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第19話 精霊王の依頼

「相変わらず仲がよいようだな」

「「!?」」


 唐突に現れたのは、白銀の長い髪に緋色の瞳をした偉丈夫──精霊王エルヴィス様だ。

 いきなり視界に綺麗な顔が飛び込んできたので、私とギルは声にならない声を上げた。どうやら転移魔法を使って来たようだ。し、心臓に悪い! あとタイミング最悪!


「もう。せっかくエステルと楽しい時間を過ごしていたのに何の用よ」

「そろそろ三時の時間が近いと思ってオヤツを食べに来た」

「帰れ」

「断る」

「あははは……」


 このやり取りも日常化してきた。

 ひょっこりと姿を見せるエルヴィス様に、いつも突っかかるギル。一応、取り決めがあるのにギルは必ず「帰れ」と文句を垂れる。なんだかんだ言いつつも最終的に三人で食卓を囲むのだ。


「それで今日のオヤツはなんだ?」

「ふふふ、今日はチョコレートとバニラアイスです!」

「……ふむ? また聞かぬ名だな。この間のプリィンとは違うのか」


 ずいっと顔を近づける。エルヴィス様はギルと同じくらいにパーソナルスペースが近く、整った顔に凝視されるのは慣れていない。

 私が困っているとギルがエルヴィス様を引きはがしてくれた。


「ち・か・い」

(ギル、グッジョブ! あとちゃっかり抱き寄せるのとか最高!)

「ふむ。ギルフォードとエステル嬢との距離感を真似したのだが、これは駄目だったか」

「だ・め・よ。私とエステルには五年の信頼と絆があるんだから!」


 大事なヌイグルミを抱きしめるようにギルは腕に力を入れた。嬉しいけど異性としてではないと思うと、少し胸がチクチクする。


「ふむ。愛に時間の長さなど関係ないのではないか?」

「あい? (ライクの意味合いよね、たぶん)」

「愛ですって!?」


 ギルは素っ頓狂な声を上げ、私は瞬きを繰り返した。どう考えても私の料理が気に入っている的な感じだと思う。「どういうことよ?」とギルは子猫を守る親猫のようにエルヴィス様を睨み付ける。


「ふむ。我もエステル嬢が気に入っている。できるのなら毎日でも食事と菓子を用意してほしい」

「……食事(え、つまり毎日エステルのお味噌汁を食べたい、一緒にいたい、結婚したいという──)」

「ギル、エルヴィス様は私の作る料理が食べたいだけで他意はないと思う」

「エステル。……そうかしら」


 疑いの眼差しを向けているが、先ほどよりは警戒を解いたようだ。とりあえずオヤツを食べる前にエルヴィス様にも醬油実の収穫を手伝ってもらった。ギルがザルを創造魔法(クリエイト)で作ってくれたので三人で収穫したらあっという間だった。


 水洗いをした後、少し乾燥させてからミキサーで液体化して殻を取り除けば醤油の完成となる。これなら夕飯の準備をする際に醤油を使った料理が作れそうだ。


(夕飯は醤油を使って何にしようかな~。半年かかると思っていたのに思わぬ収穫♪)

「エステル嬢」


 ホクホクしながら一軒家に戻っている途中でエルヴィス様に声を掛けられた。振り返るとすぐ傍に凛々しい顔立ちがあった。やっぱり距離感が近い。あと気配ないんだよな、この人。


「ええっと、どうしましたエルヴィス様」

「それだ。特別にエルと呼ぶことを許す」

「ええっと……、精霊王に対してその呼び名は……ちょっと」

「エルと呼べ」


 あ、これ絶対に折れない奴だ。そう私は瞬間的に悟った。


「じゃあエル様で」

「むう。……まあ、よい。今日来たのは招待状を持ってきたのだ」

「招待状?」


 ポンと、目の前に高そうな便箋を取り出した。エルヴィス──エル様は空間魔法を事もなげに扱う。難易度の高い高等魔法なのだが精霊王であればそのぐらい普通なのか。


「数日後に星祭りがある。首都で盛大に祭りを行うので遊びに来るといい」

「星祭り?」

「ああ、ハイヒメル大国にはない行事だったか」

「はい。あの国は良くも悪くも《聖歌教会》の信仰から発生する行事が殆どですから」

「神殿と王族の都合のいい理由で作った行事と言ったほうが正しいか。我が国の祭りは大地と空の恩恵に感謝をするために開くものだ。この時期は星が一層輝き夜道を照らす故、一カ月ほど星祭りを執り行う。そこで他国の旅人や商人が首都に集まり様々な食材や商品を販売する」

「それは凄そうですね」

「うむ。各国からも王族や要人が集まる。そこで一品で構わないので、そなたの料理あるいは菓子を出してもらえないだろうか」

「え。私のですか!?」

「うむ。そなたの菓子は世界に広めるべきものだ」

「ええっと……光栄ですが、私は元悪役令嬢で死んだことになっている身です。できれば静かに暮らしたいのです……」


 これ以上、王族関係に関わりたくはない。それは本心だ。

 しかしエル様は引き下がらない。ググっと距離を近づける。


「そんなの勿体ない。そなたの腕と才能が有れば地位と名誉──なによりいざという時にギルフォードを守るための力になるのではないか」

「ギルの?」


 少しだけ気持ちが傾いた。

 私を支えてくれた――ギルの役に立てるかもしれない。

 その思いが胸の中に渦巻く。


「別に王族はハイヒメル大国だけではない。いざという時に胃袋を掴んでおけば協力する者たちもいるということだ。我のように」

「それは……たしかに」


 戦闘や政治のことになれば、私のような小娘がどうこうできる範囲を超えている。私の作る菓子で、他国との王侯貴族や要人とのパイプができれば、今後ギルのピンチになんらかの助力になる──かもしれない。


「……少し考えてもいいですか?」

「うむ。ギルと相談して決めるがいい」


 ポンポンと頭を撫でるエル様はそう告げたのち、さっさと家に戻ってしまった。

 ギルの力になりたいというのを知っているからこそエル様は提案してくれたのだろう。

 ギルのためになるのなら──そう胸に抱きながら「まずはギルに相談しよう」と決めたのだった。



お読みいただきありがとうございました(ノ*>∀<)ノ♡

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は明日21時過ぎに更新予定です。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます*:゜☆ヽ(*'∀'*)/☆゜:。*

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