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○○の発明はするな

作者: 諸林 瓶彦

 ここは、帝国軍統合幕僚本部が置かれた浅川基地の地下にある、第一軍事科学研究所だ。僕の年齢は十一歳、普通なら小学校というところに通っているはずの年齢だが、生まれてこの方第一軍事科学研究所から出たことのない僕は、学校というところがどういうところなのか知らない。

 僕の両親は、第一軍事科学研究所の研究員で、主に今後必ず必要になるであろう宇宙兵器の青写真を描く仕事をしていた。そんな研究をしていたものだから、政府はここの研究員を、基地以外の場所に外出することを厳しく禁じていた。例外的に外出できるのは、自分の両親が死んだ場合など、明らかに重要と思われるときのみだ。

 それで、僕が知る限りでは彼らはもう二十年、この基地で暮らしてきたし、今後もそうなるはずであった。だから、この基地内での病院で僕が生まれたとき(本来、研究者には子供を作る行為すら許されていなかった。しかし、さすがの軍も子供を堕ろせとは言えなかった)、両親は僕に物理学と数学を徹底的にたたき込み、僕をこの研究所内で生きていける人間に育てようとした。今のところ、僕はその期待に応えている。

 ところが、そうした閉塞的な状況が一変する出来事が起こった。我が帝国が、海の向こうにある共和主義者の大国に敗北したのだ。無条件降伏だった。むろん、統合幕僚本部は共和主義者の統制下に置かれたし、研究所の現状も暴かれた。

 共和主義者はいった。百人からなる優秀な科学者を、一生地下施設に閉じこめておくなど、非人道的なことこの上ない。この研究施設は解体、研究員は皆、一般人と同じ様な生活をするように、と。

 うちの両親は動揺した。二十年間ずっと、地下で研究しかしてこなかったわたし達を今更雇ってくれるところはない、どうすればいいんだ。

 この研究所では全くそういうことはなかったが、世の中では「お金」というものが命の次に大切らしい。研究所の外で生活したことのある大人の研究員はみなそう言った。お金がなければ、着るものも、食べるものも、住むところも手に入らない。

 そして、両親にはお金を稼ぐ当てがない。ならば、僕が稼いであげるしかない。僕の能力を生かせる方法は、多分「発明」しかない。「発明」とは今までになかった技術や方法を考え出すことだ。それを考えて「特許」をとれば、お金をたくさん手に入れることができるらしい。

 それなら僕にもできそうだ。なに、着想はある。勉強の合間に食べた飴の、円筒形のケース、うっかり床に落としてしまったらころころと転がった。

 あれを使えば、足を使うよりもずっと効率のいい走行装置をつくることができる。

 アイディアができたならば、早速取りかからねば。一ヶ月以内に、この研究所からの退去命令が出ているのだから。一億人がこの装置の使用者と化すような素晴らしいものをつくろう!

 まず、要となる部分を円筒形回転装置と名付けよう。そして、その上に人が乗る部分をつける。この人が乗る部分と、回転装置をどうつなげるかが問題だ。

 それに、ただまっすぐ進むだけでは、走行装置としてあまり役に立たない。人が、どの方向に進むのか操作できなければならない。

 回転装置の数だが、四つあれば一番安定しているに違いない。しかし、三つでも安定性は変わらない。さらにいうならば、二つであれ一つであれ回転し続ける限り、横転する心配はない。だからといって一つではさすがに安定が悪いし、かといって三つや四つでは小回りがきかなさそうだ。消去法で、回転装置の数は二つに決定だ!

 後は動力だが、これは人力で動くものがいいな。一億人が使うのだから、燃料を使った高価なものは駄目だ。足の力を使って動くものにしよう。となると、足の力を円筒形回転装置が動く力に変える機構も必要になってくる。

 人力で動かすのだから、軽くしなければならない。部品は、できうる限り金属パイプなどの丈夫で軽量のものがいい。さて、回転装置の軽量化はどうすべきか?

 父の使っていたコンピュータを起動して、設計図をつくる。そしてそれが実際に動くかどうかをシミュレートしてみる。それの繰り返しで、欠点をどんどんなくして、理想型に近づける。父のコンピュータには、物理空間をそのまま再現できるソフトが入っているのだ。

 そしていよいよ研究所を離れなければならない日の朝、ようやく完璧な設計図が完成した。僕はそれを紙に印刷、それを筒状に丸めて手に持ったまま、両親と一緒に基地の正門をくぐった。天井のない世界、見たことのない建物、道行く人々、そして……。

「けいちゃん、さっきから持っている紙、なあに?」

 母親がそう聞いてきたので、僕は胸を張って威張りたい気持ちを抑えて、無言で設計図を彼女に渡した。

「あら、これ自転車の設計図じゃない? けいちゃん、いつの間に自転車なんて知ったの?」

 ちょうどその時だった。チリン、チリンと音がして後ろを振り返ると、僕が発明したのと全く同じ乗り物に乗った女の子が、凄いスピードで通りすぎていった。 

とある理由で、2000字で小説を書かねばなりませんでした。うまく仕上がっているでしょうか。評価の程よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホームレス画家でもそうでしたが、先生の文体は個人的に好みです。 派手さはありませんが、小難しくなく、簡潔すぎず、落ち着いていて読みやすいです。 なろうでよく見かける「ラノベ的書き方」でない…
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