青年の幸せ
「だけどそれじゃあ、あなたは報われないじゃない! あなたの幸せはどうなるの?」
アーセタは思わず叫んでいた。確かに青年の生き方は素晴らしい。救世主になり得るだろう。
しかし、青年は本当にそれでいいのだろうか? 人のために生きて、人を救って樹木に還る。
それは、救世主として生まれた義務や使命なだけで、青年の望みとは違う気がした。
「僕の幸せ?」
青年は目を丸くさせて不思議そうに呟いた。そんなことは、考えたこともないように……。
「そう! せっかく生まれてきたのに、生きているのに、自分の幸せを考えないの?」
アーセタはさらに続けた。確かに人とは生まれも体の作りも違うのかもしれない。
だけど、青年はこうして目の前に存在している。ちゃんと考えて、自分の意思もある。
その青年が、自らの幸せを放棄しているのを、アーセタは悲しく思った。
「僕の幸せか……。考えたこともなかったな。だけど、僕とみんなとでは感じ方が違うのかもしれない。幸せって言うのをみんながどういうときに感じているのかは分からないけれど、僕は今の生活を、僕の力でみんなが元気になってくれるのを見ることに、幸せを感じているよ」
青年は可笑しそうに小さく喉を鳴らして笑うと、綺麗な緑の瞳でアーセタを見つめてきた。
「それにしても可笑しなことを言う人だね、君は。これまで数百と言う街を回ってきたけど、僕の幸せを心配してくれる人なんていなかったのに」
これまで見せてくれた穏やかな笑みとは違う、小さな子供のように無邪気に笑った青年を見て、自分が笑われているのに不覚にも言葉を失って見蕩れていた。
「ありがとう。嬉しいよ。人間はみんなこの体を見ると、僕を怪物のような目で見るのに……。この体を見ても、僕を人と同じだと言ってくれたのは君が始めてだよ」
青年は今にも泣き出しそうな寂しい笑みを浮かべて、アーセタに近付くとそっと髪に触れた。
裸の青年が至近距離まで迫ってきて、アーセタは我に返り恥ずかしくなって目を白黒させた。
「ふ……、服を着てください!」
青年は面白いものを見るようにアーセタを見て、楽しそうに笑った。
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