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第3話 「本気を見せて。」

「シールド!!!」

ナイフが彼女につきたたる直前で彼女が唱えた防御魔法が得物を弾く。金属音が辺りを反響し、鼓膜を揺らす。それにより、彼は我に返る。森に足を踏み入れたその時から感じていた妙な視線の主を無力化するために死角をついたのだが、その相手が村の入り口で出会ったデンゼルガ辺境伯の娘だったのだ。彼はそのことに気づくと急いで彼女から離れる。構えたナイフを腰に戻すと警戒を解く。貴族の娘に危害を加えたのだ。その罪はとても重いものであろう。少し不安になりながらも目の前で今だに防御を解かない少女にゆっくりと歩み寄る。少女は彼が警戒を解いたことを確認すると防御魔法を発動させたまま、歩み寄ってくる彼に向かって話しかける。


ティアナ「何なの?あなた…。そんな力、一体どこから…。」


彼女がそう尋ねるので彼もまたいつもと同様にその言葉を言う。


グランハルト「言った通りです?タフなだけですよ。子供の頃からずっとずっと鍛えてきたんです。そうしたら、いつの間にかこんなふうになっただけd」

ティアナ「ふざけないで!」


彼の決まり文句もそんな怒号でかき消される。


ティアナ「そんな冗談が通じるわけないでしょ!?あんなのがタフって一言で片付けられるだなんてゴメンよ!」

グランハルト「何か勘違いをしていませんか?あれはただのブルーウルフ。何年も力をつけている者であればそこまで苦労するほどの敵ではありませんよ。」

ティアナ「どこまでも減らず口を…。」


彼女は拳を握り締め、歯を食いしばり、こちらを睨みつけながら言う。


ティアナ「もう一度聞くわ…。あなた…一体何者なの?」


そんな真剣な眼差しも彼は軽くいなしてみせる。さも当然かのように。それでいてまた彼の目にも確かな光を放って。


グランハルト「だから何度も言っている通り、ただのタフなだけな一男子でs」

ティアナ「アイスエッジ!!!」


その瞬間、彼に向けて何かが飛来する。彼は間一髪で横に避ける。飛来物が着弾した場所を見てみれば、鋭く尖った腰の高さほどある氷の山がこちらに鋒を向けていた。そして、彼女の周りを透き通る弾丸が漂っている。彼女の目は完全に敵を目の前にした獣のそれであった。そして彼女は冷ややかな声で告げる。


ティアナ「もういいわ…。結局こうした方が手っ取り早いのよ。あなたのその達者な口を二度と開けないようにしてあげる。覚悟しなさい。楽に相手できる者だと思わないで。」


そうして突き出された彼女の手に呼応するように氷の礫は彼に向かって放たれる。彼は飛んでくるそれらを掠らせながらも避けていく。彼は腰に納めたナイフを再び抜き、構える。それは先ほどブルーウルフの群れを圧倒したあの時の構えと同じだった。しかし、彼女は間近だからこそ気づいたことがある。幼い頃から父親であるデンゼルガ辺境伯、あるいは護衛の騎士たちの訓練を近くで見てきた。デンゼルガ家の剣術は長きにわたり磨き上げられてきた由緒あるものだ。それと比べると我流であるが故に構えに無駄があるのは当然だが、彼の構え方が攻撃に特化しているような構えではなく防御に特化した構えであることに気づく。そして思い出す。彼はブルーウルフに積極的に攻撃していたわけではない。むしろカウンターが主な攻撃手段であったのだ。彼のその構えからは無駄があるのに対し何人たりとも攻撃を通さないという強い意志が感じられた。思わず彼女は口角を上げる。


ティアナ「何よそれ…。あなたって本当に変な人!」


そう言ってまた氷の礫を飛ばす。それも先ほどのものから少し威力を上げている。まさに“弾丸”と言わんばかりに鋭い回転をみせながら彼に向かって変則的に飛来する。そうして着弾しようとした。不完全な型には隙がある。彼女はそれを理解していた。だからこそ、その隙を狙ったのだ。完全に捉えて何発も放った。目の前の男はなす術もなく貫かれる…はずだった。激しい金属音が辺りに鳴り響く。火花を散らして、それは彼に当たることなく後ろの木へと命中した。彼はナイフで回転して飛んでくるそれを受け流した。その後に遅れた礫も流れるようなナイフ捌きで受け流す。気づけば、彼の体には貫かれた跡もなく、後方に氷の棘があちらこちらに生えているだけだった。その光景は彼女を認めさせた。彼が強いことを。変わらぬ様子でナイフを構え、圧倒的な圧でこちらをよろけさせる。“修羅”。今、目の前の男のことを形容するにはやはり十分すぎるくらい言葉だ。


ティアナ「ふふふ…。やっぱりあなたは化け物よ…。でもね。」


次の瞬間、彼女は冷気を纏う。そして地面からは棘を持った氷の華が開く。


ティアナ「今度のはそう簡単にいなせるものじゃないわよ。」


そうして、彼女は凍った地面を踏み締めて再び手を突き出す。


ティアナ「氷の花園!!!」


地面から花開く棘の数々が彼女の足に、体に、腕にまとわりつく。すると手のひらに白い冷気のような魔力が収束していく。球状に肥大化していくそれが弾けて、彼に向かって吹き荒れる。それは止まることを知らずに彼の後方の世界にまでも広がっていく。そして、放たれ尽くした後の光景は先ほどの緑の世界から一変し、透明に染め上げられていた。至る所に棘を持った氷の花が咲いている。それはまさに名前にある通り氷の花園というにふさわしかった。これで本当に終わりだと思えることはなかった。透き通る世界に異なる色があるものを取り囲むように存在していた。


???「魔法を使えるのがあなただけだと思いましたか?」


卵の殻のようにボロボロと崩れていくその中から“彼”は姿を現した。


グランハルト「シールド。私の得意魔法ですよ。これが一番扱いやすい。」


彼女は目の前の光景に驚かずにはいられなかった。その一瞬の思考の停止が確かな隙を生んだのだ。気づけば、視界から男は消えていて、突如として腹部に強烈な衝撃と痛みが走る。口から胃の中のものがすべて漏れ出た気がした。次の瞬間、視界が暗転する。その直前、眼前まで迫った男を見つける。そして彼女は薄れゆく意識の中、心の中でこう呟くのだった。


ティアナ「はは…。何なのよ、この実力…。勝てるわけ…じゃない…。」

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