第27話 フェリクス第二王子の視点3
(想定よりも早いな。まあ、ちょうどいい)
転送魔法を使ってソレーヌ嬢は入り口に佇んでいた。
彼女の服が少し乱れていたのを見て、神聖なこの場を汚す異物に映った。
(ああ、ここに呼ぶのは早計だったか。まあ、ここなら誰の邪魔も入らない)
ソレーヌ嬢は私とベッドに眠っているエステルを交互に見つめ――目を見開いた。信じられないと言った顔を見る限り、ここに彼女がいることは知らなかったようだ。
「それで、どうして君はエステルが生きていると知っているんだ?」
「え、な。エステルはスフェラ領地にいるんじゃ? え、なんでフェリクス王子がエステルを保護しているのよ? ありえない。こんなルートなんてなかった。あの子がシリーズ2と3で結ばれるキャラは――」
「人の話――聞いているのか?」
「ひっ」
語気を強めたら、彼女は子ネズミのように両肩を震わせた。こちらが苛立っていることに気付いたのか生唾を飲み込んだあと、口を開いた。
「あの殿下。私はこの世界のことをよく知っています。よ、予知能力のようなものがありまして、それでエステル嬢が生きているとわかったのです! 場所は未来予知とは異なりましたが!」
(私の落ち度ではなく予知能力のようなもので感知したのだとすれば――この女がいなければ、エステルが生存しているということを知る者はいなくなる)
「で、殿下。私は歌姫神と同じ能力を持っていて、未来予知の能力は、今後魔族や魔物との戦いにおいて殿下の役に立ちます」
「というと、何が起こるというのだ?」
「!」
ソレーヌ嬢は嬉々として未来予知の内容を語った。この女は駆け引きというものを知らないのだろうか。まあ、手間が省ける。
「五年後の未来で王宮地下にある魔界の扉が壊れて、魔王が再びこの国を滅ぼそうと侵略を開始します。しかしご安心ください。私には歌魔法の能力もあります。だから、どうか、私をお傍において頂けないでしょうか!?」
魔王。魔界との行き来を防いだ扉は王宮地下にあるのに、なぜ男爵令嬢如きが知っているのか。まあ、未来予知の能力があるのなら情報を得ることはできるだろう。
だが――この女は危険だ。
見る限り我欲を満たすためなら義理や忠義などない。今後のことも考えれば未来予知の情報は貴重かもしれないが、すでにエステルが居る場所が異なるなど、未来予知そのものにズレあるいは誤差が大きく出ている。
曖昧な情報源を鵜呑みにするのは危険なうえ、人間性から見ても私が一番嫌いなタイプだ。
(それに《聖歌教会》が魔界を絶対悪にしているが、瘴気の発生で得るものもある。瘴気を払ったあとの土地では魔力量が倍になる果実が実るという。完全に封じるよりも適度に発散させる方がいい。何より、エステルを蘇らせる際に魔族との対立は避けることを条件に出されたのを考えると……)
「……ん」
虫の鳴くようなか細い吐息にベッドに視線を戻した。碧色の宝石のような瞳が開き、エステルが私を見つめる。
「フェリ……クス……」
「ああ、エステル。目が覚めたのかい」
そっと頬に触れると小さな口を綻ばせた。ああ、なんて愛おしいのだろう。
「嫌な……声が聞こえた……の。私を……酷く罵った……声」
「すまない。君への配慮が足りなかったね」
「ううん……」
エステルを追い詰める配役を自分で決めたとはいえ、この女はやり過ぎた。グリフィンを手に入れるため過激な言動、エステルの誹謗中傷、黒い噂を学院内に広げたのもソレーヌ嬢だ。
そんな彼女を私が許すわけがない。
そうエステルに弁明しようとしたが、彼女は瞼を閉じて寝入ってしまった。本当に深夜にならないと起きてくれないのだから、困った子だ。
どこまでも私の思うままにならない、愛らしい人。
時間はいくらでもある。
少しずつ私色に染めていけばいい。
エステルが目を覚ます前に面倒な者はさっさと片付けてしまおう。
「殿下、聞いていましたか? 私はこのゲームのヒロインなんです。だから、粗野な扱いは――」
(ああー、本当にうるさい)
彼女の警戒を解くために、極上の笑みを浮かべた。それを見て彼女は何を勘違いしたのか目を輝かせた。単純な女だ。一体どんな思考回路をしているのだろうか。
「君には特別待遇、王族に並ぶ扱いをしよう。しかし、……そうだな。まずは湯船に浸かって身支度を整えてくるといい。その奧の扉を出ればわかる。ドレスも好きなものを使って構わない」
「まあ! さすが王太子殿下。私の価値を理解してくださったのですね!!」
「(ああ、本当に愚かな女だ)そうだ。もっと詳しく話も聞きたいので、早く戻ってきてくれると助かる」
「わかりました! 少々お待ちくださいませ」
そう言って彼女は地下迷宮の扉へと消えていった。
もうソレーヌ嬢と会うことはないだろう。
一度、この部屋を出てしまうと自動的に地下迷宮に転送される。
もちろん、万が一エステルが誤って部屋を出てしまった場合は別だ。彼女の足には特殊な魔導具を着けてあるので、どんなに逃げても、隠れても一定時間が経つとこの部屋に戻ってきてしまう。
静寂が戻り、私はエステルの隣に寝転がった。
なんだかどっと疲れた気がする。
公務の疲れもあったのだろう。ただすぐ傍にいる愛おしい彼女を見ると疲れが癒やされていく。眠っている彼女を起こさないようにそっと抱き寄せた。
眠っている彼女は温もりを求めて私にすり寄る。
「ああ、ようやく私だけのモノに。……愛しているよ、エステル」
愛しい人との時間を堪能すべく、彼女が目覚めるのを傍らで待ち続けた。
お読みいただきありがとうございました( ´꒳`)/♥︎ヾ(*´∀`*)ノ
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
何故エステル(?)がここに居るのか、それは次の魔王ギルの視点で明らかに(*’∀’人)
次は19時過ぎに更新予定です。
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