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下:悪魔、誰かの為に生きる

エルディック国の繁華街、とある夜の店の個室。煌びやかな内装に、豪華な食事が並ぶ。飲み食いする2人の客は、かなり酔っているのか、大声で会話を続けているようだ。


「いやぁ、此度は協力していただき感謝します。司法の調整まで・・・」


「いやいや、ワイド宝石商とは長い付き合いだからな。我が公爵家も、そちらのお陰で潤っている」


「喜ばしい限りです。ところで、アルモーゼ国王の様子は如何ですかね」


「思ったより軽症だが、精神的にやられているよ。退位するのも時間の問題だろう。


・・・全て計画通りだ。このまま行けば、順当に私が次の王座に就くな」


「ビーツェ公爵。是非とも国王になった時、私には良い地位をくださいませ。どうせエルディック国なんぞ、潰れるだけですからなぁ!」


グイッと酒を飲み干せば、今度は2人揃って大笑い。その最中、店員らしき金髪蒼眼の女性が、飲み物を持って現れた。あまりの綺麗さに目を奪われたのか、とりわけ酔いが回ったキューバッハが近付いていく。


「いやぁ、お嬢ちゃん。顔も体も良いねぇ。ほらほら、コレ上げるからちょっと座ってよ」


酒臭い口から汚い言葉を出しつつ、懐からキラキラした宝石を差し出す。女性は慣れているのか、それとも予想していたのか、クスッと微笑んだ。



「こういった宝石で、ビーツェ公爵家と手を組んだのですね?互いに【邪魔者を処分する】ために」



予想もしていない言葉に、一気に酔いが覚めたキューバッハ。遠くにいたビーツェ公爵も、ギョッとした顔をしていた。


「えっ、な、急に何だい・・・?」


「全ての始まりは1年前。ジール第一王子とアイリス・ビーツェ公爵令嬢の婚約話が出たとき、あなた方は知り合った。国王の弟であるものの、散財癖があり財政難を抱えたビーツェ公爵。宝石商で儲かっているものの、王妃の弟と地位や名誉は乏しい()()()。互いに協力すれば、補い合うどころか、2国を一挙に得られる・・・そう考えたのでしょう? 」


淡々とした女性の言葉に、キューバッハは顔を青くする。確かに彼女の言った通りだが、何故知っているのか。彼女は、何者だ。


「い、言いがかりは寄してくれ!無理に引き留めたのは悪かったが、そんな馬鹿なことを言うのは・・・っ」



「馬鹿はそっちだろうが」



刹那、部屋に現れた黒い空気の渦。風を巻き起こすと思えば、そこからは・・・悪魔ヘディニスが、ゆっくりと現れた。


「なっ、悪魔!?」


「いやぁ、人間って相変わらず面白ぇな。邪魔者に都合良く罪を着せて、無傷で欲しいモン手に入れるとはよ。お前ら前世で得積み過ぎて、逆張りしたくなったのかよ」


ケラケラと笑いながら、ヘディニスはパチンと指を鳴らす。刹那、踊り子は光に包まれて・・・彼らが陥れたはずの、第一王子ジールが現れる。流石に露出度の高い衣服は寒いため、ヘディニスはすぐさま彼に羽織り物を着せる。


「なっ、ジール!?貴様、悪魔と・・・」


「違ぇよ。エルディック国の王子がいたから、面白そうだと俺が【誘拐したんだ】。事情聞いたら、もっと良い退屈しのぎが出来そうだったしな」


・・・半分本当で、半分嘘。あたかもヘディニスが首謀者で、自分は巻き込まれた被害者のような言い方だ。それで良いと彼は言ったのだ、ジールは邪魔しなかった。


「テメェらの悪事、とんと調べさせて貰ったぜ。ったく、ろくに周囲も見ねぇ輩が、悪事を隠せると思うなよ?今まで俺らが監視していたのも、全く気付いてなかったな」


「な!?」


コホンと咳を1つすると、ヘディニスはドサッと何かを出してきた。大量の書類に、自分たちが取った写真や音声記録、そして盗み取った手紙など・・・数ヶ月に及ぶ調査結果、全てだ。


「なっ、何をしている貴様・・・そんなの犯罪だ!」


「悪魔がいちいち、人間の法律に従うと思うなよ?」


襲いかかろうとした公爵達を、魔術で床に押さえつけたヘディニス。


「叔父上、貴方の行動は全て調査しました。元来嫌いだからと飲まない旧デザインの林檎酒に、危険な毒物を買った記録もここに。そして夜会直前で、林檎酒をしまっていた場所に何故か行き来する貴方の様子も目撃されています。


それに足繁く、アイリスと逢瀬を重ねていたようですね。夜会当日のアイリスは、随分豪華な宝石の装飾品をしていたのを思い出しますよ。そして、先月でしょうか。逢瀬を重ねた時の会話内容も、記録しました」


随分小さい音だが、キューバッハは『計画を記した手紙は、処分したか?』と、念を押す会話が。つまりアイリス・ビーツェ公爵令嬢も、毒入り林檎酒だと知った上でアルモーゼ国王に渡した、共犯者ということになる。


「そして、先程までのお話も・・・記録させていただきました」


ジールが個室の花瓶をひっくり返して、小さな機械を取り出す。それが録音機だと気付くのに、彼らはそう時間はかからなかった。


「なぁ!?ふふふ、ふざけるなぁ!!そんなの、プライパシーの侵害じゃないか!!」


「悪魔にそんなもん無いって言ってんだろ。これら全部、【俺が計画したんだからな】。犯罪もクソもねぇ」


・・・確かに、言っていることは合っているのに。ジールはどこか、空しさを感じていた。


「・・・そ、そうだ。悪魔がそれを証明したところで何になる!ここで何を言おうが、お前には我々を捕らえる権利は無い!ジールも尚更だ!」


「んー、でも証明ってことは、真実だとは認めるんだな?あー、じゃあ頃合いですよー。軍隊さぁーん」


ヘディニスが気の抜けた声でそう呼んだ瞬間、個室には多くのアルモーゼ国の兵士が突撃してきたではないか!騒ぎながら拘束される2人を横目に、コツコツとアルモーゼ国の国防大臣が姿を現す。


「な、何故ここに・・・」


「・・・正直、ヘディニスが()()してきた時は目を疑ったが。アルモーゼ国王陛下の殺害を企てたとなると、見過ごせまい。証拠も多々ある以上、言い逃れは出来ぬ。連れて行け」


「ま、待て!何故悪魔の言うことを・・・何故だぁあああ!!」


最後まで騒ぐ2人の悲鳴は、あっという間に聞こえなくなった。仕事の早い兵士達だ、こういう兵士を育てなければと、ジールは密かに考えたり。


「やーれやれ、終わった終わった。あぁー、久々に面白いモノが見られたぜ」


羽を広げて伸びをするヘディニス。そんな彼の腕に、魔封じの手錠が掛けられた。


「・・・あ、待っ・・・」


何かを言い換えたジールに、ヘディニスはちょいと指を、彼の唇に乗せる。


「こういう契約なんだよ。【俺と共に、国王陛下の殺害を企てた輩を捕まえてくれ】ってな。そうだ、ジールについてはちゃんと救済してくれるだろうな?」


「あぁ、我々が責任を持って保護する。だから安心して、お前は自身の罪を償え」


「へいへい・・・じゃあな、ジール。頑張れよ」


ヘディニスはそれだけ言うと、完全に手錠をされて、別の兵士に連行される。今までのように逃げることもなく、大人しくついて行った。


「・・・・・・」


1人残されたジールは、脱力感に襲われ、膝から崩れ落ちる。慌てて残った兵が、彼に駆け寄れば・・・その目からは、涙が落ちていた。


全てが終わった、自分の目的は果たされた。潔白証明も、真の黒幕も突き出すことも出来たのに。


どうしてこんなに、心は寂しいのだろう。





アルモーゼ国王の毒殺未遂は、ビーツェ公爵家とワイド宝石商による共謀だと明らかになった。両家は共に取り潰され、実行犯の3人は処刑されたそう。


「へぇ、どんな処刑だったんだろうなぁ。無難に絞首か?それとも斬首?火炙りは難しそうだしよ」


とある牢の中、格子越しで鴉の話を聞いたヘディニスは、そう言ってはケラケラと笑う。彼はアルモーゼ国の対悪魔組織の収容所で、退屈な時間を過ごしていた。


あれから無事に、2国の友好条約も結ばれた。そしてエルディック国では民の希望に応えるように、現王族は廃絶され、新たな国政体制が進められている。人々は仕事や富をしっかり得られて、もうしばらくは国家維持されそうだ。


そして何より・・・無罪だと証明されたジールは解放され、今はエルディック国のどこかで、幸せに暮らしているという。


「・・・そうか。元気なら、良いんだ」


ジールの無事を聞いて安心する。そんな自分に、ヘディニスは驚いていた。


どうして自己中心的な悪魔がこんなにも、たった1人の人間のために動いたのだろうか。正直、未だに分からない。一緒に林檎を食べた記憶も、調査をし続けた日々も、全てしっかり覚えていた。


(・・・感傷に浸ってるな。俺も随分、年を取った)


もう暖かい季節だと知らせる、暖かい風。ここに来てから随分経った。おそらくこの檻の中で息絶えるか、彼らのように処刑されるオチだろう。


ふと、外の鴉がやたらと騒いでいるのに気付いた。どうやら、誰か来たとのことだが・・・?



「ヘ・・・ヘディニスさん!」



ふと聞こえた、相棒の声。ガバッと視線を向ければ、ジールが走ってきたのだ。綺麗な衣服に袖を通して、綺麗な髪に手入れされた肌。健康体になれたことに、また安心する。


「あの、その、えっと・・・アハハ、嬉しいな・・・」


また泣き出しそうになるジールに、少しずつだが調子を取り戻してきたヘディニス。やれやれと思いつつ、檻に手を掛ける。この格子の細かさでは、涙を拭えないのが・・・少し辛い。


「おいおい、助かったんだしまた会えたんだろ?毎度泣いてるよな、お前」


「え、エヘヘ・・・でも嬉しいんです。これからは、一緒に暮らせますよ!」


思わぬ言葉に、ヘディニスは目を丸くした。


曰く、アルモーゼ国はヘディニスの処分について【エルディック国に身柄を移し、担当者(ジール)の元で更生を受けること】としたのだ。表向きは外交やら権利やら小難しい単語を並べていたが、ヘディニスが唯一信頼した人間の元でなら、これ以上悪影響を与えないと考えたらしい。


「ヘディニスさん、これからは・・・僕が、貴方を導きます!あの日、全てを諦めた僕を救ってくださったみたいに・・・今度は、僕がっ」


ガシッと檻を掴むほど、顔を近付けたジール。それを狙ったのか、ヘディニスはちょいと顔を近付けてきたではないか。


檻越しの口付けは、冷たい鉄の味しかしない。それでも互いの吐息が、直接口に掛かることが・・・やたらと心地良い。


先程までの威勢を失い、カァアと顔を真っ赤にするジール。その様子に、ヘディニスはハハッと笑う。


「そんなんじゃ、出てからも俺が引っ張っていきそうだな。


ま・・・それが嬉しいんだけどな」



以来、元王子の隣には、誰かの為に生きる悪魔がいる。


今日も好物の林檎を食べつつ、大切な人と生きているそうだ。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


今作から完結部分だけに、後書きは書くことにします(個人的に、何度も目に入って気が散るため)。

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