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セイント  作者: 未来路
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ブラーリの暴走

「アーセタちゃん、聖人様を手伝ってるんだね。昨日よりも聖人様の雰囲気が柔らかくなったのは、アーセタちゃんのお陰かな?」

 町で買い物をしていた近所のおばちゃんが、にっこりと笑って応援してくれた。

「そうだといいんだけどね。あの人が辛くならないようにがんばるね」

 アーセタは笑顔でおばちゃんに返すと、手を振って分かれた。

「おお、アーセタちゃん。さっきの接客は気持ちが良かったよ。ああいう風に言ってもらえると、ちょっとくらい待たされても我慢できるよ」

 さっき教会を訪れた、畑仕事の最中に腰を痛めてしまったおじいさんが、微笑みながら手を振りながら声を掛けてくれた。

「ああ。待たせちゃってごめんねぇ。もう大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だよ。ありがとう」

 アーセタが笑顔で答えると、おじいさんは穏やかな顔で笑ってくれた。喜んでくれるおじいさんを見ていると、自分も嬉しくなって、アーセタも破顔すると手を振って答えた。

 アーセタはその後も、教会に来てくれた人々や町の人と挨拶を交わしながら山へ向かった。

 湧き水が出ている場所は、苔が多くて滑りやすかったり、岩場で足場が悪かったりと、危険を伴う場所が多い。ここは岩の中が刳り抜かれて湧き水が噴水のように噴出している、アーセタが見つけた安全に水が汲める場所だ。アーセタはペットボトル数個に水を汲んだ。

「これでよし」

 綺麗な水を太陽に透かして見つめると、透明な水に満足して微笑んで呟いた。

 ペットボトルをバッグに詰めると、山を下って教会に向かった。


 教会に戻ると、相変わらず長蛇の列ができていた。

 この町には、長い間医者と呼べる医者がいなかった。いるにはいたが、コータのような大きな町の病院に行けば看護師にも劣る処置しかできないものばかりだ。

 だから、青年が幾ら癒しても病気や怪我をしているものが尽きないのかも知れない。

「戻ったよ。大丈夫疲れてな……」

 アーセタは教会に入り、青年の私物を置いておいた机を見て驚愕に言葉を失った。

 机の上に水はなく、温かい紅茶やお菓子などが並べてあったのだ。

「ねぇ、私が置いといた水は?」

 まだ一緒に置いてあれば、青年が喉が乾いたときに選んで飲むこともできる。だが、アーセタが用意していった水が机の上に見当たらなかった。

「ああ、お湯を沸かすのに使ったわ。まったく水しか用意してないなんて気が利かない女ね」

 町の人を送り出したブラーリが、勝ち誇った顔で嘲笑うように言ってきた。

「彼が、紅茶がいいって言ったの?」

 アーセタは呆然として問い掛けながら青年を見ると、青年は困ったように苦笑を浮かべた。

「僕は水がいいって言ったんだけどね」

「私が紅茶を用意してあげたのよ。水なんかより紅茶のほうが良いに決まってるでしょう?」

 言いようのない怒りが込み上げて来て、アーセタはブラーリを睨みつけた。

「水が良いって言ってるのに、なんで水を全部沸かしちゃったの?」

 植物にお湯を掛けたら枯れてしまう。子供でも知っていることだ。青年を植物扱いするつもりはないが、紅茶に手を着けてないところを見ると、口に合わなかったのだろう。

「それはあんたに気を使ったんでしょう? 水なんかより、紅茶のほうが良いに決まってるじゃない。バカね」

 ブラーリは反省をするどころか、アーセタをバカにして嬉々として言い放った。

「それじゃあ、なんで手を着けてないの? 水が好きな人だっているじゃん」

「あ、僕なら大丈夫だから」

 アーセタが怒っているのに気がついたのか、青年が宥めてくる。

「それは! 忙しかっただけでしょう!!」

「飲み物も飲めないくらいの重労働を強いていたの? 何のための付き人?」

 自分を正当化させようと声を張り上げて捲くし立ててくるブラーリを睨んで、アーセタは淡々と言い放つ。

「なによ! 苦しんでる人を助けるのがその人の仕事でしょう? だったらいいじゃない!」

 ブラーリはあくまでも自分の否を認めようとしない。それは別にどうでも良かったが、青年の身体が心配だった。無理を重ねると体が植物になってしまうというのに、こんなに人の治療をさせるなんてどういうつもりだろう。

 しかも訪れてくる町の人は、どれも青年の術が必要なほど重傷ではない人ばかりだ。

 下手をすれば、安静にする必要もないようなかすり傷や擦り傷のものまでいる。

どんなに小さな傷でも、その場で癒えればそれは申し分ないだろう。

 だが、町の人は判ってない。その傷は青年が肩代わりをしているから治るのだと。

 一つひとつの傷は軽く浅いものでも、数多く重なれば深い傷になる。

その傷は、すべて青年の体に刻まれている。

「このくらいの傷、わざわざ治してもらわなくてもいいんじやないの?」

「いいじゃない。あっという間に治るんだから。みんな痛いのは少しでも早く治したいものでしょう!」

「でも特殊な力だって分かるよね? それを使ってるんだよ? 凄く疲れるんじゃないのかなとか思わないの?」

 普段ならばここまで言わない。それなのに感情が昂ぶって、口を止めることができなかった。

「なによ! うるさいわね! 町の人が助かってるんだから良いでしょう! えらそうに! アーセタのくせに生意気よ!」

 ブラーリは声を荒らげると、護身用にでも持っていたのか手のひらサイズのハンドガンを取り出してアーセタに向けた。

みなさんこんにちは

更新しました。よろしくお願いします。


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