第30話 新たな攻略キャラあらわる
いつものように欠伸を噛みしめながら一階に降りる。今日の朝ご飯は何にしようか――そんなことを考えていたら台所でコーヒーを淹れるギルの姿があった。「おはよう」と声を掛けようとした瞬間、彼がマグカップを二つ持ってリビングに向かうのが見えた。
(私の分じゃない……?)
不思議に思いながらリビングに顔を出した瞬間――固まった。そこには見知らぬ美女とギルが仲睦まじそうに談笑しているのが見えた。美男美女であまりにも見惚れてしまうほどお似合いの二人。
チクチクと胸が痛み、声を掛けようとした直後。
ギルと美女の距離が縮まりゼロとなる。
***
「ギル!」
勢いよく飛び起きた直後、ゴン──と額に鈍い痛みが走った。
目が眩み私の身体はベッドに沈む。一瞬、お星さまが見えた気がした。
「痛っ……」
「(寝顔にキスしようとしていた罰かしら)……え、エステル、額は無事!?」
私の目の前に額を抑えたギルの姿があった。いつもと変わらない優しい笑顔を見たら、泣きそうになった。あれは悪い夢だったと実感したくて「ギルぅうう」と抱き付いた。
ギルは私の背中に手を回して、ポンポンと背中を叩く。
「どうしたの~? 嫌な夢でも見たのかしら?」
「ギルが美女と楽しそうにコーヒーを飲んでいたの」
「あら。じゃあ嫉妬してくれたの?」
「うん。キスしそうだったから全力で殴ってでも止めようと思って……」
「なぐ……、そう。私はエステル一筋なのに酷いわ。(……というか、どっちを殴るつもりだったのかしら?)」
今思い返しても腹が立った。「ギルは私のギルなのに!」と不満を漏らすとギルは笑っていた。
「エステルは独占欲が強いのね、少し意外」
「私だって人並みにあるよ」
頬を膨らませて本気だというのをアピールしたが、「可愛い~」と言われてキスされてしまった。全然本気だと思われていない。解せない。
「──っと、そうだわ。エステルに紹介したい人がいるのよ」
「ハッ、浮気相手?」
「違うわよ~。いい加減、目を覚ましなさい」
鋭いツッコミに私は笑うことができた。
恋人になってお互いの距離や雰囲気が壊れたらどうしようかと思ったけど、杞憂だった。私はギルを大事にしたい。ギルも私を同じように思ってくれているのなら、上手く──そんな気がした。
私は顔を洗ってパジャマからワンピースに着替えてリビングに降りてきたのだが、そこには誰もいない。「こっちよ」とギルは庭に出て私を呼んだ。
「客人がなぜ庭に?」と疑問を持ちつつもリビングから庭に出た。
刹那、絶叫とも呼べる声が耳に入る。
「はーなーせー。おーろーせー。うおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ええっと……大きなトカゲ? ううん、もしかしてドラゴン?」
「そう。竜人族ね」
庭の傍にある大樹に逆さ吊りにされていたのは、銀色の鱗に覆われた幼竜だ。全長四十センチ前後だろうか、蜥蜴人に近い姿で、蝙蝠の羽根があった。角もよく見れば二本ある。瞳は青くてとても綺麗だ。
「ちなみにアレがシリーズ2でナビ役とショップ画面に居る子よ」
「ええ!? リュビは引退しちゃったの? 結構人気だったのに」
「ああ、リュビは2で見事に攻略キャラの仲間入りをしたわ(あと元々私の部下だけれど)」
「そうなの!? まあ、シリーズ1の時から人気あったからなんか納得」
シリーズ1しかプレイしたことがなかった私としては、是非とも2と3もやってみたかった。今更だが。
「……にしてもシリーズ2は、あの竜の姿で主人公と一緒に行動するの?」
「時々竜の姿になるけれど、基本は人型になるわ。だいたい十三、四歳のやんちゃな子どもよ」
「やんちゃ……うん、納得」
「なに納得してるんだアアアアアアアアア! いい加減放せ!」
水揚げされたばかりの魚のようにビチビチともがいている。というか何故捕縛されているのか分かった気がする。パワフルというか元気すぎるのだ。あと煩い。確実に騒音レベルである。
「エドモンド、次、声を上げて騒ぐようなら殴るわよ~」
「ヒッ!」
ビクリと全身を硬直し幼竜は口を閉じた。ギルは縛っていた縄を解いたけど、代わりに尻尾に腕輪のような魔導具を取り付けた。宝石などが付いていて結構豪華だ。
「次、騒いだら、問答無用で電流が──そうね十万ボルトぐらい流れるわ。あとエステルに危害を加えても同じよ」
「うー、わかったよぅ」
(あ、孫悟空の緊箍児呪みたいなものか……)
シリーズ1のリュビは大人びた子供だったから、2は明るい元気な子にしたのだろう。やんちゃだけれど素直なところはいいことだ。
「それでええっと、エドモンドはこの森に用があったの?」
「…………」
膝を抱えて同じ視線になろうとしたが、エドモンドは眉を吊り上げてそっぽを向く。ちょっとショックだ。
「オレは弱いやつ嫌い。だからお前とは話さな──ぎゃああああああああああ」
容赦なく電流が流れたことで全身が痙攣し、その場に倒れこんだ。
発動条件が厳しめなのは気のせいだろうか。
「私の恋人であるエステルに酷いことを言うのも敵対に含まれるわ」
「ぎ、ギル……子ども相手にもう少し寛大になった方が」
「いいのよ。このぐらいしないとシリーズ3では、傍若無人で思いやりのない子に成長した俺様系になるのよ。今のうちに矯正が必要なの」
(3だと攻略キャラに昇格するのね。ナビの子たちの成長によって出世していく仕様なのかな……。やっぱり2も3もプレイしたかった)
ぷしゅう、と音が出そうな幼竜は地面に突っ伏したままだ。あれだけの電流を浴びても鱗一つ傷ついていない。耐久度は高いようだ。
「ええっと、大丈夫?」
「だ、いじょ……オレ強いから、泣かない……もん」
(あ、なんか可愛い)
「エステル、私の前で浮気?」
「違う。これは何というか……母性本能?」
ギルは「ほんとうにぃ?」と私を抱き寄せて聞き返す。疑われることに心外だと思い「本当よ」と即答した。
「まあ、いいわ。……で、エドモンドはなんでこの屋敷目掛けて飛んできたのよ」
「……花嫁探していた」
その言葉にギルは私を守るように腕の中に閉じ込めた。
あ、ギル。たぶん私は恋愛対象外だと思うから大丈夫だと思う。戦闘力ゼロみたいなものだし。しかしギルは警戒しつつ「花嫁の条件は?」とエドモンドに尋ねた。
「オレと同等の強さを持つ奴」
そう言った瞬間、ギルの顔色が青ざめた。「え、まさか」と呟く。数秒ほどギルがなぜ豹変したのか分からなかったが、ギルが強い→異性と思っていた、もしくは同性でも──。その考えに行きついた直後、私はギルを抱き返す。
「ギルは私の旦那様になるから駄目です!」
「そうよ! エステルの夫になるんだから!」
「違うぅううう!! オレは異性にしか興味ない。道に迷っていた時に強そうな奴の匂いがしたからこっちに来たんだ!」
エドモンドも慌ててギルが恋愛対象外だと告げた。ギルの強大な魔力に釣られたのなら納得ではある。それにしても森で道に迷ったって昨日の私と同じじゃないか。
「それで、貴方の目的地はどこなの?」
ぐううううううううう、と大きなお腹の音が鳴った。以前、ギルもこの家に来た時にお腹を鳴らしていたのを思い出し、私は口元が緩んだ。
「とりあえず家でご飯食べていく?」
「ふん。弱い者の作る料理などおおおおおおおおおおおおおおお」
学習力がないのか電流を浴びて再び突っ伏した。心なしか電流のスイッチ判定が早い気がするような。
「……ご馳走になる。いや、なります!」
「うん。好きな食べ物とかある?」
「食事なんてどれも同じだ──えっと、お肉とかがいいです」
三度目で学習したのか、とっさに言い直した。
朝から油ものは胃に悪いからソテーにしよう。エル様以外のお客さんに私は少しテンションが上がっていた。
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次は明日8時過ぎに更新予定です。
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