ続く街道が続いている。

 今から歩いて隣町まで行くと、往復して帰ってくるのは夜明けくらいになるだろう。

 それでも、明日馬車が動き出すのを待つよりはずっと早い。夜通し歩くことになるがそれも覚悟の上だ。アーセタは西に向かって歩き出した。

「アーセタちゃん? まさか、町の外に出るつもりじゃないだろうね?」

 普段ならここまで来るともう人に会うことはなく、誰にも見つかることなく町の外に出ることができるのに、今日に限ってなぜか人が集まっている。

 その中にいた、幼少の頃より良くしてくれている、地区会の会長に呼び止められた。

 達磨を思わせる体型をし、側面だけを残して頭が禿げ上がった、見た目も性格も人の良い中年を絵に書いたようなおじさんだ。

そう言えば、こんな時期外れに祭りをやると回覧板で回っていたような気がする。

それ自体に反対をするつもりはないが、寄りによって今日だったとは……。

「ミウレゼさん、お母さんが発作を起こしちゃって! お薬も切らしちゃってて……。

 もらってこないと、お母さんが、お母さんが!」

 アーセタは、地区会の会長のミウレゼに駆け寄ると、洋服を掴んで見上げた。

 町にも牧場はある。馬を出して隣町まで送ってくれるように話してくれるのを期待していた。

「それは大変だ! だけどねアーセタちゃん、残念だけどそれは許可できない。

 こんな時間だ。山には山賊もいる。野生の危険な動物もたくさんいる。そんなところに出て行ったらアーセタちゃんが危ない。明日、早くに馬車を出してもらえるように話しておくから、明日にしよう? ね?」

 ミウレゼはアーセタの両肩を掴んで見つめながら、優しい声で説得しようとしてくる。

 だけど、それでは間に合わないかも知れない。アーセタは拒絶の意を示して頭を大きく左右に振ると、ミウレゼから離れた。

「それじゃあダメなの! お母さんが死んじゃう! あんなに苦しそうにしてるのに、明日まで待ってなんてわたし言えないよ!」

「だけどアーセタちゃん、今行ったらアーセタちゃんが危険なんだ。お母さんだって、きっとアーセタちゃんを危険な目に合わせてまで助かりたいなんて思ってないよ」

 怒り出しても可笑しくないのに、ミウレゼは辛抱強く説き伏せようとしてくる。

聞き分けのないことを言っているのは分かっている。だけど、行かなければならないのだ。

「見逃して、ミウレゼさん。私は大丈夫だから」

「ダメだ。明日まで我慢しなさい。苦しみは長引くかも知れないけど、大丈夫、ちゃんと処置すればお母さんは命に関わるような病気じゃない」

「そのちゃんとした処置ができないの! お医者さんもちゃんと診てくれなくて……」

「ああ、コータさんか……。あの人はまた……」

 ミウレゼはやれやれとばかりに頭を大きく振りながら、溜め息と一緒に吐き出した。

「だから、行かせて?」

「それでも、それは許可できないよ。今日は大人しくしてなさい」

「だめ! それじゃあ間に合わないの。今すぐ行かないと!」

「ダメだよ。聞き分けてよ。アーセタちゃん。ほら、今日はお祭りだ。楽しんで行くといいよ」

「ミウレゼさん!」

 アーセタを落ち着かせるために言ったのは分かっていた。それでも母親が苦しんでいるのが分かっていながら、そんなことを言ってくるのが信じられなかった。

みなさんこんにちは

更新しました。よろしくお願いします


少しでも面白いと思ったら、ブクマ、評価、感想などよろしくお願いします


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ