第14話 今後の話をしましょう
エルヴィス様は満足げに紙ナプキンで口を拭い、満足そうに食後のコーヒーを堪能している。もう完全にこの家に溶け込んでいた。
「ん~。いい香りだ」と、満喫しているのを横目に、私はコーヒーを淹れてくれたギルの傍に歩み寄ると背伸びをして「ギル」と声を掛けた。
すぐさま私の声が聞き取れる位置まで屈んだ。そういう紳士的なところにキュンっとしてしまう。あー、ダメだ。平常心!
「どうしたの?」
「あのさ、昼前に話していた今後の話をしようと思ったのだけど、この手の話ってエルヴィス様がいてもいいと思う?」
「んー、別に問題ないわよ。私が魔王なのもエステルが元悪役令嬢なのも分かっている《調停者》らしいから」
「《調停者》って、ゲーム設定にあったっけ?」
「ああ、それは──」
「ふむ。そなたらの言うゲェムとはよくわからぬが、この世界は異世界からの干渉を受けやすく、夢あるいは集合無意識によってこちらの世界の情報が洩れて物語として形作られることがある。それが数百年単位で稀に起こるのだが、ハイヒメル大国ではその頻度が多いせいか、他国と違って数百年単位で滅んでは国名が変わっている」
小声で話していたが精霊王には筒抜けのようだ。私たちの事情を知っているのなら話は早い。
「それってゲーム制作者が無意識のうちに、この世界のイメージが流れてきたのを受け取りその結果、乙女ゲームの土台となった。つまりこの世界は元からあってゲーム設定は後から派生したってこと?」
「然り」
「ゲームは物語として面白くしないと売れないわ。だからキャラの設定もこの世界よりもだいぶ尖らせて、属性をてんこ盛りにしないと成り立たないでしょう。まあ、実際どっかの王太子は、原作通りの馬鹿王子だったけれど」
「あー、うん。アレが王太子だなんて、あの国滅ぶんじゃないかって思っている」
「ま。あんな国よりも、今後の話し合いをしましょう」
話を逸らしたギルに私は小首をかしげた。今後の方針とほしい物や部屋の使い道を話すというのは聞いていたが、今後のストーリー展開を考えるなら話題は変わらないはず。
なんだかモヤっとしたがギルの話に耳を傾ける。
「とりあえず、私の創造魔法で色々作っていこうと思うのだけれど、クーラーは夏になったら必須でしょう。それと携帯までは行かなくても通信魔導具、物理無効化、魔法無効化系の付与魔導具、あとはなにかしら」
「たしかに夏はクーラーがないと! んー燻製キットとかあると便利かも」
「じゃあ、クーラーと燻製キットは決定ね。他にほしい物とかないの?」
日用品と聞かれて少しだけ困惑してしまう。私はともかく、まだ魔王であるギルの《死亡フラグ》は回避されていないのだ。一にも二にもこちらが重要ではないのだろうか。ギルは自分自身のことはあんまり相談してくれない。それが少し寂しい。
(ここはやっぱり私から提案すべき案件ね。この五年間、私の心に寄り添ってくれたギルのためにも、私が一肌脱がなければ!)
「エステル?」
「なんだか、闘志に火が付いているな。面白い娘だ」
「ちょっと、惚れないでよ」
「……」
空気を変えるべく気合いをいれてテーブルを叩いた。が、思いのほか力を入れ過ぎてしまい両手がじんじんと痛む。
「え、エステル? 急にどうしたの?」
「ギル!」
「は、はい」と、ギルは慌てて姿勢を正す。エルヴィス様も釣られて背筋を伸ばした。
「日常のことよりまずは、ギルの《死亡フラグ》回避の話が重要でしょう!」
「え」
「かなり先だけど今から手を打っておけば、魔界から洩れる瘴気の個所を記した古文書をハイヒメル大国に流して、攻略キャラたちに対処させれば魔界の扉が壊れて魔人が国に雪崩れ込むことも、暴走した魔王が倒される展開もないと思うの!」
「わ、私の……ため?」
意外だと言わんばかりの声音に、心外だと憤慨する。
「ギルに助けてもらったのだから、次は私が助けるのは当然でしょう!」
「やだ……イケメン」
「そのために移動魔法用の魔法の巻物と、時間魔法で本を劣化させる魔法の巻物を使って古文書を神殿と王族専用書庫の目につく場所に置いていくのはどう?」
「いいのではないか。我が国としても隣国の偏屈具合には辟易していたしな」
「全体的に賛成だけど、エステルがあの国に行くのだけは認められないわ!」
「まあ、確かにそうだけど……少しはギルの役に立ちたいじゃない」
頬を膨らませて不満を漏らすが、ギルは席を立って私の両肩を掴んだ。その眼差しはとても真剣でいつもの冗談っぽい雰囲気は微塵もなかった。
「気持ちは嬉しいけどエステルは今まで悪役令嬢として、周りに味方がいなくてつらい思いをしたでしょう。だからそういう危ないことはしないで。ううん、思ったらまずは私に相談すること。絶対に一人で動いちゃ駄目! いい?」
「う、うん。わかった」
あまりの迫力に声を詰まらせながらも頷いた。両肩に手を置いていたギルは私をそっと抱き寄せる。自分のことをこんなに心配してくれるのは、ギルだけだろう。
過保護ともいえるが、そのくすぐったさが心地よかった。
「ギルを心配させることはしないけど、少しは役に立ちたい」
「気持ちだけ受け取っておくわ」
「ふむ。ギルフォードは魔族だからあの国に入るのが難しいのなら、我が国から古文書が見つかったことにして隣国に贈呈すればいいのではないか?」
さらっとエルヴィス様の言葉に私とギルは「それだ!」と声を重ねた。
そのあとエルヴィス様は居候ではなく定期的に食事に訪れる権利を獲得した。この辺りはギルがものすごく交渉し、二時間の白熱舌戦の末に決着がついたのだった。
(いや、作るのは私なのだけど……私の意見は無視か、そうか、そうですか)
お読みいただきありがとうございました(◍´ꇴ`◍)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は明日8時過ぎに更新予定です。
さて次回はざまぁ展開です。お楽しみに。あと第二幕になります!
誰が次にざまぁとなるか! 当ててみてください٩(ˊᗜˋ*)و
→サイラス(義兄)
ディーン(従兄妹)
イアン(従者兼フェリクス第二王子)
ルーズヴェルト家(エステルの両親)
王太子グリフィン(12話に登場)
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