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第7話 作為的で悪意的な事実

 突如浮上した名前に驚いた。

 従者イアン──フェリクス第二王子。

 よく考えれば確かに最初に出会った時から妙に怪しかった。私を手駒にしようと躍起になっていたのは覚えているが、他の攻略キャラや両親と仲を(こじ)らせることで、彼にどんなメリットがあるのか。


「んー、私を手駒にして引き入れたい感じはあったけど、私が攻略キャラと仲良くなってフェリクス王子に不都合なんて──」


 そう口に出しつつフェリクスルートの流れを思い出す。ヒロインとフェリクスが幸せになるルートではグリフィン殿下と和解し、補佐という形で大団円となるが、バッドエンドの場合は──。

 私の表情の変化にギルは苦笑しつつ口を開いた。


「あの第二王子の属性ってヤンデレだったでしょう。バッドエンドの場合、自分を貶めた王妃の息子であるグリフィン王太子を許せず、王位を簒奪するのよね。それで嫌がるヒロイン(ソレーヌ嬢)を監禁って終わりだったでしょう」

「う、うん。でも、それはヒロインでしょう?」


 悪役令嬢()を引き入れたいのは、手駒としてほしいだけで恋愛対象ではない。それ以外に攻略キャラと私の関係を絶つ理由……。

 そもそもどのルートになるかはソレーヌ嬢次第だが、そうなった場合、他のルート設定はどうなるのか。ゲームのように完全な整合性が取れているとは限らない。


「魔法学院に入学してグリフィン殿下の傍にソレーヌ嬢がくっついていたから、てっきりグリフィンルートだと思い込んでいたかも。……そっか、ヒロインが王太子とくっつくなら他のキャラもシナリオ通りに進むと思っていたけれど、例外もあるもんね」

「そうよ。あくまでこの世界は私たちの知っているゲーム世界に酷似しているけど、私とエステルが共闘する時点でシナリオ展開から大きく外れていると思うの。それを踏まえて考えてごらんなさい。フェリクスが宰相の屋敷に居るっていう時点で、宰相閣下と義息子サイラスは次期王位にフェリクスを推す気満々でしょう」

「うん」

「公衆の面前で礼節や品格を重んじるグリフィン王太子が一方的に公爵令嬢を糾弾し、婚約破棄を言い渡しただけに飽き足らず、身分の低い男爵令嬢を王妃にするなんて寝ぼけたことを言い出させる展開が全部、フェリクス陣営の策略だったとしたら?」

「あ」


 そうだ。グリフィン殿下とソレーヌ嬢があまりにもお花畑脳だったのと、その後の二人の展開など興味もなかったので深く考えていなかった。


 思い返せば私を孤立させてフェリクスが手駒としたかったのは、グリフィン王太子を貶めるために利用したかったのだろう。

 公爵家に対してあまりにも不遜な態度、侮辱、そして品性を欠いた断罪。

 次期国王の器ではないと自身で喧伝させるための仕掛け──それがフェリクスの策だったとしたら、グリフィン殿下は自分の首を絞める。自業自得だろうけれど。


「それにソレーヌ嬢と密会やら婚約破棄させるための段取りなど諸々の小細工は、裏で宰相とサイラスがやっていそうな気がするわ。その方が反乱よりも手っ取り早いし、血も流れないでしょう」

「考えてみれば納得かも。私としてはシナリオ展開通りだったからあんまり考えてなかった」

「エステル的には生きるか死ぬかの分岐点だもの主観的になるし、そんな余裕もなかったからしょうがないと思うわ」


 さりげないフォローをするギルに惚れる。

 しかも話をしている間にコーヒーまで淹れてくれて、なんてできた人なのだろう。可愛いマグカップの取っ手を掴むと食後のコーヒーを口にする。少し苦い大人の味だ。でも味わい深くて嫌いじゃない。

 好きな人にコーヒーを淹れてもらう──なんて幸せなんだろう。


「ん、美味しい。幸せの味がする」

「ふふ、大袈裟ね。でも嬉しいわ。……まあ、話を戻すと悪役令嬢であるエステルがグリフィン殿下と仲睦まじいのをよく思わなかった人物は宰相、サイラス、フェリクス王子と最低三人はいたってこと。(まあ、ヤンデレ属性のあるフェリクス王子がエステルに執着している可能性はとっても高いけれど……これは言わない方がいいわね)」

「仲良し作戦が惨敗したのってそういう裏があったのね……。ギルと出会ってなかったら孤立無援だったから、きっと優しく接するフェリクス王子の手を取ったと思うな」


 ポツリと呟いた本音にギルは「なら当時の私グッジョブだわ」と誇らしげに笑った。コーヒーを飲んでいる姿も一枚の絵になるような美しさがある。きっと今も私には理解の及ばない神算鬼謀(しんさんきぼう)の考えを抱いているのだろう。

 カッコいい。あー、好きだ。


「ほんとギルがあの日、私の前に現れてくれて本当によかった」

「私のほうこそ、エステルとの生活は楽しくなりそうだわ。(あー可愛い。これから一緒に暮らせるなんて幸せ。少しずつ距離を縮めてハグやキスよりも、まずは私を好きになってもらう所からだわ。あー、腕が鳴る)」


 初めこそ距離感が分からなくて少しギクシャクしていたけど、一緒に食事をしたころには完全に馴染んでいた。元々五年前からの付き合いなのだ、多少見た目が変わったからといってギルへの想いは変わらない。あ、いや恋愛対象にはなったけれど!


 これからのことや生活習慣や予定なども含めて前向きに話をしている頃、ハイヒメル大国では悪役令嬢の死がキッカケで、大きな波紋が広がっていたことなど知らなかった。というかどうでもよかった。


お読みいただきありがとうございました(◍´ꇴ`◍)

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は翌日8時過ぎに更新予定です。



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の一文『というかどうでもよかった。』最高です。
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