第31話 賑やかな朝食
朝食の準備のためビニールハウスで取れた野菜を片手にリビングに戻ると、当たり前のようにエル様が座っていた。私とギル、そしてエドモンドを交互に見た後、「その子はどっちの隠し子か?」と茶化して来た。
「違う」
「違うわ」
私とギルは即答した。エドモンドはエル様を見たが「強いけど違う」と呟いたのが聞こえた。うん、この人も異性じゃないけれど強いからね。
そんなことを思いつつ私は台所へ向かい、エドモンドとギルは洗面所で手洗いうがいを行う。なんだか知らない間に来客数が増えた気がしなくもない。
今日の朝食は和食で豆腐とほうれん草のお味噌汁、長芋の浅漬け、だし巻き卵、鮭の粕漬けだ。エドモンドとエル様だけは魚の代わりに鶏モモのソテーとポテトサラダ。鶏モモは昨日一日かけて肉を柔らかくするブライン液(水200/塩10グラム/砂糖10グラム)に漬けておいたものを使用。この世界の肉は本当に硬くてうま味成分も少ない。だからこそ料理の技術と下拵えで最高の一品に昇華させるのだ。
三人には食前にと思って庭で取れるリンゴを剥いて出してある。このリンゴの木は私が植物魔法で生成し、育てている。甘味もあってそれだけで、この世界で採れる果実よりも甘くて美味しいだろう。桃と栗は熟成するのに時間がかかるが、それはそれで楽しみだ。すでに取り合いをしているのか言い争う声が台所にまで聞こえてきた。
『ちょっと待て、ギルフォード。なんでそなたの方が一つ多いのだ?』
『愛の差じゃないの? ん~、甘くて美味しい』
『美味しい。甘い。……もっとほしい。くれ!』
『私のリンゴに手を出したら問答無用で吹き飛ばすぞ☆』
『ヒィ!』
『大人気ない』
『じゃあ、お前のを』
『ふむ。今死にたいようだな』
『な、なんでもないのだ!』
二人増えただけで随分と賑やかだ。
リンゴを食べ終わったギルは皿を下げるために台所に入って来た。
お腹の音がうるさいエドモンドと、エル様の分のソテーとポテトサラダをリビングに運ぶのを手伝ってくれた。率先して手伝ってくれるギルがイケメン過ぎる。
運んだ後、ギルは私たちの分であるだし巻きの取り分けと、冷蔵庫から浅漬けを出して小鉢に盛り付けてくれた。私は焼き上げた魚を盛り付ける。
「ん~、粕漬なんて久しぶりだわ。前世じゃ白身で食べることが多かったけれど、鮭のも楽しみ」
「(鮭ってたしか分類的に白身魚に入るけど……)うん、じゃあ銀むつとか、銀だらが手に入ったら作ってみようか?」
「あら、いいわね。じゃあ、少し遠出をして魚釣りにいくのはどう?」
「本当! やった。釣りデート楽しみ!」
「(釣りデート……! なんていい響きなのかしら)ええ、そうね」
ちょっとしたことでも、ギルがいると楽しさが倍になると幸せを噛みしめた。
自分たちの朝食をお盆に載せてリビングに戻ったのだが、二人とも驚くほど夢中で料理を食べていた。
エドモンドは肉の山を「ジューシー、美味しい。なんだ、これは!」と狂喜の声を上げている。肉をフォークで突き刺し食べるという蛮行──まずはマナーから教える必要がありそうだ。
対してエル様は完璧なナイフとフォーク捌きで、一口ずつ口に入れては「美味」と酔いしれていた。お酒とかまったく入れてないのだけれど、どこの世界に旅立っているのでしょう。
そんな二人を余所に私たちも食事をとることにした。
「いただきます。んー、炊き立ての白米、最高~」
「いただきます。ねー、やっぱり朝は白米だね」
そう言いつつ私たちの食べている白米に、エル様とエドモンドが反応する。目をキラキラさせている二人を見た瞬間、親子じゃないかなって思ってしまった。それほどまでに同じ顔をしている。なんだか嫌な予感。
「なんだ、その白い粒は……?」
「食べたい。きっとこの白いのはソテーにも合うのだろう?」
目を輝かせるエル様とエドモンドの圧に負けて一応用意してみた。まあ、うん白米が合わないわけはないのだけれど、この世界で白米が受け入れられるか未知数だったので、出さなかったのだ。もっともそれは杞憂に終わる。
「なん……だと……。口にすればするほど食が進む……相乗効果!」
「ハクゥマイと肉の組み合わせ、すごい」
「……ギル、白米の生産量を増やした方がいいかな」
「エステルが負担になるようなら容赦なくこの二人の分をカットすればいいわ」
ギルの容赦のない言葉にエル様とエドモンドの顔が絶望に染まる。そこまでだろうか。というか、エル様はまあ交渉しているから食事に来るのは問題ないが、エドモンドの追加は少し予想外だ。特に食べる量を考えると消費量の方が明らかに多い。
「この肉好きだ。毎日食べたい」
「ええっと……エドモンドは花嫁探しの最中だったんじゃないの?」
「うぐっ……でも、肉」
料理の美味しさに満足したのか私への反応が軟化したようだ。もじもじしている姿はちょっとかわいい。
「花嫁……でも、肉」
(天秤がすごく揺れているのが見える……。でも、それ同一にしちゃっていいの?)
暫く考えた結果、エドモンドは一つの結論を出す。妙案を閃いたかのように目を輝かせていた。あ、なんか嫌な予感。
「お前を嫁に──あああああああああああああああああああああ」
「エステルは私のだって言っているでしょう」
エドモンドは電流を浴びてテーブルに突っ伏した。ちょっと可哀そうだ。
「ふむ。ついに恋人になったのか」とエル様の言葉に、私とギルは顔を見合わせて笑って「そうです」と答えた。なんだか誰かに宣言するのは少しこそばゆい。
「ふむ。人のモノになったのなら、ますます手に入れたいものだ」
爆弾発言投下。
ん、え。それって寝取る発言でしょうか。
「我は人のモノを奪うのが好きな趣向がある」
「そんな趣向を自慢気に語らないでください!」
「そうよ。エステルはぜぇええええったいに渡さないからね!」
「うんうん。私はギル一筋です!」
「ふむ。それはそれで楽しみだ」
ぺろりと舌なめずりをするエル様に、背筋が凍った。
こういう時、「恋人になっておめでとう」とかの流れではないだろうか。なに宣戦布告しているんだろう。
私とギルは互いに抱き合いながら、エル様がヤバい性癖を持っていると再認識した。シリーズ3の攻略キャラの属性が歪みすぎてないだろうか。大丈夫か、公式!
「ふふっ、星祭りは面白くなりそうだな。エステル」
一難去ってまた一難。
なんだか面倒なことになりそうな予感がしました。ええ、しましたとも!
お読みいただきありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は明日22時過ぎに更新予定です。
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誤脱報告もありがとうございます(੭ु >ω< )੭ु⁾⁾♡!
9/26
鮭って赤身の魚だと思ってました(((;꒪ꈊ꒪;))):
ちょっと賢くなった気分です( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
こちらちょっとセリフを修正しております。




