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第24話 両思い

 私は頭の痛みで目を覚ました。

 いつの間にか私はリビングのソファに寝かされており、傍にはギルが座っていた。私が目を覚ましたことをすぐに気づいたようだ。

 窓の外はまだ暗い。どれぐらい意識を失っていたのだろう。


「エステル……!」

「お、おみず……」

「レモン水を用意しておいたわ」

「ありがとう」


 そう言ってマグカップを渡してくれた。あ、今回は口移しじゃないんだ、とホッとしたような残念なような気持ちが生まれた。それにしてもなんでこんなに頭が痛いのだろう。

 レモン水を一気に飲むと、頭の痛みも少しだけ和らいだ気がした。


「魔力に当てられたみたい。……逃がさないためとはいえ本気で追いかけてごめんなさい」

「ん? うん」


 ふとソファ傍のテーブルに見たことのあるガラスの瓶が目に留まった。あれはブランデーと蜂蜜漬けの梅酒で、少し前に作って熟成させていたはずだ。

 ブランデー。

 頭痛。

 そこで私はこの頭痛の正体を理解した。


「私、ブランデーと蜂蜜漬けの梅酒を原液で飲んだのね」

「え。……あ」


 ギルは目を白黒させて驚いていた。蜂蜜の瓶と確かに似ているが、どうして間違ったのだろう。そう思いエル様にプリンと一緒に蜂蜜の小瓶をお裾分けしたのを思い出した。


(そっかあの時に、奧にしまっておいたブランデーの小瓶を出しっぱなしにしてたから……)

「これって梅の蜂蜜漬けじゃなかった……の?」

「これはブランデー入り……って、ふふっ。いつものギルならラベル見て間違えないのに」

「正直、あの時は色々いっぱいいっぱいだったの。お水を飲ませても零して飲んでくれないし……(魔力供給のためとはいえ、エステルに口移ししてそれどころじゃなかったもの!)」


 ギルは泣き腫らした顔をしており、髪もぼさぼさで疲労が顔に現れていた。ずっと付き添ってくれていたのだろう。

 時計の針は夜の九時過ぎ。夕食が七時前だったからそれなりに時間が経っている。


「……それで、ね。エステルは何処まで覚えているの?(私のことを好きって言っていたけど、あれは酔っていたから、間違いかもしれないものね……)」

「ギルが異性として好きって伝えて返事を貰うところまでは覚えているよ」

「ぐふっ」


 ギルはへたり込み、ソファの端に顔を埋めた。なんだか大型犬が縮こまっているようで急に可愛く見えた。ちょっと躊躇いつつも艶やかな黒髪を撫でた。長い髪はぼさぼさだったが手で梳くと少しはマシになったと思う。ふとハーブの、ラベンダーの香りがした。


「……ギルが、ギルフォードが好き。酔った勢いで言ったのは、アレだけど。早めに言えて私は……ちょっとスッキリしたかも」

「うう……ここで名前呼びとか反則過ぎるわ」

「ねえ、ギルは? 私のことどう思っているの?」

「――っ」


 声は震えていたと思う。でも口にできた。

 ギルは私を好いてくれていることはなんとなく分かっていたけど、それが友人としてなのか、異性としてなのかは正直わからない。まあ、もし友人だったとしても、これから異性として見てもらえるようにこれから頑張ればいい。

 そろそろと顔を上げたギルは情けなさそうな表情をしつつも、撫でていた私の手を両手で掴んだ。


「好きよ。……可愛くて、一生懸命で、一人の女の子として大好き」

「えへへ。じゃあ、両思いだね」

「……!」


 思わず声が漏れた。

 私の間抜けな声に、ギルは一瞬目を丸くして──それから微笑んだ。

「ええ、そうね。星祭りで雰囲気を作って告白する計画がおじゃんだわ」と少し皮肉めいた言葉を呟くので、「私も同じこと思っていた」と告げたら、どちらともなく笑ってしまった。


 私は自分からギルに抱き付いた。

 すぐ傍に好きな人がいる。

 好きな人が自分を好いてくれている。ただその事実が無性に嬉しくて、嘘じゃないと思いたくて温もりを求める。


「え、エステル(いつになく積極的。これなんていうご褒美?)」

「ギル、好き。えへへ、幸せ」

「あー、もう!(恰好が悪いけど、でも、そう。私のことを好いてくれていたのね)」


 ギルは私をギュッと抱きしめる。


「とんでもない男に捕まったと思った方がいいわよ。私、結構嫉妬深いもの」

「む、私はギル一筋よ」

「(キリッってしているつもりなのだろうけど、すっごく可愛い。あー、こんな笑顔を向けられたらたいていの男はコロッと落ちるわ。うん、間違いない)その可愛い顔は、私以外で禁止」

「え?」


 私は今どんな顔をしているのだろう。

 よくわからず小首をかしげているとため息を吐かれた。

 両思いになったので、あと言っておくべきことを考え、言ってみたかった台詞を口にすることにした。


「ギル。不束者ですが末永くよろしくお願いします」

「(むしろこちらこそ末永くよろしくしたいわ)……それ、結婚の挨拶だから色々段階をすっ飛ばしているからね」

「そうかな? そうかも」

「(ああ、もう。完敗だわ、ほんとうに)その笑顔も禁止!」

「ええー」


 いつも余裕のあるギルがあたふたしているのが可愛くて、なんだかちょっとだけ得した気がする。


 ***


 深夜に近い時間だったものの森を走り回ったりしたせい(?)で小腹が減ったため、夜食を作ってお腹を満たすことにした。せっかくなので鍋焼きうどんを作り、二人で食べた。

 恋人になったけど、いつもと変わらない雰囲気のままだ。

 完食後、私は森の中に飛び出したことを謝った。


「……ごめんなさい」

「ううん。私も意固地になり過ぎたわ。……特にエルヴィスがどんどんエステルの魅力に気づいていくのが腹立たしくて、焦っていたのよ。ほら、アレでも一応攻略キャラで顔はいいでしょう」

「たしかに綺麗な顔で直視しづらいけれど、私のドストライクはギルだよ!」

「(この子、告白してからどんどんストレートな物言いになってくるわね。私をキュン死させる気かしら!? あー、好き)……んん、ありがとう」


 一拍置いてから喧嘩の原因となったエル様の依頼の件を口にする。

 ギルは心に余裕が生まれたからか、終始落ち着いていた。


「そうね。冷静に、客観的に考えると保険はかけておくのは悪くないと思うわ」

「じゃあ!」

「で・も! エステルの危険度が上がるのはやっぱり反対。それでなくてもこんなに可愛いのに、料理まで美味しいなんて知られたら、各国から求婚者が殺到したら面倒でしょう」

「(そんなことにはならないと思うんだけど……)うん、まあ……ギル以外の人に言い寄られるのはちょっと……」

「だ・か・ら、偽名を使うこと。ハイヒメル大国で作ったことのない菓子にすること。変装だとばれる恐れがあるから認識阻害の魔導具を常時つけて、姿は見せず名前だけ表舞台に出す──これならいいわ」

「ギル! ありがとう」


 私は嬉しくてギルの手を掴んだ。本当は抱き付きたかったけどテーブルを挟んでいたので、そこは諦めた。それに食べたばかりでハグはよくないと思ったのもある。


「(エステルから触れてくるなんて……)ふふっ、私のために色々考えてくれていたのね」

「うん。私、ギルにたくさん助けてもらったから、次は私がギルを支えようって思って、でも私は公爵令嬢でもないし、人脈皆無だし、強くもない。だからどうすればギルの役に立てるかって……ずっと考えていたの」

「(天使すぎる。尊いっ……。なにこの子、私の彼女可愛すぎる)……んん、エステルは私の大事な居場所で、気づいていないようだけど、たくさん支えてもらっているのよ」

「そ、そうなの?」


 ギルの役に立っている。

 たったその言葉を聞くためにすごく遠回りをしていたような気がした。もっと早くギルと本音で話し合っていれば、今日みたいなすれ違いや誤解は生まなかったはずだ。なによりもっと早く恋人になれていた──気がしなくはない。


「認識阻害の魔導具は私が用意するから、エステルは偽名を考えておきなさいね」

「うん。あと何の菓子を出すのかも考えなきゃ」

「まあ、他国の人脈よりもエルヴィスに恩を売ることができるのなら、それだけで上々だわ」

「たしかに。エル様ってシリーズ3では重要なキャラなのでしょう?」

「ええ。3は竜人族や結構いろんな種族も出てくるし重要キャラも多いの。まあ、そのぐらいの結束がないと魔王が倒せないのよね」


 眼前にその魔王がいるので私は苦笑してしまった。


「でもそれならシリーズ2や3の攻略キャラとはできるだけ餌付けで胃袋を掴んで、仲良くしたらいいよね?」

「う、うん。そうだけれど……(その法則でいくとエステルの好感度が爆上がりする気がするんだけど、そのフラグは私が折らないと駄目ね)」

「?」


 晴れて恋人になったことで互いに浮かれていた。いつもなら夕食後は時間をまったりしつつ、お風呂後は自室でそれぞれの一人の時間タイムに入っている。すでに十時半を過ぎているので、どちらもお風呂を済ませている頃合いだ。


 タイミングよく風呂が沸いた音声が流れた。

 私が夜食を作っている間にギルが準備してくれていたのだ。せっかく恋人になったのに、お風呂に入って「お休み」というのはなんというか少し勿体ない気がする。できることなら、もう少しギルと一緒にいたい。でも、それを口にするのは少し恥ずかしいような。

 ふとあることを閃いた。


「あ、あのね。ギルとやってみたいことがあったの!」

「あら、そうなの? どんなこと?」

「内緒。お風呂あがったら私の部屋に来てね!」

「え、ちょ」


 それだけ言って私は脱衣所に逃げた。

 お風呂に入った後でキャンドルと、ヘルシーなゼリーやフルーツを用意して、パジャマパーティー用にと可愛いパジャマ用ニットワンピースも作ってある。色違いのおそろいでだ。


(パジャマパーティーを名目にギルと一緒の時間が増える!)


 そんな感じで脳内お花畑だったがいろいろとズレているのだと、この時の私はまったく気づいていなかった。


お読みいただきありがとうございました( ´ω` )

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は19時過ぎに更新予定です。

次回はある方の視点です٩(ˊᗜˋ*)و

→魔王ギル?

 フェリクス第二王子?

 サイラス(義兄)??



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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