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セイント  作者: 未来路
16/25

奇異の目

「ブラーリ、あんたそれ……」

「君……」

 アーセタが驚いた顔で言い、青年が小さく呟いた。最初は手を小さく震わせていたが、強張った顔で見つめるアーセタの顔を見ると勝ち誇ったように笑い、銃をアーセタに向けた。

「謝りなさい。私に失礼なことを言ったことを謝りなさいよ! 早く!」

 銃を持って傲慢に命令してくるブラーリを見ていると、アーセタは逆に冷静になった。

「どうして? わたしなにか間違ったこと言った? 悪いのはブラーリじゃん」

 アーセタがブラーリを見つめて声を抑えて言うと、ブラーリの表情に焦りが見えた。

 止まっていた手がまた震えだし、それでも銃を引っ込めない。

「うるさい! 謝りなさいよ! 撃つわよ!」

 今にも取り落としそうなほどに手を震わせながらも、ブラーリはなおも続ける。

「私は謝らないよ。何も悪いことしてないもん!」

「謝れ!」

 ブラーリの呼吸が荒くなっていき、その指が引き金に掛かって、そして引き絞った。

「アーセタ!」

 耳を劈く、爆発でも起きたような音が響いた。どうせ脅すだけで撃ったりしないだろうと高を潜っていたアーセタは、驚いてその場から動けなかった。

その時、青年が叫びを上げてアーセタとブラーリの間、銃弾の軌道上に飛び込んだ。

鈍い音が響いて青年が蹲る。

「ちがっ……、私、撃つつもりなんて……」

 ブラーリは銃を落とし、驚愕に顔を歪めて頭を左右に振りながら呟くと、後ずさる。

「はぁ! 大丈夫!?」

 アーセタは青年の横に屈むと、銃弾が撃ちぬいた場所を確認する。こんな時でさえ、青年に呼べる名前がないのは悲しかった。

 銃弾は樹皮が覆っていたところに当たったらしく、幸い青年はそれほど重傷ではないようだ

「大丈夫だよ。まったく、君は無茶をするなぁ」

 それでもやはり無傷と言うわけには行かないのか、青年は苦笑を浮かべて辛そうに言った。

「ひぃ! なによそれ! 化け物!」

 青年の洋服が破れて露になっていた樹皮の部分を見て、ブラーリが悲鳴を上げた。

 町の人たちも、ブラーリと同じく奇怪なものでも見るように青年を見ている。

「ここでの僕の仕事はもう終わりかな?」

 その視線を受けて、青年が寂しそうな笑みを浮かべると、洩らすように静かに囁いた。

 青年の言葉で悲しくなった。どうしてみんなのためにこんなに尽くしたのに、こんな悲しい顔をしなければならないのだろう。

そう思ったら怒りが込み上げて来て、アーセタは唇を噛み締めると町の人と向かい合った。

「どうしてそんな目で見るの! 今までみんな助けて貰ったじゃない!

 この人の体が樹皮になっちゃうのは、みんなの痛みや苦しみを代わりに引き受けてくれているからなんだよ? それなのにそんな目で見るの? 追い立てるの?

みんな自分勝手すぎるよ! 大嫌い!」

 アーセタが一気に捲くし立てると、思うところがあるのか、町の人たちは困惑して互いに顔を見合わせると俯いた。

「アーセタ、もういい。僕なら大丈夫だよ。慣れているから」

青年がアーセタの肩に手を置くと、消え入りそうな笑みを浮かべて小さく頭を左右に振った。

 こんなに酷い仕打ちを、仕方のないことだと受け入れている青年にアーセタは心が痛んだ。

「行こう? ここにいても嫌な思いをするだけだよ」

「うん。そうだね。ここにいても、もう僕にはやることがないみたいだ」

 こんな青年に向けられる奇異の視線に我慢が出来なくなってアーセタが提案すると、青年は町の人たちを軽く見回して、助けを求めるものがいないのを確認すると穏やかに頷いた。

 町の人たちをその場に残したままで、二人は教会を後にした。

みなさんこんにちは

更新しました。よろしくお願いします。


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