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第26話 フェリクス第二王子の視点2

 

「なにか――私に用ですか?(さて、どう出てくる?)」

「…………っ」

「ほら、ソレーヌ嬢。フェリクス殿下に大事なお話があるのでしょう」

「ええ、そうですよ。ご相談なさってみたら」

(ああ、彼女たちが(けしか)けたのか……。彼女に恥をかかせるためにここまで呼ぶとは、どこまでも腐っているな)


 貴族の大半は地位や名誉に敏感でゴシップネタに目がない。だがそれは安全な場所から遠巻きに見ているからであって、当事者になってしまえばそんな余裕すらなくなるだろう。

 没落貴族を遊び感覚でさらに貶める令嬢たち。

 自分たちの行いがどれだけ醜悪で、私が嫌う類いのものだと知らないのだろうか。


 バートン侯爵家、ハミルトン子爵、スチュアート伯爵、ミラー伯爵と、都合のいいことに貴族内でも潰しておきたい家柄ばかりだ。ここはせっかくなので彼女たちを利用させてもらおう。そう思った瞬間、ソレーヌ嬢はふらりとよろけて私に抱きつく形で崩れ落ちる。


 振り払ってもよかったが、多勢で一人を貶める令嬢たちと同一とされるのは気分が悪いと思い、抱き寄せた。むせ返るような薔薇の強い香りに嫌悪感を抱く。


「殿下。あの悪役令嬢、エステル・ルーズヴェルトは生きています」

「!」


 囁く声に吐き気がした。

 だが、()()()()()()()()。どこでその情報を得たのか――徹底的に調べる必要があると即座に判断した。

 予定とは少し狂ったが、ソレーヌ嬢をこの場は助けることにしよう。


 私は袖に隠しておいた銀のナイフを衛兵と令嬢たちに見えないように床に放った。

 銀のナイフは思いのほかいい音を立てて床に転がって落ちた。

 突然のことに誰もが目を疑っただろう。衛兵や令嬢たちからはソレーヌ嬢が私を刺そうとし、それを手で払ったように映ったはずだ。

 令嬢たちはいっせいに悲鳴を上げ、衛兵たちはすぐさまソレーヌ嬢を捕縛すべく動いた。


「え、なっ!」

「これはどういうことだ、()()()()()()

「これは、私じゃ……!」


 真っ青な顔をしているソレーヌ嬢に「彼女たちに罪を着せれば助かるがどうする?」と囁いた。


「!」

(さて、どう判断する?)


 ソレーヌ嬢はハッとした顔で私を見つめ返したが、すぐに状況を察したのか頷いた。思いのほか馬鹿ではないようだ。それに引き換え侯爵令嬢たちは状況が分からず混乱し、衛兵はソレーヌ令嬢を捕縛して取り押さえた。

 床に押さえつけられる前に、ソレーヌ令嬢はポロポロと涙を流して深々と頭を下げた。


「フェリクス王子を傷つけるようにと、()()()()()()()()()()()()……。申し訳ありません! でも、こうしないと……一家を取り潰すと……! 本当に申し訳ありません!」

「なっ」

「それに魔法学院で私を虐めていたのは、エステル嬢ではなく、彼女たちです。それをエステル嬢がやったと……脅されて……」

「ちょっ、そんなこと!」


 令嬢たちの顔色は青ざめた。

 それを見て少しだけ溜飲が下がり口元が緩みそうになったが堪えた。


「エステル嬢の名誉を守るため、また彼女たちに殺人教唆の可能性がある。全員捕縛しろ」

「はっ!」

「え、な。誤解です! 殿下!」

「そうです。これはソレーヌ嬢の陰謀ですわ!」


 衛兵に命じて全員取り調べ室へと連行させた。ぎゃあぎゃあ騒いでいたが、これ以上騒げば家に迷惑がかかると思ったのか大人しくなった。ソレーヌ嬢を使って私に近づいた段階で、彼女ら一家の命運は決まっていた。遅かれ早かれ滅ぶだけだ。


「王子、お怪我は?」

「ない。それよりも私は第二宮殿に戻るので、事情聴取はグレイスを呼んでくれ」

「あの、拷問官の……ですか?」


 衛兵の一人はそう聞き返した。言いたいことはなんとなくわかる。拷問官である彼の尋問は苛烈だ。それは彼自身が冤罪で尋問され続けてきた経緯があるからで、彼を貶めた貴族のような連中に対して執拗に調べ、悪行を暴く。

 令嬢たちの事情聴取は単なるキッカケで、背後にいる一家を潰すためにも信用できる部下に任せたい。


「ああ。彼なら真実を白日の下に晒してくれるだろう」

「は、はあ」

(さて、彼女の元に早く戻らなければ)


 懐中時計を取り出すとすでに予定より十五分以上経っていた。まだ彼女が目覚める時間ではないだろうし、馬車で急がせれば大丈夫だろう。


(……せっかくだから彼女を私たちの部屋に招いてあげよう)

「王子?」

「ああ、そうだ。ソレーヌ嬢に、イヤリングの片方を落としたようだったので、渡しておくように」

「ハッ!」


 手渡したのは使い捨ての転送用魔導具だ。あの目敏い令嬢なら気付くだろう。

 まあ、投獄された娘が脱獄してその後行方不明になるという話は少なくないし、彼女がいなくなろうと誰も心配しないだろう。

 待たせていた馬車に乗り、自分の住まう宮殿へと向かわせた。


「少し遅くなってしまったけれど、()()()()は怒らないでくれるかな」


 ポツリと呟いた時に窓ガラスに移った自分の顔は、馬鹿みたいに口元が緩んでいた。


 ***


 王太子になってからも私の居住区域は、第二宮殿から動かさなかった。

 そちらの方がなにかと都合がいいからでもある。隠し通路やトラップ部屋などがいくつも散在しており、外部からの侵入はほぼ不可能に近い。魔導具設置によるセキュリティ強化に侵入者用のトラップや罠も至る所に仕掛けてあるので、下手に入ればそのまま地下迷宮へと一直線だ。未だあの迷宮から生還した者はいない。


 まさに大事で隠したいものを置くにはふさわしい場所といえるだろう。

 私は慣れた足取りで地下部屋のゲストルームに入った。窓に鉄格子や扉は頑丈で中と外両方に鍵が付いている。それを開けられるのは私だけ。


 そしてここには私が隠しておきたい宝物がある。

 調度品や家具は彼女に相応しい物をあつらえた。ドレスルームにも様々な服が詰め込まれており、清掃用のゴーレムによって清潔が保たれている。これもあの術者が用意してくれたもので重宝していた。


「ただいま帰ったよ、エステル」

「…………」


 鳥籠のように周囲を囲んだベッドで眠っているのは、緋色の長い髪の美女だ。

 エメラルドのように美しい瞳は閉じたまま、彼女は眠っている。

 死に戻りしたため未だ魂と肉体が上手く繋がっていないと、あの術師は言っていた。日中の殆ど眠って過ごし、夜の時間だけ目を覚ます。


 彼女は記憶を失っており、私が誰かも思い出してくれない。

 でも、名前だけは覚えさせた。

 目をとろんとさせて甘えてくる姿は愛らしくて、もっと愛でたいという欲が膨れ上がる。

「フェリ……クス……」と愛らしい声で囁くのはたまらない。


 眠っている彼女の髪を一房掬ってキスを落とす。

 彼女は土砂崩れによって一度死んだのだが、あの術師──死霊術師(ネクロマンサー)によって息を吹き返したのだ。肉体の損傷が少なかったことが幸いした。


 秘密裏に死霊術師を探していたところ雰囲気からして魔界の住人だったが即座に依頼した。

 エステルが生き返るのなら《聖歌教会》だろうと、魔界の住人だろうとどちらでもいい。もちろん、ここにエステルが居るのは私しか知らない。

 義兄のサイラスも、ルーズヴェルト公爵も気づいてない。


「なっ、なんなの。ここ……!?」


 その秘密の部屋にソレーヌ嬢(あの女)を招き入れた。

 なにを知っているのかを知るために。

お読みいただきありがとうございました( ´꒳`)/♥︎ヾ(*´∀`*)ノ

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

魔王ギルが中途半端な拗らせ束縛野郎だとしたら、フェリクス第二王子は本物です٩(ˊᗜˋ*)و

その様子がお楽しみ頂ければ幸いです。

次は明日8時過ぎに更新予定です。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] へ、変態だーーーー! フェリクスさんの変態っぷりにも驚きましたが、このエステルの事をずっと見ていたガチの変態を騙せるレベルの死骸を作りあげたギルさんもあの……結構……アレじゃないですかね?…
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