虐げられている竜の巫女は、婚約破棄を告げられた夜会で勇気を振り絞る〜私は愛しき竜神の元に向かいます〜
辰年のため、竜のお話が書きたくて投稿しました!よろしくお願いします!
むかしむかし、ある所に、魔法を扱う大きくて赤い竜がいました。
その竜は、ひとりぼっちで空や森の中を駆け巡り、ありとあらゆる肉を頬張っていました。
そんなある日、赤い竜は一人の人間の娘に恋をしました。
とても小さくて可愛らしくて、動物にも植物にも優しい娘でした。
けれど、彼女にはずっと愛している人間の王子様がいました。
そして、王子様も彼女の事をすごく愛していました。
しかし、どうしてもあの人間の娘が欲しかった赤い竜は、悩んだ末に娘の両手に赤い竜の鱗をつけ、この国の王子様にこう告げました。
『この人間の娘は、竜の巫女だ。巫女を大事にしている間は、我がこの国を守り、永遠の安寧を約束しよう。だが、もし今後彼女を害したり愛さなかった場合は、我が竜の巫女を奪い去る。そして、この国にも最悪の厄災がもたらされるだろう』
この赤い竜の言葉に大きく頷いた王子様は、命をかけて竜の巫女を愛し抜き、赤い竜も竜の巫女がいるこの国を外から守り続けました。
けれど、このお話はもう数百年も前のこと。
今はもう『竜の巫女を王妃にすると、この国に安寧をもたらす』という言い伝えに変わってしまったのでした…。
※※※※※
「シャラメ・ジルベール侯爵令嬢!今日を持ってこの王太子である私・ロッキー・クルーザーとの婚約を破棄し、偽の竜の巫女として、今日を以て即刻処刑とする!」
「…え?」
竜の巫女が誕生してから、長い年月が経ったとある国王生誕祭の夜会会場にて、十七歳の私・シャラメは婚約者であるロッキー様に、急に婚約破棄を突きつけられました。
けれど、私が偽の竜の巫女ではないのは一目瞭然。
何故なら、私の両肩から手首にかけて、赤い竜の鱗がびっしりと付いているからなのです。
しかし、こんな時でも、私は上手く声を出す事が出来ません。
生まれた時から私を大切にしてくれた両親やお兄様、とても良くしてくれた国王陛下や王妃様には話せます。
なのに、ロッキー様や彼の周りの人たちには、私の声は届かなかったのです。
むしろ、この両腕のせいで気味悪がられて、水をかけられたり、階段から落とされたりといういじめを受け続ける日々でした。
けれどそんな私でも、唯一勇気を出して、王城の廊下でロッキー様に声をかけた事がありました。
『あ、あのっ!ろ、ロッキー様っ!』
『……』
『む、無視しないでっ…!こ、婚約者同士、お話し合いをっ!』
『話す事はない。本っ当に気色悪いな、貴様。これからも絶対私の視界に入るな。声を出すな。…はぁ…。こんな女と結婚して王妃にするとか地獄でしかないな』
『あ…そ、そんな…』
相変わらず、いや、それ以上に酷い言われように、この時の私は目の前が真っ暗になる程絶望しました。
そして、涙を堪えながら、ロッキー様の歩く後ろ姿を見る事しか出来ませんでした。
せっかく勇気を出しても、全く相手にされないのはとても辛くて、けれど王城の廊下は誰かが見ているかも知れないから、泣く事も出来ません。
なにせ私が泣くと、皆が嫌な顔をして、『気色悪い』とか『泣けばいいと思ってるんでしょ』というような嫌味を浴びせてきましたので。
けれど、この日は私にとっていい日であったのも事実です。
なぜなら、夜に王城の自室で泣いていた時に、とある優しい声を聞いたのですから。
『…竜の巫女よ。何故ここで泣いているんだ?』
「うっ、ひっぐ…う?あ、アナタは…誰?」
『ふっ。どうやら我の声が聞こえる様だな。さすが、我の未来の花嫁だ』
「え?はな、よめ?」
『ああ。この国では、竜の巫女を愛さなかったり害した場合は、赤い竜神である我が其方を奪ったのちに、この国に最悪の厄災が降りかかる事になっている。だが、我は其方を大事にしている者や、其方と全く関係ない人間には寛大だ。この意味、分かるか?』
「さい、なん…。えっ、もしや最悪の厄災がこの国を襲っても、私に優しい人たちは救って下さるって事ですか?お父様も、お母様も、お兄様も」
『その通りだ、竜の巫女よ。いや、ここではシャラメと呼んだ方がいいか?だが…うーん、慣れんな。竜の巫女は、我が初めて恋に落ちた少女の生まれ変わりでな。何度も死んでは生まれ変わってを繰り返しているゆえ、名前は知っていても面倒で、竜の巫女と呼ぶのが定着してしまった。すまないな』
姿形もまだ分からない、どこにいるかすらも知らない竜神様が、急に申し訳なさそうな声を出して謝りました。
けれど、竜神様が悪い訳ではないと思った私は、その場で慌てて首を横に振りました。
「い、いいえ!竜神様は悪くありません!貴方は歴代の竜の巫女様をずっと見守って来たお方。きっと、数え切れないほど何人も見てきたんだと思います!けれど、この国の歴史からして、多くの竜の巫女様はこれまで、貴方の傍に来た事は一度もありませんでした。そう、ですよね?」
『ああ。我は、竜の巫女が笑顔で幸せに生きておれば、我も幸せになれると思っておった。だが…今回だけは、シャラメを我が絶対に幸せにしたいと、思うようになった。其方は家族や国王、王妃に愛されていても、王太子やその周りには愛されておらん。あのど阿呆な男と伴侶になっても、きっと其方は幸せになどならんだろう。だからいつの日か、我と生涯を共にする覚悟を決めたのであれば、竜神ラグーン・アンドリアスの元に向かうと、そう宣言してくれ』
「…ラグーン・アンドリアス、様…」
とっても素敵な、竜神様の名前。
それを口にした途端、私の身体がぽかぽか暖かくなって、鼓動が速くなっていくのが分かりました。
きっとこの時から、私はラグーン様を好きになったのかもしれません。
だから、あの日から相変わらず酷いいじめを受けても、ロッキー様に無視されて浮気をされても、ラグーン様を想いながら耐えて乗り切りました。
そして、あっという間に時が流れて今日の夜会を迎えたのですが、なぜロッキー様は竜の巫女同然の私を偽者だと言って、断罪しようとするのでしょう?
しかも彼の隣には、私をいじめていた主犯の公爵令嬢・メニー様がいますし、彼女の腕には赤い竜の鱗が3枚ほどついています。
でも、よく見るとあれって、ペイントでしょうか?上手く出来ているなとは思いますけど、竜の鱗特有の煌めきが全くありません。
なんでそんな事するんだろうと、私はその場で首を傾げます。
すると、ロッキー様は私のその行動にさらに青筋を立てて、怒鳴り散らしました。
「っなぜ処刑されるというのに、そんな平然としてるんだ、この醜女!ここは不細工に泣いて懇願する所だろうが!まぁ、泣いても泣かなくても、お前がこの世から消えるのは好都合だがな!」
「…はぁ。で、ですが、ロッキー様」
「おい!誰が話していいと言ったんだ!?お前が喋ると、この空気でさえも汚くなる!大人しくしてろ、この」
「ロッキー、そこまで!」
突然、低くて威厳のある声が、会場の奥から聞こえてきました。
そして、その奥にある豪華な椅子に座っている声の主・ベネット国王陛下は、怒りと苛立ちを露わにしながら、ロッキーを叱責しました。
「我が愚息、ロッキーよ。なぜ竜の巫女をそんなに傷つけるんだ!?竜の巫女を生涯愛し、貫き通せば、この国は安泰になるんだ。分かっているな?」
「分かっております、父上!なので、私は本物の竜の巫女であるメニーを生涯愛し続ける事を誓います!そして、メニーをいじめ続けた偽の竜の巫女・シャラメを処刑しないといけません!ご理解頂けると幸いです」
「…はぁ…。やっぱりそうきたか。であれば、ロッキー。最後にシャラメの言い分を聞いてやれ。それからでも遅くないだろう」
「ち、父上!でも…」
陛下の思わぬ提案に、ロッキー様は納得いかない顔をしましたが、ついに舌打ちをしてから、私の方に向き直りました。
「チッ!父上の命令には、絶対に従わないといけない。全く納得できないが、せっかくだ。最期に言いたい事はあるか?」
「っ!あ…」
あんなに私が話すのを嫌っていたロッキー様が、渋々ではあるけど私の話を聞こうとしてくれています。
それがすごく嬉しいはずなのに、また否定されるかもと思うと、ますます声が出なくなりそうで…。
そんな時、ふと私は、ラグーン様が前に言っていた言葉を思い出しました。
『いつの日か、我と生涯を共にする覚悟を決めたのであれば、竜神ラグーン・アンドリアスの元に向かうと、そう宣言してくれ』
かつて、私に優しくそう言って下さったラグーン様。
私もラグーン様をお慕いしているからこそ、どうしてもこの場で伝えたい事があるのです!
だから、私は大きく深呼吸をしてから、ありったけの勇気を振り絞ってこう宣言しました。
「で、では、最後にこの場で言いたい事が一つだけあります!せ、正規の竜の巫女である私シャラメ・ジルベールは、竜の花嫁として、愛する竜神ラグーン・アンドリアスの元に向かいます!」
今まで言いたかった事が言えていなかった反動か、私の声がいつも以上に大きくなり、叫ぶような形で会場全体に響き渡ります。
すると、『心得た、竜の巫女よ』という聞いたことのある優しい声が不意に聞こえてきたかと思うと、私のいる床から大きな赤い魔法陣が浮き上がりました。
「ふぅ。やっと覚悟を決めてくれたな、竜の巫女・シャラメよ」
「あ、あなたはっ!」
魔方陣の中から出てきたのは、赤くて長い煌びやかな髪に金色の竜の目をした、美しい人型の紳士。
彼がラグーン様だとすぐに気付いた私は、泣きそうになりながら彼に近付いて、強く強く抱きしめました。
「ラグーン様っ!ラグーン様っ!」
「ぅおっ!…ははっ!我の未来の花嫁から直接抱きしめられるのは、こんなにも嬉しいことだったのだな。よく頑張った、シャラメ。勇気を出してくれて、ありがとう」
「うっ、ひうっ…ら、ラグーン様ぁ」
ラグーン様にふわりと抱きしめ返され、頭をゆっくり撫でられると、とても心地よくて涙が次から次に溢れてきます。
傍にいる覚悟を決めたからこそ、ラグーン様はそんな私を迎えに来てくれました。
すごく嬉しくて、いつまでもこの時間が続けばいいのにと思ったのですが…その良い雰囲気をぶち壊したのは、私たちを指差して怒鳴ったロッキー様でした。
「なっ!なななな、なんでここに知らない男がいるんだ!しかもあんな醜女と抱き合うとか、頭おかしいのか!?」
「……」
ロッキー様の罵声に、私は顔を曇らせて、ラグーン様の胸に顔を埋めます。
すると、ラグーン様は私をより強く抱きしめたまま、冷たい笑みを浮かべました。
「ふむ。この国の王太子は、我の愛しき花嫁を侮辱するのがお得意のようだ。しかもこの場にいるのは、国王を除き、全てシャラメを陥れようとしている連中ばかりと見た。こうするよう仕向けたのは、王太子か、もしくは…」
「ラグーン殿、ここはワシから話して良いか?」
突然、椅子から立ち上がったベネット国王陛下が、私たちのいる方に歩いて来たかと思うと、ラグーン様の前で立ち止まりました。
それを見たラグーン様は大きく頷いて、「話してみるがよい」と声をかけます。
すると、陛下は安心した顔をして、この夜会について話し始めました。
「ワシの生誕日である今日の夜会に、愚息ロッキーの味方のみを集めたのはワシだ。そして、そんな彼らに最悪の厄災をもたらせるために、ワシはこの日を利用したのだ。…こんなワシは、卑怯だと思うか?」
「!?ち、父上?」
陛下の言った衝撃の言葉に、ロッキー様があからさまに動揺し、夜会会場もザワザワとどよめき始めました。
まぁ、それもそうでしょう。ここにいるのは、会場入りしてザッと確認した通り、私を貶めていじめをしていた方々や彼らの両親しかいないのですから。
そして、本当の竜の巫女である私を日々傷つけていた事実は変わりません。
ラグーン様の取り付けたお告げ通り、私を害したり愛さなかったりしたため、彼らに最悪の厄災がもたらされてしまうのです。
…なんだか、可哀想に思えてきましたね。彼らを少しでも救う方法はあるのでしょうか?
私は意を決して顔を上げ、指を顎に当てて何かを考えているラグーン様に、こう口を開きました。
「ら、ラグーン様。お、お願いがあるのですが…」
「ん?どうした、シャラメ。其方を傷付けた奴らに、もっと酷い事をして欲しいと?」
「ち、違います!わ、私は彼らに、最悪の厄災によって死んで欲しくないだけです!生きていれば、いつか良い事が起きます。私が、愛するラグーン様の声を、初めて聞いた時のように。だから、最悪の厄災が起きても、生きてて欲しくて!」
中々上手く話を纏められないなか、私の話を最後まで聞こうと耳を傾けてくれているラグーン様。
そんな彼との会話は心地よくて、今にもその場から浮かんで宙に飛びたくなるような気持ちになります。
そして、私の話を理解したラグーン様は、少し考えた後に私の頭をゆっくり撫でて、こう言いました。
「うむ。やはりシャラメは、我の愛する竜の巫女だ。悪人にも優しい子だな。では願い通り、あの者たちに最悪の厄災が降りかからないよう魔法をかけよう。そして、国王ベネットよ。其方がやった今日の行いは、卑怯な行いではなく、正しい行動だ。そして、以前我の元を訪問し、この場に招待してくれた事にも感謝する。それに免じて、其方がこの場で王位を退くのであれば、災いの起きない穏やかな場所へ連れていくと約束しよう」
「…そ、そうか。では、ラグーン殿の言った通り、ワシはこの日を境に王位をロッキーに譲渡し、これからは平民として別の地で暮らすとしよう」
ラグーン様の提案に眉根を下げて笑った陛下は、ゆっくりと振り向いて、未だに動揺しているロッキー様と顔を合わせました。
「さて、我が息子ロッキーよ。ワシはこの日を境に王位から退き、明日からお前がこの国の王となる。これからこの国は最悪の厄災が降りかかる事になるが、その厄災から生き延びる事についてはラグーン殿が保証する事となる。精々達者でな」
「え?ちち、うえ?ま、待ってください!ど、どうして最悪の厄災がこの国にやってくるのですか!?そして、父上がすぐに王座を降りるのですか!?私は竜の巫女と結婚をちゃんと望み、メニーがその巫女なのですよ!?ほら、ここに竜の鱗がっ!」
「ふざけるでない、ロッキー!貴様はワシの母である王太后を知らないまま育ったゆえ、全く知らんだろうが、王太后も両肩まで赤い竜の鱗があったのだ!結局、ロッキーが生まれてからすぐに病気で亡くなってしまったが…。そのあとに、シャラメが同じ赤い竜の鱗を持って生まれてきた事の、なんと嬉しかった事か!だからすぐにロッキーとシャラメを引き合わせたというのに、貴様は鱗のあるシャラメを気味悪がって、無視したり罵声を浴びせたりと自由に行動し、ワシの言葉にも一切耳を傾けなかった!だから、途中で貴様に説教をするのをやめたのだ。いつか、赤い竜神であるラグーン殿が、シャラメを奪いに来るのを願いながらな」
「ちち、うえ…。シャラメ…」
ようやく、私が本当の竜の巫女である事を理解したのでしょう。
ロッキー様はメニー様を突き放し、おぼつかない足取りで私に近付いてきます。
けれど次の瞬間、ラグーン様が放った強い突風にあてられ、ロッキー様は退いて元いた場所に戻されました。
「ぅわっ!な、なんだよこれ!」
「全く。最悪の厄災が降りかかると分かってから、竜の巫女であるシャラメに近付くとは、情けないな。醜女と罵らずに、最初からシャラメを愛し守っていれば、この国は我の力で平和が続くはずだったんだが…どこで間違えたんだ?まぁ、とにかく愛する我の未来の妻であるシャラメの慈悲によって、其方らはもうじき最悪の厄災から守られはするが、最後まで自力で生きていけるかの保証は出来ない。そこは理解してくれ」
「なっ!き、貴様っ!う、うわっ!」
挑発するかのように笑ったラグーン様に、ロッキー様は怒りを露わにしました。
しかし次の瞬間、今までよりも大きな突風が会場内に吹き、その場にいる全員が目を瞑ります。
そして風が止んだあとにゆっくりと目を開けると、そこにはとても大きくて禍々しいほど赤い鱗を持った竜が佇んでいました。
『シャラメ、ベネット。この国にはもう用はないだろう。我の右手に乗るがよい』
「えっ!?ら、ラグーン様?」
「ああ。この方こそが赤い竜神ラグーン・アンドリアスだ。さあ、シャラメ。ワシと共にラグーン殿の手に乗るとしよう。他の連中が来ないよう、早めにな」
そう言って、元国王陛下は会場内を見渡したあとに、私の腕をとって一緒にラグーン様の右手によじ登ります。
けれど、乗る途中で急に私の右脚が引っ張られたかと思うと、その脚を引っ張っていたのはロッキー様でした。
「ふ、ふざけるなふざけるなふざけるな!貴様は生き延びていい人間じゃない!こんな気色悪い鱗を持つ醜女など、死んでしまえばいいんだ!ここの乗るべきは私だ!私こそ生き延びるべきだ!ふざけるなふざけるなふざけるな!」
「ひぃっ!」
突然、「ふざけるな」と言いながら叫んだロッキー様の身体が黒い焔で覆い隠され、私は怖くなって右脚を左右に振ります。
すると、ラグーン様はゆっくりとロッキー様に近付いて、彼の頭をバクリと食べてしまいました。
「…へ?」
『モグモグ…。なるほど。このロッキーという男は最悪の厄災によって魔物になったんだな。だから真っ黒だし、生きた味がしない。ほう。つまり、シャラメをいじめていた奴全員魔物になったって事だな。ああ、シャラメ。その黒い塊はもう振り落とせるぞ?』
「は、はい…」
訳が分からずまた右脚を振ると、その掴んでいた黒いものは下へと落ちていきます。
そして、あたりを見渡すと、全員が黒い何かになっていました。
「え、うそ!これって…」
『これこそが、最悪の厄災だ、シャラメ。…すまない、一歩遅かったようだ。其方を我の右手に乗せた事で、奪ったとみなされ、結果的に彼らはもう人間ではなくなった。だが、シャラメとベネットには最初から我の加護がついているため、厄災にはかかっておらん。まぁ、この国はじきに魔物の国になるだろう。せめて、今もなお維持しているこの国の結界をもう一度貼り直して、他国に流れないようにしよう』
最悪の厄災について話したラグーン様は、大きく飛び立って会場の天井を突き破り、国全体を見渡せるほど高い位置で止まります。
そして大きな咆哮をしたかと思うと、緑の大きな魔法陣が現れて結界を生成し、国を丸ごと包み込みました。
ですが、その結界が貼られる様子を見て、元国王陛下は寂しそうな顔をしてぽつりとこう呟きました。
「…そうか。ロッキーは、もう…。ちなみに、この国の民はどうなっているんだ?ちゃんとこの国から逃げ切っているか?」
『それは安心してくれ、ベネット。シャラメとは関係のない無害な人民は全て他国に移してある。もちろんシャラメに良くしている貴族や家族は、今から行く我の作った竜国・アンドリアスへと移住させた。ああ、もちろんベネットの妻もいるぞ』
「なっ!それはよかったっ!一昨日の朝起きたら、部屋の机に置かれてあった妻の手紙に『この国から逃げる事にしました。行き先はひ・み・つ♡』って軽い感じで書かれてあったゆえ、不安で不安で!」
『はははは!まぁ、アンドリアスに先に向かってくれと彼女に言ったのは我だからな!ベネットも後で来るぞと言ったら、分かったって納得してくれたしな!』
そう話しながら楽しそうに笑うラグーン様に、元国王陛下も安堵の表情をしながら笑い始めます。
そして、ラグーン様はゆっくりと目的地まで飛行しながら、私にこう話しかけました。
『さて、我の未来の妻・シャラメよ。竜の国アンドリアスでは、お前を虐める人間は一人もいない。きっとのびのび自由に生活出来るだろう。だが、其方が我の妻である事は絶対に忘れないでくれ。他の誰かを好きになったら…きっと耐えられん…』
「ラグーン様…」
ずっと他の竜の巫女と結ばれる事がなかったラグーン様は、きっと今の竜の巫女である私を失うのが怖いのかもしれません。
けれど、もう私はラグーン様の花嫁だと宣言しました。これから死ぬまでずっと、彼のそばにいる自信があります。
なので、私はラグーン様の大きな指にキスをしました。
『うおっ!?い、今、き、きききキス、したのか!?あ、あやうく動揺して手が震えて、ベネット諸共落としそうだった…』
「ふふっごめんなさい、ラグーン様。ですが、私はもう身も心もラグーン様のもの、貴方の花嫁です!なので、死ぬまで貴方を愛して側にいる事を誓います」
『シャラメ…。よし!アンドリアスに着いたら、すぐに結婚式を挙げるぞ!そして、人になった状態で其方とキスをして、初夜もする!ベネットよ、後で閨の手解きについて教えてくれ!』
「は!?妻とご無沙汰のワシに手解きをか!?いやいや、それはシャラメとじっくりやってくれ!ワシは妻と遠い地で農家を営みながら過ごすからな!」
『酷いぞ、ベネット!友達だろう、我ら!』
「なぬぅ!?」
「ふっ、あはははは!」
元国王陛下とラグーン様の会話が面白くて居心地が良くて、私は声を上げて大きく笑いました。
きっと、この先にはとても素敵な世界が広がっていて、隣には私の愛するラグーン様もいる事でしょう。
だから、勇気を出して一歩を踏み出して、幸せになる事を諦めないで欲しいのです。
そして今の私は、絶対に胸を張ってこう言えます。
「ラグーン様の花嫁になれて世界一幸せです」と。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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