表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/50

第44話 ヒロインの決断と対立

 ローラはおもむろに立ち上がり、エルヴィスへと一歩一歩歩み寄る。私とギルは警戒し、エル様もいざという時に身構えていた。しかしヒロイン2(ローラ)は震えながら片手を差し出し、


「ずっとエルヴィスが好きでした。お付き合いしてください」

「断る」

(食い気味で断った!)

「我は精霊王。不純な魂如き存在が我と同列になれると思っているのか」

「──っ」


 語気を強めつつローラを睨んだ。その敵意にローラは僅かに怯んだ。


「え、あ。この顔を見てもそんなことを言うの? この姿は貴女の奥さんとそっくりなのでしょう!?」

「だからなんだ? 外見がどんなに似通っていても魂が腐っていて惹かれる者などいるものか。この世界においてそなたは多少なりとも特異的な能力を持っている――が、それだけだ。今、そなたに味方が誰一人おらずシナリオテンカイが発動しないのは、人を惹きつける大事な心が腐っているからだろうな」

「なっ!」


 ローラは図星だったのか顔を真っ赤にして憤慨する。


精霊王(エルヴィス)の言うとおり、ここはゲームではない異世界なだけで未来は自分の手で切り開くものだもの。いくらシナリオ展開やヒロイン補正やら祝福(チート)があったとしても、死ぬときは死ぬわ。……それで、貴女はどうするの? ローラ・ミラー」

「!」

「現在没落貴族で、シリーズ1、2、3で攻略キャラとの接点は薄い貴族の娘。その娘が騒いだところで程度がしれているけどね」

「なっ!」


 ギルは全てを見通しているかのように煽った。ローラの返答次第ではここで戦闘になる可能性もある。シリーズのヒロインは全員が歌魔法の使い手で、歌うことで肉体強化、魔法強化、治癒、浄化など様々な効果を発揮するらしい。


 ギルの話ではヒロイン2(ローラ)は、瘴気の浄化や治癒に特化しており、ヒロイン3(アリス)は肉体強化や魔法強化と戦う専門らしい。アリスを仲間にしておいて本当によかった。私グッジョブ。

 ローラは少し考えた後、ギルを睨み返す。


「私、ヒロインなのにー! 全然、チヤホヤされないし、楽しくなんてない!」

「それは貴女がヒロインという役に胡坐をかいていたからじゃないの? エステルは悪役令嬢だけれど、それでも自分の死亡フラグを回避するため一分、一秒と邁進していたわ。そして死亡フラグを回避した後は、魔王()や誰かのために一生懸命になることをした。私はそういう前向きで頑張り屋さんのエステルが好きなの。それに引き換え貴女は何をしたの?」

「それは……でも、シナリオが最初から全く違うし、味方なんて誰も……」

「エステルだって最初は誰もいなくて、それこそヒロインよりもずっと孤立で味方なんかできない立ち位置の役柄だったのよ」

「──っ、うるさい!」


 ギルの言葉が胸に響いた。

 望んで悪役ポジションに転生したわけじゃない。けれど破滅の道を知っていたのなら、それを回避しようと懸命になるのは当たり前だ。


 でもヒロインは状況によっては助け船が自然と発生する幸運(ラッキー)な立ち位置だったりする。だからマイナスをプラスにする作業よりはある意味難易度的には楽だろう。あくまでも悪役から見ただけだが。


「ローラ、もし魔界との戦いを望まないと本心で言っているのなら、瘴気を浄化する仕事を積極的に行える《聖歌教会》に入団するのも有りだと思う」

「エステル」

「……教会」

「もちろん教会の考えは偏りがあるから、それを内側から変えることも大事だわ。それは悪役令嬢(悪役だった私)がどう頑張ってもできないことよ」


 私の言葉にローラは目を見開き、目を輝かせた。


「……そっか、そうだよね。ヒロインにしかできないことをしてこなかったから、から回っていた……」


 ローラはギルではなく私へと向き直った。そこに悲壮感はなく、なぜか勝ち誇った感じで私を見て鼻で笑った。


「今日は引くけれど、私が教会で昇進してシリーズ3がはじまる頃には私が正しかったことを証明してあげるわ!」

(ん?)

「は?」

「そう曲解したか」


 ローラの頭の中では《聖歌教会》で聖女でも目指し、悪役令嬢()を裏ボス認定したようだ。どんな脳内変換をしたのだろう。完全に私を悪役にする気満々だ。


「ふん、覚えていなさい!」


 捨て台詞を吐いて逃げ出した。それどう考えても悪役のセリフなのだがヒロインが言っていいのだろうか。


「――って、あ、待ちなさい!」


 エステル()が生きていることを知ったままはまずい。そう思って引き留めようとしたが、エル様はそれを制してローラに向けて手を掲げた。刹那、彼女の首に薄っすらと紋様が浮かび上がり、数秒後には消えた。

 なんだろう、今物凄いことをサラッとしたような。


「ええっと……エル様、なにをしたんです?」

「ふむ。瘴気を浄化するのに稀有な能力を持っていたので、教会でこき使われるのはいいかと思ってな」

「いや、そうではなく……」

「あれは《言霊の戒め》という。そなたの名はもちろん、魔王のことを口にすることはできないようにしておいた。ハイヒメル大国でそなたが生きていると知られるのはまずかろう」


 とんでもない魔法をサラッと使うエル様を見て、あらためて精霊王(スゴイ人)なのだと実感した。


「あ、ありがとうございます」

「もう。私の呪詛魔法だってあったのに」

「魔王とアレでは相性が悪い。それに《聖歌教会》には知人がいるので、手綱を握る者がいた方が操作しやすいだろう」

「それは……そうね。悔しいけど、管轄的にはエルヴィスに任せるわ」

「ああ」

「なんか転生者でも、ヒロインだと脳内お花畑になっちゃうものなのでしょうか……」

「さてな」

「単にヒロインに転生した子の性格が最悪だっただけでしょう。自分の都合のいいように解釈していたようだし。まあ、どちらにしても今後は瘴気の噴き出す数が増える以上、有能な人材を眠らせておくより私とエルヴィスで管理して有効活用するのはいいんじゃない」

「然り。いい加減、《聖歌教会》の偏った考えはなんとかして貰わなければと思っていたので、ちょうどいい」


 ギルとエル様はサラッととんでもないことを言い出した。それってつまりヒロイン2(ローラ)の能力が稀有だから知らない間に、利用して使おうとしているのだ。


 権力を持っていると直接対決ではなく搦め手に近いが、無駄な衝突も避けられるので、そう言った大人の対処法を即座に切り替える二人がすごいと思うと同時に、少し怖いとも思った。


(サラッと『首を折ろう』とか物騒なことを言っていたのに策謀を巡らせることもする。一国の王と、魔界の支配者ならそのぐらい考えつくか)


 改めて二人の存在は私なんかが釣り合う存在ではないのだろう。まあ、だからといってギルの隣を譲る気はまったくない。エル様に対しても今まで通り客人(あくまで友人付きあい)で居たいとは思っている。


「ふむ。とにもかくにも今回は本当に助かった。礼として我に飛び切りの飴細工、または甘いものを作ってくれないだろうか」

「脈絡全くないわよね。しかも頑張った側が褒美を要求されているし」

「あはは。……というかお腹が減ったので何か食べません?」

「賛成だわ。(――って部屋を滅茶苦茶にしたから客間に戻るまでに少し時間を稼がないと)……ねえ、エステル。今後の話も詰めようと思うから調理場でスープと摘めるものをエルヴィスの分も用意してあげてくれない?」

「(ギルがエル様の分も用意してほしいなんて珍しい。……まあ、今後の話をする中で私たちだけ食べているのもアレだしな)うん、わかった。すぐに作って賓客室に持っていくね!」

「ふむ。それならその服装では動きづらいだろう」


 パチン、と音を鳴らした瞬間。私のドレスが侍女服に変わった。黒で裾も長く可愛らしいデザインだ。というか魔法って改めてすごいな。


「動きやすい。エル様ありがとうございます」


 それから素早く王宮調理場へと駆け出す。

「私がしてあげたかったのに」と、ギルは口惜しそうに話していたのが後ろから聞こえてきた。


(ギル。戻ったらまた拗ねそう。……ギュッて、抱きしめたら機嫌よくなるかな?)


 それは建前で本当は私がギルに抱きつきたかったりする。

 今になってヒロイン2(ローラ)と対峙したことが怖くなったからだ。


(また私が軽率なことをしたから――)


 考え事をしつつ、王宮の廊下を大股で歩く。本当は転送魔法を使った方がいいのだが、調理場に誰がいるか分からない。認識阻害魔導具も再び装着して、調理場まであと少しという所で曲がり角から人が飛び出して来た。


「!」


 人間急には止まれない。避けようと試みたものの突然現れた男性にぶつかってしまった。尻もちをつく前に、男の人に抱きかかえられたことで難を逃れた。


「大丈夫か」

「はい、すみませ──ん」


 視線を上げた刹那、そこには()()()()()()()()()()()()



お読みいただきありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は22時過ぎに更新予定です。

ええ、そうです。ここでまさかの義兄登場です(ノ*>∀<)ノ♡



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

誤脱報告もありがとうございます(੭ु >ω< )੭ु⁾⁾♡!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ