第39話 午後のデート
食事を終えた後、私とギルはデートを堪能すべく、リュビの店を後にした。
お昼を終えてそのままのんびりお茶もしていたので、時計の針は二時過ぎを指していた。心なしかすでに一日が経過したような精神的な疲労感がある。
「疲れているのにごめんなさいね」と、私の顔を覗きこんでギルが申し訳なさそうに謝ってきたので、私は頭を振った。
「ううん。元はと言えば私がアリスを助けたことから始まったし、いろいろ乗り越えた……んだよね?」
「ええ、シリーズ3のシナリオはこれで根本的に瓦解するはずよ。まあ、未来のことだから確実とは言えないけど」
「そっか。でも、いい方向に傾けられたならよかった」
「(まさかヒロインまで陥落させるなんて、末恐ろしいわ。……まあ、魔王の私を落としたのだから、今さらね)そうそう、それよりもお揃いの食器をたくさん買いましょう」
「うん! ギルが創造魔法で作ってくれるけれど一緒に買った思い出が増えるもんね!」
「ええ、その通りよ」
ギルと手を繋いで私たちは露店巡りを堪能することにした。首都の広場には緑の芝生が広がる中央公園があり、その一帯に様々な店が並んでいた。
前世の出店に近いものだと思っていたのだが食べ物関係はあまりなく、殆ど日用品やアクセサリー、魔導具などが八割で飲食店は飲み物や果実系のみ。
お好み焼きやクレープ、イカ焼きや、りんご飴などの胃袋を刺激するようなものは何一つない。この世界においての食文化は理解しているつもりだったが甘かった。
「本当に食べ物関係は乏しいのね」
「まあ、そうね。果物は基本丸かじりだし。飲み物も酒や果実汁ぐらい」
果実汁といった店で置いてあるのは、ヤシの実のような両手ほどの丸い果実に藁で作ったストローのようなものが突き刺さっている。気になったので一つだけ買って「ギルと半分こにしよう」と提案したら、なぜかギルは「大胆ね」と上機嫌になった。
意味がよくわからず小首をかしげていたが、ヤシの実に似た果実の上に二本のストローが突き刺さっているのを見てようやく理解する。
(あ、こ、これは……いわゆるカップル飲み!)
「ふふっ、こういうの一度やってみたかったのよね~」
周囲の視線もあったが、今更だと思い諦めた。羞恥心はあったものの好きな人となら──まあ、悪くない。口にした瞬間、その味に衝撃を受けた。
「んー、水?」
「そうね。昔飲んだスポーツドリンクを三倍に薄めた感じがするわ」
「うん。でも思ったほど酷くなくて驚いたかも。他の食材ってけっこう酸味や苦味ばかりだったから」
「あー、たしかに魔力が蓄積される分、旨味が乏しくなるのはしょうがないのかもね」
ふとそこでギルは何かに気付いたのか、私に視線を向けた。
「そう考えるとエステルの植物魔法……ううん植物創成魔法は有能ね。美味しいし、魔力もたっぷり。それにチーズやベーコンまで作れるのだからビックリよ」
「えへへっ。私の植物創成魔法は、周辺に漂っている微量な魔力と私の魔力で実の中心に旨味、それを覆うように魔力が蓄積するように作っているからね。あ、でもチーズやベーコンとか本来植物じゃないものは、味が少し落ちるみたい。チーズの濃厚さや、味の深さとか本物とはランクが落ちるかな」
「そうなの? 全然気づかないぐらい美味しかったのに」
「うん。キノコは上位精霊の緑の貴婦人の協力で美味しいのが収穫できたけどね(これを見越してエル様は私に加護をくれたのかな)」
「それでもすごいことよ。恋人として鼻が高いわ」
ギルは熱のこもった眼差しを向けながら微笑む。その圧倒的な色香は無自覚なのか、一瞬で私の心を攫って行く。この表情、他の人にはしてないだろうかと、時々不安になる。
「ギル、その顔禁止」
「心配しなくても、私が微笑むのはエステルだけよ」
「!」
サラッととんでもないことを言う。ふと私が居ないときのギルの姿を見てみたいと思ったが、それはそれで私の心臓が持つのか不明だった。
「ギルのギャップ萌えは我慢する」
「ふふっ。なに~、それ」
嬉しそうに笑うギルが一番好きだ。私はギルに引っ付いて露店を巡った。
陶器類でも果物皿などは多くあり、お揃いのものを買った。特に気に入ったのはカップル用の白と黒猫のペアのマグカップだ。
可愛い趣味の感覚が一緒だと選ぶのも楽しい。
「ねえ、エステル。このカップなんてプリン用にどう?」
「あ。花模様が可愛い。ねえ、ギルこっちの深緑色の器、和っぽくない?」
「あら、抹茶みたいな色合いね。あー、これで抹茶プリンか、アンミツが食べたいわ」
二人で色々買い込んだ後、荷物はリュビの店に届けてもらうように手配した。その後は二人で本屋に直行。この世界の知識を広めるため──というのは建前で実際は興味のある本がないか買いに来たのだ。
「ギルはどんなジャンルを読むの?」
「そうね~、この世界においての哲学やら歴史、あとは図鑑や地理関係の本、恋愛小説とミステリーがあれば御の字かしら」
「……最後のほう完全に趣味に走っているよね」
「ふふっ、まあそうかも。エステルは?」
「植物図鑑と伝承や伝説関係。あれば料理の本、あとは……ミステリーとファンタジーと、恋愛ものと旅行記、アート関係全般、暮らしの知恵……」
「伝承や伝説は少し意外」
「やっぱり変かな。ギルの、魔族のことが載っているかもしれないでしょう」
「エステル。貴女って本当に私のことばかりなのね」
ギルは口に笑みを浮かべたまま、少しからかうように告げた。付き合う前なら恥ずかしいのと友人関係を継続するために本心を噤んでいたが、恋人になったのだから堂々と自分の気持ちを口にする。
「うん。だってギルとずっと一緒にいたいもの。大好きな人のために何かしたいって思うでしょう」
「んん、尊い! (直球! いいえ剛速球だわ。どれだけ私の心拍数をあげれば気が済むの!?)」
ギルは片手を口元に当てて悶絶していた。最近、ストレートに思いを告げているせいか刺激が強いのかもしれない。私は私でギルのふとした表情に心臓を撃ち抜かれるので、おあいこだと思う。
お読みいただきありがとうございました(ノ*>∀<)ノ♡
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は明日8時過ぎに更新予定です。
次回から最終章!!突入です٩(ˊᗜˋ*)و
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