第28話 魔王ギルの視点3
『ああ、ようやく私だけのモノに。……愛しているよ、エステル』
第二宮殿の時計に仕込んでおいた映像録画魔導具の状況チェックをした瞬間、凄まじく後悔した。
「うわぁ、怖っ。気持ち悪っ」
予想以上のヤバさだった。
しかも入浴中に確認するものじゃなかったとため息が漏れた。あと映像録画魔導具を設置したことも。
シリーズの中でもヤンデレレベルが一位、二位を争うほどの拗らせぶりを発揮している。だからこそ監視の意味も込めて試しに置いてみたのだが、精神衛生上よろしくない。こんなのを見ていたらこっちの精神が病む。
客観的にそう思ったのだが、好きな相手を監禁もしくは閉じ込める。
逃げようとしたら連れ戻す。
外堀から埋めて自分色に染める――などついさっきまでの自分も似たようなものだと思い至り、ダブルで凹んだ。
フェリクスとの相違点。
エステルが私を選んだという点だろうか。
(いや、私はあそこまで歪んでない――)
そう思ったが、完全な否定は難しい。
我ながら面倒くさい男で、エステルは本当にこんな自分が好きなのだろうか。
不安になるもエステルからのキスを思い返し、少し気持ちが落ち着いた。あの恥ずかしがり屋のエステルが私の唇にキスをしたのだ、友人としてではないだろう。
単純だが私のメンタルは簡単に復活した。
(とりあえず次からは部下からの報告だけにしようかしら……って、それより他の報告もさっさと目を通さなきゃ)
この後は「エステルのお部屋を訪れる」という恋人としての一大イベントが待っているので、面倒事を済ませる必要があったのだ。
幸いにも部下の報告は全て魔鉱石に文章をアップロードさせることにより、PC画面のようにホログラムが現れる記録型魔導具だ。
紙や前世の電子機器と違い風呂場でも湿気を気にせず閲覧ができる。
いつもは夜の時間は各攻略キャラの言動など部下からの報告書に目を通しているのだが、今日はエステルと一緒の時間を過ごすため入浴中しか機会がなかったのだ。後回しにして一手指し間違えることはのちのち破滅に繋がりかねない。
ゲーム設定を念頭に置きつつ、様々な可能性と展開の先読みでここまで来た。もっともシリーズ1では自分が動くことによって、エステルにその余波がどういくか不明瞭だったので積極的には動けなかった。
常に傍に居られる訳でも完全に守れるわけでもなかったから──。
「それにしても、こういう展開になるとはねぇ。さすがシリーズ1の中でぶっちぎりヤバイ属性てんこ盛りのヤンデレだわ、うん」
ゲーム設定を元にフェリクス王子の執着がエステルに向いていることは、子猫の姿で探っていた時から分かっていた。なにせサイラスや両親たちからの贈り物や手紙は全てエステルに届く前に処分し、エステルの私物やら使用したものを回収するほどの執着ぶりは異常だった。
彼女の心を手に入れるために家族や周囲から孤立するように仕向けたのもフェリクスだ。しかしその一手はあまりにも遅かった。
あの男よりも私という存在とエステルは出会っていたのだ。すでに拠り所を決めた彼女が、ゲーム設定を知っているヤンデレ属性てんこ盛りのフェリクス王子に傾くはずもない。
(まあ、彼の手を取ったら監禁ルート直行かバッドエンドしかないもの)
部下に命じてエステルそっくりのホムンクルスを作らせ、ダミーの遺体として用意していたものの、思いのほかフェリクス王子の執着が凄まじかった。
死者復活を目論んでいたことを知り、慌てて部下数名を死霊術師と称して派遣。空っぽのホムンクルスの身体に女夢魔の魂を入れてエステルが蘇ったように仕立てた。
女夢魔にはフェリクスに軽い魅了をかけるよう指示を出しているが、あくまでもエステルと相思相愛で愛し合っていると思わせるだけに留めており生命吸収などは禁止した。もっとも愛を育んでいるので魔力供給の問題は大丈夫だろう。
イアンもといフェリクス第二王子。ヤンデレ系ミステリアスから、ヤンデレ(ストーカーも含む)+死体愛好の節がある鬼畜へと変貌を遂げた。
(この手のタイプは、極上の夢の中で溺死させた方が後腐れもないから楽なのよね)
エステルへの執着だけ異常なのだが、それ以外は優秀なので王太子から王となれば数年後に賢王と呼ばれるだろう。あのグリフィン元王太子よりはマシな配役だと断言できる。
(さて、臣籍降下によって王族から除籍されたグリフィンの報告は……と)
二週間は王都のはずれにある屋敷に引きこもって、酒に溺れたと報告があった。しきりに「フレンチフライ」とか「ジンジャエァール」と呟いていたらしい。
このまま廃人になっても一向にかまわないが、逆恨みされる可能性を潰すためエステルにフライドポテトのレシピとジャガイモの種をわけて貰い、部下のリュビ経由で情報を流すように指示を出した。また王都を離れて領地で芋栽培することを促すことも忘れず行った。
リュビは「フレンチフライ」の原料であるジャガイモという植物の説明をしたのち、その種をグリフィンに見せたそうだ。「これがフレンチフライの種!」を五、六回叫んだあと覚醒。「これでアレを食す可能性があるというのかぁああああああああああ!」と狂喜乱舞したとか。その後は本当に酒を絶って即行で従者と共に領地に戻った。
二ヵ月経った今では農夫たちと共に「フレンチフライ」を再現するため粉骨砕身肉体労働に勤しんでいるらしい。傲慢な性格も軟化し、農夫たちと打ち解けている。しかも以前クビにした料理長を探し出し、頭を下げて領地に来て貰うよう頼んだという。
(アル中、心神喪失からの覚醒……って、すごいわね。よっぽど食べたかったのね、フライドポテト……)
ページを読み進めると、酒も絶ってアル中から脱したようで「人が変わったようだ」と従者のロミオは感動して泣いていたらしい。
屋敷に勤めている侍女の定時報告では、そのように記載されていた。
グリフィン王太子。オレ様系キャラから、アル中廃人まで落ちた後、脳筋系農業好青年として復活。なんとも波瀾万丈の生き方だ。この先、ジャガイモ命で生きてくれるのなら助かる。
(……まあ、前世でも食や酒で戦争を起こしたものだし、人が変わるだけの起爆剤になるには十分だったのかも。ジャガイモは冷涼な環境を好むし、グリフィンの任された地域は北部だからちょうどいいわね)
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次は21時過ぎ→20次に更新予定です。
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