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第16話 義兄サイラスの視点2

 グチグチと文句を垂れている脳筋は無視して、セバスに視線を向けた。

 温室までついて来ており、土が掘り返された畑──だったものを寂寞(せきばく)たる面持ちで見つめていた。


「セバス、今すぐにギルド・パンドラサーカスのギルドマスターへの面会を取り付けろ」

「…………」

「セバス!」


 ハッとしてセバスは私に向き合うと、「申し訳ありません」と深々と頭を下げた。「さっさと手配をしろ」と言葉を投げかけようとした瞬間、セバスは言葉を続ける。


「本日でお屋敷からお暇を頂こうと思います」

「は?」


 理解するまで数秒かかった。セバスは父の代から執事として屋敷の管理やら仕事のことなど諸々と頼っていた。それがお暇──つまり隠居するというのだ。

 それもこのクソ忙しい時期に!


「何のつもりだ?」

「この屋敷にはエステル様との思い出が多すぎるのです。そしてお嬢様に対してご家族、勿論親戚の皆々様も関心を持たず、家族らしい時間をお作りにもならなかった。使用人風情から見てもあまりにも不憫で……、そんなお嬢様を支えようと我ら使用人一同は微力ながら尽力してまいりました。しかしそのエステル様が亡くなった今、この屋敷に居る存在意義を見出せなくなったのでございます」

「な、なにを……父上がそれを許すとでも思っているのか!?」

「旦那様にはすでに話を付けております。……少しでもお嬢様の死を嘆いてくださるような方々であれば──とも思ったのですが、エステルお嬢様との思い出の場所を躊躇なく踏みつける。であれば主人として今後仰ぐ訳には参りません」

「セバス」

「長年、お世話になりました」

「──ッ!」


 脅しでもなんでもなく、セバスは頭を上げたのち踵を返して温室を去っていた。有無を言わさぬ迫力に、執事としての矜持を穢すことなどできなかった。それこそ恥の上塗りになりかねない。


 屋敷に居た使用人の半数は去り、なんとか残った者の中から執事の仕事を兼任させた。近々執事として屋敷に迎える者が来るまではどうにかなるだろう。

 両親はエステルの死を思いのほか引きずっており義母は部屋に引きこもり、義父は一気に老け込んだ気がする。


『お義兄様、クッキーを焼いたのですがいかがですか?』


 ふいに屋敷の廊下を歩いていると愚妹が声をかけてきたことを思い出す。思えば何かと会話を試みていた気がする。そのたびに能天気で愚かな義妹だと思っていた。

 だが──もし、その時に少しでも心を開いていたら?


 少しでもエステルに寄り添っていたら、今も執務の合間にショォーユラァメンとガァリックマシマシギョウズァを食べることができていたのではないか。

 いやそれ以外にももっと素晴らしい料理を発明していたかもしれない。自分の基準でしか愚妹を推し量らずあまりにも浅慮だったと後悔した。


 ***


 屋敷の客間に入ると客人はソファに座っていた。

 黒のシルクハット、黒の燕尾服に、蝶ネクタイをつけた少年だ。年齢にして十二歳前後に見える。幼い顔立ちに、銀髪の緋色の瞳は黒い服装によく栄えた。


「サイラス様ですか、お初にお目にかかります。私、リュビと申します。()商業ギルド・パンドラサーカスの団長を務めておりました──が、今は一介の商人でございます」


 ソファから軽やかに立ち上がり、シルクハットを手に深々と頭を下げる。なんとも挙動の一つ一つが仰々しく、まるで道化師(ピエロ)のようだ。苛立ちを抑えつつ労いの言葉をかける。


「ご足労かけて申し訳ない。……今日はエステルの話を聞きたくお呼びした」

「エステル嬢。あれだけの才能と発明を持った才女は未だかつて見たことがありません。あの方と出会いましたのは私のギルドがまだ弱小と呼ばれており、日々の暮らしも大変でして──」


 つらつらと語る少年の口調は自分よりも年上の、三十代後半の男が口にしそうな物言いだった。外見はどう見ても子供にしか見えない──が、商業ギルドの団長になるとすれば、それなりの経験と度胸と実績がなければなれない。侮っては駄目だと言い聞かせる。


「そういえば、こちらのギルドでは騎士たちの日用品なども手配していたのですか?」

「というと?」

「いえ、従兄弟が以前屋敷を訪ねてきまして、義妹が生成したイグサを求めていたらしく……一体どんな商品だったのか気になりまして」

「ああ。イグサの中敷きは騎士団の方々に重宝していただいたのです。イグサには湿度を吸収し、靴の中のムレを吸収するのです。長時間立つ足の負担の軽減、なにより消臭効果もあるので、水虫防止としてかなり人気だったもので……」

「ああ。なるほど……」


 騎士は重労働が多い上に、革のブーツなどは夏になれば蒸れやすい。血眼になって探そうとする気持ちはなんとなく分かった。


(……話次第ではショォーユラァメンとガァリックマシマシギョウズァについて何か有益な情報が得られるかもしれない)

「──それでエステル嬢はなんとも面白い提案をしていただき、この数年楽しく商売をさせていただきました」

「……妹は他に提案をしていたのでしょう。その……お恥ずかしながら、父の仕事を手伝うばかりで妹との時間を作ってやることすらできず、今更ながらに後悔をしているのです」


 もっと愚妹──エステルのことを見ていれば、ショォーユラァメンとガァリックマシマシギョウズァやもっと珍しい料理や発明を私に、教えてくれたかもしれない。

 なんとも未練がましいことだ。

 エステルは家の中で協力者がいなかったから、外に求めた。そう追いやったツケが回ってきたのだろう。才能を潰すこの社会を誰よりも憎んでいたというのに、身近にいた才能を私は見て見ぬふりして潰した。


(……後悔しても遅いのだがな)

「サイラス様はエステル嬢のことを心から悼んでおられるのですね。実は生前エステル様から言付けを承っておりまして」

「!?」


 そう言うとリュビは《虚数空間ポケット》から一冊のノートを取り出した。空間魔法のみが扱える特殊魔法、それもレベルが相当高くなければできない。

 商人として商品管理はかなり重要となる。空間魔法の使い手ならば自分の意志一つで様々な大きさの物を出し入れできるだろう。商人としてはこれ以上ない能力だ。

 リュビが差し出したのは黒の背表紙のノートで、だいぶ使い古されている感じはあった。

お読みいただきありがとうございました*:゜☆ヽ(*'∀'*)/☆゜:。*

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は21時過ぎに更新予定です。

なんと次回もサイラス(義兄)です! 



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] この男、醤油ラーメンと餃子への執着が強すぎるwww エステルのことをちゃんと慕っていた人達が家や国から離れていくの良いですね!
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