第43話 ヒロインと悪役令嬢
「ローラ、よく聞いて。ハイヒメル大国のシリーズ1に関しては、シナリオ通りだというのは知っているわ。新聞でも見たし。瘴気の問題や、魔界の扉に関しても国家間で解決しようとしているみたいよ」
「新聞じゃ真相なんて分からないじゃない! ゴシップだって多いし! 確かにシリーズ1の終幕まではグリフィン殿下ルートがメインだったけれど、その後の攻略キャラの人生が破天荒過ぎて意味わかんないし、シリーズ2なんかは悪役令嬢のエステルも出てこないでしょう! 魔法学院の新設にも攻略キャラの殆どが来てないし!」
(私が退場したことで少なからずシナリオ改変が起こっている。でもシリーズ1の攻略キャラが破天荒って……何があったんだろう。聞きたいような、聞きたくないような……)
ローラの愚痴を聞くこと一時間。
粘り強く頑張った。噴水の傍にあるベンチに促して、これまでいかに不遇のヒロインだったかを語る彼女に「うん、うん」と適度な相槌を打ち、時々脱線しそうになるのをうまく聞き流し、本題へと戻す。
紆余曲折の中、ようやく本来の目的に辿り着く。
「それで、ローラの目標は? 好きな攻略キャラと結ばれたいとか、色々願望があると思うけれど、それによってどう動くか一貫した方がいいんじゃないの? この世界ゲームに似ているけれど、ゲームのまんまじゃないってのはわかったでしょう?」
「それは……そうだけど、私ヒロインなのに……どうして誰のルートにも入らないの!?」
(あー、もう。そろそろキレていいかな。ヒロインだから云々の話、本当にイラってくる。確かにゲームだと主人公補正とかあるかもしれないけど、何も努力しないでチヤホヤされるわけがないじゃない)
ここはゲームの世界じゃない、というのを噛んで含めるように言う。もういい加減、無料相談所を終わらせてギルに癒やされたい。終わったらギルにギュッと、抱きしめてもらうんだ。頑張れ私!
「で、ローラはどうしたいの?」
「……せっかくヒロインとして転生したのよ、私はシナリオ通りに世界が危機に瀕してほしいわ。そして攻略キャラ全員を落として逆ハーレムエンドを迎えるの。そのためにも魔界の扉は壊さなきゃならないし、魔王も瘴気に当てられて暴走して貰わなきゃ!」
(は? 魔王を暴走させる? 自分の我欲のために!?)
頭の中が真っ白になった。
パーティー会場から聞こえてきた音が消え、薔薇庭園の垣根を不吉な風が煽る。
「魔王ギルフォードを倒して、私は攻略キャラと幸せに暮らす! これが私の目標よ!」
「駄目。それだけは、絶対に」
「えっ……」
私は自分の気持ちにブレーキを掛けることができなかった。すでに一時間以上彼女の話を聞いてわかったこと。彼女は人の話にまったく耳を貸さない。自分の都合のいいように解釈して、傍若無人の態度を改めてない。
ヒロインだろうとなんだろうと、そんな人格破綻者に惹かれる奇特な人はいないだろう。
「自分の都合で世界を貶めようなんて、それこそヒロインのすべきことじゃないわ!」
「う、うるさいわね! しょうがないじゃない。シナリオ通りじゃないんだもの」
「だーかーらー、ここはゲームとは違う。この世界に生きて居る人たちはプログラムされたものじゃないのよ! わかっている!?」
「わかっているわ! シリーズ2の展開が上手く進まないのだからシリーズ3のヒロインの代わりに私が世界を平和にする役割を継ぐ。それだけよ。幸いにも私はそれだけの魔法能力があるもの!」
怒りに震えながら私は拳を強く握り、辛抱強く説得を試みる。
「つまり――今なら魔界との衝突が避けられるかもしれないのに、自分の目的のために自国はもちろん、いろんな人が傷つき死のうが関係ないって言いたいのね」
「……そ、そうよ。他人なんか知らないわ。それにシナリオ上――」
ベンチを立ち上がると黒のウィッグを外す。赤い髪が靡き、認識阻害の魔導具も外してヒロイン2の前に立ち塞がる。
「魔王は――ギルは絶対に殺させない。私の大事な人で、大好きで、恋人だから。ヒロインだろうと絶対に譲らないわ!」
「え、あ……あなた……エステル・ルーズヴェルト!?」
思わずぶちまけてしまった。
ああ、私の馬鹿。
この一時間の無料相談が水泡と帰した。それでも、この一点に関しては看過できなかったのだ。もっとうまいやり方はいくらでもあったはずなのに、悪手だったと後悔した。
(ヒロインを敵に回すなんて……馬鹿すぎる。でもっ――)
この平和な世界に戦争を起こさせない。
大切な人との未来を、自分勝手な我欲のために潰させてなるものか。
私は戦闘能力ほぼゼロだし、人脈も権力も無い。
それでも、好きな人のためなら戦ってみせる。
「元悪役令嬢エステルの名は捨てたわ。今はただ貴女の敵よ」
「!?」
「そういうこと。残念だけどシリーズ2の設定は初手から潰させて貰ったから、貴女が輝く未来はないわよ、ローラ・ミラー」
「!」
すぐ隣にギルが佇んでいた。いつの間に現れたのか全然分からなかった。ギルは私の腰に手を回し抱き寄せて、ローラから距離を取った。
ギルの匂いと温もりに、強張っていた体の力が抜ける。
「ギル。……私」
「私としては愛しい恋人の本音が聞けて嬉しかったわ。大満足よ」
「ギル……。でも」
「まあ、一時間もよく頑張ったと我も思う」
「エル様」
薔薇庭園の奥から億劫そうにエル様が姿を見せる。
月夜の日差しを浴びて法衣が白銀のように錯覚しそうになった。神々しい雰囲気を纏った彼の登場に、ローラは目を見開いた。
「エル? まさか精霊王エルヴィス!?」
「いかにも。我が庭で怪しげな行動をしていたので、エステルに接触を依頼したのは我だ。そして彼女は私の王妃」
「違うから! わ・た・し! のエステルだって言っているでしょう」
「そうです! 私はギルのものなんですから!」
ギュッとギルに引っ付いてエル様とローラにアピールをする。しかしローラの顔は私たちなどお構いなしに、エル様を見て唐突に泣き出した。
「生エルヴィス! ええ、どうしよう。やっぱりこの場で待っていた甲斐があったわ!」
(ええ……この反応。というか今の状況をまったく理解してない?)
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次は19時過ぎに更新予定です。
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