第4話 ギルとの出会い 後編
「え、私が知っているのはシリーズ1だけなのだけど!?」
「私が知る限りシリーズ3までは発売されていたわ。そのラスボスが私なのよね」
「ラスボスってことは……」
「そう、私も《死亡フラグ》を回避するために人間世界に来ているのよ。……まあ、ここに来ているのは、魔界には可愛い物なんてないから癒しを求めてきた……と言っても過言ではないわ」
なんだかお互いに先のない未来に不安を覚える者同士だったのだとわかる。攻略対象キャラや、モブなら楽観視できただろうに。お互いにタイムリミットがあるのだ。
「……それにしても敵情視察としてサイラスやディーンの偵察に来たけど、悪役令嬢役の存在をすっかり忘れていたわ」
「まあ、どうせ私は本編のラストで死ぬもの。ある意味モブ?」
「ああ、あれ。死んでないわよ」
「え」
さらっとギルは私の《死亡フラグ》を叩き折った。
「ええええええ!?」
「断罪イベント後の分岐点で処刑コースが殆どだけど、国外追放ってルートがあったでしょう?」
「え、あ。婚約者グリフィン殿下の……」
「そう。あのルートの場合、土砂崩れに巻き込まれて死亡──ではなく、実は記憶喪失になるけど生きていて、その土地の子爵令嬢に助けてもらうのよ。し・か・も、その子爵令嬢はシリーズ2の主人公なわけ」
「あー、記憶喪失して親友ポジションに?」
「そうなの。エステルって結構序盤の頃からデザインも可愛くて『え、この子が悪役令嬢役なの?』……ってみんな思ったでしょう。あれはシリーズ2で実は魔界にいた魔王が憑依していたとか後付け設定がぶっこまれていたのよね」
「魔王が憑依」
「そう。魔王が──」
「「……………」」
私は子猫であるシリーズ3のラスボスをまじまじと見つめた。さっき、この人魔王って言いましたよね。名乗りましたよね。そして自分の死亡フラグを回避するとも──。
沈黙。
咄嗟に私はテーブルから後ずさり距離を取った。それに対して子猫は自分の発言に気づいて弁明する。
「ち、ちがうわよ! 私はそんな酷いことしに来たんじゃないって! せっかく見つけた異世界人同士仲良くしたいって思っているわよ!」
「でも魔王がここに来るっていうのも筋書き通りよね!?」
「それは、そうだけれど!」
必死で弁明する子猫が可愛いので心が揺るぎそうになるが、自分の生死がかかっている以上、油断はできない。身構えていると、子猫は両手を上げて降参のポーズをとった。
「女の子一人の人生を狂わせるようなやり方なんて私のポリシーが許さないわよ! そんなに不安なら私が貴女の断罪イベントを何とかするから、私を助けてほしいわ」
「!」
眼前にいる子猫──ラスボスは私と同じ悪役だ。それは設定なだけであって、ゲームの通りの人物は違う。なにより生きるのに必死で、生き残るためのか細い糸を手繰り寄せようと頑張っている。
そこに私との違いはない。
いずれにしても私が悪役を押しつけられる舞台で、手を貸してくれる味方なんていない。それはラスボスの魔王も同じだ。
互いに悪役なのなら、自分たちの未来のために──。
「ねえ、ギルはこの世界でやりたいことってある?」
「なによ、やぶからぼうに」
「私はね、畑とか作って自給自足しつつ森の奥にある一戸建ての家で気の合う友人とのんびりと暮らしたいって常々思っていたのよ」
「ふぅん」
「ギル、私と一緒に暮らさない?」
「と、唐突ね。……私、魔王なのよ?」
「でも、悪い魔王じゃないでしょう。あ、私と一緒に暮らしたら可愛いヌイグルミとか作ってあげられるし、日本食とかお菓子が食べられるわよ」
「オッケー、わかったわ。どんとこいよ!」
(ちょろいけど、それでいいのかなこの魔王?)
こうして悪役令嬢とラスボス魔王は手を組んだ。
それから五年、逃亡場所の一軒家探しから、家具やら日用品や諸々の準備を備えて──私は断罪イベントを迎えた。
殆ど亡命のために準備とかしていたので、ヒロインの嫌がらせなんかまったく頭になかった。それでもシナリオ通りに嫌がらせは私のせいにされて婚約破棄を言い渡され──退場。
イアンが馬車に飛び乗ってきた時は焦ったけれど、予定通りに私は死んだことになった。
土砂崩れに巻き込まれる瞬間、ギルが用意してくれた身代わりと入れ替わる形で私はハイヒメル大国から隣国のノードリヒト国の端にある《シルトの森》に瞬間移動した。
ノードリヒト国は多種族国家で、その中でも精霊の加護のある特別な森だという。この国の移動手段は空路、陸路、そして水路を使っており、私たちの一軒家の近くにも水路はある。街に行く際に必要な交通手段だ。
一軒家を用意したのは全部ギルだったりする。しかも色々面倒な手続きやら特別な魔法などの後方支援をしてくれて、私の未来を変えてくれた恩人。
もっとも初顔合わせの時に驚いたのは言うまでもない。だって私はこの時までギルを女あるいは猫、異形種だと思い込んでいたのだから。
お読みいただきありがとうございました(◍´ꇴ`◍)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は明日の朝8時過ぎに更新予定です。
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